1.5取調べ
「君を見つけたのは私の息子だ。」
そう言うと、ディオン王は一旦口を閉じだ。
「あれ…?知らないのか?」
「…???」
俺は首を傾げた。ディオンの王の息子は有名な人なのか?というかディオン王自体が有名だよな。王だし。
「そうか、知らぬか。」
そう言うと目を瞑って腕を組んだ。そして「フーっ」と息を吐いた。
「ならばティノープ団ではどうだ?」
「…いや…、分からないですね…。」
もしかしたらこの土地では有名なのかもしれないが、俺は異世界出身だ。当然分かるわけがない。
「あら…。なんかすまぬな、分からない事を言って。」
「いえいえ、こちらこそ分からなくてすみません。自慢の息子さんなんですね。」
親バカなんだろうなきっと。息子の活躍を自慢したいのかもしれない。羨ましいな…。俺の親はもう完全に俺の事は見てくれないからな。もうほっぱらかしだ。両親とも朝早くから会社に行くから、俺が起きる時は大抵いない。いたとしても会話はあまりしないな。
「私の唯一の息子だからな。ついつい自慢をしたくはなってしまうのだ…。すまん、本題からずれてしまった。」
きっと真面目な王様なんだろうな、きっと。ディオン王は少々照れている様な感じに見えた。
「さて、まずはこちら側から君が気を失っていた間に何が起きていたのかどうかというのを伝えようと思う。」
ディオン王は本当に細かく説明してくれた。ディオン王の息子もいるティノープ団は俺がどうやら知らないだけでこの国でかなり有名な騎士団らしく、そもそも入団するだけでも相当大変だそうだ。そのティノープ団が俺を発見したらしい。その発見では不可解な事があった。
まず一つは大きなクレータ見つけた事。クレータとは言ってなく、大きな円状の更地とディオン王は言っていたが便宜上クレータと言う。何かの爆発、もしくは一定以上の魔力が噴き出す事によって起こる事象だとは言われているが本来起こるのは小規模であり、更に魔術を使い慣れていない初心者が起こす事であるから、魔力が人の体内から噴き出してあれだけのクレータが起こったとは考えにくいと言う。つまり何らかの魔術を施した爆発物や魔物による爆発だと考えているらしい。更にティノープ団はそのクレータに魔力が使われた痕跡を見つけたという。その痕跡は俺を中心に放射状に外側に向けて広がっていたらしい。
「それじゃあまるで俺が魔術を使えるみたいじゃねぇえか…」
「そう。つまり君が自身の魔力を故意的に体内から発散させて爆発を起こしたと考えたのだ。従って事情聴取を行うという事で、あの森を管理している私の家に入れたというわけだ。」
そりゃあ…俺が魔術を使用して大爆発を起こした様に見えるっていうなら、確かに疑うのも当然だよな。でも、俺はこの世界からみれば異世界人だ。しかも魔術などそもそも存在しない世界の。だから俺が魔術を使えるという事自体がまずあり得ない。だけど説明しろなんて言われてもきっと俺は説明出来ない。異世界から来ましたなんて言っても信じるやつは一人もいない筈だ。リンっていうあの協力者以外。
「しかし魔力の基本的な引き出し方も分からなかったという事を考えると…うーむ…。それだけでは無い…。私自身は現場に行っていないから何ともは言えんが、ティノープ団の情報によると規模の大きさから言って…人間の魔力量は軽く超えていたのだ…。ドラゴン級ではないかともな…。それもダーククラスだ。」
「ドラゴン…?」
ドラゴンてあのドラゴンか?よくアニメとかで出てくる…。だとしたらその魔術を放ったやつは完全にバケモンじゃん。周りを見てみると数人のメイドさんがいるが、メイドさん達もどうやら驚いている様子だ。
「というわけで、その点に関してはいくらティノープ団といえど信憑性が無い。従って調査団を昨日現地へ派遣した。おそらく今日明日には戻ってくるだろうから、その調査団の結果次第で君の処分も確定すると思う。」
処分…。そんな事言われても…。俺はただ学校から、秀一によってこの世界にワープさせられただけだ。ワープした場所がサウスディープと呼ばれる危険制限区域の森だったというだけだ。それで運悪く魔物に2回襲われた。たったそれだけなのに何で俺は、処分なんてものを受けなきゃいけないんだ…。
「はい…。分かりました。」
理不尽だと思いつつも、この国の王であるディオンに逆らうなんて事をしたら、それこそ本当に俺の人生は終了になってしまうと思う。だからここは素直に了承した。
「でだ、魔物に襲われる前は君は一体何をしていたのだ?」
さあ…来たぞ…。一番注意して回答しなければならない質問が。俺はこちらの世界に来て今迄あった事を頭の中で思い出す。多分回答によってはここで俺の処分が決まるかもしれない。けれど嘘はきっと吐いたらまずいだろうな。ここは一度聞いてみるか何言われるか分からないからちょっと怖いけど。
「もし…その……今迄僕が言った事柄について嘘を吐いていたとしたらどう……なりますか?」
恐る恐る聞いてみた。
「嘘吐いているのか?もしそうであれば、メイドのが指摘してくるはずだが?」
メイドが指摘する?どうゆう事だ?
「今のところショウ・アサマの発言に嘘偽りはありません」
ディオン王の隣にいるメイドはそう言った。何か魔術を使用したのだろうか?聞いてみるか。
「あの…、ディオン様の隣にいるメイドさんは何か魔術を使っていたのですか?嘘を見抜く様な?」
「そうです。使用しております。特に人間相手には。万が一嘘を吐いていた場合, ディオン様が不利になりますので。また, こういった事件容疑者の場合は取り調べの際は必ず魔術を使用します。更に今回は通常の事件とは違って常軌を逸脱しています。魔族, 魔人の類が関わっている可能性があります。ただの魔術による爆発とは言え, あまりにも規模が多き過ぎるのです。」
こういった事件の容疑者って言われても…分からんものは分からんって…。でも…魔族?魔人?そんなのがこの世界にいるのか?
「魔人…?魔人とは…どの様な生物…でしょうか?」
俺はこの世界に来る前はよくゲームばっかりやっていた。当然現実世界にはいないが、ゲームの中には魔物だったりとか、ドラゴンだったりとかは存在している。だから一応想像はできる。けれど本当に現実にいるって事が信じられなくて質問をした。
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
なんか衝撃を受けた顔を、ディオン様とメイドさんにされたんだけど…。どうゆう事?
「君まさか…魔族を知らないとは…言わないよな?…レイラ?」
「…ディオン様…。どうやら嘘は言っていない様です…。」
「嘘だろ…?流石にレイラ…それは疑うぞ…?」
もしかして…俺は一般常識を…それも超が付く程の一般常識である事を質問したのか?この反応はそうだよな…。もしかしたら、俺が元いた世界でいうと…目的地へ行く公共交通手段について話をしていたところで、バスというワードが出てきた時に、「バスって何ですか?」なんて質問を投げる様なレベルの質問なのかもしれない…。でもしょうがないだろ?ゲームについての話題でしか聞いた事が無いんだからさ。
「うむ…。まあとにかく話してみたまえ。」
「…はい。自分は…その前も魔物に襲われました。それもトラル2頭です。その時も足を噛まれて気を失ったのですが、その時は運よく助けてくれた方がいらっしゃいました。」
そう俺が言うとディオン王は、メイドさんのレイラをチラッと見た。レイラは「嘘はありません。」と一言答えた。
「その人の名前は?」
「名前は…、確かレンと言っていたと思います。」
「レン?レンだと⁉名字は?」
「名字は無いと言っていました。」
「うーむ…。」
ディオン王は腕を組んで唸った。
「服装はどうだったか?薄汚れていて、茶色のマントを羽織っていなかっただろうか?」
茶色のマント…?ああ、確かに羽織ってたな。
「はい、羽織っていたと…思います。」
俺をすんなりと裏切って金目のもの…そう、翻訳機を取られて、俺を負傷させてトラルに俺を襲わせる様にさせて逃げたやつだな…。女性目的で俺に近づいたんだ。俺を女性と間違えて助けた。
「なるほど…ならば可能性は高いな…。」
…何か引っかかる…。なんかこの状況がおかしい様な気がする。
「君と接触した男はある重罪を犯して指名手配されていた男だった。が、先日の大爆発で遺体として発見された。本来物理的な大爆発…つまり火薬等を用いた場合なら人間の身体は完全に焼かれて炭となるはずだ。しかし、今回見つかった遺体では、腹部を貫通した大穴が開いていた。」
成程…その容疑者を探しているのか…。つまりもし、今回の大爆発を起こした犯人が見つかったとしても重要ではないのかもしれないな…。この国の法律が一体どの様になっているかは知らないが、きっと爆発を起こした人はそこまでの罪には問われないんじゃないのかな…。
「君が爆発を起こした可能性が低いとの事を踏まえて君に言うのだが、レンを殺した実行犯と爆発を起こした者はおそらく違うと思われる。」
「なるほど。」
…そうなのか…。俺と考えが違った。それにしても本当に何だろ…?この違和感は…。なんか今普通に会話が成立出来ている事が凄く不思議に感じるような…。
…???待てよ?そういえばなんで俺は…こんなに話せているんだ?なんかおかしくないか?確かレンと最初に会った時は言葉通じなかったよな?
「あの………その…常識的な事を聞いてもいいでしょうか?」
多分またさっきの様に、驚かれるかもしれないけど確認する為にも聞いた方がいいとは思う、レンとのやり取りで思い出した事がある。レンは最初言葉が通じなかった。俺は全く聞き取る事が出来なかったからだ。
だが、リンに貰った小型の翻訳機を使用する事によってレンと言葉を交わす事が出来た。しかしレンに翻訳機を奪われてから、魔物トラルに襲われるまではレンの言葉はやはり分からなかった。そして魔物に襲われた地点とレンとの会話した地点は殆ど同じ地点という事から多分だけど、サウスディープという森内で大爆発までの出来事は起きたと思われる。なのにディオン王とそのメイドさん達とは会話を交わす事が出来ている。特に翻訳機等は使用していないはずなのにな…。
「なんだ?」
ディオン王が俺が質問する事を許可してくれた。正直…ディオン王の声が重く感じた。
「その…、今話している言葉は…日本語…でしょうか?」
「二ホン…ゴ?何だそれは?私達が話している言語についてか?ショウ・アサマが住む地域ではニホンゴお呼ぶのか?」
「はい…。そうです。」
地域というよりはもはや世界すら違うんだけどなぁ…。
「そうか。という事は遠い地の出身という事だな?我々が話している言語は特に名前がついているというわけではなく、ただ『標準語』と呼ばれている。それは、私が治めているこの国だけでなく殆どの国で使用されている言語で、会話が成立しやすいからだ。この国も地方と言えば地方の国でありあまり大きな国とは言えないが、君の様に更に地方に行けばやはり独特の呼び方があると言うのは聞いた事がある。」
うーん…。そうなのか…。なんか凄く不思議に感じるな。レンとの会話では翻訳機を使用しなければ全く話は通じなかったのに今は通じている。それも日本ではなく、別の世界でだ。ディオン王は東洋人の顔ではなく、どちらかと言えばヨーロッパなどのアジア系ではないイケメンの顔をしている。髭がいい感じの伸び具合で無造作には生やしている感じがない。とにかくかっこいい。だからこそ英語すらまともに話す事が出来ない俺の言葉が通じている事に、驚いている。
「すみません…話を折ってしまって…。」
そもそも異世界にいるんだから、こんな事が起こる可能性が全くないとはきっと言えないだろうな。だから俺はたまたま日本語と同じ言葉が標準語となっている世界にこれたという事で納得しようかと思う。というかそうでなければ多分桐山が所属している謎の団体でも、この異世界の人々と話が通じないもんな。あ…いや桐山は桐山じゃなかったか…。まあいいや、頭がこんがらがるので言語については考えるのを止めた。
「いや気にせずともよい。本題に戻るが…」
そう言うと、ディオン王は机に置いてあるカップを手に取って飲み、話を一時中断した。その間メイドさん達は音を立てず立っている為、本当に静かだ。
「君は森の奥地から来たと言うが、何地方だ?私が知っている限りではサウスディープの先はエルフの土地だが…、エルフと人間は共存は出来ないはずだ。それか私の知らない地域がサウスディープの先にはあるというのか?」
どう答えればいいんだ?異世界から来ましたなんて言ったら多分逆に疑われるよな…。
まだヒロインすら出ていない状況ですが、前回の投稿からかなり時間が経ってしまいました。まだまだ長いですが完結させるつもりではありますので、お読みになっている方がいましたら気長にお待ちください…。