表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/56

第十一章 〜天雲都市・ソラクモ〜




 樹楊はスクライド王国から南西の方角の辺境にまで足を運んでいた。スクライドには雪が降っているが、この地域にはまだ降っていない。しかし、寒さに至ってはこちらの方が格段上だ。王国からここまで、実に三日間の旅。


「おーなーかー空いたぁ!」


 こちらは、昨日から限界の臨界点を突破している。

 真紅の髪に、深紅の長衣。赤麗の紅葉である。

 紅葉は昨日からというもの、口を開けば空腹に関する事ばかり。最初は宥めていたが、今となっては無視している。


「お〜な〜か〜空いたぁ――って言ってんでしょうが! 小馬鹿たれ!」


 無視すれば、背後からボディプレスやら噛み付きやらしてくるので厄介だった。

 樹楊は、背後から抱き付いてきて噛み付く紅葉を剥がそうともせず、歩きながら言ってやる。


「ここを抜ければ街がある。それまで我慢しろっ」


 ここ、とは大きな岩達が威張りくさるように並ぶ急斜面の山道。適当な石を蹴れば、見えなくなるくらい転がっていくだろう。植物らしいものと言えば、ちんまり生えている雑草程度のものだ。


 前方一面は灰色の世界。後方を見れば地平線が見え、更に下を見れば広大に広がる大地を見る事が出来る。 こんな殺伐とした風景で、おまけに標高が高い所為で酸素も薄いときた。住めば都とは古代の何処だかの国で生まれた言葉だが、本当にそうか? と、首を傾げたくもなる。目指す先にいる住人はソリュートゲニア大陸の南側を横切る、ソリュート大山脈の山頂に住んでいるのである。この山脈が、名目上ではソリュートゲニアの最南端とされている。



 一口に山と言っても緑生い茂る山などではなく、岩山。

 一節では、ソリュートゲニア大陸が出来る前に堆積した岩が長年の時を経て隆起し、地殻変動により出来上がった岩の山脈だとも言われているが、その真意は定かではない。


「何で私がこんな辺境にまで来なきゃないのよ。信じらんない」

 紅葉はぶつぶつと文句を言い始める。


「お前が来たいって言ったんじゃねーかっ。本当は俺一人の任務なんだぞ?」

「だって、アンタが行くところって楽しそうなんだもん! ホラ、蓮だって……美味しかった。なんて言ってたし」


 樹楊は、あー……と、目眩がした。


 白鳳からの帰路。

 ブラスク族に襲われ、逢う魔が時に死霊共に囲まれ、霞狼にボロクソにやられた事を蓮は何とも思っていないのか。

 まぁ、楽しかった事だけを心に残せるのはスマートな生き方だとは思うけど。


 紅葉は、ラクーンに命じられて任務に出掛ける樹楊を見た途端に瞳を煌めかせた。

 何処に行くかなんて聞かずに「着いていく」の一点張りだった。頭の中では美味しそうな御馳走が手招きしていたのだろう。それがあったお陰で、昨日の昼まではご機嫌だったのだが、今となっては不機嫌に不機嫌を重ねて八当たりモードに入っている。


「大体、何でこんな山まで来る必要があるのよっ。岩だらけで水もないし、疲れる上に歩きにくいったらないわ」


 と、樹楊におんぶしてもらっている紅葉。

 そこは突っ込まない、大人な樹楊だった。


「今回の任務は隊員勧誘だ。ここ最近、兵を失い過ぎた。ミゼリンの小隊は俺とミゼリンしかいねーからな。この山奥に住む奴らは高い戦闘能力があると聞く。それを狙っての事だろ」


「ちょ、何よそれ! 何で私がアンタの隊の為にこんなとこに来なきゃないのよっ」

「だから、お前が勝手に着いてきたんだろうが!」


 一喝すると、紅葉はぐっと言葉を呑み込んだ。そして、へにゃっと樹楊の背に身体を預ける。下から風が吹いてくると、紅葉の香りがして心が落ち着かない。少しでも横を見れば紅葉の顔が至近距離にある事を認識させられて更に落ち着かない。


 それに……。

 歩く度に生まれる振動の所為で、いや、振動のお陰で背中に柔らかい感触を二つほど感じて、うん、悪くはない。と思う。紅葉の発育の良さに感謝感激。


「もぉ、疲れた」


 しかし、こういうセリフには顔が引き攣ってしまう。人の背中で言う言葉じゃない。


「それにしても、アンタってタフね? こんな足場の悪い山道で、しかも二日間何も食べてないのよ?」

「あぁ、慣れてるからな。水があれば、あと二日はいける」


 疲れていないわけではないが、歩けないわけじゃない。一人旅をしていた時は、もっと辛かった事も多々ある。行き先が決まっていて、必ず辿りつける道を歩くのは平気だ。

 最早文句も言えなくなった紅葉を背負い、ただひたすら登山をしていると山頂が見えてきた。流石に顔が綻ぶ。

 樹楊は少しだけペースを速めて山頂まで歩いた。


「おら、着いたぞ」

「んー?」


 背中で項垂れる紅葉を揺らして起こすと、へにゃへにゃになった言葉が返ってきた。

 しかし、目の前に広がる光景に、紅葉は感嘆し、絶句。樹楊も感嘆をせざるを得なかった。


 天雲都市・ソラクモ

 空に浮かぶ雲のように、大地とは隔離されたような都市である為、このような都市名となった。ソラクモは、今まで登山してきた道と同じ様に、岩をベースにして構成された都市だが、到る処に木々がある。今は枯れ葉ばかりだが、あと三か月もすれば緑色に変わるだろう。しかし、地面は石畳である。


 樹楊は崖のような所に段々と建物が並んでいると推測していたが、全然違っていた。

 ここはスクライドと同じで平面に広がる都市であり、狭っ苦しくはない。

 まるで空の上に一つの大陸があるかのように思えた。

 スクライドと違うところと言えば、電気がない事と空気が薄い事くらいだ。


「ね、ねっ。何ボケっとしてんのよっ。ご当地ならではのご飯食べようよっ」


 樹楊としては、任務を先駆けてやりたいのだが、空っぽになった腹は紅葉に賛成の意義を唱えていた。


「よし、行くかっ」

「やたっ。ごっ飯、ごっ飯」

 

 紅葉は背中で独特なリズムを刻みながら揺れ始める。ここまで連れて来てもらって自分の足で歩くという選択肢はないようだ。


 食事処を目指して爆走する樹楊を、ソラクモの人々は呆気に取られながら見送った。




 ◆◇◆




 誰か……来た?


 両手を真横に広げ、身体全体で十字架を体現しているような者が『羊水』とも呼べる液体の中で目を覚ました。自分を包む世界は真っ暗で、一縷の光さえも見当たらない。この液体は何色だったか。それすらも遠い過去に忘れ、今となってはどうでもいい事だ。


 紙切れ一枚分ほど開けられた口の端から、小さな気泡が、二つ、三つ。瞳はグリーンだが、その周りは淡いグリーンの色をしている。白目の部分が淡いグリーンで虹彩は深いグリーン。それを隔てるのは、虹彩の黒い縁取りだけだった。

 遠くから見れば、グリーン一色の眼球をしていると勘違いしてしまいそうである。そんなグリーン色の眼球の真ん中では、黒い瞳が虚ろに揺れていた。


 目を伏せ、気配を探る。すると、その来客者はすぐに見つかった。

 赤い髪の少女を背負って、何かを探すように走り回っている。

 

 あの少女は誰だろう?

 気になる……けど、どうにも出来ない。

 ここに気付くだろうか?

 自分を見つけてくれるだろうか?


 今は、そう祈る事しか出来ない。

 再度、静かに目を開けた。

 


 見つけてほしい……。

 ただ、それだけ。




 ◆◇◆




 スクライド王国のとある喫茶店。

 『白玉超盛りあんこっこ』を食べていた蓮。それをイルラカはどん引きしながら見ていた。

 洗面器か、と言いたくなるガラスの器の底にはあんこがみっちり。その上には生クリームがぎっちり。その上にはまたもやあんこがもっさり。こちらは粒あんだが。


 そしてその上には、白玉の山が築かれていた。脇には様々なカットフルーツが添えられており、何とも、まぁ……『ごーじゃす』だ。


 その小さな身体に何故入る? と、飲食店を共に渡り歩いてきたイルラカは思う。

 イルラカは二軒目で満腹になったが、蓮はまだまだ食べると言う。

 もう、あんこの類は見るのも嫌だ。


「蓮さま、イケますか?」


 食べられますか? と 美味しいですか? を兼ねた質問だ。

 蓮はこくっと頷くと白玉を頬張る。

 落としたい溜め息を堪えて見守っていると、その大食い娘は何かに気付いたような素振りを見せた。注意して見ていなければ分からないほど小さな反応だったが、蓮は確かに反応を見せたのだ。


「蓮さま、どうかされたんですか?」

「……うん。何か……ううん、誰かが」


 蓮はガラス越しに空を見上げると、悲しそうに目を細めた。


「誰かが泣いてる……」


 イルラカは首を傾げた。

 長い事一緒の隊に属しているが、蓮から意味深な言葉を聞くのは初めてだった。

 その後、しばらくの間、蓮は化け物のようなデザートを食べる事なく、空を見ていた。

 その目に滲んでいた涙にイルラカは驚いたが、本人は気付いていないようだった。



 ◆



 一方、クルード王国・王立都市ネルボルグで、自分と同じ名前の花が並ぶ花屋を見ていたオルカ。薄紫色の細い花弁が幾重にも重なる花・オルカを手に取り、その匂いを嗅ぐ。

 爽やかでほのかに甘い香りは心を落ち着かせる。この花の香りに似せた香水もあるのだが、オルカは断然、生花の方が好きだった。


 自分と同じ名前だからなのか、昔からこの花は好きだ。自室の花瓶にも差してある。

 香りを満喫していると、一人の兵が必死の剣幕で追い掛けてきたのが解った。


「オ、オルカ様ぁ! こんな所で何をっ」

 それを見た途端、ダッシュ。


「ちょ、逃げないで下さいよっ。軍議が始まるというのにっ」


 オルカとその側近の追いかけっこは、ネルボルグではお馴染みの光景だ。

 絶対王政で規律の厳しい国だが、この光景だけは微笑ましく思うネルボルグの人々。オルカは身分などという壁を取り払って話し掛ける為、人々の信頼は厚い。国王がオルカであれば、と口にする者も少なくはなかった。


「やだやだっ。ボクはまだ遊び足りないんだよっ」

「一週間前から遊び倒しているじゃないですかっ。ちょ、オルっ、待って下さぁぁぁい!」


 しつこいなぁ、最近足も速くなってきたし。

 などと思っていると、耳に、いや心に何かが触れてきた。

 ハッキリとは解らないが、悲しい気持ちが伝わってくるような気もする。

 急に逃げる事を止めたオルカは、南の方角の空を見上げた。表情が暗い。


 それに追いついた側近は盛大に息を切らし、安堵からか膝を着いた。

 汗はだらだらで、地に両手を着かなければ身体を支える事も辛そうな顔をしている。


「オ、オ、オオォー、オルカ様っ、は、早く城に、帰っ……りませう」

「…………うん、そうだね」


 素直な返事に、側近は驚愕の表情を浮かべたが、次のオルカの行動にはもっと驚いた。

 オルカは空を見上げながらとことこ歩いたかと思えば、犬のように四つん這いになっている側近の背に乗ったのだ。

 

「オルカ、様? これは、えーと」

「……うん、ボク疲れちゃったから」


 側近はあんぐりと口を開けたが、うわの空のオルカを見やるなり、諦めたように背負って震える足で歩き出した。


 オルカは、まだ空を見上げている。



 ◆



 そして、ソラクモを爆走中の樹楊と、俄然楽しくなってきた背中の紅葉。

 飲食店はどこだぁ! とばかりに意気込んでいたが、二人同時に表情を変えた。

 樹楊の足は止まり、ソラクモの街中に立ち尽くす。

 二人は眉根を寄せると、顔を合わせた。


「なぁ、紅葉」

「う、うん。アンタも気付いた?」

「あぁ、気付いたって言うか、何て言えばいいのか解んねぇけど、うん」


 心が締め付けられる。

 息が苦しくなってきて、目からボロボロと涙が出てきた。

 何だろう、この悲しみは。辛い、苦しい、悲しい。


 それは紅葉も同じだったのか、目を背中に擦りつけてきていた。


「ふ、ふぇっ……」

 そして遂に泣き出す。

 

「ば、ばっか。泣くなっ、俺だって泣きたっ……くっ。何なんだよォ」


 そう言いながら樹楊も泣いてしまった。

 声こそ出さないが、どんどんと身体が震えていく。歯を食い縛っても、他の事を考えようとしても無駄な抵抗だった。心を満たす悲しみは、身体全身を支配し始めたのだ。


 今まで経験してきた悲しみには、他の負の感情が付いて回るのが普通だった。

 憎い、悔しい、怖い……。

 だけど、今感じる悲しみには、それらが一切無いと言える。

 ただ……悲しい。それ故に深く、大きく、重い。

 

 どうすれば解放されるのかすらも解らない。根源が解らない感情を抑える術など、樹楊は持ち合わせていなかった。ただただ泣きじゃくる二人を見たソラクモの人々は、心配そうに駆け寄り、身を案じてくれた。この優しさはソラクモの地域性なのだろうか。見知らぬ者を心配してくれる暖かい心に、二人は壊れたかのように泣いた。


 

 ◇



 ソラクモの住人による暖かい寛容のお陰で、すっかり落ち着きを取り戻した二人は赤面しながら礼を述べた。


「うぅ〜恥ずかしい……。いい? 絶対イルラカ達には内緒だからねっ。こんな醜態、知られたら……」


 紅葉は顔を手で挟むと身震いする。

 首領たる威厳があるのだろう。


「解ってるって。俺だって知られたくねーっての」


 双方に共通する秘密を守り合うと、アイコンタクトで確認し合い、いざ飲食店へと向かおうとした。しかし、その時、少年とぶつかった樹楊がワンテンポ遅れて騒ぎ出す。


「だあぁぁぁっ! あのガキャア!」

「な、何よ突然。ぶつかったくらいで――って、ちょ、待ってよ!」


 樹楊は紅葉の言葉など聞こえてはおらず、ぶつかった子供を鬼の形相で追い掛け始めた。

 そのスピードは自己新記録。鼻水を噴き出すくらい驚いた少年だったが、次に取った行動には樹楊が鼻水を噴き出した。


 少年が深く屈伸したかと思うと、地面に弾かれたように跳んだのだ。

 その高さはビルの五階程の高さだ。少年はその高さまで跳ぶと、一瞬、下から風に吹き上げられたかのように身体が持ち上がった。そして柔らかく、石造りの建物の屋根に着地。

 

「な、何だ今のは」


 それ以上の言葉を失う樹楊に向って少年は挑発的に舌を出すと、建物の奥に消えて行った。

 丁度そこに、小走りの紅葉が追い付く。


「何よ、アンタ。ぶつかったくらい、大目に見なさいよね」

「違うっての。財布を掏られたんだっ」

「はぁ? 馬鹿じゃないの? ったく、取られたモノは諦める事ね」


 呆れながら首を振る紅葉を見て、樹楊はそれを上回る呆れっぷりを見せた。


「お前、金持ってきてんのか?」

「持って来てるわけないじゃない」


 最初っからタダ飯が目的らしい。その堂に入った態度には敬意を表したい気分の樹楊だったが、今はそれどころじゃない。


「俺は財布にしか金を入れん」

「まぁ、財布だしね」

「お前も無一文、俺も無一文。さて、飯はどうやって食う?」


 紅葉は脳内に、ポンポンポンっと花が咲かせると、にぱぁ〜っと顔を綻ばせた、が。


「あんのガキ、何処行ったのよ! こらぁ! 出てきなさい! 今ならミンチにする程度で許してやるわっ!」


 いきなり怪獣のように吠えまくる。

 今の紅葉なら、絶壁な壁でも蜘蛛のように登って行きそうな気もする。

 般若のような紅葉を何とか抑えていると、騒ぎを聞き付けた中年の男性が割って入ってきた。中肉中背で、顎に立派な髭が生えている。一目で高貴な生活を送っているのが解る。


「どうしたんだね? 何かあったのかい?」

「じ、実はですね財布――」


「どうもこうもないわよ! ちまっこい少年ボーイのくそガキが私の財布を掏っていったのよ! この都市、タッポイだかプンプンだか知らないけど、火の海に沈む覚悟は出来てんでしょうね!」


 紅葉は、樹楊に荷物のように担がれたまま暴れ、訳の分からない言葉ばかり吐き捨てる。

 しかも掏られたのは自分の財布だと、ちゃっかり嘘も吐いている。しかも掏られたくらいでこの都市を壊滅させるとも言う。住人にとっては、えらいとばっちりだ。


 中年の男性は自分の住む都市ソラクモをタッポイやらプンプンと言われ、戸惑いながら樹楊へと視線を移した。樹楊はそれに対し、大袈裟に首を振った。

 すると、中年の男性も意味が解ったのか頷き返してくる。


「それはそれは、すみません。ソラクモの住人を代表して私がお詫びを申し上げます」


 と、深く頭を下げてくるのだが、紅葉の怒りの炎は消えないようだ。

 中年の男性が下げた頭、後頭部をばっちんばっちん叩く。


「詫びで腹が満たされりゃ蛙の子は蛙だなんて言わないのよ! アンタ、蛙の気持ち考えた事あるの!?」


 もう完全に我を失っているようだ。

 しかし中年の男性は怒りもせずに、頬笑みを返してくる。


「もし良ろしければ、我が家で御持て成しをさせては頂けませんか?」


 その言葉を聞いた途端、紅葉のヒステリックはぴたりと止まり、偉そうに「仕方ないわね」と、しかし赤面している。


 樹楊は改めて思う。

 紅葉の部下って大変なんだろうな、と。

 だが、蓮の顔を思い出し、部下も部下か。と、納得したりもした。




 二人は中年男性の家で昼食を食べると、満足気に笑顔を見せた。その様子をニコニコして見ていた中年男性が樹楊に尋ねる。


「アナタ達は何処から来られたのですか?」

「あぁ、俺達はスクライド王国から来たんだ。俺はスクライドの兵をやっている」


 中年男性は感心したように頷く。

「すると、今日は何かご入り用で?」


 樹楊は頷くと、膝の上に頭を乗せてきた紅葉の額を一叩き。

「ソラクモに兵の募集をかけろ、との事でして。実際どうでもいいんですけどね」


 紅葉は額を抑え、意外に痛かったのか涙目になっていた。だが、膝枕は止めないようだ。

「と、言う事で、ソラクモの長に会いたいんだけど」


 樹楊は紅葉の事は諦め、任務に手をつけ始めた。すると中年男性はニッコリほほ笑む。「私がソラクモを治めているんですよ。ブルダック・カカートと申します」


 紅葉は腹を撫でながら起き上がると、ブルダックの顔をまじまじ見る。

 それは樹楊も同じだった。


「それで、ブルドックさん」

「い、いやブルダックです……」


「紅葉、失礼だろ」

 樹楊は低頭し、


「で、ブルドックさん」

「だ、だから……」


 ブルダックは溜め息を落とし、諦めたように首を振る。何がどうしたのか、本気で解らなかった樹楊と紅葉。この男をブルドックとインプットした。

 樹楊が概ねの事情を話すと、ブルダックは大真面目に聞いてくれて「明日、募集の場を設けましょう」と部屋を出ていく。その背中を見た樹楊は、一瞬驚いたがすぐに疑問が解けた。何故、この都市が標高の高い場所にあるか。何故、そうしてまでここに住んでいるのか。

 しかし、ブルダックの背中を同じく見た紅葉の顔は疑問で埋め尽くされた表情をしていた。


「ね、ねぇ。何でブルドックって背中に突起があるの? しかも、二つ」

「あれは肩甲骨が変形したものだ。しかもその変形してるのはブルドックだけじゃねぇ。街の住人にも何人かいたよ。ブルドックほどじゃなかったから見間違えかと思ったけどな。けど、ブルドックの肩甲骨をみて解った」


「何で変形してんのかな?」

 何故か心配そうに見つめてくる紅葉に、樹楊は自分の記憶を引っ張りだす。


「ソラクモの住人は普通の人間じゃねぇ。俺の記憶が正しけりゃ、獣人目だ。恐らく、鳥類の、な」


「獣人目って……古代種族の?」

「あぁ。あの肩甲骨は翼になるハズだった。だけど、外敵が来ないここに住むようになってから翼を持つ必要性が無くなったんだろ。あと百年もすれば、肩甲骨の変形も見られなくなるだろうな」


 紅葉が半信半疑ながらも頷くと、ブルダックが拍手をしながら部屋に入ってきた。

 そして何度か頷くと、椅子に深く座る。


「よく解りましたね。私達は鳥類の獣人目『ララア』の血を継ぐ者です。私達は十五歳を過ぎると翼が生えてくるのですが、今となっては、まぁ樹楊さんの言う通りです」


ブルダックは自分の背中を見ると、肩を擦る。そして愉快そうに笑うと「苦労はしていませんがね」


 軽やかな笑い声を洩らしたブルダックは、樹楊の瞳の奥を覗くように見た。

「その手の文献は残してはいないハズなのですが、一体何処でその知識を?」


「俺は旅をしていた事があってね。そん中で色々な事を学んだだけだ。アンタらの事も、そん中の一部ってだけだよ」


 ブルダックは席を立ち、窓辺に立って都市を見渡す。そして、小さく意味深に呟いた。

「森の護り人現る時、頑健たる我が都、小さな命の旅立ちと共に崩れるだろう」


 その声は、樹楊にしっかり聞こえていた。それを察したブルダックは「ただの言い伝えですけどね」と苦笑い。何か意味深な言葉を言って笑うブルダックの顔を、正直気持ち悪いと思った樹楊と紅葉だった。

 

 

 ◇



 ブルダックの家を出た樹楊は、貰った地図を広げて高台から都市を見下ろしていた。

 確かに、地図の通りの都市だ。

 都市の周りは頑強な岩壁で囲まれており、最北には広大な森が広がっている。

 紅葉はその森を指差すと、鳥が飛んでるなどとはしゃいでいた。


 だが、樹楊は浮かれるどころか、解せない事があった。


 ここは岩が堆積し、隆起した土地。なのに、何故あんなにも植物があるのか。

 見たところ、都市の所々にも植物は生えているが、それらは標高が高い所のみに群生する植物だ。何も不自然じゃない。しかし、最北に広がる森の木々は、こんなに標高が高い場所では活き活きとは育てないはず。しかもそれだけじゃない。至る所に生えている木々が枯れているというのに、最北の森は青々としていて、まるで季節を無視しているかのようだ。


 一体、何がどうなって……。


 ブルダックの家を出る時に、さり気なく訊いたのだが、御神木がある事以外解らないらしい。それが嘘ではない事は、顔色や表情を見れば解った。


 そして、もう一つ。


 いくら天雲都市だからといって、あんなに頑強な岩壁で囲う意図が解らない。

 安全の為と言われればそれまでだが、あの壁が無くても別に危なくはない。

 壁はまるで、罪人を逃さんとばかりに造られたようにも見える。


 樹楊はもう一度地図を見る。目を凝らして、要点的に、そして全体的に。

 そして、地図を横にした時。


 アレ?

 何かが変だ。いや、変なんじゃない。

 何か、この都市の建物の配置や並びが意図的に感じる。

 そうは感じたものの、それ以上の事は思い浮かばなかった。


「ねぇ、何してんの? 難しい顔してさ」

「んぁ? 何でもねーよ、何でも……」


 紅葉は首を傾げたが、何も言ってこない。



 ◆



 ブルダックの恩恵で、紅葉らは無料で宿に泊まれる事になった。

 こんな山の天辺に宿って必要あるの? と、紅葉は思いもしたが、ソラクモに訪れている行商人は意外と多く、宿も埋まっていた。若い行商人曰く、ここの香草は高値で取引されているらしく、他にも香辛料などが主な商品だと言う。


 それもこれも、あの最北の森の恵みらしい。

 紅葉にとってはどうでもいい事ではあるが。


 大浴場から帰った紅葉は、部屋の前で立ち止まった。そして周りをきょろきょろすると、頬を赤らめる。


「はっ、入るわよ」


 扉に向って喋ったのだが、中に居ると思われる人は返事をしてくれない。

 このまま入ってやろうか、ともしたが気が進まない。苦手なのだ。こういうのは。

 紅葉は空咳をして、もう一度。


「は、入るわよっ。いいのっ?」


 少しだけ声を張ったのだが、答えは返って来ない。

 虚しい。そして恥ずかしい。

 それならノックをしようと軽く握った拳を扉の前にかざすと、突然背後から声が掛けられた。


「なーに扉と話してんだ? 思春期?」

「あっふぁ!」


 紅葉は心臓が口から出そうなほど驚くと、振り返りながら扉に背を叩きつけた。

 声を掛けてきたのは、樹楊。

 髪をタオルで拭いている。


「な、な、な。何で?」

「はぁ? 俺も風呂に入ってきたからだよ。何でもいいけどよ、さっさと部屋に入ろうぜ? 寒くて敵わん」


 樹楊はショックを受けたように固まる紅葉を無視するかのように、部屋に入るが、すぐに驚きの音を上げた。


「うおっ。何でっ」


 何か、と思い、樹楊の後ろから部屋を覗く紅葉も、驚きの音を張る。

「な、何よコレ! ちょ、はぁ?」


 二人が見る先には、布団があった。

 しかし、その布団は一組しか敷かれておらず、だが枕は二つ。

 この宿を営む「飯はまだかの?」が口癖の爺さんの余計な気遣いだった。

 枕元には、ちゃんとボックスティッシュが添えられている。あと、何故かにんにくも。


「あ、あのボケ老人っ。何を考えてんのよ! 私達が相部屋になったのも、宿が埋まっているから仕方なくなのにっ」


 文句を言おう? と同意を求めようと樹楊を見るが、不意に鼓動が高鳴ってしまった。

 樹楊の顔。

 あの時と同じ顔をしている。


 ソラクモの街並みを高台から見下ろしていた時、紅葉は樹楊に話し掛けた。

 しかし、返事がなくて怒ってやろうと思ったのだが、その時の樹楊の横顔が凄く真面目で精悍で、言葉が出て来なかった。普段とはまるで別人の樹楊に、紅葉は鼓動を高鳴らせてしまって何を喋っていいか解らなくなっていたのだ。


 樹楊はその時と同じ顔をしている。

 鼓動も、思い出したかのように高鳴りを強くしてくる。


「なぁ、紅葉」


 樹楊は精悍な顔付きのまま、光を背にして振り返ってくる。寒さなど、もう感じなくなっていた。

 

「な、何よ……」


 紅葉は胸の高鳴りを抑えるように手を添え、弱々しい瞳で樹楊を見る。

 この口は何を言おうとしているのだろうか。何でもいいけど、いや、何でも良くない。

 心の準備が必要な言葉だってある。

 樹楊に髪を一撫でされると、足が震えた。背筋に心地良い寒気が走る。


「紅葉……」

「は、はい……」


 一秒が長い。

 心臓の音がうるさい。

 楽になりたい。


 苦手なのだ。異性も、こんなシチュエーションも。こんな経験はないし、勿論その先だって未経験だ。だけど、そんなに真っ直ぐに見られたら、今の状態でその口からその言葉が出たら、どうすればいいのだろうか。


 樹楊が照れからか、視線を外したのを見計らい、固唾を呑んだ。しかし、また横目で見られると、身体が強張る。


「にんにく、返してきてくんない?」

「はい――――って、はい?」


 紅葉が唖然としていると、樹楊は照れを隠すように一気に捲し立てる。身振り手振りを添えて、誤魔化そうとしているのか、めちゃくちゃ必死だ。


「あー……ほら。にんにくって臭いだろ? 何か苦手でさ。あ、でも食えないわけじゃないんだ。炒め物とかはイケるんだけど、生ってのは、何つーかホラ。解るだろー? あ、あと布団、もー一つ頼んどいて」


 紅葉はまだぼけーっとして、目をぱちぱちしながら樹楊を見ている。樹楊はそんな視線も気付かずに、一生懸命だ。が、紅葉の思考回路が回復すると、不満をぶちまけるように怒声を上げる。


「にんにくなんて自分で返しなさいよ! 何で私が返さなきゃなんないのよ! バカじゃないのっ。ホントにバカなんじゃない!? 何よ、もうっ。勘違いしたじゃないの!」


「か、勘違い? って、何を勘違いしたんだ?」

「ふえ? それは、ホラ! アンタが、そのっ、ほらアレよっ」


 樹楊は何が何だか解らないといった感じで首を傾げる。そんなに疑問を持たれると、説明しなきゃいけないような雰囲気になってしまい、頭から煙が上がる感じがした。

 紅葉は顔を真っ赤にし、ずんずん歩き、にんにくを荒く鷲掴みにする。


「何も勘違いしてないわよっ。バカバカ! 何よ! 返してくればいいんでしょ、返してくれば! 何よ何よ!」


 ドアノブが壊れそうな勢いで扉を閉めた紅葉は深呼吸をした。にんにくを廊下に叩きつけようとしたが、広がる臭いを思い浮かべると手が止まった。


 八当たりするモノを失った紅葉は、長嘆すると扉に背を預ける。

 すると、中に居る樹楊の独り言が聞こえてきた。


「誤魔化しきれたかぁ」


 溜め息まで聞こえてくる。


 誤魔化しきれた? 

 誤魔化したのはこっちだ。それなのに、何故樹楊がそんな事を言うのか解らなかった。

 

 紅葉は聞き耳を立てる。

 その続きが聞きたいのだろう。


「あんな弱々しい女の顔すんなっての。押し……倒すぞ、ったく」


 その言葉は、紅葉の心を強く叩いた。

 次第に顔が熱くなり、身体まで火照ってくる。あまりにも強い心音が、身体の神経を伝わり、耳の奥でうるさく鳴る。

 

 今、入ったらどんな顔をするのだろう?

 独り言を聞いていた事を言えば、どんな対応をしてくるのだろう?

 もし、自分から……。


 別の生き物みたいに動く心臓を、服の上から抑えながら考えた。 

 しかし、紅葉は否定するように首を振ると、なるべく足音を立てずに配慮しながら受付に向かう。ひんやりとした空気は自分を落ち着かせるのには丁度良かった。間違いを犯さずに済んだ、と寒気が鬱陶しい季節、四期にも感謝した。


 しかし、受付の爺さんににんにくを返した時、布団を一組頼む事が出来なかった。忘れていたわけじゃない。


 自分でも何故頼めなかったのか不思議に思いながら重い足で部屋に帰る。

 部屋の扉を弱くノックしたが、何も返事が返ってこなかったので恐る恐る扉を開くと、既に布団で寝息を立てている樹楊が居た。


 紅葉は、暴走しすぎだと自分を情けなく思いながら布団に向かう。

 その中で眠る樹楊の寝顔は子供みたいで可愛らしくもあった。


「ふふっ。いつもこんな顔してればいいのに」


 そっと髪を撫でてやると、顔を少しだけ綻ばせる。いい夢でも見れているのだろうか。

 紅葉はその顔を優しい顔で眺めた後、照明を消して同じ布団に入る。

 中は暖かくて心地良かった。これが樹楊の体温だと思うと、何故だろう。


 この頼りない男が愛しく思える。

 明けても暮れても戦の日々に、心が休まる所はなかった。男は自分よりも弱い奴ばかりで、口から出る言葉は出任せばかり。そんな男が安らぎをくれるとは思わなかったし、そればかりか寄り添おうとも思わなかった。


 何故蓮が樹楊に懐くのか解った気がする。

 樹楊は相手が誰であろうと、自分を偽らず、真っ直ぐな瞳を向けてくれる。


 そのやる気の無さは、まるでこちらの力む身体を解してくれているように感じる。

 頑張らなくてもいい、と。

 今は休んでもいい、と自然に緊張を解してくれていた気がする。

 この暖かさはなんて心地がいいのだろう。なんて心が安らぐのだろう。このまま浸っていたい。もっと感じたい、この心地良さを。

 

 樹楊が心地良く立てる寝息が高鳴る鼓動の音を消すには弱々しく、同時に愛らしい。躊躇いがちに手を動かして、樹楊の手に重ねる。そうすると自分の手が震えているのがよく解った。

 

 自分は間違いを犯してもいいのだろうか。

 一度だけ間違いを犯しても、樹楊の意志を無視してもいいのだろうか。


 紅葉は仰向けに眠る樹楊の両脇に手を着いて、自分の身体が重ならないように支える。

 そして髪を耳に掛けると、目を細めながら唇を近付けていく。

 高鳴りが止まらないように、唇も止まらなかった。

 欲望は、渦巻く罪悪感を塗りつぶし、過ちへと変換される。



 もう…………止まらない。



 擦れ合う鼻の頭がくすぐったい。

 樹楊の寝息が薄く開いた唇から入ってきて、鼓動が強くなる。

 もう、心臓が爆発しそうだった。

 紅葉は目をそっと伏せると、感覚を頼りに唇を重ねた。


「――――んっ」

 上擦ったような声が弱く出てしまった。

 

 唇に、凄く柔らかい感触が広がっていく。いつだったか、蓮に食べさせられた白玉のようにしっとりとしていて柔らかい。身体中に鳥肌が立ち、快感が唇から胸へ下腹部へと流れていく。支えている腕から力が吸い取られていく。


 紅葉は少しだけ強く唇を押しつけた。そして樹楊の下唇を自分の唇で挟み、名残り惜しそうに離れる。


 二人を結んでいたのは、互いの唇の間に引かれた釣り糸のような線。

 しかし、その線がいつまでも繋がっている事はなく、重力に負けてぷっつりと切れた。互いの心を結ぶ糸は、今途切れた糸よりも脆いのだろうと思うと寂しさが募っていく。


 紅葉の眼は少し潤んでいた。

 短い吐息が規則的に吐き出され、愛しさが高揚していく。

 しかしこれ以上は何も出来ず、樹楊に身体を重ねて唇をきゅっと噛み締める。


「起きなさいよ、ばか……。じゃないと、キスの続きが…………」


 そこまで言うと押し黙り、そのまま目を伏せる。伝わってくる体温と鼓動は穏やかな眠りを誘ってきて、それに抵抗する事なく、ゆっくりと夢路を辿る。



 今まで生きてきた中で、一番心地よい眠りに着いた紅葉だった。

 しかし、胸に重石が乗ったような感覚を寝ながら感じた樹楊がとんでもない悪夢にうなされた事は、どうでもいい余談だ。


 その樹楊は朝起きると、横に居た紅葉に「俺って駄犬?」と訊いたのだった。

 紅葉の回答は、尋ねた樹楊と窓辺にいた小鳥のみが知っている。





「えーと、取り敢えず適当に並んでくれるか? 今から説明すっから」


 ソラクモの大広場に集まる兵士志願者を、樹楊は適当に指図する。

 その頬に見事なモミジが咲いたのは、もう一時間も前の事だった。


 そろそろ兵士志願者が集まる頃だと思い、着替えようとした時。

 紅葉の服がはだけた姿を凝視してしまったからである。いや、それだけじゃなかったか。

 下着も着けていない胸元はこの上無くセクシーで、己の下の心に眠る若さを爆発させてきた。ふらふらーっと、その胸元に手を伸ばした時、めでたくモミジが咲いたのだった。


 モミジを咲かせた当人は、青筋を額に浮かべながら名簿に目を通している。

 樹楊は、兵になるに当たっての危険性や待遇を述べて、それでも残った志願者を小さくまとめた。残った志願者は二十三人中五人。未成年が四人と、二十一歳の者が一人。全員男で顔付きが頼もしい。


 まぁ、思った以上に残ったので良しとする。


 スクライド王国の兵への待遇は良いとは言えない。経済力が低いくせに高額で赤麗を雇った事が、その低待遇に拍車を掛けていたのだ。それなのに、危険性――戦死する確率は高い。余程愛国心が高い者か、酔狂な者しか志願しないだろう。


 樹楊は、まだひりひりする頬を擦ると、志願者の実力を確かめる事にした。


「紅葉、こいつらの相手を頼む」

「はぁ? 何で私?」

「お前、得意だろ? こういうの」


 紅葉は樹楊から刃の無い訓練用の剣を受け取ると、嘆息混じりに歩き出す。

 そして広場の中央まで行くと肩に剣を担いで、こちらをギロリ。


「よーっし。順に打ち合いを始めてくれ。あいつは相当強いから殺す気でいってもいい」


 そう促すが、志願者全員の顔に戸惑いの色が浮かんでいた。

 相手は少女。仕方がない反応だ。

 しかし、戸惑いながらも打ち合った一人目志願者があっさり負けると、残りの者達の顔付きが変わった。中には指の骨を鳴らして意気込む者も。

 だが、結果は紅葉の圧勝。


 志願者の剣はかすりもせず、そればかりか打ち合いさえもしてもらえなかった。

 紅葉は最小限の動きで避けるだけで、隙を見て剣を喉元で寸止めする。これだけだった。

 志願者は自分たちの実力を絶望に染められたかのように落ち込むが、そこは樹楊がしっかりフォローした。


「紅葉、どうだった?」


 志願者に一週間後に迎えが来る事を知らせて、誰もいなくなったところで紅葉に訊いた。

 紅葉は剣を樹楊に返すと、首を傾げる。


「うーん。剣を初めて握ったにしては、まぁ、いい方じゃないかな? 戦闘能力が高いって言うのは、あながち嘘じゃないかもね」


 紅葉の評価は花マルとはいかないが、そこそこいいようで安心した。使えないと言われたら、ここまで来た意味がない。


 風が前髪を浚うように吹く。流石、山の頂上だけあって冷たい。


「ん?」


 樹楊は紅葉の髪に付いた小さな枯れ葉に気付き、手を伸ばした。

 しかし、紅葉は異常なほど驚き、顔を赤くして身を引く。


「な、何よ! 何する気っ」

「何って……。葉っぱ付いてっから取ろうとしただけだっての」

「え……あ。そ、そう」


 途端に紅葉は大人しくなり、身を縮めた。

 視線を下に落とし、恥じらっているようにも見える。


 紅葉の女の子らしい態度は苦手だ。

 普段とのギャップがあり過ぎて戸惑ってしまう。昨夜、布団が一組しかなかった時だって、にんにくがなければどうしていたか。

 樹楊は後頭部を掻くと、背を向けた。


「嘘っ、はぁ!?」

 紅葉が驚愕する。


「な、何だよ。何怒ってんだ?」


 樹楊は肉食獣を前にした小動物のように怯えながら振り向く。

 赤髪の娘っ子は、何故か怒りに満ちているのだが、怒らせる心当たりなどない。


「葉っぱ取ってくれるんじゃなかったのっ。待ってた私がバカみたいじゃない!」


 どうやら紅葉は髪に付いた葉っぱを取ってくれるのを待っていたらしい。

 それに気付かなかったのが悪かったのか、めちゃくちゃ怒っている。

 が、疑問が一つ。


「お前、俺が取るの待ってたのか? 教えてやったんだから自分で取ればいいのに」

「え、あっ……そ、それはっ」


 指をくるくる回す紅葉。

 それを見つめる樹楊。


「だから、そのっ」


 人差し指を胸の前で突き合う紅葉。

 それに首を傾げる樹楊。


 紅葉は顔をみるみる真っ赤にした後、何かが切れたように空を仰ぐ。

 そして。


「何でもないわよっ、ばかぁ!」


 高速かつヘヴィーなパンチを、頬に咲いていたモミジにめり込ませてきた。


「ぶひっ」


 樹楊はケツを叩かれたブタのように鳴くと、堪らず吹っ飛んだ。ここまで理不尽だと怒る気もない。何かを言ったところで返ってくるのは鉄拳だろうし。今日は左頬に何かが憑いている。奥歯のグラつきがその証拠だ。間違いない。そう思う事にした。


 その頬を優しく手で覆いながら起き上がると、背後から声が掛けられる。

 子供っぽい声だ。


「あ、あのさっ」

 振り返ると、十歳くらいの少年が自分の服の裾を掴んで視線を落としていた。


「兵を募集してるんだろっ? それ、オイラも……オイラでもっ」


 何か見た事がある。

 栗色でボサボサの髪をしていて、小汚くて生意気に吊りあがった目が太々しい。この少年、どこかで……。


「なぁっ。聞いてんのか、にいちゃ……」


 少年が顔を上げた時、その顔が青ざめていくのが解った。

 樹楊と少年は互いに指差し合う。


「あー! ガキ、てめぇは!」

「あー! にいちゃん、まさか!」


 と、少年は逃げようとするが、樹楊がそれを許すはずもない。

 がっしりと襟首を掴み、持ち上げる。

 少年は足をバタバタさせて「放せ!」と吠えてくる。そこに来た紅葉が、軽蔑するかのような眼差しを向けてきた。


「何だよっ。このガキ、俺の財布を掏ったガキなんだぞ!」

「な、何ですってっ」


 少年はジタバタして脱出を試みていたが、何かに気付き、その抵抗をピタッと止めた。

 そして、ぎこちなく振り返ってみる。視線は紅葉へ。


「んぎゃぁぁぁぁぁ! 鬼ババアァァァァ!」

「誰がよ!」


 少年の頭に、紅葉の拳という小惑星が墜落する。鐘が打ち鳴らされたような音が、その威力を教えてくれた。樹楊は「鬼ばばあ」というフレーズに笑いを含んだが、紅葉の一睨みでその感情を心の隅にそっと、優しく置いた。


「いっつ〜。記憶飛んだっ。色んな記憶飛んだっ。星が、星がくるくるだっ。にいちゃん、星がくるくる廻ってる」


「落ち着け。それは幻だ。それよりも、お前兵士になりたいのか?」


 あたふたしていた少年は、ぽんっと手を打つと煌めく笑顔で振り返ってきて何度も頷く。


「歳は?」

「十歳だっ」

 樹楊は首を振り「じゃあ駄目だ」


 その言葉を聞いた少年は眉を下げるが、すぐに顔の調整に入り、強く言ってくる。


「な、なんでもするよっ。オイラ、掃除とか洗濯とかやれるし、なんなら見習いでもいいんだっ」

「駄目だ。今回の募集は十三歳からって厳命だからな。諦めるこった」


 紅葉は腕を組みながらその様子をじっと見ていた。

 その視線に気付いた少年は紅葉に期待の眼差しを向けるが、首を振られると頭を垂れる。


「今回は諦めて財布を返せ」


 少年はしばらく考えた後、力強く首を振る。財布を返してくれたら地に降ろしてやろうと考えていたが、これじゃあ降ろしてはやれない。樹楊は自分の目線と少年の目線を同じ高さにまで持ち上げた。


「返せ」

「いやだっ」

「返せっての。お前、俺じゃなかったら牢屋にぶち込まれているぞ?」


 樹楊は二等兵だが、国家に仕える兵士だ。

 その兵士に狼藉を働くという事は、重罪と等しい事なのだ。

 しかし、樹楊はその権利を振りかざす気など無い。

 それを知ってか知らずか、少年は頑固な態度をとり続ける。その決意に、樹楊は疲れてきた。


「オイラは兵士になりたいんだ。……なりたいんだっ。兵士になれないなら財布はオイラのもんだっ」


 少年は悔しそうに涙ぐむ。

 

「何でそこまで兵士になりたいんだよ? 待遇がいいとは言えねーし、死と隣り合わせなんだぞ?」

「……それでもいいっ。オイラは、オイラには」


 涙を拭い、震える唇を噛み締め始めた。

 その下唇に、薄っすらと血が滲む。


「オイラには帰る場所ないんだっ。兵士になって金を貰うんだっ。その為なら命だってかける。こんな生活、もう嫌なんだ!」


  この少年がスリをしている理由は解っていた。樹楊とて、金の為なら何でもしてきた。その気持ちが痛いほど解っている。だけど、兵士になる事だけは勧めたくはない。戦場というのは、あまりにも辛いから。


「ねぇ、このコ。例外として入隊させてあげれないの? 見習いなら戦場に出なくても済むしさ」


 紅葉は自分が思っていた事に気付いていてくれていた。

 少年は変わらぬ決意を示す瞳で見てきている。口を固く結んで……。

 その表情を見ると、溜め息しか出てこない。


「ガキ、名前は?」

「ツキ……」


「財布は?」

「……返さない」


 もう何も言っても無駄だ。

 追い返そうにも、ツキは後を追ってくるだろう。そしてスクライドに来て、生きる為にスリをやる。そして野垂れ死ぬ。


「わーったよ。入れてやる」

「ほ、ホントかっ。嘘はなしだぞ、にいちゃん!」

「あぁ、嘘は言わない」


 ツキを地に降ろしてやると、小踊りを始めて嬉しさを身体で表現していた。

 それを見ると、何だか複雑だ。


「ねぇ、いいの? 私が訊くのもなんだけど」

「ラクーンには俺が言っとく。物分かりがいい奴だと思うし、最悪却下されても引き取り先を見つけるさ」


 徒労感溢れる樹楊の背中を、紅葉は微笑んで見ていた。ツキの頭をくしゃくしゃ撫でたり叩いたりと、その姿に目を細めて嬉しそうに見ている。


 枯れ葉を髪にデコレーションしたまま。


 

 ◇


 

 ツキには一週間待たせずに、直接連れて帰る事にした。その方がラクーンに説明しやすいし、ツキもその方がいいと言う。ソラクモ名物、羊の香草焼きを昼食で食べ終え、いざスクライドへ――とも思ったが、やはり気になる。


 最北の森が。


「なぁ、ツキ。お前ソラクモの歴史については詳しいか?」


 ツキは久しぶりの肉料理に満足したのか満面の笑顔を浮かべながら視線を上げてくる。


「そこそこは知ってるよ。でも何で?」

「んとな、あの森」


 ツキの視線を誘導するように、ゆっくりと最北の森を指す。

 その木々を縫うように飛んで出た鳥達は、下界を目指して羽ばたいていった。


「あの森について教えてくれねーか?」

「あぁ『ベ・ヘルール』の事?」

「ベ・ヘルール? 森の名前か?」


 ツキは頷くと、その呼び名はソラクモの住人が獣人目・ララアとして翼を持っていた時の言葉。つまり古代語であり、意味は――、


「精霊の守護森っていうんだ」

 と、胸を張って言う。


 精霊と耳にした樹楊は一瞬、憎悪に眉根を寄せた。しかし、紅葉の視線に気付くと不自然にはにかむ。


「本当に精霊が居るのか?」

「さぁねー。言い伝えだし、実際見た事がある人なんていないし。嘘なんじゃん? あそこには御神木しかないし」


 頭の後ろで手を組みながら言うツキは、まるで人事のように言う。

 だが樹楊は精霊が居るのでは、と森を貫くように見る。

 そうでもなければ、この季節に枯れない理由が見当たらない。精霊によっては、守護性を持つ者もいると聞いている。そんな酔狂な精霊は希少だが。


「紅葉。ツキをスクライドに連れて帰っててくれ」

「帰っててって、アンタ何する気?」

「俺はあの森を調べる。気になるんだ」


 そう言いながら一歩踏み出すと、紅葉が強い力で袖を掴んできた。ツキの「木だけに気になるって? うははっ」という時代遅れのギャグはスルーされながら。


「私も行くよ」

「は? いいよ、別に。大した事じゃ――」

「行くったら行くの!」


 紅葉の怒号は少し上擦っていた。

 眉が微かに下がり、目は不安そうに揺らぐ。その表情に、樹楊はぐぅの音も出なかった。


 二人の視線は結ばれたまま、解けない。

 そんな二人を、ツキは交互に見ると針を含んだ笑みを見せた。


「もしかして二人ってお熱い関係?」

 うひひっと笑うツキ。


「ち、違うわよっ!」

「おぉ、正解だ」


 樹楊が真逆の回答をすると、間もなく紅葉の怒りの鉄拳が鳩尾に喰い込んだ。


「ぼはっ」


 内臓が一つ、潰れたような気がする。

 紅葉は顔を真っ赤にして怒りながら、しかしどこか恥じらうように、死んだように動かない樹楊の足を引っ張って森に向かった。


 一時間掛けて復活した樹楊は森の入口に立つと、ざっと全体を見渡した。

 この森の前に立つと、ここがソラクモである事や季節が四期である事を忘れてしまいそうになる。それくらい青々としていて見事な森だ。


 道は幅広の獣道が出来ていて、歩くには支障がない。通り抜ける風も、森の外で感じるよりも暖かかった。枝には小鳥が停まっていて、木々には虫も居る。一応、食物連鎖は成り立っているようだ。大型の肉食獣は見当たらないが。


 途中で何度も枝分かれになる道だが、樹楊は導かれるように真っ直ぐにしか進まない。

 何の迷いもなく、ただ直進。

 紅葉とツキは、それに倣うように着いてきていた。


 何か、何か居る。いや、手招きしているように感じる。

 森の奥から、ずっと招いてきている。


 逸る気持ちは歩くスピードにも影響が出ていた。これまで三十分、休憩もなく着いてきていたツキの顔にも疲労が見られる。紅葉が休憩を提案してきたが、聞く耳を持てなかった。


 気持ちが急く。

 早く、行かなければ。と、強迫観念にも似た感情が腹の底から湧いて出てくる。

 そして、ついに森の最奥部に辿り着いた。

 

「これは……」


 目の前の景色は、ハイペースで歩いてきた樹楊の足をも止める。吸い込まれるように見ていると、そこにやっと紅葉が追いついた。後ろにはちゃんとツキがいる。


「ちょっと、もう少しペースってものを考え、なさ……い…………な、何ここ。凄い」

 

 紅葉も視線を奪われる。

 人間が千人は入れるほどの広大な平野が、そこには広がっていた。

 草は穂を揺らし、風と共に踊っている。

 明るくはなかった森の中、この場所だけが光の加護を受けているように輝き、自然の息吹を感じさせる。その奥の中央には、樹齢百年は越えたであろう太い幹の樹木がどっしりと根を下ろして神々しく背を伸ばしていた。

 そしてその両脇には、まだ若い樹木が仕えるように並んでいる。


 まるで樹楊らを待ち構えていたかのように。


「あれが御神木……なのか?」

「そうだよ。あれが御神木」


 折角ツキが答えてくれるも、樹楊は自我を失ったかのように、真っ直ぐ歩き出した。正面の太い樹木に向って。それを紅葉が止められるわけもなく、ただただその歩みを見送るだけ。


 何だろう、この安らぎは。

 不浄なものを全て、罪を全て包んでくれるような優しさは。

 樹楊は御神木に手を添えると、額を当てて目を閉じた。


 木の鼓動が伝わってくる。

 生きているのが解る。

 これが……精霊なのか?



 ◆◇◆



 あの人達が来て一日が過ぎた。

 でも見付けてもらっていなかった。

 何度も呼んでみたけれど、当たり前に届かない。そう思うと、悲しさだけが身体を満たしてくる。


 小さな胸が痛んだ。

 だけど誰も気付かない。


 グリーンの瞳が虚ろに動くと、口の端から気泡が漏れていく。

 十字架を真似ているような身体は動かない。動こうとさえもしてくれない。


 もう、諦めようかとした。

 だが諦めるわけにはいかなくなった。


 あの人達がこちらに向かって来ている。

 この森に迷ったんじゃない。真っ直ぐ、こちらを遠くから見つめて歩きて来ている。


 その口は僅かに開く。


 ここにいる。

 みつけて。

 ここにいるから……。



 力の限りに叫んだ声は、しかし音には遠かった。身体を護るように包む液体にすら振動を伝える事が出来ず、唇が動く程度だった。


 涙が、液体に溶けていく。

 これでは見付けてもらえない、と。

 しかし、自分を閉じ込める殻に何かが触れてきた。それも二つ。


 目の前に、居る。


 風なんかじゃない。虫でも小鳥でもない。

 この暖かさは、間違いなんかじゃない。


「お前、精霊か?」


 不意に聞こえた声。

 その声は殻の向こうからだった。

 気付いてくれている。ここに居ると、感じてくれている。


 ありったけの力を込めた。

 今度こそ声にしようと、全身の隅々から力を集めて唇に集中する。


 ここに居る、と二度三度言おうとしたが、やはり声になってはくれなかった。


「俺の勘違い……か?」


 違うっ。勘違いなんかじゃないの。

 ここに居るから、居るからっ。


 そう願うも、殻に触れていた何かは消えていくように離れていった。

 すると、眉が下がり涙も出てきた。


 唇が震え、寂しさだけが心を支配する。



 待って。

 ここに居るの……。

 ここに――――。



 ◆◇◆



 御神木に手と額を添えていた樹楊だったが、何だか馬鹿らしくなってきていた。

 精霊が居たところで、何がどうなるわけじゃない。ただ、この森を護っているだけだ。

 そんな事に介入する気もないし、何かに巻き込まれるのは勘弁だ。


 自分が気になっていたのは、何故この森がこの季節に生い茂っているのか。

 それだけだ。


 その答えは精霊が守護しているから、だとすればこんな所に用など無い。

 だけど、精霊じゃないような感じもしていた事は否めない。確信などないが、この樹木は自分を必要としてくれている気もしていた。


「俺の勘違い……か?」



 そう呟くが、御神木から離れられずにいるとツキが声を掛けてきた。


「それはソラクモの御神木ってだけで、他に意味はないよ? 精霊が宿っているって言われているけど、まぁ、オイラには関係ないし」


 樹楊は「そうか」と呟き、やっとの思いで貼り付いていた手と額を離した。

 ただ樹木に触れただけなのに、残る感触は無垢な少女の柔肌に触れたみたいだったのが気になったが、それも勘違いだと背を向ける。


「悪い。何でもなかった。つー事で、さっさとスクライドに帰ろうぜ?」

「アンタねぇ……。まぁ、いいけどさ」


 呆れていた紅葉だが、笑顔を見せてくれる。

 紅葉とツキと肩を並べると、気持ちの整理を始めた。


 ここには何もない、と。

 その時だった。



 いるの! ここに!



 頭の先から爪先まで、悲痛に切り裂かれたような声が響いてきた。

 樹楊は鋭利な痛みが走り抜ける頭を押さえながら、弾かれたように振り返った。

 一瞬で冷や汗が身体中から噴き出し、呼吸も乱れている。


「どうしたの? そんな顔して」


 紅葉は顔を覗き込むように訊いてきたが、それにどうやって答えればいいのか分からない。


 今のが幻聴だと言えなくはないからだ。

 それに、誰もいない。

 見つめる先には、老齢の御神木とその両脇に並ぶ若い木々だけだ。誰かが居るわけがない。


 経験上、精霊が何かを訴える時には体現化してきた。だけど今はそれがない。

 思い過ごしだ。誰もいない。


「い、いや」乱れた呼吸を整え「何でもない」

「そう? ならいいんだけどさ」


 樹楊は帰り道、ここに来た時よりも遅いペースで歩を進めた。それを紅葉に言われる事はなかったが、自分は解っている。


 ここに居たい、と。


 樹楊は最後に一度だけ振り返った。

 名残り惜しそうな顔で。

 だが、やはり誰も居ないと確認すると帰る事しか出来なかった。


  

 その平野一面にライトグリーンの花が、樹楊を歓迎するかのように突然咲き乱れたが、もう誰も居なかった。花弁が大きい花や小さい花。茎が長い花や棘のある花。

 正に百花繚乱の庭園だった。しかし、誰も見てはくれない百花は寂しげに風に揺れているだけだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ