1.2絶望と崩壊
2019/3/9に内容を大幅に変更しました。設定が変わっている箇所もありますので、以前に読まれた方ももう一度読まれる事をお薦めいたします。
俺はいつもこうなんだ。こうやって絶望的な状況になってから、こうやっとけば良かったと思う。学校のテスト勉強なんかもそうだ。いつもいつもギリギリまでやらず、慌てて前日にちょろっと勉強しただけで試験に臨む。もちろんそれじゃあ当然出来るわけが無い。だからいつも半分以下の点数になる。提出物もギリギリになってからやる。いつもとにかく行動が遅いのだ。友人を作るにしてもそうだ。初めて教室で会う時、自己紹介はするが、俺は他人から話しかけられるのを待っている。自分から話さない。それ故、誰も俺に話す人はいない。そして、いつの間にかグループが出来ていて、もう俺はその輪の中には入れなくなっているのだ。それでいて結局一独りっちになる。すると、俺が独りぼっちでいる事を利用して、俺を集団でイジメるんだ。グループでいないので、やり返される心配が無いからだろうな。
「もっと友達作りたかったなぁ…。もっと、勉強しておけばよかった。もっと、スポーツをしておけば良かった。そしたら…、逃げれた…のか?」
スポーツをしていれば、例え個人競技だったとしてもそこで仲間意識が出来て、グループの輪の中には入れたかもしれない。そうすれば物を隠されるなんてイジメは無かったんじゃないか?勉強をしていたら少なくとも、バカにされる事は無かったかもしれない。そんな今考えても全く意味のないことばかり頭に浮かんでくる。
「ガルルルル!」
岩の裏、街道の方から岩を周って複数のライオンと狼を混ぜ合わせた様な形をした黒紫色の獣が5頭、姿を現した。先程見た獣と同だ。牙の大きさも相変わらず大きい。だが違うのは、牙の色が変わっている事だ。色が赤くなっている。何か赤い液体を飲んだのだろうか。…。いや、なわけあるか。あれは多分俺の血の様な気がする。目も紫色に少し光っている様にも見える。
「君が今身に着けているそれは、魔術機だよな?そして、君は男だよな?」
レンは俺を女性と勘違いした事については謝る事をせず、そして逃げる手立てについて考えを述べるでもなく、この魔術機について質問をしてきた。
「はい。これは魔術機で、俺は男ですけど…。」
一体どうゆう意味なんだろう?何故そんな質問を今するのか?理解出来ないでいると、すぐに俺の疑問は解決された。
「俺は男には興味無い。女であれば助けた礼に女自身を貰おうと思って俺は助けたのだが、女で無いなら助け損をした。それでもこの魔術機があれば金にはなるか。」
「え…?は…?」
さっきは言葉が分からないなりにも、紳士的な行動を取っていた事はよく分かった。俺は優しい人だなと思ったのに…。
「じゃあな、アサマショウ。」
そう言うとレンは自分の青い短髪の髪をクシャクシャとかきながら、片手は俺の肩にポンと乗せた。
グサッ
レンが肩に手を乗せた瞬間、何かが刺さる音がした。
「ちょっと…待…。っ…!」
突然目眩が襲ってきて立っていられなくなった。俺は背中側にある大きな岩にもたれかかりながらズルズルと、座り込んだ。足の感覚が突然無くなって立っていられなくなったんだ。
「あっ、お…い!」
声も出せなくなってきているが、俺は無理矢理にでも声を出した。レンは、俺が抵抗が出来ないと分かっていると見たらしく、俺が付けていた翻訳機を取った。
「XXxxxXXXXXXXXXXXX.」
何を言ったいるかは分からないが、俺はもう思考すらまともに出来ない状態だ。まるで俺の身体が俺の身体じゃないみたいだ。レンは最初から俺がどちらの性別にせよ、騙すつもりで俺に近づいたんだ。治療術師というのも当然嘘の様だ。手を俺の肩に置いた時に、何らかの魔術で俺の肩を刺して血液中に毒を入れたんだろう。多分「グサッ」っていう音は何かを俺の肩に刺した時の音だ。赤い血が肩から流れ出して地面に到達したらしく、赤い液体が流れる様子が視界に入ってきたきた。かなり深く俺を刺した様で、あまりにも痛いが、身体は呼吸器官も含めて麻痺しているらしく、どうする事もできない。レンは、俺を置き去りにして、街道へ走って逃げて行った。
「……。」
意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が意識が
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「ガルルルル………」
5体の魔物、は一切レンの方向には見向きもせず、ショウを見ていた。血の匂いに反応しているのだ。もう、ショウに逃げ場は無かった。それどころかもう意識までもが闇の中へと落ちている状態だ。毒によって死亡するか、トラルに殺されるかのどちらかしか無い。
「…」
その様子をリンは上空から見ていた。上空から見ると街道は木々が伐採されているのでよく分かるのだ。何に乗って飛行しているのかと言えば、飛竜である。コズモスの世界では移動手段として飛竜が使われる事が多い。尚、コズモスでは人々に厄災をもたらすドラゴンと飛竜は区別されている。ドラゴンは伝説の生き物ともされているが、人々に地獄をもたらすものともいわれている。対して飛竜は、小さいながらも飼っている人に対して誠実な生き物として人気が高い。その上種類が豊富で大抵の飛竜は高額で売買される事が多い。上空は地上よりも風が強く温度もかなり低い為、リンは厚手のコートらしきものを着ている。
「…」
(こちらからはアサマショウの様子を把握する事は出来ないが、まあピンチになっているだろうな。さっき逃げた男、おそらく指名手配中の盗賊のリーダーだな。何であんな奴がここにいるかは分からねぇがまあどうでもいいか。それよりもアサマショウの正体を見る方が重要だ。)
「…ん?」
リンは異変に気付いた。岩が淡い光を帯びている事に。岩というより周りが、だろうか。
「なっ、これは…やべぇ!」
リンは飛竜に指示を出して、急速にショウのいる場所から離れた。すると数秒後にある一点が黒に近い紫色の光を放った後、大きな爆発が起こった。
ドコォォォォォン!!
大きな音がしたかと思うと、衝撃波だろうか…、強烈な突風がリンを襲った。
「がああああああああああああああ!」
リンは飛竜と共に突風に飲み込まれてしまった。飛竜は元々空を飛ぶのは得意ではあるが、この突風はいとも簡単に飛竜のバランスを奪った。突風の持つエネルギーがとても強いという事だ。
「アイツ…、とんでもない魔力と質を持ってやがる…。これじゃあ、まるで…。」
リンはすぐさま飛竜に回復魔法をかけた。飛竜は意識を失いかけていたが、回復魔法と覚醒魔法を施す事でなんとかバランスを取り戻した。
「これは…、本部に報告しないとな…。」
リンはそう言いながら、ショウのいた方向を振り返ってみる。
「なっ…。」
リンは驚いて目を見開いた。森がリンを中心点として、半径1km程吹き飛んでいたのだ。つまり、大きなクレーターの様になっているという事だ。その中心にショウは立っていた。
「まさか……!」
ショウの姿を見たリンは衝撃を受けた。自分の見ている視界のものは、本物であるかどうかを確かめるべく目をこすって、もう一度見てみる。
「あれっ…。」
ショウは、パタンと倒れていた。
「気のせいか…。」
(どちらにせよ、これは報告するべき事項だ…。もしかしたら、もしかするのかもしれないからな。)
リンは飛竜が飛ぶ方向へと身体の向きを戻して、飛竜に指示を出した。
「飛ばすぞ」