1.3絶望の後
2019/3/17に大幅に内容を変更しました。以前読まれた方ももう一度読まれる事をお薦めいたします。
「うわぁ、凄いね~。」
「昨日は凄い音がしたものな。昨日の衝撃音はここから出たのだろうか?」
赤色の髪で長身の男性は言った。
「ん~どうだろうね。確かに拠点からそれ程遠くない距離だし、大きな音は近い距離だったはずだからこれかもしれないね。でも、断定は出来ないね。」
ピンク色の髪をした女性はクレータ内にある地面を人差し指で触ってみる。
「ん~、こんな所にこんな攻撃をする魔物はいたかな…。」
「もしこれが魔物の仕業だとすれば即刻首都に戻り、王に報告しなければならないな。」
「だよねー。集落に結構近い場所だもんね。もしこれ程の被害を起こせるとするなら、早急に討伐隊を編成して退治させる必要があるね。」
ピンクの髪の女性は地面を見つめる。地面は砂が微量ながら残っていた。その砂は中心からウェーブを描く様に円の外側に向かって線を描いていた。
「中心………、ん?」
砂の流れは円の外側に向かって流れている。なら円の中心、つまりこの大きな円状の更地の中心点はどうなっているのか…、そう思ったピンクの髪の女性は中心を見てみると…
「あ、人が倒れてる!」
「何だと、どこにだ?」
「あそこ」
赤色の髪の男性は目を凝らして見てみる。
「…確かに、人が倒れている様だな。流石最上位魔術師だ。」
「目に視力を向上させる術式を入れているからね~。このお陰で何度も君の役に立って来たんだよ~?」
「いつもありがとな。」
赤色の髪の男性はポンポンとピンク色の髪の女性の頭をポンポンと軽く叩いた。
「えへへ」
男性は更地の中心へと歩きだした。女性も赤毛の男性について、歩きだした。更地の中心まではかなり歩きそうだ。
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「ねぇ…助けてよ…。」
「えっ…?」
助けを呼ぶ声が聞こえる。声はどうやら女性っぽい。けれど周りは真っ暗で助けを呼んでいる人の姿は見えない。じゃあ、今のは空耳だったのか…?
「…。」
そもそも真っ暗闇というのが、本当に真っ暗で何にも見えていない。まるで寝ている様に。けれど俺が歩く動作をすれば身体は歩く動作をする。地面をしっかりと踏みしめている間隔が伝わってくる。
「ねぇ…助けてよ…。」
やっぱり聞こえた。さっきの助けを求める声はもっとおぼろげな感じだったが今はもっとはっきりと聞こえた。俺は怖くなった。もう一度周りを見回してみるが誰もいない。足を動かして何か当たらないか確認してみる。
「…」
何も当たらない。まさか…幽霊なんてのがいるのか?
「お、おーい。誰かいるのか?」
怖いが声を出して呼びかけてみる。
「ねぇ…何で助けてくれないの?」
今度ははっきりと聞こえた。目の前から。でも姿は見えない。
「何故助けない…?」
「またそうやって人を殺していくんだ。」
何の事だ?分かるわけない、そんな事。また人を殺す?俺は今迄そんな犯罪を起こした事なんてないぞ?そもそも誰かを憎むなんて事は無いからな。いや…、確かに今迄イジメにあって…そいつを殺したいと思う事はあった。けれど犯罪を犯してしまえばきっと取返しの付かない事になってしまうと思って俺は思いとどまったんだ。だから俺は誰かを殺すなんて事は絶対にいてない。
「そう…。じゃあ覚えてないんだ。君が今迄してきた事とその代償を。そして君がしなければならない事を…。」
「…は?それはどうゆう…」
「君自身が思い出さない限り、この世界の危機はやってくる」
「………………」
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「はっ…」
俺は目を開けた。自分の目線の先に見えるのはかなり豪華な作りの天井だ。近くに窓があって明るい光が部屋の中に入ってきている。
「よいしょ…。」
身体を起こしてみると部屋の全貌が見渡せた。俺は立派なベッドの上で寝かされていた。部屋はそこまで大きい部屋では無いが、中々の豪華なつくりである。まるで地球の世界でのヨーロッパにある豪華なつくりの城の一室みたいだ。
「…なんか凄いところだな…。」
この部屋にはベッドの他に丸型の机と椅子が1セット置いてある。材質は見た目から判断すると木材だ。部屋の床には絨毯が敷き詰められている。
「………。」
それにしても…、意味深な夢だった様な…。でも…夢だもんな。それと現実を関連づけるのはおかしいよな。
「…。」
俺は…小中学校を神奈川県中西区で出て、そこから引っ越して磯高校に進学した時に西湘地区に引っ越して親父とお袋と暮してる。そうだよな…?高校1年の頃はよく覚えている。入学したての頃、俺は他の人達のコミュニケーションを上手く取れず独りになってしまった。そこに目をつけたのが、クラスの陽キャラ集団だ。陽キャラ集団といってもいくつか種類がある。その高校では俺以外は同じ中学出身、同じ地域出身の人が多くいた事からグループの形成は早かった。目をつけられたのはクラスで最も勢力がある陽キャラ集団だった。その集団のリーダとなっていた男はサッカー部のエースだ。その男が俺をいじめのターゲットにしたのだ。最初はなんだったかな…。もう覚えてはいないけど些細な事だったと思う。俺が言い返す事が出来なかったというのもあったかもしれない。けれど言い返せないでいるという事を良い事だと捕らえたらしく、俺はそのグループからいじめられる様になった。よくあるやつは制服を濡らされたり、無理矢理おごらされたり、悪口を言われたりした。2年生の時はマシだったかもしれない。それは俺をイジメていたグループが散り散りになったからだった。その代わり、誰とも俺は関わる事は無かった。3年になり、1年生の頃程ではないがイジメが再開した。1年の頃のグループのリーダが同じクラスになったからだ。1年生の頃程酷いイジメはされなかったが1年生の頃のリーダがいた為、それだけで精神的に来た。確かだが俺は1年生の頃高校デビューをしたいと考えていたんだ。中学の頃は…、あれ…?えっと…中学の頃は…?あれ…中学は…俺は何をしてたんだっけ…。…。俺が出た中学校は中西中学校だよな…?でも…どんな中学校だったっけ…?覚えてない…。待てよ…、小学校は…?どんなところ…だったっけ…。
「…おかしいな…。思い出せない…。」
「お、お目覚めですか?」
黒ベースのメイド服に身を包んだ女性が正面のドアから現れた。ショートカットの髪に青色の目をしている。
「あ…はい。」
綺麗なメイドだな…。中学生くらいだろうか?美少女だ。それにしてもこの世界では15歳くらいでももう働いているのか…。凄いな…。この美少女とは真逆に俺は、ただ高校でイジメられるだけ。バイトもせずに、今迄イジメられたり適当に生きたりと本当にろくな生き方をしてないな。俺は女性と話す回数がほぼ無い為(まあ、桐山秀一は別として考える)、緊張する。
「今ディオン様をお呼びしますね。」
「お、お願いします。」
ぎこちない挨拶を交わすと、黒髪の美少女のメイドは部屋を出て行った。メイドはディオン様と言ってたよな…。この建物がどれだけ大きいのかどうか分からないけれど、多分普通の一般庶民が暮らしている建物ではないよな…。
ガチャ
ドアが開いた。すると髪の赤い男が出てきた。鼻の下に髭を生やしている。髪の色が赤色なのは染めているのかと一瞬思ったがそうではないらしい。その証拠に眉毛、髭共に赤色だからだ。若干の違和感は感じるがそれは、ここが異世界だからという理由で片付く。ところで年齢はと言うと、40代くらいだろうか。背筋はピンと伸びていて隙を見せない立ち方の様にも見える。いかにもベテランの騎士という感じだ。勿論俺は騎士を今迄見た事は無いが不思議とこの男は、騎士の様な風格に見えた。多分高校から家に帰ってよくアニメを見ていたから、その時の騎士像に似ているからなんだろうな。それ以外思い浮かばないしな。
「おぉ、起きたか。三日も寝ていたのだから一体どうしたものかと思ったよ。」
俺を見ると赤い髪の男は言った。きっとこの人がディオン様なんだろうな。
「三日…ですか。」
それにしても三日も眠り続けたのか…。なんかそんなに寝ていた気がしないけど。それにしても…魔物に襲われたところまでは覚えているんだけど…。けれど…そこから先一体俺はどうなったんだ?
「気を失う前の最後の記憶はなんだ?」
「最後の記憶ですか?えっと…、トラルと呼ばれる魔物に襲われたところ…ですね。」
「トラルだと⁉トラルに襲われたのか⁉」
ディオンらしき男は驚きを隠せない様だ。
「よく生還した。一般庶民でトラルに襲われた場合は殆ど殺されてしまうからな…。だからこそサウスディープには冒険者でない限り入れない様制限を設けているのだ。」
サウスディープが三日前にいた森なのか。
「ところで、その……あなた様のお名前を伺っても…。」
「ああ、これは失礼した。名前も名乗らず申し訳ない。私はディオン・ヘイムだ。セシリア王国の王だ。」
え…、マジか…。王?えっとその俺はどうすれば…。
「えっと、その、あ、浅間生です。その…えっと、王とは知らず…」
とりあいず流石にベッドの上にいるのは本当に申し訳ないと思ったので、ベッドから降りた。
「よいよい。そこまでせずとも。少し話を聞いたいだけだからね。」
「…。」
どうすればいいか分からずとりあいずベッドから立ち上がった。身体は特に怪我をしているわけでもなく、手足はスムーズに動く。痛みも感じない。きっと助けてくれた人によって凄い治療をして貰ったからこそ、最早傷跡すら残らずに回復したんだろうな。
「特に何か身体の動作が不自然、もしくは身体に痛みがあるというのはないか?」
少し身体を動かしてみる。腕を前後ろに動かしたり、その場で足踏みをしたりする。
「特になさそう…です」
「そうか、ならば場所を移動して話そうか」
ここは多分寝室だから、客間に移動するという事なのか。それにしても…………………何か違和感が無くないか?だって、俺の話した言葉が特に違和感なく通じてるんだぜ?それだけじゃなく相手が話した言葉も分かる。………マジで寝ている間に何があった…?