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第三十七章 〜変わらぬ信頼〜



 休戦解除まであと数時間を残した夜、樹楊はラクーンの自室に来ていた。二日酔いも残っていて、ラクーンの笑い声が頭痛を呼び戻し、なかなか不快に感じている。今回呼ばれたのは戦絡みの事ではなく、スクライド王国よりも南東にある河川の現在状況についての相談らしい。その川は、クルード王国とスクライド王国の境界線となっているソリュートゲニア大河である。遥か北東からスクライド王国の南東まで流れていて、その先はかつてソラクモがあった山脈の地下洞窟まで。そこより先を知る者は皆無であり、足を踏み入れて戻ってきた者などいない。川を挟むのは歪な岩肌であり、全てを呑み込むような激流。地下洞窟の入口は激流が荒れ狂い、流れついた流木さえも岩肌に衝突すると粉々になってしまう。川の深さも不明。


 以前は果敢にも挑む者もいたが、何年経っても帰ってきてはいない。その向こうに何があるのかなども不明であり、その先は未だ未開の地でもある。


 と、色々な憶測が立てられている地下洞窟への入口なのだが、今回ラクーンが樹楊を呼び出したのはそこの事ではない。ソリュートゲニア大河には違いないのだが、あくまでもスクライド王国の南東に位置する川の事だ。


「どう思いますかねー、樹楊くん」

「どうもこうも……。こいつは俺の仕事じゃないっすよ」


 ラクーンが相談してきたのは、ソリュートゲニア大河に分離されている大陸を繋ぐ吊り橋の事であり、老朽化していて危ないとの事。地盤も脆くなっていて、以前のソラクモで相次いだ地震の影響も少なからずも出ている。ラクーンは困り果てながら地図を見下ろしてはペン先で音を立てながら突いている。


「一度吊り橋を撤去したいのですが、そうすると向こうとこちらを行き来する手段がなくなってしまうんですよねー」

「他の所に吊り橋を造ってからにすればいいんじゃねーっすか?」


「そうもいかないのですよ。他の場所は地盤がここよりも弱かったり距離が離れすぎていたり、大陸が三つにも四つにも分断されていたりと、吊り橋を架けるには不安要素やらがあり過ぎるんです。いっその事、少し上のダムで流れを塞き止めて地盤の補修をしようとも考えましたが……」


「それじゃー、向こうにある街やら村は深刻な水不足に見舞われますね」


 そうなんですよと項垂れるラクーンだが、とても力になれるような用件ではない。自分が指摘した通り、ダムで川を塞き止めれば水不足の被害が広がってしまう。この吊り橋がある所は峡谷と言っても過言ではなく、一度吊り橋から落ちれば命の保証は出来ないほど高い位置に橋が架かっているのだ。そこの地盤を補強・補修など何年掛かるかも解らない。かと言って他の地に吊り橋を架ける事は避けたいようだし。つまるところ、自分にどうにか出来るものではないのだ。


 ラクーンは色々な地を旅してきた自分に何か案を求めていたようなのだが、橋など観察してなかったし、それ以前に興味などない。確かに様々な橋を渡ってきたのは確かだが、これほどまでに厳しい状況に見舞われた橋などなかった。と思う。


「あーもう! 何ですか何なんですか、領政官って! どこの馬の骨が考えたんですかこんな役職っ」


 羽根付きのペンを放り投げ、頭をぐしゃぐしゃするラクーン。領政官官長の証でもある法衣を脱ぎ捨て、パジャマに着替え出す。


「こうなったらパジャマパーティですっ」

「男同士でかっ。つーか俺、パジャマじゃねーっすよ! そもそも……」


 機楊は、やけくそ気味に着替え出すラクーンの法衣以外の服装を初めて見て言葉を失ってしまう。正確に言えば、ラクーンの髪を見てだが。

 ラクーンはいつも法衣姿で髪を出さない。今ここで露わになった髪は薄い金色の髪で、シルクのように輝き、肩甲骨の下まで伸びている。元々中性的な顔立ちからか、その髪をなびかせると女性のようにも見える。もう幼さは抜けきった歳だというのにも関わらず、その肌はまるで十代のよう。


「ん? どうかしましたか?」

「いや。こうして見ると女みたいっすね」

「あっはっは。それはよく言われます。線も細いですしね、私は」


 パジャマ姿になったラクーンはワインを出すと適当なつまみもテーブルに広げる。少しばかり高級な地図で鼻をかんではゴミ箱にぶん投げ、その不快さを存分にアピールしながら。樹楊はワインが注がれたグラスを受け取ると、次いで乾杯をする。このグラスも高級なのか、合わせた時の音は心地良いものだった。ラクーンはワインを水のように飲み出し、遂には面倒だからとボトルに口をつけ始める。元々酒に弱いのだろう。既に顔を真っ赤にし、鼻をぷくぷく膨らませていた。


「樹楊くんーっ」

「何ですか?」


「クルードを倒したら私の右腕になって下さいねーっ」

「右腕って……。俺は政治向きじゃねーですって」

「私はね、樹楊くんを政治の世界に入って欲しかったんですよ、本当は。でも今はそんな状況でもないですし……」


 適当に相槌を打っていると、びしっと指を差されて「聞いてますかっ?」

 普段は何を考えているか解らないラクーンが厄介だと思っていたが、酒が入るともっと厄介になる事に気付いた樹楊は取り敢えず酔い潰してやろうと決意。このまま話をしていても疲れるだけだ。しかしラクーンはなかなか酔い潰れず、意識もはっきりしているようだった。


「樹楊くん、アナタは剣で何人の人を護れますか?」

「唐突っすね。何人って言われても……考えた事はないっすよ。ただ、護りたいモノは護るつもりです」


「そうですか……」


 烏賊の足をもぐもぐ食べ、ボトルを傾けるラクーンは様子がおかしい。普段からおかしいのは解っているが、何かを思いつめているようにも見えた。


「私が領政官になったのは何故だと思います?」

「んー。権力?」

「流石樹楊くん。半分当たりです」


 ラクーンは頬杖を付くとおつまみをまた口にし、空になりつつあるボトルを電球から注がれる光に透かす。しかしその眼にはボトルなど映っていなかった。懐かしむような、悲しむような……そんな眼をしている。


「私が領政官になったのは、人を殺す為です」

「……え? 今、何て」


「私はね、樹楊くん。幼い頃から貧弱で、とても武芸には恵まれていない身体をしていました。勿論、今もですが。そんな私が人を殺すにはどうすればいいのか。答えは簡単に見つかりました。虚実を事実にでっちあげるだけの権力と役職に就けばいい、それが幼い私が見付けた答えなんです」


 物腰が柔らかい、人を憎む事から遠いと思っていたラクーンが口にする言葉とは思えそうになかった。いつも楽観的に笑っていて、人々の事を考えてくれるのがラクーンだと樹楊は思っている。その光景は今まで目にしてきたし、ラクーンが残してきた功績も人々の幸せに直結しているものばかりだ。そんなラクーンが、人を殺す為に領政官になったと言う。領政官は領土の政治を主に管理する役職だが、その気になれば虚実を立てて村一つくらいどうにでもなる。詳しい話を聞きたくもあったが流石に失礼かと思って黙っていると、ラクーンは勝手に話し始める。


 ラクーンは幼い頃、両親を亡くしたらしい。

 亡くした、と言うよりも殺されたと言った方が正しいだろう。まだ幼かったラクーンには事の詳細が解らないらしいが、どうやら濡れ衣を着せられて極刑になったらしく、その濡れ衣を着せたのは親戚を含む村全体だったようだ。そして孤児になったラクーンは、先代の宰相に拾われて生きてこれたと言う。元々、頭が良かったラクーンはその才を認められて十歳の頃から領政家の見習いとして城に住んでいた。だが、心に残るのは両親を殺した村の人々の顔。そして領政官の仕事が何なのか解ると、ただひたすらその頂点を目指して頑張ってきたらしい。


「でもね、あれは二十歳の頃です。私は一人の子供を見掛けました」

「子供?」


「ええ。その子供は何時も同い年くらいの男の子と、少し年上の太った女の子と一緒にはしゃいでいました。兵士になって国を護る――って。当時の私とは光と闇でしたよ」


 ラクーンはその子供達を見て、自分の醜さを知ったようだった。それでも復讐の炎は消えなくて、恨みも何もかも残ったまま日々を送った、とも。しかしそれから五年後に運命を変える日が訪れた。


「その子供がですね、旅に出たいと……私に申告してきたのです。何故かと問うと、世界を見たい、強くなりたい。護りたい人達が居るから、と。私は『何故子供なのに、そこまで人の事を考えるのだろうか』と首を捻りましたよ。そして彼に何があったのか、調べました。そして……衝撃的でしたね。その少年はスクライドの者ではなく、偽名を使っていました。そして少年の過去は私よりも辛いものでした。私は自分の小ささを心底思い知らされたんですよ」


「……それで、どうしたんですか?」

「いえね、これまでは、まあショックを受けるだけの展開でしたが……。私の運命を変えたのは少年の一言です。あの小さな瞳で、まだ年端もいかない子供だというのに……私の心の底を見たのでしょうか。旅支度を整えて挨拶にきた少年は私のお腹を叩いてこう言いました」


『お前、領政官副管長なんだろ? ならシャキッとしろよっ。お前はペン一つで多くの人達を救えるんだかんなッ』


「――ってね。まるで金槌で頭を殴られたようでした。そして心から霧が晴れるようでもありました。部屋に戻った私はなんて下らない日々を過ごしていたのだろうか、と泣き崩れもしましたよ。そして気付きました。私がすべき事は復讐なんかではない。そんな事の為に命があるわけじゃない。私が救われたように、私も人々を救うんだと決意もしました」


 樹楊は恥ずかしそうに頬を掻くとワインを飲み、視線を逸らす。そんな樹楊にラクーンは微笑みながらテーブルに突っ伏した。


 ラクーンはその少年が旅立った後、スクライドの生活水準を大きく上げ、今では実用化されている伸縮鋼線の発見・研究にも大きく貢献した。そしてその他にもその知識を駆使して幾多にも及ぶ功績を残し、若くして領政官官長にまで登り詰めたのだ。ラクーンは言う。もし少年に出会えなければ、今のスクライドはなかった。伸縮鋼線も、今の生活も何もかもなかった、と。そしてこの先の未来もないだろうとも言う。


「樹楊くん、領政官になりなさい。剣では手が届く範囲しか救えません。でも領政官ならペン一つで人を殺せますし、逆に多くの人々を救えるんですから」


「確かにそうですけど、やっぱ俺は剣を捨てれないっすね」

「そうですか……」


 残念そうに呟くラクーンはだったが、突然笑いを含む。

 そして。


「私を救ってくれて、ありがとうございます」

「……ういっす」


 ラクーンは再度大人らしからぬ笑みを浮かべると静かな寝息を立て始め、樹楊はその背に毛布を被せてやってから部屋を後にした。そして城から出ると時刻を確認し、南の空を仰ぐ。二期が近い季節の風は少し生暖かく、それでも心地良いものがあった。そうやって目を細めていると通信機が控えめに音を鳴らす。発信者が誰であるかなど、確認せずとも解る。これは定期連絡なのだ。


「はい、樹楊っす」

「お。ちゃんと起きていたんだな」

「まー、定期連絡は俺の案っすからね」


 発信者であるミゼリアは感心したように通信機の向こうで頷いているのが何となくだが目に浮かぶ。


「そっちはどうだ? 何か変わった事は?」

「別段変わった事はないっすね。ちょっち息が酒気を帯びているくらいで」

「しゅき? しゅ、き……しゅきっ?」


 予想外の言葉だったのか、ミゼリアは理解に苦しんでいるようだった。唸り声を潜めつつもアクセントを変えて酒気を連呼するが、やっと理解出来たのだろう。びきっという通信機にヒビが入った音がすると、次いでミゼリアの怒声が鼓膜を破る勢いで耳に突撃してくる。


「馬鹿かお前はぁぁぁぁ! もうすぐ作戦に入るんだぞっ。酒など飲んでる場合か!」

「や。ラクーン、さまに飲ませられてたんすよ。ついさっきまで」


 逆の耳に通信機を当てて難を逃れようとする樹楊で、ラクーンの名前を出されたミゼリアは不満を残しながらも納得してくれた。しかしやっぱり面白くないらしい。全くお前は、と呪詛のようにもらしている。仕様がないだろ、と樹楊は思うが酔っ払っている場合でもない事も理解している。あと僅かで日付が変わるのだ。気を引き締めなければならない。樹楊はミゼリアとの通信を終えると、先程から背後にいる者に目線だけを流す。


「現時刻より作戦に入る。各自持ち場に着け。ポイントは五つ、スクライド城下町を取り囲むように身を潜めろ。赤麗の隊員を小隊長としスクライド兵を引き連れ、合図を待て。クルスの照明弾がそれだ。今回の作戦目標は敵兵の捕縛だが、止むを得ない場合は殺しても構わない。人命を第一と考えて行動するんだ。復唱しろ」

「はい。スクライド城下町を囲むように五つのポイントで待機。赤麗の隊員を小隊長とし、スクライド兵と連携した上でクルス速突兵の照明弾を待つ。最終目標は敵兵の捕縛であるが、人命を第一とする為、止むを得ない場合のみ敵兵の命を奪ってものとよいとする」


「そうだ。じゃあ行け」

「はい」


 樹楊の命を受けた砕羽の一員は踵を返すとスクライド城下町の裏門に向かって走って行く。正門にはアギの隊員が堅牢な防衛を担ってくれている。その隊員数は中隊クラスが三つだ。これで容易には近付けないだろう。樹楊は懐から煙草を取り出し、手を風避けとして火を点す。煙草の銘柄はサルギナのものと同じで、葉っぱを包む紙はs茶色。苦味がある事で人気もない煙草だが、そのクセの強さを気に入るコアな者もいて、勿論サルギナもその一人だ。樹楊は一口目を深く吸い込むと、その煙を肺に流し込む。遠くの空を見るように目を細め、そして。


「げっほ!」


 咽た。そして、

「まっず……。何だこりゃ」

 

 ゴミ箱へぶん投げる。

 何となく格好つけたくて吸ってみたのだが、煙草の良さがイマイチ解らない。脳みそがシェイクされたかのようで足も覚束無くなってしまった。この先、どんな事があっても愛煙家になる事はないだろう。こんなモノ、金を出してまで吸おうなどと思えそうにもない樹楊だった。



 闇に沈む時間が流れれば、スクライド城下町にも眠りの時が訪れる。人々はそれに倣うように夢路を辿るが、そうでない者もいた。それはスクライド城下町の裏門の向こう。闇と同化するような漆黒の鎖帷子を纏った者達だ。その人数は三十人であり、己の武器を手に息を潜めていた。その者達はクルードの兵ではあるが、証である鉄鎧を纏ってはいない。軽装備である、鎖帷子だ。


 クルード王国は日付が変わると同時にスクライド王国へ奇襲を掛ける策を講じており、そして今正に裏門から侵入しようとしている。しかし大々的に作戦を決行するわけではなく、物静かに行う手筈だ。事を荒立てればスクライド兵が集まるだろうし、たった三十人の隊で落とせるほど一国とは小さなものではない。いくら弱国との烙印を押されているスクライドとはいえ、だ。今回の作戦は暗に動き、国王の暗殺にある。ここで動きにくい、うるさい鉄鎧を纏うのは自殺行為なのだ。それを考慮しての鎖帷子なのだが、見た目からして頼りないものがある。


 不安と意気込みがない交ぜになっているクルード兵士達だが、遂に作戦が決行される時が来たようだ。日付が変わると共に裏門の門番が代わる。その門番は辺りを丹念に見回すと、手にしている槍を掲げた。その門番はクルードが潜伏させている兵であり、今回の作戦の合図を告げる者でもある。


 合図を受けたクルードの隊は足音に細心の注意を払いながら門に近付き、列を整える。そして固唾を飲むとアイコンタクトで意思の疎通を図り、いよいよ侵入を開始した。


 門は軋む音を闇に響かせ、クルード兵の冷や汗を流させる。それでも徐々に開いていく門。その先は静まり返った城下町だ。正門は厳重な警備が敷かれていたが、裏門は粗末なものだ。いくらクルード王国の方角と逆の位置にある門だとしても。しかし、その粗末さにはクルード兵達も嘆息してしまう。裏門に面する地域が民家だとしても、警備兵が見当たらない。その警戒心の薄さがクルード兵達の肩の力を抜いた瞬間だった。


 間の抜けたような発砲音がすると、弱々しい光の弾がゆるゆると線を描きながら空へと昇って行く。その光を呆け面で見ていたクルード兵達だが、その光が弾け、辺り一面を照らされると同時に視界に飛び込んできた者を見ると後退りをした。


 クルード兵達を待ち構えていたのは、真っ白な長衣を羽織ったクルスであり、打ち上げられた光の玉――照明弾の明かりに照らされて不敵な笑みを浮かべている。そして、バイクの咆哮が重なり合い、クルスの背がこれでもかと言わんばかりに照らされた。その光を正面から受けたクルード兵達は眩しそうに腕で目を庇うと、顔を青ざめさせる。クルスは煙草に火を点けると裂けている口角を持ち上げ、サングラス越しに目を尖らせた。


「キョークンの言った通りじゃんね。まさか本当に来るたぁな」

「な、何で作戦がっ――っく、退けぇ!」


 クルスが立っている事にうろたえた指揮を執る者が撤退を口にするが、最後尾に居た者があたふめきながら声を張って返す。


「駄目です! 後方よりスクライド――ひっ、赤麗が! 囲まれてますっ」

「何故だ……。何故作戦が漏れているんだ!」


 怒りの丈を全て込めた手を力強く握った指揮官は歯を食い縛り、定まらない視点で地を睨みつける。

 バイクの威嚇音と後方からにじり寄る赤麗を中心とした隊に、クルード兵は縮まっていく。陣も何もあったもんじゃない。まるで肉食獣に囲まれている小動物だ。その情けない光景を見ていたクルスは煙草の煙を吐くと、剣を抜いて近寄って行く。


「作戦がどうのこうのって言ってたけどよ、そもそも俺達はお前等の作戦なんか知った事じゃないじゃんねェ」

「な、ならば何故っ、来るな!」


 クルスは突き付けられた剣を弾き飛ばすと、喉元に切っ先を当てる。残酷な鈍い輝きを見せる刀身の奥からは、クルスの冷淡な声。


「これはタダの推測じゃんね。軍師さまのな。十中八九、日付が変わると同時に攻め込んでくるはずだと。正門を堅牢に護っていれば裏門に来るだろう、そこを一網打尽にすればオッケーだろ、と。そしたら――クッカカカ、本当に来るとなは。お前達はもう終わりじゃんね」


 そこまで言ってやるも、クルード兵は誰一人として剣を手放さない。しかし抵抗する姿勢は崩し掛けていた。そこにミゼリアと樹楊が現れる。


「降参しろ。無駄な争いはなるべくなら避けたい」


 ミゼリアは強い口調で慈悲を口にするが、それですんなり頷くクルード兵ではなかった。言葉を喉に詰まらせ冷や汗を掻き、それでも震える手で剣を握り締めている。中にはまだ子供もいて、同じく成人にもならぬ女の子もいる。恐らく、作戦の失敗は己の死と直結しているのだろう。このまま捕らえられ、そしてクルードが勝利した後母国に帰っても死が待っているだけなのだろう。樹楊はあの国王ならやり兼ねないと感じていた。慈悲も何もない、私利私欲の権化。それが樹楊が見てきたクルード王なのだ。だから、現実を言ってやる。


「お前らね、自分達が捨て駒だって事……気付いてんのか?」

「ふ、ふざけるな! 我々は」


「なら何で応援・救援がないんだ? お前等の装備から見るに、今回の目的はスクライド王の暗殺かそれに準ずるものだろう? そんな重要な任務だと言うのにも関わらず粗末な策、加えて寄せ集めの隊編成。どう見ても捨て駒だ。俺らの出方を見る為のな。ま、これでスクライドを落とせれば奇跡だラッキーだ万々歳、その程度だろ」


 図星のようだった。

 今回の任務は寄せ集めで編成された隊であり、救援も応援もない。虚勢を張るクルード兵だったが、樹楊の言葉に戦意を喪失し始め、肩を落とし始めた。剣を落とし、無抵抗を示すと瞳からも生気が消える。


「捕らえて地下牢に放り込め。僅かでも抵抗するなら手足を斬り捨てても構わない。反抗的な目を向けるならその目ン玉くり抜け。死にたいと口にするなら拷問にかけてでも生かせ。食糧は限界まで与えるな。ギリギリのとこで生かすんだ」


 冷酷で残忍な言葉を口にする樹楊に、クルード兵の若輩者は震えて涙を浮かべる。それでも捕縛は始まり、誰一人として抵抗する姿勢を見せなかった。死に安らぎを感じる境界線で、その中でも生を請わせろという非人道的な発言にスクライド兵たちも暗色を顔に浮かべるが、クルスだけは楽しそうに笑っている。僅かな恩恵でも受けたいのか、捕縛されつつある女の子のクルード兵が項垂れていた頭を上げるが。


「あう!」


 樹楊は何も喋らせずに鳩尾を蹴り上げ、前髪を引っ掴む。そして強引に顔を上げさせると、涙で覆われる瞳に冷酷な視線を突き立てた。


「お前らに言葉はない。何一つだ。一言でも口にするなら舌を引っこ抜くぞ? それでも俺に何か言う事があるのか?」

「い、いえ――っぐ!」


 全身を震わせながら言う事を聞こうと謝罪を口にしようとする女の子だったが、そこにいるのは異常とも言える樹楊だった。女の子の舌を掴み、今にも引き抜こうとせんばかりの鬼の形相で笑みを貼り付けている。


「てめぇ聞こえなかったのか、ああ? お前らに言葉はねぇんだよ。舌がいらねぇのか?」

「樹楊、アンタ何してんのよ! そこまでする必要はないでしょ!」


 あまりの非人道的な行動が目に余ったのか、紅葉が割って入る。舌が自由になった女の子は目を虚ろに揺らしながら怯えきり、だらしなく涎を流し始めて泣き崩れた。イルラカはその女の子の背を撫でながら落ち着かせるが、樹楊の残忍な瞳は変わらぬまま。


「紅葉……。お前、いつからそんなに甘くなったんだ? こいつらは敵兵だ。それに国境警備兵に被害がないと言う事は、こいつらは大分前からスクライドに潜伏していたんだぞ? 間諜に執行される刑は拷問・斬首だ。今ここで一人殺したとしても問題はない」


「解ってるわよ! それでもこの子はアンタに従う言葉を口にしようとしただけなのよっ? それをっ」

「それが甘いって言うじゃんね。キョークンはちゃんと言っただら? お前らに言葉は何一つない、ってよ。敵に与えるのは恩恵でも慈悲でもない。与えるのは苦しみだけだ。生きてきた事の全てを後悔させるような苦しみ、それだけでいいじゃんね」


 クルスは紅葉の言葉を遮ると、収めていた剣を抜いて未だ泣いている女の子の首に当てる。スクライド兵はざわつき始め、クルード兵にも絶望が落ちてくる。


「キョークン、こいつここで殺ってもいいだら? グズグズ泣いててうるさいじゃんね」

「構わねぇよ。つーか、俺もその方がいい」

「と、言う事だ。っと、喋るなよ? 舌を失くしてから死にたいってんなら別だけどよ」


 眉を下げて眉間にしわを寄せて嗚咽を殺す女の子は覚悟したのか、目を閉じて上を向く。合わせられている唇は震えて可哀想なものがあった。それなのにクルスは剣を振り被り、冷笑している。誰もが女の子の死を感じ取っていたが、それを遮るのは沈黙を守っていたミゼリア。


「もういい。一人殺しても何も変わらんが、言い換えれば殺さなくても何も変わらないという事だ。クルス、剣を収めろ。これは命令だ。樹楊、お前の考えている事は解った。だから私に異論を唱えるな」


 樹楊は隠すように微笑む。それを横目で見ていたミゼリアも満足そうに微笑み、捕らえたクルード兵を地下牢に放れと部下に命ずる。スクライド兵達は樹楊の変わり映えに少なからずとも恐怖を感じ取り、何も言わずに帰路へと着いたのだった。


 それから十日が経ち、新設された軍議施設に小隊長クラス以上の者が徴収された。徴収した者はミゼリアであり、今回の会議には先日捕縛したクルード兵から得た情報についてだった。


 どうやら件のクルード兵達は樹楊の見立て通り寄せ集めで、内部の深い情報までは持っていなかったようだ。スクライドに潜伏していたのは半年ほど前からであり、情報を流してたとも言う。そして他に潜伏していたクルード兵も彼らの証言によって芋づる式に捕らえる事が出来、大方の間諜は捕らえたというのは樹楊の考え。まだ少数の間諜が紛れ込んでいると樹楊は思っている。


 以前、スクライド兵の大半が休暇中に起こされた侵攻戦と国境警備兵の不可解な死。それとサルギナが大隊長へと降格してしまった要因である、ウォーリスの反乱には捕らえた間諜らが直接関与しているとは思えないのだ。そこそこの情報を知ってはいたものの、決定要素に欠ける。と、言う事は他にも間諜がいるという事だ。その目星は立っているが、まだ不確定なのだ。歯痒さを感じるが、今はまだ動けない。


 隊長補佐官である樹楊の報告が終わり軍議も閉会となりつつあったが、意見・質問を促すと一人の者が挙手をする。


「まだ隠している事があるのでは? クルードは軍事国家ですし、尋問にも強いと聞きます」


 それらしい事を口にするが、浮かべる笑みは明らかに樹楊を見下している。やり方が甘い、尋問が下手だ。そう言いたいのだろう。しかし樹楊は顔色一つ変えずにファイルを閉じると腕を組む。


「それはないっすね。彼らが知っている事は全て吐かせました」

「随分と自信があるようで」

「ええ。メルナファリアを使用しましたので」


 メルナフィリア。

 その言葉をさらっと口にする樹楊だったが、この場に居る殆どの者が驚愕を浮かべる。メルナフィリアとは名にふさわしく、綺麗な薄紅の花を咲かせる植物だが、古来の拷問でも使用された寄生植物でもある。肌に切り傷を負わせ、そこにルナフィリアの根を当てればその拷問は始まる。驚くべきスピードで根を切り傷に侵入させ、養分を奪うだけ奪うのだ。その際にはどんな屈強な男でも赤子のように泣き叫び、死を求めると言う。しかしメルナフィリアは賢く、苗床を殺しはしない。限界まで養分を吸うが、苗床が死にかけると必要な養分だけを流してやる。そして苗床が回復すればまた養分を吸い始める。何度も何度も、死ぬ事無く自由もなく。


「そ、それは禁止されている法だろ!」

「自国の犯罪者には、です。他国の者への使用は必要とあれば許可する、とありますが」


 声を荒げられても平然と返す樹楊の眼は穏やかなものだ。何の揺らぎもなく、感情の起伏さえも見えない。


「それはそうだがっ。それでも人として越えてはいけない線だってあるだろ! あの植物は使用すべきではない! クルード兵とは言え、人権はあるのだ!」

「俺はこの真っ白な長衣を受け取ったその日から人である事を止めました。勝つ為ならどんな事でもするつもりです」

「人が人でなくなれば終わりだ! そんな者に国が救えると思っているのか!」


 綺麗な事を言う者に、樹楊は目を細める。口端を僅かに下げ、ただ冷やかな空気だけが流れ始めた。そこで割って入るのはクルスだった。


「それじゃアンタは人であればスクライドを救える、そう言いたいのか?」

「そうじゃないっ、我々はスクライドを代表する兵なのだ! 民衆の支持を得――」


「そんなんじゃクルードには勝てないじゃんね。そんな甘っちょろい事を言って勝てるほど楽な相手じゃない。けど、アンタの言いたい事も解る。そんな非人道的な事を繰り返せば、民衆は遠ざかってしまう。それでも必要じゃんね、人を止める事は。全員が全員人を止めるのは馬鹿な事だけど、誰かが敢えて堕ちる必要はあるじゃんね。それをキョークンが負っているのが解らねぇのか? お前に人を止める事の辛さが解るのか? 情報は戦局を大きく変動させる」


 クルスは一旦言葉を切ると靴底を規則的に鳴らし、立ち尽くす発言者の元へと向かった。そして手を伸ばせば届くほどの距離までに近付くと足を止めて見下ろす。発言者である兵は大隊長であり、相手のクルスは格下であるにも関わらず気圧されて少しばかり身を引いた。


「もし人道を外れた拷問の果てにその情報があったとしても、お前は道徳を唱えるのか? 勝利の鍵があるかも知れない、それを求める為には必要な事がある。それをやっているのがキョークンだ。戦争は綺麗事じゃねぇんだよ。人を殺し、死体を踏みつけ、その果てに掴むのが勝利だ。そこには正義も何もない。あるのは悲しみを潰した上に成り立つ勝利のみ、それだけじゃんね」


 張った声ではなかったが、それでもクルスの言葉には力強さがあった。強き思いがそこにはあった。何物にも崩されない、鋼鉄の思い。それを感じ取ったのだろう。反論してくる者などいない。静まり返った重い雰囲気だが、ミゼリアはそこで軍議の閉会を口にした。解せない事もあるのか不満を口にする者もいたが、クルスの言葉を理解する言葉もちらほら漏れている。今更ながら、クルスは頼りになる。自分の言いたい事、思っている事を一番に理解してくれる。そう思う樹楊は、ポケットに手を突っ込んで捕らえたクルード兵を収容している地下牢へと向かった。



 ◆



 スクライド城の地下牢には件のクルード兵が一箇所に収容されていた。通常の個別牢とは違って広々としているが、寝具の類などはない。この牢は、捕らえられている者が日を追う毎に減っていくという、罪人に精神的な苦痛を与える事を目的として古くに作られた。罪人達は仲間が減っていく恐怖に怯え、明日は我が身と夜を過ごしながら己の罪を悔やむ事となるのだ。つまりこの牢に身を寄せ合うのは未来なき者達。


 この一室に閉じ込められてから既に十日が経ち、仲間達の精神的疲労が目に見えてきている。と、唯一の女性であるココナは隅で膝を抱え、三角座りをしながら思っていた。仲間達の殆どは食料を持ってくるスクライド兵の足音にすら身を縮め、日が沈めば不安と安堵が入り混じった溜め息を吐く。ココナもそれは同じで、だが流れてくる涙はもう枯れていた。目は腫れ、食事も喉を通らずに身体は衰弱していくばかり。石畳の寝心地は悪く、目覚めれば身体が悲鳴を上げる。まだ十四年しか生きていないというのに、と未来が暗く閉じた事に悔しさを感じた。こんな事になるなら片想いの人に告白しておけば良かったと後悔もしてしまう。


 小さな村で育ち、王都であるネルボルグで開催された武芸大会で好成績を残したのが間違いだった。兵にスカウトされ、貧困に悩まずに済むと心を躍らせて入隊してまだ一年も経たないというのに。まだ生きていたい。だけどここで生きるという事は、あの白い長衣を着た樹楊という男の言う通り、地獄を見るという事なのだろう。幸か不幸か、まだ死刑になった者も拷問を受けた者はいないが、それも何時まで続くのか。尋問を受けた者もいるが、外傷はない。


 もう帰りたい。そう、誰にも聞こえないほどの呟きを漏らした時だった。革靴の底と石畳がぶつかり合う、独特な足音が遠くで鳴り始める。それは徐々に大きくなり、間違いなくこちらに向かってきていた。夕食は既に配給されたし、ここに兵が来る意味は……もう、一つしかないだろう。


 全員が身体を強張らせて無駄にも息を潜めるが、その者はここの牢の前で足を止めた。頼りない電球に照らされる、白い長衣。一番奥の隅にいるココナは仲間達の間からその姿を確認すると、背を壁に打ち付けるほどに勢い良く身を引く。ひっ、と悲鳴が漏れたが気取られないように両手で口を覆った。


 その者、樹楊は解錠すると中に入り、クルード兵達に目を走らせる。誰かを探しているように。ココナはその相手が自分じゃない事を祈りながら、見付からないように願いながら身を小さくした。しかし、その怯えきる視線と樹楊の視線が結ばれてしまう。そして、樹楊は真っ直ぐにココナに向って歩を進める。仲間達は逃げるように道を開け、その間から近付いてくる樹楊にココナは枯れていたと思い込んでいた涙を流し、拒絶するように首を振った。もう二度と声を出さぬように口を押さえながら。


 樹楊はその思いを跡形もなく無視し、ココナの前で膝を折ってしゃがみ込むと目線を合わせてくる。何で自分なんだろうか。確かに敵国に捕らえられた兵ではあるのだが、何で自分ばかり酷い目に合うのだろう。きっと言い渡される言葉は、斬首か拷問のどちらかなのだろう。こんなの、こんなの……惨めだ。塞いだ口から漏れる嗚咽を必死に堪えながら、それでも死を認めなければならない状況にココナは絶望し、遂に禁じられていた声を出してしまう。


「嫌、です……殺さないで、お願いです」


 兵らしからぬ発言であり、情けないと自分でも思っているが、それでも命を請う言葉しか生まれてこなかった。その言葉に仲間達が目を見開き、樹楊の眉が跳ね上がる事でココナはタブーを犯した事に気付く。慌てて口を塞ぎ、


「ごめんなさっ――わた、私っどうすればっ」


 樹楊は何も答えず、自分の舌を掴んだあの右手をゆっくりと上げてくる。その手がまた口の中に無理矢理押し込まれるのか、と怯えて目を強く閉じた。しかし樹楊の手は口を通り過ぎて前髪へ。そして、くしゃっと――――撫でられた。優しく、子供をあやすように。


「あん時はごめんな、痛かっただろ?」


 クルード兵は耳を疑い、ココナも虚を衝かれて樹楊の顔を改めて見上げた。そこにあるのは悲しそうに眉を下げて泣き出しそうな笑み。罰が悪そうに頬を掻いてもいる。ココナは何がなんだか解らなくなりこの男は別人かとも思ったが、間違いなく十日前の樹楊その人だ。戦時に負っただろう切り傷が、鼻筋を横切って左右の目尻の下に薄っすらとある。


「あ、あのっ……え、私、ごめんなさいまた喋って……」

「もういい。あれはあん時だけで、もう喋っていいんだ。そんで怯えるのも今日まで。悪かったな、こんなとこにぶち込んでよ」


 ぽかん、とするココナを含む一同に樹楊は苦笑交じりに説明を始める。元々殺す気もなければ拷問をかける気もなかったらしい。持っている情報を吐き出させるには絶対的な恐怖が必要であり、間諜は死罪という法を少しでも柔和させたかったとも言う。もしあの場で恩恵でも見せれば、間違いなく数名は見せしめとして断罪されていた。しかし、己が非人道的になってある程度の情を買えれば時間が取れるだろうと判断しての事だったらしい。そしてその絶好の的となったのが、まだ幼くて女性であるココナだったのだ。


 樹楊は軍議でメルナフィリアの使用を口にしたが、実際は何も使用してはいなかった。勝つ為には人道を外れる事すらもいとわない事をアピールしただけだったのだ。スクライド兵の気を引き締める為、ただそれだけの為に。ココナは樹楊の言葉に嘘がないか探してみるが、見せつけてくる表情にはそれらしいものがなかった。


「私達、これからどうなるんですか? やっぱり……」

「誰も罰しようとは思っていないけどよ、お前らさ、クルードに帰っても無事でいられんのか?」


 ココナは目線を下に落とし、樹楊はこの場の全員に目を走らせるが誰も何も口にしなかった。それぞれが暗い顔で俯くばかりで、目には希望なとというものは宿っていない。やっぱりな、と樹楊は嘆息する。


「お前らダラスに行け。昨日、バリーっておっさんに許可を取れたところだ。秘密裏にだから身分を明かす事は出来ないけど、今アシカリって地区で仕事があるし住居もまだ空きがある。そこで働け。そうすりゃ死なずに済むだろ。だけど家族とかに連絡するのはまだだからな? お前達を逃がした事が公になりゃ俺がヤバいし、バリーのおっさんにも迷惑が掛かる」


「え、逃がす……って。そんな事をすればアナタがっ。何でそこまでして」

「うーん、何つーかよ。俺は勝つ為なら何でもする。けどよ――」


 樹楊は悪びれる様子もなく歯を見せて笑うと、頭を掻く。その子供っぽい笑顔はどこまでも澄んでいて清々しいものがあった。


「――殺さなくてもいいならそれにこした事はないだろ。笑って暮らせる、そんな奴らが少しでも増えた方がいいんじゃねーのかなって思ってんだ、俺は。それにお前等の事ならどうにでもなる。ま、適当な報告をしとくさ」


 まるで全てを許してくれる神父に出逢った気がした。

 だからなのだろう。ココナは募らせていた不満をつらつらと漏らし始める。


「クルード王は独裁者で、民衆の誰もが怯える毎日を過ごしているんです。税率も高く、身を投げる人も少なくはありません。だからこそ生きる為に、少しでも裕福に安全に暮らせるように兵を夢みる者もいるのですが、中には初心を忘れて己の地位を利用して民衆を苦しめる者もいるんです。私はクルードが嫌いです。だけど、少しでも家族が楽な暮らしを得られればと兵になりました。もしアナタのような方が王であれば、きっと……」


 弱国でクルードに敵わないとされているスクライド王国だが、ココナは羨ましく感じてしまう。スクライド王国も確かに兵と一般人との壁はあるが、怯えてはいなかった。この国に潜伏し、日々を過ごす中で羨ましく感じていた。生活水準は低いものの、そこには笑顔がある。活気がある。そして砕羽という新設部隊に樹楊のような兵がいる。誰もが笑って暮らせればと願う樹楊が。


 立ち上がる事さえも難しくなるほどに脱力するココナだが、ある一人の仲間が樹楊の隣に座ると恐る恐る口を開く。


「人違いならすまないが、訊いてもいいですかい?」

「ん、ああ。別に気にしねーけど」


 なら、と生唾を飲み込んでちらっと視線を向けるその仲間。


「もしかしてアンタ、オルカさまの兄さんじゃねぇんですかい? キオウ=フィリスっていう……。俺、オルカさまとラファエロっていう男の話しを耳にした事があって、そん時オルカさまがこう言ったんだ。『やっぱりスクライドに兄さんが居るんだね』って。それに、アンタの笑った横顔……、オルカさまとそっくりでさ」


 オルカの兄であるという事は、王族である事を意味する。そして兄となれば次期国王である事も。その発言を聞いたクルードの者達は驚き、樹楊に視線を集めた。ココナは何の事かさっぱりの様子だったが、説明を受ける事でその重大さに気付く。

 冷や汗が滝のように流れ出した樹楊は、逃れられない視線の中で顔を引き攣らせて頭を掻く。


「まー……その、何だ。うん、そうなんだけどよ。オルカってのは知らないけど、樹楊は偽名だ。けど俺はもうクルードの人間じゃない。キオウの名前はガキの頃に捨てたんだ」


 この事は他言無用だと必死に念を押してくる樹楊だが、ココナは混乱しまくっていた。クルード王の公式発表では第一子であるキオウ=フィリスは四歳の時に病死したとし、それは幼い頃に母からも聞かされていた。もし樹楊が認めた通りであればクルード王の発表は嘘であり、これを告発すれば内部決壊が起きても不思議ではない。しかし樹楊はそれを望んではいないのだ。それもそのはず。もし偽名である事がスクライド側に割れれば大変な事になるだろうから。それほどにスクライドに思いを寄せているのだろうかとココナは思いを巡らせる。


「俺の事はいいとして、お前等は今夜脱走させる。何とか工作しとくから――」

「あーららキョークン。隊長補佐官就任早々、とんでもない事を企んでるねぇ」


 樹楊はその声が誰のモノか解ったようで振り向きもせずに小さく舌打ちをするが、クルードの者達は当然、誰が来たのか解らなかった。しかし鉄格子に片腕で寄り掛かるその姿を確認すると、一斉に牢獄の隅に避難する。


「クルス……聞いてたのか」

「まーな。キョークン、そいつはヤバいんじゃねぇの?」


 クルスは解錠して樹楊の元まで真っ直ぐに歩み寄ると、腕を組んで見下ろす。樹楊は一拍置いて立ち上がるとクルスと対峙した。もしかして斬り合いが始まる? と、一番間近に居るココナは固唾を飲み、なるべく遠くへ逃げようとするが既に壁に背が着いている。他のみんなは遠くへ避難し、樹楊へ案ずる視線を送っていた。クルスと正面を切る樹楊の背後の足元にはココナ。何で自分だけこんな近くに、と日頃の行いを見直してみるも不運が連続で訪れるほどの非行などしてはいない。つまるところ、ただ単に運が悪いだけだった。


 そんなココナの事など知った事ではない樹楊は奥歯を噛み締める。

 するとクルスは鼻で笑った。


「キョークンよぉ」

「……何だ?」


 クルスはニカっと笑うと樹楊の肩に肘を乗せて「俺にも手伝わせろっての」


 あうあうしていたココナだったが、クルスの思いもよらない言葉に間抜けな呆け面となってしまった。あの悪評まみれのクルスからは聞く事さえも叶わない言葉なのだ。十日前は樹楊の演技に触発されたのか、自分を殺そうとさえもしたのだ。うるさい、ただそれだけの理由で。だが樹楊は何かに勘付いたようだった。


「クルス。お前、十日前のアレ……演技だった事に気付いてたのか?」

「当り前だら? キョークンが『こっち側』に来れるわけないじゃんね」


 十日前の悪鬼だった樹楊が全て演技だった事を見抜いていたらしい。疲れたように嘆息する樹楊の背をクルスが悪戯に笑いながら軽く叩く。そこでココナは恐れ多くもと心で呟きながら挙手をしてみる。樹楊とクルスが視線のみで質問を促すと、ココナは再度固唾を飲んで乾ききった唇を開けた。


「クルスさんの、あの……私を殺そうとしたのも演技なのでしょうか?」

「うんにゃ」

「へ!?」


 そこは「勿論」と返ってくるものだとばかり考えていたココナは度肝を抜かれる。クルスは本気で殺そうとしていたらしく、自分の手で殺せばキョークンの名前に血が付かない、と言う。しかもノリでだったらしい。クルスは噂通りの男だった。敵の命は一欠片も尊重しない冷酷な男。もしあの時ミゼリアが止めていなければ自分は今頃……。


 あはは……と誤魔化すように力無く笑うココナ。

 樹楊とクルスは九死に一生を得た思いのココナを一度だけ慰めると牢を出ていった。その時に酒を飲むだか飲みに行くだか言っていたが、本当にここから出してくれるのだろうか。その疑問を仲間に視線で尋ねてみると、やっぱりと言うべきか首を傾げられた。



 ◆



「あっはっは! キョークン、似てるじゃんねっ」

「だろ? 毎日毎日説教喰らってれば身にも付くっての」


 深夜未明。只今、樹楊とクルスは頬を赤く染めて千鳥足で、だけど絶好調である。突拍子もなく始まったモノマネバトルで大盛り上がりの二人は周囲など気にせずに大爆笑である。樹楊がミゼリアのモノマネをすれば、クルスは大喜びだ。今のこの二人は箸を転がしただけでも笑いこけるだろう。


「違う! 何度言えばいいんだ、馬鹿者っ」

「それもそっくりじゃんねっ。じゃあさじゃあさ、ミゼリンが拾い食いするモノマネはっ?」

「あ、あのー」


 割って入られた二人はとろんとした目で振り返る。そこには冷や汗でいっぱいいっぱいのココナが顔を引き攣らせていた。樹楊はその頭をぺちぺち叩いて「何だ?」と酒臭い息が乗っかった声で言葉を吐き出させる。


「少し、って言うか滅茶苦茶騒ぎ過ぎ……ではないのでしょうか? 今、脱走中ですよね?」


「あのな」樹楊はしゃっくりを挟み「団体でコソコソとしてた方が怪しいだろ。何の為にお前等の服用意したと思ってんだ?」


 クルードの者は全員、樹楊達が用意した服を着ている。どれもこれも古いが、見た目は一般人のそれと何ら変わりない格好だ。ココナは裾を引っ張ってやや不満げに「そうですけど……」


 他のクルード兵達も気が気ではないのか、必要以上に周囲を気にしている。しかし酒の力を借りまくった樹楊とクルスには、最早敵なしの状態。気分が大きくなっているのだ。裏門付近は民家が多いとはいえ、騒ぎすぎなのは確かである。


「お、キョークン。門に到着したじゃんねー」

「おっし。開けるぞーっ」


 樹楊はカードキーでロックを解除し、何故か距離を取ってクルスに手を振る。ココナは早く出たいのか、樹楊と裏門を交互に見ていた。クルスに手を振り返された樹楊は力を入れ直すと軽やかに走り始める。


「うーらららららァ!」

「は、早く出ないとっ」


 助走をつけていた樹楊の前方に、急くココナの背中。

 樹楊はその姿が見えておらず、勢い良く跳んで、


「だりゃ!」気分爽快の跳び蹴り。

「ほあああ!」


 門と樹楊の跳び蹴りに挟まれたココナは泡を吹きそうな顔で悲鳴を上げた。背中にはくっきりと樹楊の足跡が。両手で押せば開けられる門は過剰な衝撃によって力強く開くが、僅かな隙間が見えたところで鈍い音が向こうから響いてきた。そしてまた扉が閉まり、ロックが掛かる。


「何だ? クルス、何かにぶつかったぞ。変だな」

「おっかしいな。何も置いてないし、見張りもいないはずじゃんね」

「ちょ、何で私の上にっ」


 ココナは、真顔の樹楊とクルスの両名に不自然なく踏まれていた。性質が悪いところは、それに気付いていない事だ。ココナが必死に「痛いです痛いです」と訴えるも全く聞こえていない様子だ。二人は足を肩幅よりも大きく開くと、半身になって腰を落とす。軸足にはココナ。クルスがゆっくりと剣を抜くと、戦闘態勢に入る。


「クルス。せ、ひっく。背で叩けよ? 気絶させるだけで、っく。いい」

「解っ、く。わか、解ってるじゃんね」


 しゃっくりをしながら受け答えする二人だが、本当に解っているのだろうか。というのはこの場にいる全員の疑問だろう。クルスが手にしている剣は、幅広の重厚な両刃剣なのだ。つまり、片刃剣のような背はない。本人は叩くつもりでも、実際は叩き斬る破目になってしまう。そんな事は知ったこっちゃない樹楊は五連ポーチから大鎌を取り出して刃を奥に流して構えた。


「俺も背で叩く」

「ばっちりじゃんね」


 樹楊の構えは薙ぎ払う構えだ。鎌の背で叩くには突くしかないというのに。ココナ含め全員が顔を青ざめさせると、門の向こう側からロックが解除されたようで、軋んだ音が沈むように響きながら開いていく。そしてその者が姿を現すと、樹楊とクルスの眼に殺気が込められた。二人は足に力を込め、攻撃動作に入る。が、届いてきた声に動きを止めた。


「い、痛いじゃない、馬鹿者っ。ほ、星がっ星が瞬いてちーぱっぱだぞ」


 現れたのは、真っ赤になった額を涙目で撫でるミゼリアだった。少しばかり言う事がおかしくなっている。二人は呆気に取られて立ち尽くす。


「ミ、ミゼリン?」

「じゃんねー」


 実はミゼリア。

 二人の企みを地下牢の入り口で耳にし、現時刻になるまで扉の向こうで待っていたのだ。腕を組み「ふっ。手が焼ける奴等だ、まったく」とまんざらでもない顔で気取ってみたものの、ロックが解除されるや否や扉が豪快に開き、めでたく額にこぶを携える結果となってしまった。


 痛みを払うように頭を振ったミゼリアは、樹楊とクルス両名が手にする武器を見ると徒労感たっぷりの長嘆を地に落とし、ついでに拳骨も落とす。


「痛っ」

「じゃんねっ」


 革手袋越しの拳骨とはいえ、鈍器で殴ったような音がココナの耳にも届いた。二人は頭を押さえて蹲ると、ミゼリアにアルコールが抜けただろっ、とどやされる。樹楊は親指を立てるが、クルスは立てた親指を下に向けてしまっていた。そして拳骨の追加。


「まったく、お前らはどこまで手を煩わせれば気が済むんだ。深夜に馬鹿騒ぎするわ、門を蹴飛ばすわ。挙句の果てには」


 ちらっとクルードの者達に視線を向け「脱獄の手引きとは。――それに」ミゼリアは恥ずかしそうに空咳を挟むと獰猛な獣のような瞳で出来そこないの部下二名を睨みつけて大きく息を吸う。


「私は拾い食いなどせん! おかしな事を大声で言いふらすなっ」

 怒声に負けないほどの音を立てながら見舞われる拳骨に、二人は昇天寸前だ。樹楊は文句の一つでも言ってやろうかなどと考えもしたが、その後にまた落とされるだろう拳骨の事を考えると開きかけた口をしっかりと閉じた。


 ミゼリアは腰に手を当ててもう一度長嘆すると、後退りしそうなクルード兵を青い瞳で捕らえる。意志の強そうなその眼光に誰一人として言葉を紡ぎだせずにいると、やがてミゼリアの額にはちきれそうな青筋がくっきりと浮かび上がった。


「早く外に出んかっ、馬鹿者!」

「は、はい! …………え?」

「え? じゃないっ。さっさと裏門から出ろ」


 意外な言葉にクルードの面々は唖然とするが、閉ざされていない生への道が繋がっている事に戸惑いながらも足を動かした。顔を見合わせる者もいたが、全員裏門から外に出る。


「あの……ミゼリン? どうして」

「どうしたもこうしたも…………。樹楊、今更お前のやる事成す事にいちいち目くじらを立てても仕方ないだろう? 脱獄の手引きなど当然許される事ではないが、まぁ……。私はお前が見通す未来を信じようと思う」


 軍規がみっちりと詰まっていそうな脳みそをしているかと思ったミゼリアから、そんな言葉を聞けると思っていなかった。規則こそ正義であり、反するは悪と決め付けていると思っていた。しかし、実のところはどうだろう。こんなにも自分の事を信じていてくれている。樹楊はこんなに嬉しい思いをしたのは久しぶりだった。胸の奥から柔らかくて暖かいモノが滲むように身体へと溶け込んでいく。見下ろしてくるミゼリアの笑みも、真綿のようにふんわりと優しい。


「それは、愛ですかね?」

「違う。諦めだ」


 あっさりと否定された樹楊は谷底へと落とされた獅子の子の気持ちが少しだけ解った気がした。しかし落ち込んでなどいられない。何度でも這い上がってみせようじゃないか。樹楊は唐突に立ち上がってミゼリアを驚かせると、馴れ馴れしく肩を組む。そして綺麗な月を指差し。


「……………………っ」

「何だ、お前は。何が言いたい?」


 何も言葉が出てこなかった。

 ミゼリアは湿った視線で見てくるが、赤面する事で精一杯だった。


 そんな事をやっているとクルードの者達は全員裏門から外に出たようで、逃げ道が出来た樹楊は誤魔化すように歩み寄っていく。そしてポケットから地図と貨幣が入った革袋をだして適当な奴に預けた。


「こ、これは?」

「ここからダラスまでは遠い。何かと必要になってくるだろうと思ってな。計算してねーから足りるかどうかは解らんぞ? 足りなかったら自分達で稼ぎながら行け。ダラスに着いたらアシカリ地区にいるバリーって坊主のおっさんに声を掛けろ。俺から紹介されたって言えば通じるはずだ」


 脱獄の手引きまでしてもらって、その上貨幣まで受け取るのは気が引けるのか返そうとするクルード兵だが、樹楊に首を振られる事で涙を目に浮かべ始める。大人が情けない、とは言えないだろう。普通、間諜が敵国で捕らえられれば死罪は免れない。それも目を覆いたくなる暴虐の尋問を繰り返された後にだ。それなのにも関わらず樹楊は聞き込みだけの尋問をした後で脱獄をさせたのだ。しかし自国に帰る事が出来ない事を見通し、衣食住が揃うだろうダラス連邦に紹介までさせた。その上、ダラス連邦までの間で必要となってくる貨幣まで持たせて。これ以上の恩恵はどこを探してもないだろう。


 だが樹楊としては有効利用したまでの事だった。殺す必要がないのなら生かしとけばいい。国に帰れないのなら、自分の夢が形になり始めているダラスへ送り込み、その手伝いをさせれば問題はない。その程度なのだ。それでもクルードの者達にとっては唯一無二の慈悲だ。涙を浮かべもする。


「ホラ、行けよ。ここで見つかったら全てが水の泡だ」

「キョークンの言う通りじゃんね。振り向かずに進め」

「見逃すのは今回だけだからな。まぁ、今後はこんな機会もないだろうが」


 三者に贈られた言葉を噛み締めたクルード兵達は深々と低頭すると、足早に闇に消えていく。しかし一人。クルスの言いつけを破って振り返ってきたココナが口を開く。


「お願いします。私達の国を……クルードを倒して下さいっ。そして未来を、どうか」

 

 想いが込められた低頭をされた樹楊は「当り前だ」

 その一言で片付けた。


 ココナは仲間に追い付こうと早足で駆けていき、合流する。

 寝静まる森の中から見える、砕羽の三人。クルード兵達は足を止めると、じゃれ合う三人を遠目で見ていた。軍人気質なミゼリアがまたも拳骨を見舞っている。今度は何を口にしたのやら。ハッキリとは聞こえないが、ミゼリアの怒声と樹楊の慌てる声。それにクルスの笑い声が楽しそうに混じり合っている。


「スクライド王国……か。いい国ですね」

「そうだな。我々を脱獄させたというのに、楽しそうだ。彼らは悪い事をしたと思っていないのだろうな。感謝してもしきれない」


 ココナは頷くともう一度三人に頭を下げてから仲間の後を追った。その足取りは軽くて、弾んでいる。



 それから十日後の午前、樹楊の元にバリーから吉報が届く。

 どうやらクルード兵達は、いや元クルード兵達は全員無事に到着して早くも造船の作業に取り掛かっているとの事だ。樹楊の夢を口にした途端「是非、お手伝いをっ」と言って、長旅の疲れを癒してもらう為に休暇を言い渡しても働き出したらしい。お前は滅茶苦茶な奴だな、とはバリーの隠しきれない評であり、感謝の意でもあった。


 その報告と時を同じくして、今度は封書が樹楊の手に渡された。

 消印はなく、何処から通達されたのかは不明。真っ白な封筒に入っていたのは『二人きりでお会いできますか? よろしければキラキ樹海まで来て下さい』とだけ書かれた便箋。樹楊はその文を目にすると一拍も置かずに着替えてバイクに跨り、エンジンを掛ける。そして鳩の餌を買ってウキウキのサルギナを轢き殺す勢いでスクライドを出ていった。


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