1話:追放、そして……
2020/06/08
書籍化決定しました!
転生転移もチートも無い真っ向勝負なハイファンタジーです!
*後書きは作者の落書き殴り書きなので、耐性がない方はスルー推奨です。
冒険者ギルドからの通達を読んで、明るい茶色の長髪に灰色の瞳を持つ無精髭の男――レド・マクラフィンは小さくガッツポーズをした。彼は腰の左右にそれぞれ短剣と曲剣をぶら下げており、よく使い込まれた革の軽鎧を身に纏っていた。
「ようやく……Sランクだ」
その呟きは、冒険者パーティ【聖狼竜】の拠点兼いきつけの酒場で小さく響く。
「えーっと。あーいたいた。おい、レド」
酒場の扉から入ってきたのは、金髪碧眼の青年だった。貴族のように整った顔に、不思議な光を放つ鎧を着ており、腰には煌びやかな装飾が付いた剣を差している。
「セイン、珍しく早いな。丁度良かった、良い知らせがあるぞ」
レドが、その男――セインへと笑みを浮かべながら手に持つ通達の紙を振った。
しかしセインは無表情のままだ。その後ろにはレドのよく知る人物二人と、見知らぬ男がいた。
少しくせっ毛のある暗い茶色の髪にシスター服を纏う少女。
長く伸ばした青髪を後頭部でまとめ、青いローブと節くれ立った杖を手に持つ青年。
その二人とセインは、レドと同じ【聖狼竜】のパーティメンバーだ。
光魔術と支援を得意とする聖女エレーナと、属性魔術と闇魔術のエキスパートである賢者ディル。
「みんなもいたか。ん? そいつは?」
レドが視線を向けた先に、一人の男がいた。樽のような巨大な身体にゴツいフルプレートメイルを着ており、背には巨大なハンマーを背負っている。
兜で顔は分からないが、まあ十中八九男だろうとレドは判断した。歩き方、雰囲気からして素人ではない。かなりの手練れだ。
「我は王国騎士グスタフである! 貴公がレド・マクラフィンであるな!」
見た目通り大きな声で、その男――グスタフがレドへと顔を向けた。
「王国騎士?」
眉間にシワを寄せるレド。王国騎士が俺に何の用だ?
「元王国騎士だ。あーレド。実はさっき国王の使者が来てな。俺は勇者と認定されたらしい。これで晴れて俺は勇者として魔王に挑める」
「まじか! こっちも朗報だぞ! ようやく冒険者ギルドが俺達をSランク冒険者だと認めてくれた!」
セインの報告に嬉しそうにレドが立ち上がり、持っていた通達を見せた。
レドは自らの努力が報われた事に密かに感動していた。ここに来るまでにどれだけの金と物品と交渉が必要だったか。思い出したくもない。
しかし目の前のセインも、後ろの二人もなぜか表情は明るくない。特にエレーナなんて目線すら合わせない。なんだか嫌な予感がする。
そしてレドの勘は大体において当たるのだった。
「Sランクになって早々で悪いがレド、お前はクビだ」
セインがそう言って、親指を背後のグスタフへと向けた。
「んで、こいつがお前の代わりに俺の【聖狼竜】に入ってもらう」
「貴公の代わりは我が立派に務めるゆえに、心配はいらぬ!」
待て。待て待て。何を言っているんだ?
レドは珍しく冷静さを無くし混乱していた。
「クビって……おい待てよセイン。どういうことだ? 何の冗談だ」
「お前は、エレーナほどの支援は出来ない。回復魔術だって二流だ。攻撃魔術だってディルには及ばない。近接戦闘だって俺より劣る。後ろからあれこれ命令するだけだろお前。ぶっちゃけお荷物なんだよ。これから魔王に挑むのにお荷物は不要だ。だからクビ。んで元王国騎士で実力も確かなグスタフを入れる」
レドにはセインが何を言っているか理解出来なかった。
俺がクビ? 代わりが、元王国騎士?
「待て待て、セイン。それは違う。間違っている。ようやくSランクになったんだ。それをこれからもっと戦略的に使うには俺が――」
「うるせえ」
「っ!」
セインが恫喝するようにレドの襟を掴んだ。
「ぺらぺらと口だけ動かしてよ。お前が気楽に命令してる間にどれだけ俺が前線で苦労していると思っている?」
「俺だって戦っていただろう! エレーナ! ディル! お前達も何か言ってくれ!」
レドが縋るように目線を二人に送るが、エレーナはただ俯き、ディルは拒否するように首を横に振った。
「レド。さっさと出て行け。そして二度と俺の前に現れるな」
「嘘だろ……セイン……考え直してくれ。何が不満だったんだ? 金の管理か? それとも装備の――」
「そういうところだよ! さっさと出て行かないと斬るぞ!!」
セインが激怒しながら剣を抜いた。その刃が、力が抜けて床へとへたり込んだレドへと向けられた。
レドには分からなかった。これまで、独善的で正義感だけでむちゃくちゃに行動する男を陰から支えて、したくもない後始末をさせられたのに……なぜそいつに俺は刃を向けられているんだ。
「最後の通告だ。今すぐここから出て行け」
「……なんでだ……これまで俺は……こんなに努力してきたのに……エレーナ、ディル……何か言ってくれ」
レドの絞り出すような声に、
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
やはり目線すら合わさず謝るだけのエレーナと、
「……何も言うことはない」
そう吐き捨てたディル。その二人の言葉で、レドの心は折れた。
「本来なら、俺らの情報を知っているお前を殺すべきだと俺は思った。だが、流石にそれはやりすぎだと、止めた二人に感謝しろ」
「……もういい」
あっさり殺すなんて言いだしたセインの言葉はもはやレドの耳には届かなかった。ふらふらとした足取りで酒場から出ようとするレドの背中にグスタフが声を掛けた。
「まあそう気を落とすでない。今後の我らの活躍を聞いて慰みにするがよい」
その無神経なセリフにレドは返す言葉もなかった。
こうして勇者パーティからレドは追放され、この街から姿を消したのだった。
☆☆☆
辺境の街ガディス。
世界の中心と謳われるディランザル王国、王都ディザルより遠く離れた場所に位置するこの街にも冒険者ギルドの支部はあった。
そこは例に漏れず、酒場兼ギルドになっており、昼間から冒険者達が酒を交わしている。ガディスは辺境一の街なので、冒険者の数はそれなりに多い。
そんな酒場の一角で、今日も根を生やしたように飲んだくれて煙草をくゆらせている男がいた。
「レドさん。そうやって毎日飲んで煙草吸っていたら身体壊しますよ」
「うるせえ……壊れたって知るかよ……」
酒場の給仕である赤毛にそばかすの女性――エミーが呆れた声でその飲んだくれ……つまりレドに声を掛けた。
「はあ……もう……。ビールはもう無し! 水を飲みなさい!」
「はあ? 酒場で水なんて飲めるか! ビールおかわりだ!」
「売り切れでーす」
「ふざけんな」
エミーが笑いながら、豊かな胸を揺らした。胸元が見える際どい給仕服のおかげで、この酒場は割と人気なのだ。
「エミーちゃん! こっちにビール!」
「はーい。……ねえレドさん、いい加減ギルドの依頼でも受けて仕事した方が良いですよ」
「うるせえ。もう冒険者なんざまっぴらごめんだよ」
やさぐれたレドがカウンターへと突っ伏す。もういい。酒がないなら寝る。
そんな風に拗ねているレドから数席離れたカウンターの椅子に、一人の子供が座った。
十代前半で金髪に緑色の瞳。中性的な顔立ちをしていて、レドは一瞬少女かと思ってしまった。
その子がぎこちない動きでキョロキョロと酒場を見渡していた。
突っ伏しながら横目で彼を見ていたレドは、典型的な冒険者志望の若者だなと推測した。
ただの麻の服に半ズボン、ダガーらしき物を腰にぶら下げている。どこかの田舎から出てきて一旗上げようとこの街に来たのだろう。
雰囲気に飲まれてギルドの受付に行くのに躊躇し、とりあえず酒でも飲んでみようと思った感じか。まあ気持ちは分からなくはない。
「あ、あの!」
「はい、どうします?」
にこやかに答えるエミー。その子は顔を真っ赤にしながらエミーの胸から目線を逸らせ、まだ声変わりしていないうわずった声を上げた。
「び、ビールを!」
「はい、では、前払いでお願いします。350ディムです」
「3,350!?……えっと、これで」
「では少しお待ちください」
ビール一杯350ディムならこの辺りでは相場だが、それすらも分からないか。こりゃあ相当苦労するなとレドは考えていた。
最近、レドはする事もなくただ酒場で飲む事にも飽きてきたので、人間観察をするようになった。
流石に辺境一の街だけあって、結構光る人材は集まっているが……どいつもこいつも素人ばっかりだ。そしてそのままその若い命を散らしていく。
俺だったら絶対そんな事させないのに……そんな益体もない事を常に考えていた。
レドは観察する。中性的な顔立ちだが、服装や体型からして男だろうと推測。
動きからしてまださほど戦闘経験はないだろうし、さっきの様子だと女も知らないな。線は細いが下半身は割としっかりとしているし、体幹もある。腕にそれなりに筋肉は付いているので、農作業か何かに従事した経験があるのだろう。
まあそれでも悪い連中からすれば良いカモだ。そう思っていると案の定、三人の男がこちらへと向かってきている。ここらであまり見ない男達だ。
「君、もしかして冒険者志望?」
一人の男がにこやかにそう言って声を掛けると、その子の右に座った。
「え、あ、はい。ミルカ村から来ました」
「登録は済ませたかい?」
もう一人の男が左に座る。
「いえ……まだです」
「分かるぞ。最初は緊張するもんな」
最後の男は後ろに立ったままだ。言葉に一瞬、全員が獰猛な笑みを浮かべた事をレドは見逃さなかった。
「俺達は冒険者パーティ【流砂の鷹】だ。実は、一人欠員を出していてな。君はセンスありそうだからどうかなと思ってスカウトしにきたんだ」
流砂の鷹ねえ……せいぜいカラスぐらいだろお前達は、と思うレドだった。
「え、僕をですか!?」
「そう。君、最初の武器にダガーを選ぶチョイス、いいね。扱いやすい武器だし駆け出し冒険者には丁度良い。さては素人じゃないな?」
心にも思っていない事を言う男に、まんざらでもない表情をその子は浮かべた。
「一応村では一番の狩人に色々と教わってはいます! ゴブリン程度なら一人でも倒せるはずです!」
「おお、それは凄い! よしではこの出会いに乾杯しよう! 俺達が奢るからもう一杯飲みな! その後一緒に仕事をしようじゃないか! 勿論報酬は山分けだ!」
「……! はい!」
レドの見立てでは……このまま冒険者登録させて貰えず依頼に連れて行かれて、良くて捨て駒、悪ければ奴隷商にでも売られるだろう。
ここらでは見ないが、都会の冒険者ギルドではよく見る手口だ。ギルドも冒険者登録前の人間の世話までは見ない。だから登録をしてない冒険者志望の若者はカモられるのだ。
愚かで、無知な若者の末路だろう。レドに正義感はさほどない。男達の行っている事が非合法かもしれないがそれを糾弾するつもりはなかった。
「はいレドさん、ビール。私のおごり」
いつの間にか横に来ていたエミーがそう言って、ドンと大ジョッキをレドの前に置いた。ここの大ジョッキは量が多く入る分、重くなるから鉄板で補強されてある。ちょっとした鈍器にもなるぐらいに重いが、冒険者ならば問題ない。
「あん? なんだよ気持ち悪いな。売り切れじゃなかったのかよ」
「……分かっていて傍観するのは、共犯者ですよ」
「何の事だ?」
「さーてね」
エミーが意味深な言葉と笑顔を残して去っていく。
レドは男達に機嫌良く飲まされている少年を見た。
ミルカ村出身だったか? 俺ですら聞いた事がない名前からして、きっと地図にも載らないような小さな村なのだろう。冒険者に憧れ、なけなしのお金をはたいてここまでやってきた。その末路がこれか。
傍観したら共犯者か。全く、自分を棚に上げて良く言うよ。
「さて、じゃあ行こうか!」
「は、はい!」
「待て待て」
連れて行こうとする男達にレドが紫煙を揺らしながら声をかけた。
「あん? 誰だてめえ?」
男達が雰囲気を豹変させ、レドへと凄む。その変わりようにその子が身体を一瞬震わせた。
「そいつ、冒険者登録まだだろ? ちゃんと登録してやらないと依頼には連れて行けないぜ?」
レドは座ったまま、余裕そうにその恫喝をやり過ごす。これまで交渉した連中に比べれば、こんな猿共、何も怖くない。
「……うるせえぞオッサン。人の商売の邪魔すんな」
「お兄さん……だろ? いやじゃなくてだ。登録させてやれ。そしたら俺も文句は言わねえ」
「うっせーぞオッサン。殺されたいのか?」
三人の男がそれぞれ短剣を抜きながらレドに迫る。
ふむ。姿勢、足取りからしてそれなりに経験はありそうだが……この間合いで短剣とは話にならんな。
「あーお前らやめとけ。そんなガキ連れていくより、もっと効率的な方法はあるぞ。何なら俺が有料で教えてや――」
講釈垂れようとするレドに迫る凶刃。
「死ね!」
男が短剣を投げる。しかしレドの動きはそれよりも速かった。
素早く手に持ったジョッキで飛んできた凶刃を防ぎつつ、左手に持った煙草を男達に投げた。
「あん?」
「“爆ぜよ”【炎球】」
投げた動作から流れるように左手で腰の青い短剣を抜きつつレドが詠唱。
煙草を中心に小規模な爆発が男達の目の前で起こる。魔力を調整して音と煙だけが出るようにした、ただのはったりだ。
「魔術師か!?」
「ハズレだ」
床を蹴ったレドが今度は右手で曲剣を抜刀しつつ接近。目の前の男の足を軽く切りつけ、床へと倒す。
「くそ……剣士だったか!」
「馬鹿な!?」
足を斬られた男は床へと倒れ、残る二人はそれぞれの喉に青い短剣と赤い曲剣を突きつけられていた。
「剣士? それもハズレだ」
「凄い……それに速い」
その子が感嘆の声を上げ、それにレドも驚いた。
こいつ、俺の動きが見えていた?
「お前なにもんだ!」
床に倒れた男を足で踏みつけながらレドが答えた。
「俺か? 俺はちょっと器用貧乏なだけの――元冒険者さ」
☆☆☆
〜【白竜の息吹】リーダー、“白剣のシース”の自伝より〜
“もし私が、魔王討伐を為せた理由を問われたならば、きっとこう答えるだろう。良き師に出会えたからだと。こう言えば誤解を生むかもしれないが、私の強さも仲間との絆も、それに比べれば些事に過ぎない。我が導きの師と出会えたあの酒場こそ、私の原点であり、そしてこれからも私と師のよすがとなるだろう”
というわけで、ここからレドさんの冒険者育成が始まります。目指せ魔王討伐!
新たなハイファンタジーの新作を連載開始しております。
隠居したい元Sランクオッサン冒険者がドラゴン娘とはじめる、規格外なスローライフ!
↓URLは広告下↓
「先日救っていただいたドラゴンです」と押しかけ女房してきた美少女と、それに困っている、隠居した元Sランクオッサン冒険者による辺境スローライフ