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第三話 魔力の思わぬ働き

最近、何かと私の近くにいる、耕太の飼い犬あやめ。

どこに行くにも絶対ついてきては、じっと見つめてくる。

・・・これが耕太ような一般人からすれば可愛らしい行動なのだろうが、今の状況は正直迷惑極まりない。何しろ動物語をかたっぱしから叩き込んでいる私にとって、ずーーーっと話しかけられているのと等しいのだから・・・。


『あんたはご主人にとってのなんなのさ?』

「はぁー・・・、あのなぁ、いい加減にしてくれないか、あやめ」

『だったら早く答えてくれないかな?』

「そんなこと言われてもな、別にやましいことなんてないから安心しろ」

『本当かねぇ・・・』


まぁ、こんな感じの会話をここ二日くらいしているわけだが、さすがにやめてほしい。

確かに耕太のことは、その、特別に思っているが、そんな浮ついたものではなく、あくまで命の恩人としてだ。たぶん・・・。今はよくわからない。

・・・ってそうじゃなくてだ。今大事なのはあやめのことなのだ。なんだか最近動物語以外にまだまだ稚拙だが、人の言葉のようなものが聞こえる気がする。おそらく、人の言葉を理解しているのではないだろうか。耕太も「なんだか最近あやめに話しかけた時、返事する割合が増えた気がするんですよねぇ」とつぶやいていたくらいだ。

私がいた世界にも、人の言葉をしゃべれる動物やその進化系として存在している獣人がいる。

しかしそれは、生まれた時からそのようになっているため、あやめのような普通の犬がしゃべりだすことはまずない。

けれど今こうしてあやめは人の言葉をしゃべりつつある。どうなっているのだろうか。

そんな疑問を浮かべながら、また一日を過ごすのであった。


***


≪同日、午後十時≫



「あやめは俺のこと好きか?」


俺はあやめに唐突に問いかける。あやめはしっぽをぶんぶん振りながら「わん!」と答える。

・・・うん、おかしいなこれは。なんでかって?そりゃあこうして話しかけて、意思のある返事が返ってくるし。

思えばカーベラさんが来てから何か違うような気がしてきた。俺以外にほとんど懐かないあのあやめが、いつもカーベラさんにくっついて過ごしている。


「はて、どうなってんのかねぇ」


と、ぼやいた俺にあやめは「くぅん?」と、首をかしげていた。


「まぁそんなこと考えても仕方無いし、寝るかな。おいであやめ!」


考えることを放棄して睡眠を優先した。だって意味が分からないし・・・。

最近はカーベラさんにところにつきっきりだったあやめと三日ぶりに一緒に寝る。


***


「なんだ・・・これ?」


起きてみれば布団に違和感、めくってみれば少女がいるではないか。そして全裸である。

なんでだよっ・・・!!この一晩で何があったんだよっ・・・!!


「おーい、あのー・・・起きてくれますかね?」

「・・・ふえぇ?」


呼びかけに対して夢と現実の狭間にいながらも返事をしてきた。

この少女は頭に耳があるし、チラッと見えたが尻尾も確かにあった。

・・・いや、何この子?

よく分からんがこういうことはガーベラさんに聞いてこようか。

また夢の世界へダイブしてしまった少女をそっと退かし、カーベラさんいる部屋へ向かう。

ノックしようかと思ったが、寝ているところを起こしてしまっては意味が無いので、扉をそっと開けて、


「カーベラさん、起きてます?」

「あぁ、起きてるぞ。変な気配を感じたのでな」

「・・・さすが王国一の騎士ですね」


カーベラさんが言う変な気配をってのは、きっと先程俺のベッドにいた少女のことだろう。


「言っておくが、耕太が思っているような物騒なものではないぞ。理由は知らんが獣人の類いだな」


思考が読まれてたみたい。


「獣人・・・?」

「うーむ。私が過去に聞いた話と私の予想なのだが、おそらく私の中にある魔力を吸収して姿が変わったのではないか?」

「ちょ、ちょっと待ってください!誰がカーベラさんの魔力を吸収したんですか?」

「いやだからあやめが」

「え、あやめが!?」

「あー・・・すまん。気付いてるものとばかり考えていた。あやめが私の魔力を吸収して獣人化しているんだ」

「それはどうしてです?」

「さぁ?」


二人で頭をかしげていると話し声で起きてきたのだろう、先程の少女がいた。


「お前・・・あやめなのか?」

「うん」


ちょまじかよ。


「どうして獣人になったんだ?」

「あやめはなりたくてなったの」

「「はい?」」


更に首をかしげる。なりたくてなっただって?


「前からずっとこーたと話したいっておもってたの」

「それが私の魔力を吸収して獣人のなった理由ということなのか?」

「そうだよ」

「でもなぜ私の近くにいれば獣人になれると思ったんだ?」


ごもっともな質問を聞くカーベラさん。確かにそうだ。


「なんかそんな気がしたからかな。よくわからない」

「なるほど」

「ふっ、でなきゃこの脳内ピンク女の近くになんかいないよ」

「「!?」」


驚きのあまり今度はかしげた首が勢いよくまっすぐになった。

嘲笑うような顔をしてあやめはカーベラさんのほうを見る。どこであんな顔覚えたんだろう?飼い主しっかり躾しなさいよ!・・・あっ、俺か。

そして嘲笑われているカーベラさんは顔がどんどん赤くなっていく。


「だ、誰が脳内ピンク女だ!今すぐ取り消すんだ!さもなければ・・・!」

「だってあんたー。ご主人に看病してもらってからずーーっとご主人のこと考えてるじゃん」

「そ、そんなことはな・・・くはないが。いいや、そんなことない!」

「一昨日なんてお風呂入ってるとき耕太の名前呼びながら一人で・・・」

「わぁーーーー!やめろぉ!もうそれ以上言うな!」


なんか二人で揉めているが、そんなことより大事なのは、


「あやめ、お前は服着ろ」

「えー、そんなこと言ったってあやめは服持ってないし―」

「じゃあ、俺の今着てるやつ貸すから着てろ」

「わーい!ご主人の匂いがするー!」


Tシャツだけで膝上まで隠れたのでまぁいい。匂いを嗅ぐのはちょっとやめてほしいけど・・・。

こいつ、さては最初っからこれが目的だったな。


「・・・いいなぁ(ボソッ)」

「ん?何か言いましたか?」

「いやいや何もー。あは、あはははは」

「どーせうらやましいとか思ったんでしょ?」

「違っ!・・・くはないけど・・・」


なんかカーベラさんに勢いがないような気がするんだが。


「ほぉーれほぉーれ。あははははー!」

「ぐぬぬぅ」


・・・なんか蚊帳の外で悲しい気分になり始めた。とりあえずあやめには服着せたし、問題はないかな。

あっそうだ、朝食作らないと。まさかこの短期間で二人分も量が増えるなんて思ってなかったよ。

また、買い出しに行かなきゃかなぁ。量が増えるし大変だ。


「そういえば、獣人になったあやめってご飯どうすればいいんだ?」

「普通に人と同じで問題ないはずだと思うが」

「えっ?でも、一応元犬だから犬の獣人になるわけだし、ネギとか大丈夫なのかな?」

「獣人は元の動物を人間に進化させたようなものだから、元の動物の身体的特徴以外はほぼ人間と変わらん」


そういうものなのか。まぁ、一安心だな。

冷静になると、とんでもないことなんだなって他人事のように思った。

カーベラさんの一件もあるし感覚がマヒしてるね。完全に。


***


「しっかしあやめが獣人にねぇ・・・」

「本当だな。私はこういうのはずっと嘘だとばかり思っていたよ」


朝ご飯を口いっぱいに頬張るあやめを見ながら、ふと口にした言葉にカーベラさんは同意の言葉を返した。

耳と尻尾がいる以外は人間と大して変わらないんだからなぁ。不思議だよ。

俺があやめを見ていると、視線に気づいたのかこっちを向いて、


「どうかしたの、ご主人?」

「ん、いやかわいいなぁって」


俺が返事をした直後あやめからボフゥっと蒸気が出てきた。

はわわぁはわわぁって府抜けた声であわあわしてる。めっちゃかわいい!!


「何いっちょ前に顔を赤くしておるのだ」

「う、うるさいな!何よ勝ち誇ったみたいな顔して!」

「いやいやそんなんことないさ。ただ、あやめかわいいなぁって思っただけだよ」

「こんなので勝った気にならないでよね!脳内ピンク女!」

「何だとぉ!?」


二人とも両手をつかみ合い、額と額をぶつけ合う。


「「ぐぬぬぬぬぬぬぬ!」」


こんな風に騒がしい生活もいいものだな、と思うけどさすがに勘弁してくれ。元気なのは結構だが、ありすぎるのもだめだと実感したよ。


ちなみに二人の喧嘩は昼食にも行われた。

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