表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/5

あかるいみらい

 眩しい朝日が顔に当たり、私は意識を取り戻す。


「う? こ、ここは……街道沿いか……?」


 呟き、己の身体を見下ろす。……ひどい有様(ありさま)だった。

 服は泥と汗に塗れ、所々に吐瀉物(としゃぶつ)が付着してる。

 身体は、擦り傷と打撲だらけだ。だが幸いにも、骨折はしていないようで、動きに支障はない……ぶるり、寒さと恐怖に身震いしながら立ち上がり、叫んだ。


「なんてことだ……イーサンは正気ではないっ! 即座に城に戻り、この件を報告しなくては!」


 しかし、これは厄介な事になったぞ……!

 イーサンは、信じられないほど強い男だ。彼が敵に回るなら、討伐隊を組む必要がある。

 はたして、騎士団のメンバーだけで、彼に勝つ事ができるだろうか?

 できれば殺したくないが……生死をかけた戦いになるのは、避けられない。

 私は、イーサン=パーカーを倒すための作戦に、頭を悩ませる。ああ、それにしても……ひどく、喉が渇いた。


 私は導かれるように、テクテクと歩き出した。気づくと、目の前には小川が流れている。

 即座に両手で水を掬い、喉を潤した。

 それから、顔を洗う。何度も、何度も、しつこく洗う。

 冷たい水で汚れを落とし、身体の傷も丁寧に清め、打撲を冷やし、それでようやく、人心地(ひとごこち)ついた。


 次に私は手を伸ばし、小川の傍らに実っている、野苺を摘んだ。

 口にすると甘酸っぱくて、身体の疲労がやわらいだ。

 失った体力が、少しずつ回復していくのがわかる。


 ……遠くの方でガラガラと、馬車の進む音がした。

 私は、即座にそちらへ走った。

 街道に出ると、馬車が近づいてくるのが見えた。

 道の真ん中で両手を振って、呼びかける。


「おーい! すまない、止まってくれないか!? 私は騎士だ、怪しい者ではない!」


 馬車が目の前で、ゆっくり止まる。驚く御者に、私は言った。


「私は、サビーネ! サビーネ=ハスラーと言う者だ! ストリウム王国の、騎士団長である! 諸事情により剣を失い、このような場所に取り残されて困っているのだが……礼をするので、近くの町まで乗せて行ってほしい!」


 私の足は、王都へと向かっていた。



 ……あの日から、私の生活は一変してしまった。

 いや、違うか。

 生活は、『なにひとつ』変わらない。

 私は、いつもと同じように食事をし、騎士団を指揮し、アンジェリカ様と逢瀬を重ねる。

 しかし、それは確かに変わっているのだ。

 それがわかるのは、この『私』しかいない。


 朝起きると、シーツが汗でびしょ濡れになっている。

 窓からは朝日が差し込み、私の顔を眩しく照らす。……私が『自由』を取り戻せるのは、眠りから目覚めて朝日を浴びる、このわずかな間だけ……あとは『あいつ』が、私の体を縛りつけ、平時と変わらぬ生活をさせる。

 あの日、あそこで飲んでしまった、あのリモンチェッロ。

 それが、私を中から縛り付けている。


 きっとこいつは、私の身体の『習慣』を再現してるのだ。

 動き、口調、表情、考え方……だから誰も、この『偽りの私』に気づかない……気づけない。


 だって、誰が気づける!?

 イーサンの尻のホクロの数まで知っていて、あんなに彼を愛していた私でさえ、まったく分からなかったのにっ!

 これは、呪いだ! 恐ろしい呪縛だ!

 体の外なら(むし)ることもできようが、中から縛られては、抗う術はない!

 あの、才気に(あふ)れたイーサンが抗えなかったのに……彼より劣る私に、なにができると言うのだ!?


 呪縛は強烈だ。自ら命を断つ事もできない。

 ただ、なぜか『文章』だけは、呪縛の支配に緩みがある。

 だからせめて、この手記を残したい。

 ベッドの下に隠したノート。直接見ずに、手の感覚を頼りに書き記す……しかし、こんな場所にある手記を、誰が見つけてくれるのか?


 ……今、私には、ひどく恐ろしいイメージがある。

 私はいずれ、あの洞窟に向かうのだ。

 そして彼の……イーサンの息子と結婚する。

 やがて産まれた、愛しいわが子を抱いて、私は微笑む。

 心から、幸せそうに……そして、私は……。


 ……ああっ! アンジェリカ様……っ!

 どうか、お願いです!

 ある日、私がリモンチェッロを献上にあがっても、決して口をつけてくださいますな……!

 もしも、それを飲んでしまったら……貴女様は……この王国は……終わってしまう!

 私は……もう、逃げられません……っ!


 ふと窓の外を眺めると、いつもと変わらぬ王都の町並みが広がっていた。

 そして……私の身体の自由が、少しずつ『あいつ』に塗り潰されていく。

 ……また今日も、始まるのだ。

 檻の窓から眺めるように……なにもできない、いつもと変わらぬ一日が。






 これで完結です。

 が……気が向いたら続編として、『亡国のアンジェリカ姫』と『幽囚のキール』を書くかもしれません。でも、タイトルはいじるかも知らんね……これも最初は『追憶のサビーネ』でした。

 アンジェリカは喜劇、キールは哲学的ゾンビがテーマです。書いたら、ここの後書きにも一言残しますね!


 この話は、読者ウケとか一切考えず、僕の書きたいモノをストレートにぶち込みました。

 テーマは、『未知の物体の味ってなんじゃらほい? それって美味しいのかい?』です。

 現実では『不思議な物体X』には出会えないワケで、それを味わう機会はありません。

 そこで想像の世界で、主人公に食レポしてもらう事にしたのです。

 サビーネ……美味しい物が飲めて、よかったね♪


 ホラーとしてのテーマは単純で、『何気なく口にした物が、実は似て非なるナニカなら?』です

 身近なテーマですね……日常でも食品偽装とか、ありますもんねえ?

 手首ラーメンとか、ミミズバーガーとか……都市伝説のテッパンです。

 書きたいものを書けたので、大満足です。あーっ、楽しかったぁ!

 執筆時間は三時間くらいでした。ノンストップでしたねえ!


 ただまあ、それがなんであれ……虫以外だったら……積極的に口にしたいって、僕は思うんですよ。

 宇宙人の作った料理とか、食べてみたいもん。宇宙人のお肉も食べたいなー!

 例えば、銀河のどこかから宇宙人が来て、晩餐会が開かれるじゃないですかあ?

 そんで、僕が地球人代表として、そこに招待されたとします。

 目の前に並ぶ、正体不明で不思議な料理の数々っ!

 そしたら僕は大興奮、真っ先に食べるふりして、


「おおーっ!? これは素晴らしい味だ! まるで口の中が味覚のビッグバンやー。ほら、皆さんも早く、食べてみてください!」


 って叫んで、みんなに必死ですすめて、それで皆が食べるのを見て、危険がないのを確認してから口をつけるくらいには、未知なる物に対する味覚の興味がありますねー。

 ビバ! 変な食べ物っ!

 やったー、カッコいい!


 なお、最後になりますが……ツイッター等では報告してますが、現在、第7回集英社ライトノベル新人賞の最終選考中です。

 発表は五月下旬ですが、僕も残っています。エコー・ザ・クラスタって作品です。

 応援してくれたら、嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ