第一話 騎士、出会う
「あぁ~・・・、やっと終わったぁ」
今日、四月八日はこの俺、江本耕太の通う冴月高校の入学式だった。
入学式までの一週間に色々とありすぎて、なんというか疲れと眠気がマックスなんだよな。
「とりあえず今日の晩飯どうすっかなぁ。あ、そうだ、入学祝いに寿司でも買っていこう」
ということで、スーパーで寿司の盛り合わせを買った。
そういえばまだ説明が足りなかったな。家に着くまでに少し説明しようか。俺が今年から高校生デビューするのはもうわかっているとは思うが、それと同時に一人暮らしデビューでもあったんだ。まぁ、一人暮らしに関しては一週間前から始まっていたが。
それで一人暮らしする家って言うのが、俺一人には何というか大きすぎるんだ。
皆が考える高級マンションと思ってくれればそれが正解だ。
そんなところに俺一人が住んでいるっていうわけだ。親のコネってすごいね。感謝しなきゃ。
で、そのマンションがペットOKなので一年前にから飼っているメスのミニチュアダックスフンドのあやめを一緒に連れてきた。
最初は連れてくるつもりではなかったんだが、とんでもないくらいに懐かれてしまっている、離れたら死んでしまうんじゃないかと思うくらいに。だから親からも一緒に行けと念を押されてしまった。
ほんと困ったちゃんだよ、それがかわいいんだけど。
家に帰るとすぐ俺のもとに寄ってくるんだぜ?かわいいって言わないでどうするんだっての。
と、ちょうど家に着いたな。
「ただいまぁ」
「おっかえりぃ!ご主人!」
「お帰りなさい、耕太」
なんで返事が返ってくるって?俺の一人暮らしは一週間前に始まり、一週間前に終わってしまっていた。
どうしてこうなったんだろうね。
もとをたどればその一週間前が問題なんだけど。
***
俺は秋葉原へ行っていた。理由は暇だったからである。
引っ越し先のマンションに必要な家具などを運び終わり一息ついたところで、あやめと共に秋葉原へ散歩に来ていた。
しばらくボーッとしながら歩いていたが、突然あやめが吠え出した。
「どうしたんだいきなり、なんかあるのか?」
あやめが吠える方向は裏路地。えぇ~行くか?できれば行きたくないが、吠えやめる気配がないし・・・。
勇気を出して歩き始める。
(別に何もないのになぁ、あやめ吠えるのやめないしどうしたもんか)
無理やり戻ろうかと思ったとき人みたいなのが倒れているのが見えた気がした。
「なんだろう?」
あやめが吠える方向に見えたので、おそらくここに向かって吠えていたんだろう。
近づいてみたらそれは騎士の格好をした女性だった。でも何でここに?秋葉原だしコスプレイヤーの人が迷ったのだろうか。でも倒れている理由がわからないし・・・。いや、人が倒れているんだ、助けなければ。
「あ、あの大丈夫ですか?」
「うう・・・助けて・・・くれ・・・」
「ッ!?どうしたんですか、何かあったんですか!?」
大変なことが起きているか?この人うめき声あげているし。警察に電話するか。
「う、うう・・・腹がぁ」
「おなかがどうしたんですか?痛むんですか?」
「あぁ・・・腹が・・・腹がぁ・・・減った」
・・・ん?どゆこと?
思考が停止しかけているときぐぅぅっと腹の虫が鳴く声が聞こえた。
***
「いやぁ~、迷惑をかけってしまって申し訳ない」
「まったくほんとですよカーベラさん。怪我でもしたんじゃないかと思ったら、ただの空腹で倒れていたなんて」
「はっはっは。だが、腹が減ったままで戦闘したらダメだぞ!役に立たんからな」
「はぁ、そうなんですか」
おなかが減ってるからとりあえず家にある物できるだけ出したが、どんどん平らげていくよこの人。
とんでもねぇなまじで。知ってるかぁ?六人前は余裕であるんだぞこれ。
・・・明日買い出しに行かなくちゃなぁ。大変だよ畜生。
でも困ってる人を助けれたのは正直言ってとてもうれしいことだ。
あやめにも感謝しないとな、後でおやつあげよう。
で、そのあやめなんだがな、どうもカーベラさんが気になるのか近くにずっと離れないんだよね。
俺以外にあんな行動とるのは無かったのに・・・、なんか妬けちゃうね。別にいいけど。
「もぐもぐ・・・ん?どうした犬、欲しいのか?まぁ、あげないが」
「犬って呼ばないでくださいよ、そいつは・・・」
「へぇーお前あやめって言うのか。誰がつけてくれたんだ?・・・耕太が付けてくれたのか。良い名前をもらったな。はっはっは」
「んん?・・・あれ?えっ?なんでわかんの、ていうかあやめと会話してる気が?」
「何を言っている。騎士たるもの動物との会話は必須だぞ。もっとも犬は一番わかりやすいから誰でも話せるけどな。」
えぇ~・・・そうなんだ、誰でも話せるんだ。
そういえばカーベラさんは王国最強集団のリーダーなんだっけ。正直信じられないけど、目の前であやめと会話してるし(しかも結構楽しそうに)、本当のことなのかなぁ。うーん、どうなのかなぁ。
「それで、あやめとどんな会話してるんですか?」
「ん?あぁ、こいつ自身のこととかお前のこととかな。いろいろ教えてくれてるぞ」
「さいですか・・・。ちなみにどんな感じで?」
「あぁ、そうだな。例えば・・・いや、私の口からはまだ言えないな。でもいずれわかる時が来るさ」
いやいや、あなたが教えてくれなければわかるもくそもないんですがそれは・・・。
まぁ、どうでもいいや。もう眠いし早く寝よう。
カーベラさんは・・・あやめとまた盛り上がってるしほっといてもいいかな。
あぁ~・・・かなり瞼が重くなってきた。今日の疲れがどっと押し寄せてきたかな。
・・・・・・おやすみなさい。
こうして俺は盛り上がる一人と一匹を見ながら眠りについた。