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006. 勇者様御一行の入国 - Ⅳ

 5人はしばらく取り留めのない会話を繰り広げて酒を楽しんでいた。


 ベラが早々に酔いつぶれ、アリシアも段々と行動と発言が怪しくなり、ネリーはよほど口に合ったのか、同じ酒を何度も注文して黙々と飲み続けている。

 三人娘がそれぞれ自分の世界へと旅立っていったのを確認したクロドは、ようやく優斗に本題を切り出した。


「どうして、この国に来たんだ?」

「……実は、この国の王様に会っておこうかと思って。三人に聞いたら、この辺で一番大きな国がここだとか」


 優斗も随分とハイペースで酒を飲んでいたため、酔いの方は回っていそうであったが、まだ意識がはっきりとしていて、クロドの質問に対して正直に答えている。


「ふぅん、王様に会ってどうするんだ?」

「……えと、これも三人から聞いたんですけど、この世界には昔から魔族が住んでいるんですよね」

「あぁ、ここからかなり北へ行ったところに魔族達はいるぞ。今もあそこ一帯は、一般人の立入禁止区域に指定されている」

「魔族は生物の生命力と魂を(かて)とするため、はるか昔から人間達に何度も侵略戦争を仕掛けてきていて、そのいがみ合いは今も続いていると聞きました」

「……ふむ、それもあっているな」

「だから、僕が皆の代わりに魔族達を退治しに行こうかと思って、その前にまずは一言挨拶しに来たんです!」

「…………お、おぅ」


 クロドは、優斗の荒唐無稽(こうとうむけい)な話にたじろいでしまった。

 

 クロドも魔族とは何度か出会ったことがあり、その強さはよく知っている。

 すべてを破壊する圧倒的な力、無尽蔵と思えるほどの膨大な魔力、末端の部下ですら死を恐れぬ忠誠心と統率力。

 どれをとっても魔族は人間達を凌駕(りょうが)するものを持っており、人間側が勝っていると言えるのはせいぜい数くらいである。

 そんな化物連中を目の前の子供が退治すると言い出したのは、笑いを通り越して憐れみすら覚える思いであったが、すんでのところでクロドはそれを表情に出すのを我慢した。



「優斗は凄いんだよ~っ!!」


 クロドと優斗の会話に、突然アリシアが割り込んできた。


「強力な武器と、無敵の防具を持った、最強の勇者様! それが、私の優斗ぉ~♪」

「わっ! ちょっと、アリシア!」


 そう叫びながら優斗に後ろから抱きつくアリシア。

 優斗も口では抵抗する態度を取っていたが、照れた表情からはそう感じられない。

 目の前でイチャつく二人を見てクロドは怪訝(けげん)そうな顔をするが、気にしない素振りをしつつ会話を続けた。


「最強ねぇ……、お前がそこまで強そうには見えないが」

「いえ、まぁ確かに、僕は武器と防具のお陰で強いんですけども」


 優斗の謙遜(けんそん)なのか自慢なのかよくわからない返事にクロドは適当に相槌を打つ。

 そこに酔ったネリーも会話に参加して、優斗の武勇伝を語り始めた。


「この国に来る間にも盗賊集団に襲われましたが、優斗さんが一人で全員倒してしまったんですよ~。その前も、たまたま寄った洞窟内で、すごぉく大きなオークに遭遇しましたが、それもあっさり倒していました~」


 完全に酔っ払っているアリシアの言葉は誇張(こちょう)が入っているのではないかと疑ったが、ネリーから離される優斗武勇伝はなんとなく事実そうである。

 そして、それを聞いたクロドは眉がピクリと動いた。


「そいつはすげぇな。……で、戦った後、ソイツらはどうしたんだ?」

「えぇ。逃がすとまた別の旅人が襲われると思ったので、その場で殺しましたよ。これで南への旅路は少し安全になったと思います」

「……なるほど、ね」


 優斗はその後も自慢気に盗賊集団とオークとの戦いについて語りだし、アリシアとネリーが熱心に相槌を打つ。

 それを聞いていたクロドは酒を口に含み、口内で何度か噛むようにかき混ぜて一気に飲み込んだ。


「……"正当防衛"ってやつか」

「そう、それです! 僕も女の子達を護るために手加減できなかったから、やりすぎちゃった部分もありましたけど、まぁ仕方ないですよね」


 優斗の言葉を聞いたクロドの眼から光沢が消え、少し虚ろ目気味になっていたが、薄暗い店内では誰一人気づかない。

 クロドは心中を悟られないよう、声だけはいつもの調子で話し続けた。


「もちろん、"正当防衛"だ。こんな危険な時代、自分の身は自分で守らなきゃならねぇからな」

「そうですよね。……あと、この国に来た時も門番達にもついやっちゃいましたけど、これも"正当防衛"ってことで良いですよね?」


 クロドの顔が少し引き()り、身体中の筋肉が少し膨張するが、それでも感づかれないよう必死に取り(つくろ)う。


「……あぁ、そうだな」

「よかったぁ! いえ、ずっと心残りだったんですよね~。僕達は襲われたから反撃しただけなのに、アレのせいで王様に会えなくなってしまったら、どうしようかと考えていたんですよ~」


 ケラケラと笑いながら優斗はクロドに話しかけていたが、クロドの方は木樽ジョッキを持った手が震え始め、今にも割らんばかりの力で握っていた。

 クロドは呼吸が少しずつ荒くなり、表情はかなり険しくなっている。


 そのクロドの様子にようやく気づいたネリーが心配して声をかけようとした時、突然、店の扉が勢い良く開かれた。

 クロドと優斗は反射的に扉の方に顔を向ける。



 扉が開いた店の入口には、アルスとクロド配下の部下数人が立っていた。

 全身に鎧を着込んだ重装備で、いずれも辛辣(しんれつ)な顔つきをしている。そして、先頭に立っているアルスの手には、クロドのハルバードが握られていた。


 アルスはそのまま店内を見渡す。

 店内は、いつの間にか他の客が居なくなっているばかりか、店主の姿も見えない。

 クロドと優斗達以外の人間が居ないことを確認したアルスは、そのまま部下達を連れてクロドの元へと近づいていった。

 その姿を、クロドは憑き物が落ちたような表情で眺めている。


「……クロド隊長、外の準備が整いました。店内の方は店主が機転を利かせたようです」

「おぉそうか。わざわざここまで来てくれてありがとな」


 クロドは椅子から立ち上がり、アルスの持っていた自分用のハルバードを受け取る。

 その様子を優斗達はポカンとした顔で眺めていたが、今から何が起きるのかつい気になってしまい、クロドに言葉をかけた。


「……あの、クロドさん、これから何かあるんですか?」


 クロドは優斗の方を向き直し、その問いに対して静かに答えた。


「あぁ気にするな、お前の処刑が始まるだけだ」


 クロドはそう言い放つと優斗の襟首(えりくび)を掴んで片手で引っ張りあげ、そのまま店の扉めがけて全力で優斗を放り投げた。


「……えっ!?」


 理解が追いついていない優斗は、なすがまま宙を舞う。

 そのまま身構える暇もなく扉に思い切りぶつかり、盛大に扉をぶち壊しながら店外へと投げ出されていった。



「キャァァァァァァァァ!!」


 ネリーが甲高い悲鳴を上げ、騒ぎで起きたベラが気怠(けだる)そうに顔を上げて周りを見回す。

 アリシアの方は目の前の出来事が理解できなかったのか、唖然としているだけだった。

 そして、アルスや他の部下達も少し驚いてクロドの方を見ていた。


「クロド隊長……、その、待たなくて良かったのですか?」

「あぁ、後でシロイに怒られるかもしれないが、今回の奴は俺直々に手を下さなきゃ気が済まないからな。

 お前達はそこの三人を拘束しておけ。話を聞いた限りだと、異世界人じゃねぇから丁重にな」

「ハッ、了解しました。一応の確認ですが、酔いの方も大丈夫ですか?」

「……こんな不味い酒席じゃ、酔えるもんも酔えねぇよ」

「余計な心配でしたね、失礼いたしました。……御武運を」

「あぁ、任せろ」


 そのままクロドは優斗の後を追って、外へと向かっていった。


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