嫌いだった雨
季節外れの短編です。
「はぁーっ、また今日も雨か」
ザアザア音をたてて降り続ける雨に思わずため息が出る。
季節は梅雨、毎年この時期が来ると、雲はいつも以上に空に出勤し、社畜万歳と言わんばかりに働き、過労の汗を地上に落としていく。
雨は嫌いだ。雨が降るとサイクリングには行けないし、友達と外で遊ぶことも出来ない。そもそも雨が降ると気分が落ち込み、なにもしたくなくなる。
面白いことに、雲が働けば働くほど、俺は動かなくてもよくなる訳だ。
雨が降って、家ですることと言えば勉強やゲームだ。勉強嫌いゲーム大好きな俺だから、自ずとやることは決まってくる。
ゲームをやっていると虚無感に襲われることがある。特にこの感覚はゲームクリア後に顕著に現れる。これを何度も経験することで大人になることが出来ると考えてしまうのはきっと雨のせいなのだろう。
雲は休むことを知らず、雨を降らせ続ける。雨は嫌いだ。でも雨が降ることで喜ぶ人や生き物がいると思うと不思議な気持ちになる。
カエルはいつも以上にゲロッゲロッと喜びの合唱を行い、農家の人は川に水が補充されて喜ぶ。
そう考えると雲の労働も無駄にはなっていないのだろう。
「……少しぐらい勉強頑張ってみようかな」
雲も必死に働いているのだ。自分も少しは頑張ってみようという気持ちになれた。
誇りを被った本を久しぶりに開き、ペンや消しゴム、ノートなどを準備して雨音のBGMを聞きながら勉強をはじめる。
数時間の勉強を終え、ふと窓を見ると雨が止んでいた。
家の階段を降り、玄関に向かう。外用の靴を履き、外に飛び出した。
雲によって隠れていた太陽は顔を出し、道に溜まった水たまりは太陽の光を反射して輝いている。建物の向こうでは七色の虹がかかっていた。
見慣れた風景のはずなのに、そこはまるでファンタジーのような世界だった。それほどまでに幻想的で美しい世界が広がっていたのだ。
嫌いだったはずの雨も気づいた時には好きになっていた。
今年の梅雨も終わり、暑い夏がやって来る。
雨のBGMっていいですよね♪