かけがえのない-告白・傍-
あなたには、かけがえのない人というのはいますか?
大切な、ずっと一緒に居たい人。
ずっと守ってやりたい人。
この物語は、そんな『大切』という名の物語。
「おい、木下起きろ!」
そんな友達の声が聞こえて、俺は目を覚ました。
俺の名前は木下元。
普通の高校二年生だ。
彼女いない歴=年齢、のただの可哀想な高校生だ。
とは言っても、恋愛に興味が無い訳では無い。
興味はあるし、正直彼女は欲しい。
しかし、触れ合い方が分からないのだ。
だから女友達なんてのはいない。
寂しい限りだよ、全く。
「...授業始まんのか、準備しねぇと」
寝ぼけた声でそう言いながら、俺は教科書類を机に出していた。
最近、授業中はよく目が合う。
誰かと言われれば、俺の席からだいぶ離れたところに座っている咲野春とである。
なんというか、意思が伝わっているかの如く目が合う。
一度、おかしいと思った事もあるくらいだ。
でも、そんな疑問はすぐに消え失せた。
今や、嬉しかった。
振り向いてくれることが嬉しかった。
目が合った時、彼女は笑う。
その笑顔が好きだった。
救われたような気分になる。
何にかと言われれば分からないが、救われている。
俺は、彼女の笑顔をずっと見ていたい。
ある日の放課後。
一人で教室にいると、ガラッと教室の扉が開いた。
誰だろう。
そう思いながら、入ってくる人の顔を見た。
「.......!」
まさかの咲野だった。
咲野はこっちに気づき、こっち歩み寄ってきた。
俺が座っている席の前で、「ねぇ、木下君」と呼びかけてきた。
「...何?」
鈍い返事を返す。
「これから、暇だったらさ、一緒に遊ばない?」
「え!?」
普通に驚いた。
咲野がこんな俺を遊びに誘うなんて。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。普通に遊びたいと思ってるだけど」
何か、裏がありそうだなと思いつつOKの返事をしてしまった。
二人で行ったところと言えば、ゲーセンである。
「ゲームとか、音ゲーしかできないよ?俺」
「へーき、へーき。私も下手くそだし」
そんな会話をしながら、いろんな音ゲーで遊んだ。
某人気太鼓ゲームとか某人気タップ系音ゲーをしていた。
正直楽しかった。
久しぶりだったと思う。
あんなに笑っていたのは。
「それじゃまたね、木下君。楽しかったよ」
「うん、またね」
そして、互いに帰路を辿った。
その日以降、俺達はよく遊ぶようになる。
ゲーセンの全ての音ゲーの筐体記録を埋めたり、はたまた違うところに出かけたり、お互いの家に遊びに行ったりもした。
全てが初めての経験だった。
最初のうちはどうしたらいいのか、分からない時もあったが、次第に慣れていった。
今では、咲野さんが隣に居てくれないと寂しいくらいだろうか。
「.......」
なんだろう、この気持ちは。
「元!今度の週末はどこに行く?」
「.....春の家で遊びたい」
しばらくすると互いに下の名前で呼び合うようになった。
でも、まだまだ知らないことがある。
恋人じゃあないけれど、なんだか、スッキリしない。
ちなみに俺は一度、自分の過去について話した事がある。
その時、春は黙って全ての話を聞いてくれて、悲惨な俺の過去も全て、受け入れてくれた。
その時に、俺は救われたような気がした。
同時に、この子とずっと一緒に居たいと思った。
だから、今度は春の話を聞いてみようと思う。
今まで一度も話してくれなかったが、訊いてみようと思う。
そして、週末。
春の家にて。
「春、前から訊きたかったんだけど、お前の過去に関して。俺は前に一度話したろ?その時は理解してくれて本当に嬉しかった。だから、今度は俺が君を理解する番だ」
「ダメだよ」
ノンタイムでそう返答してきた。
その時の春はどこかしら苦しい顔をしていた。
「私の事は深く知らなくていい。このままでいいの、このままで。『友達』のままで」
その時、なんだか、突き放された気がした。
今までのことをなかったかのようにするような、そんなキツい言い方だった。
「.................んだよ、それ」
俺はそのまま、部屋を出た。
何だよ、それ。
俺は全てを話したのに、自分のことは話さないって。
ここまでやってきたのに、自分の過去も打ち明けれるほどの仲じゃなかったのかよ!?
馬鹿みたいだなぁ、俺ってさ。
自分の家に帰り、自分の部屋のベットに駆け込んだ。
自分なりに落ち着こうと思った。
何故、春は話してくれなかったのだろうか。
何故、あそこまで拒んだのだろうか。
俺に言いたくないこと...。
.......誰にも言えないこと。
「.............」
まさか、な。
それからの数日間、俺達は会話をすることはなかった。
遊ぶこともなかった。
互いに気まずい雰囲気だった。
かつてのような、授業中に目を合わせるということもなければ、すれ違っても無視をするという状態が約二ヶ月に渡って続いた。
このまま、自然消滅とかありえるんじゃなかろうか。
そんなことを思ったこともあった。
メールもしなくなったし、電話もなくなった。
いつも隣には春がいたから、寂しい。
でも、なんで寂しいと思うのだろう。
「.........」
春は俺の友達で...。
いつも楽しく遊んでた。
いつでも、どこでも。
春が居たから、楽しくやれてた。
「.........」
そうか、そうなんだな。
ある日、他のクラスから流れてきた噂が耳に入った。
『咲野が自殺をしようとしている』
それを聞いて、俺は、学校の屋上に走った。
馬鹿、馬鹿、馬鹿野郎。
なんで死のうとするんだよ、あの馬鹿。
お前は、お前は、俺にとって...!
そんなことを思いながら屋上への扉を開ける。
「春っ!!!」
それと同時に春の名を叫ぶ。
春はゆっくりこちらへ振り向いた。
「元ぇ...。意外と早かったね...」
「春!お前、何やってんだよ!!」
俺は、春がいる場所に走り寄る。
「こっちに来ないでっ!!死なせてよ!!」
「何言ってんだよ!!こっちに来い!!来なけりゃ、俺がそっちに行く」
「何言ってんの?来れるわけないじゃない!」
俺は春がいる柵のところまで走った。
「お前に何があったかは知らねぇけどなぁ!死ぬのは許さねぇぞ!!」
柵を乗り越え、春の肩を掴み、落ちないようにする。
「.......元なんかには分からないんだよ!!私の苦しみなんて...!」
「聞いてみなきゃ、分かんねぇだろうが!
俺はお前に救われた、あの時のことは感謝してるんだ。じゃあ、今度は俺がお前を救う番だ!え?そうだろ!?」
「...すごいね、元。私はその言葉聞けただけ十分だよ」
春はそう言いながら、俺の手を払い、一歩下がって、
「じゃーね、元」
春の体は空中に投げ出された。
「馬鹿野郎ぉぉぉ!!」
俺は咄嗟に身を乗り出し、手を伸ばす。
そして、春の手を掴んだ。
「馬鹿なことしてんじゃねぇ!」
「何やってんの、離してよ」
「離さねぇ、だってここで離したらお前は死ぬ。それは駄目だぁ!!春は俺にとって...『かけがえのない』存在なんだからぁぁ!!お前が居ねぇと俺は駄目になる!!だから、俺と一緒に居てくれ、春!!」
春を引っ張りあげた。
俺の目からは涙が出ていた。
「.............」
「.............」
互いに無言のまま。
申し訳なさそうな顔をして黙っている春の顔を俺は全く力の入っていない掌で軽く叩いた。
「.......馬鹿。ホントに死んでたらどうするんだよ」
涙声だった気がする。
そして、それを聞いた春も、涙を零して、ごめんなさい、ごめんなさいと俺に謝り続けた。
それから数日後。
「さて、と学校行くか」
俺は今日はいつもより早く学校へ向かう。
春と約束をしているのだ。
そして、学校に到着すると、
「元ー!」
遠くからそんな声が聞こえた。
「おー、おはよ」
軽く挨拶を済ませ、一緒に教室へ向かう。
教室には誰もいない。
教室にある空席に適当に座り、本題を切り出した。
「んで、何?用って」
「えっとね、元に言いたいことがあるの」
俺は咄嗟に身構えた。
「一度しか言わないからよく聞いて」
「うん...」
心臓が高鳴っていた。
鼓動音が直に体に響き渡っていた。
「元、私と付き合ってください!!」
「はいっ、よろしくお願いします」
こうして、俺達は一緒に居ることができるようになった。
あとがき
はい、初めましての方は初めまして、
以前から告白シリーズを知っている方は、お久しぶりです!
告白シリーズ4ヶ月ぶりの新作です!
それと同時に『告白・セカンドシリーズ』スタートします。
全く新しい『告白』をこれからもお楽しみに!