0.2ショウ初めて魔族と対面
「…。目の前の状況が理解出来てないだろ?ショウ・アサマ」
秀一とミユはそれぞれ森に散ったので、今残っているのはリンという長身の男性とショウだ。
「…。」」
あまり知らない人と話すのが得意でないショウは、言葉は発さず頷いた。今の状況が理解していないのは本当だ。そもそも異世界というワードが出てきた時点で常軌を逸している。
「だよな…。急に異世界と言われても分からないよな…。」
どうやらリンはショウの反応を予測していたようだ。つまりそれは他にも前例があったという事なのだろうか。
「他に…前例は…あったのですか?」
ショウは恐る恐る聞いてみる。やはり初めて会ってから数十分も経っていないという事もあって、タメ口は流石に抵抗があった。よって敬語に戻した。
「タメ口は止めてくれって言ったろ?なんかショウ・アサマと俺との間にデカい壁がある様な感じがして嫌なんだよ…。ったく、大体向こ(・)う(・)の世界からやってきたヤツはそうだよなぁ。もう少し心を開いてくれてもいいんだがな。」
森の中で、茂みをかき分けながら進む。先程、ミユと秀一と別れた場所から離れて見通しの悪い森の茂みの中をショウとリンは歩いている。
「前に来た人は、元の世界に戻る事は出来た…?」
ショウは、ぎこちなくではあるがタメ口で質問した。その間にもズンズンと二人は森の茂みの中を進んでいく。ショウはリンの後をついていくのが大変だった。それだけでなく出来るだけ音を出すなと言われている為、慎重に動くとおいて行かれる。
「ああ。それは全く問題ないぜ。それこそ前例はいくつもある。数え切れない程な。そっちの世界の科学技術によって、空間転移装置が確立されてから3年。転送が失敗して人が亡くなったという情報は、今まで一度もないそうだ。」
その情報を聞いて、ショウは歩きながらも安堵した。自分は元の世界に戻れるという事を、確定したというわけではないが、言われたその言葉を頭の中で巡らして自分を安堵させた。
「そう…なんだ。ところで、リン…さんはどこに今向かってるんですか?」
多分聞いても分からないというのはショウも分かっているが、自分が自分の家に帰れるという思いになった今、話を振ろうとして話しかけた。
「今はな、この森の端に向かっているところだ。来るはずもない後ろから、敵が来たら相手がどんな反応するかは、どんな馬鹿でもわかるだろ?」
「…。はい。」
作戦としては、敵が入り込んできている今、敵の視界をかいくぐって森の入り口まで向かう。そこから、森中央にある街道に出て敵を打つ。かなり簡単な作戦の様にも見える。しかし…。
「問題は後ろまで敵に気づかれずに回れるかだな。まあ、作戦なんぞ立てなくても倒せるいえば倒せるのだが…。」
リンは、後ろについてきているショウをちらっと見た。リンは今迄、違う世界から迷い込んできた人達を元の世界に返した事例がいくつもある。だが、返せなかったこともあった。自分が巻き込んでしまった戦いの中で死なせてしまった事があったのだ。だから、対象者の安全の確保にはとにかく力を入れるようにしている。まずは、気配、人特有のにおいを消す高等魔術の消人と呼ばれる魔術をリン自身とショウにかけている。この魔術は、術者自身の魔力をかなり使用するという点、また一瞬でも気を抜いてしまえば術の力が弱まってしまう欠点がある。だからこそ安全には第一で意識しなければならない事ではあるが、スピードも重視しなければならない。
「敵には絶対に魔物を統括しているヤツがいるはずだ。全て本能のままに生きる下級の魔物のみの集団というのは、聞いた事がない。それに理性があるゴブリンやオークとやらの魔物もいるようではあるが、それらの魔物のみの統括ではここまでの規模の集団にならないはずだ。獣の類の魔物を思いのままに操る為には、術をかける必要がある。その術には膨大な魔力が必要だ。」
素早く歩いていたが、リンは突然立ち止まった。リンはショウに向かって手を使って『止まれ』と合図した。
「…しゃがめ…。速く!」
小声ながらも緊迫した様な声に、ショウはすぐさま従った。リンも同様にしゃがんだ。出来るだけその身体を小さくして敵に気づかれない様に。
茂みがざわざわする音が聞こえてきた。かなり速いスピードだ。生は息でさえ出来るだけ小さくする様に考えた。出来るだけ小さく縮こまっていよう。そうすれば見つからないはずだと思った。
ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ
「バゥ!バゥバゥ!」
低い声でまるで犬の様な鳴き声が突然激しく聞こえる。丁度茂みの向こうだ。バレたのか?でも何も音を立てていないはずなんだけど…。前方にいるリンの方向へと視線を向けた。しかし、いつの間にかリンはいなくなっていた。
「どうだ?匂いしたか?……そうか、人間の匂いがするか。リースさん!どうやらこの近くのようだ!」
「おお!そうか!じゃあ俺らはそこを重点的に調べる。万が一襲われる危険もあるから気をつけろ!グリス達もしっかり動かせよ!」
数多くの足音がする。生を見つける為に匂いのする周辺に魔物が集まってきているのだ。しかし幸いな事にどうやらまだ見つかってはいないらしい。だが安心はしていられない。このままでは見つかるのは時間の問題である。間違いなくここを移動すべきだ。ただ移動するという事は足音がしたり、草むらをかき分けたりする音で見つかってしまう可能性が高まる事でもある。生は心臓の鼓動が早くなるのを感じた。また、全身から汗が噴き出してくるのも感じた。
「…………!。」
正直に言って生は絶体絶命といえるほどの崖っぷちに立たされている状況になっている。このまま見つかってしまうならばいっそ動いた方が…。
「ぐぁ!」
ドサッと声の後に何かが倒れた音がした。その後もまた…
「何だ?おい、どうし…。」
ドサッ ドサッ ドサッ…
ドン!ドンドン!
何度も何かが倒れる音が聞こえた。生を探している魔物、魔人の声が聞こえなくなっている事から誰かが倒しているという事になる。先程突然いなくなったリンなのだろうか。少なくとも絶体絶命という生にとって危機的状況は、脱したという事は分かった。
「はぁ…、良かった、マジで助かった…。」
生は安堵でため息が出た。魔物という言葉をゲーム以外で始めて聞いたが、ゲームでは敵キャラだった事もあって絶対に見つかってはならないという事は分かっていた。でもそれだけじゃなかった。生は自分の手を見てみると、小刻みに震えているのを見た。草の茂みから見えた敵を見たからだろうか。それとも、本当に魔物というものが存在したという事から、いつもと違う出来事を味わえた新鮮味に対しての喜びの震えだろうか。そんなわけないと生は思う。これは、目の前にいた魔物に対しての恐怖による体の震えだ。
「終わったぞ。もう出てきて大丈夫だ。」
ザッザッザッと足音が近づいてきた。その音と共に聴こえてきたのはリンの声だった。生は隠れている木々と少し背が高い草むらの中から立ち上がった。自分の安全は確保された。それは良かった。これで生は自分の元いた世界に帰れると思った。自分の家へ帰ろうと思った。しかしそんな事は周りの光景で一気に吹き飛んだ。
「うっ………。何これ…。」
生は周りを見渡した。あまりに酷い状況だった。魔物が至るところで倒れているのだ。それ程大きな音がしなかった事からそこまでリンと魔物、魔人は殺しあわなかったと生はみていたがリンが一方的に倒していたのだ。いくら敵とはいえ死体を見た事が無かった生にとってこの光景は刺激が強かった。身体に穴がポッカリと空いた死体、目に紫色光る大きな棘の様なものが刺さった死体、下半身と上半身が完全に真っ二つに切れている死体、首から上が無い死体など様々だ。犬型、ゴブリン型、オーク型…生には正式な名前など分からないが正にそのような魔族なのだろうという事が分かった。そして、どの死体にも共通するのが血の色である。血の色は全て人間と同じ赤だったのだ。そしてリンには魔物と思われる返り血が服に大量に染み付いて服自体が変色していた。そして、臭いが強烈だ。その臭いによって生は吐き気を促された。
「う、うぇ、うぇええええええ」
胃に入っていた物が逆流してきて口から吐き出される。口の中が酸っぱいと生は感じた。
「…どっちが魔物だよ……。」
生は小声でリンには聞こえない様、ボソッと呟いた。生には、今のリンは人間では無くバケモノに見えた。
完成して見てみるとなんか薄っぺらいですね。
勉強しながら次の話も書いていきたいと思います。