序奏 変わらぬ日々と変わるキッカケ 2
自分が勤めている学校から出て駅へ向かう。
学校の最寄駅から電車に乗り20分程電車に揺られていると、繁華街である大きな駅に降りる。
人混みに流される様にそこからさらに20分程歩いた小さな街中の公園にて、自身の相棒のケースを地面に置いて開く。
中身は物心ついた時から側にあったサックスを準備すると無心で演奏を始める。
いわゆるストリートミュージシャンと言う奴だ。
繁華街の真ん中にある公園なので周りは人が多いものの、こちらに見向きすら人間はおらず、そこを根城にしているホームレスや歩き疲れて休んでいるカップルなどがこちらを休むついでに眺めるだけで真剣に聞いてくれる客はいない。
複雑な気持ちのままだが、それでも吹いていれば足を止めて聞いてくれる人が現れるだろうと祈りながら、演奏を始める。
3〜4曲ほど演奏をしていると両手に痺れが起こり、今日はこれが限界か…と思い演奏をやめて深く頭を下げるとまばらな拍手を貰い相棒のサックスをしまって振り返ると先程までいたホームレスやカップル、途中から聴きに来ていた客などはすでに街の中へ消えており、静かな公園に戻っていた。
「まぁ、無名の演奏家が路上ライブしてもこんなもんだよな…」
後片付けをして、振り返ると公園の片隅に背もたれのない丸椅子が2つと小さな明かり、その明かりに照らされたミミズの這ったような後の板があった、片方の椅子にはフードを被ったいかにも占い師です!と、訴えている様な小柄な人影。
なにかと思って目を凝らして見てみると、どうやらミミズの這った後は日本語の様でそこには
『出張占い、一回10ゴールド』
と書かれていた。
演奏中には気付かなかったのかと思いながらも、怪しすぎるその看板を見て。
だいたい何だ10ゴールドって?今も昔も聞いたことないぞ?せいぜいゲームの中でくらいじゃないか?と考えていると人影に気が付かれたのか手招きをしながらこちらに顔を向けていた。
フードの中は看板の近くの明かりでは見えず怪しく思っていたが演奏を聴いていたのかもしれないと思い、相棒をしまったケースを持って近寄っていくと、未だに見えないフードの中から鈴のような綺麗な声で。
「今日という日を、何年もお待ちしておりました。」
「は?今なんて」
何を待っていたんだ?と思った瞬間俺の意識は何本もの見えない縄に絡め取られたかの様に深い闇の底に沈んでいった。




