二人の少年
切りむすぶ 太刀のしたこそ地獄なれ たんだ切れ切れ、先は極楽
作者不詳 室町頃の狂歌
1 二人の少年
満月の照らす古城の庭園。つる草の這う城壁を背にして、女魔道師のラミアはスパークアローの呪文を唱え、隣では妹の神官マリナが必死の結界を張っている。古さびれた古城の風雅な庭園に咲く二りんの白百合ごとき、清楚にして可憐な姉妹を取り囲むのは、悪夢の底から這い出たような異形の数々。スパークアローの呪文を唱えるラミアの右手が青白く光り、放たれた電撃の矢が魔物の群れを撃つ。だが、邪悪な呪法に守られた魔物どもには効かなかった。マリナの張り巡らせた結界もやすやすと踏み破られ、姉妹に忌まわしき異形の影が迫る。清楚な白百合の醜悪の手に摘み取られようとする痛ましき光景に、その時、月の怒りの落ちたかの如く、白銀の輝きが舞い降りた。美しき姉妹を背にかばって魔物どもに敢然と立ち向かうのは、ミスリルアーマーの凛とした光輝を放つ長身の剣士。鮮やかに鞘を払った大剣は、月光に冴える刃の魔物どもをもたじろがす神竜のバスターソード。
「おまえは暁のルーンナイト、どうしてここに」
魔物どもの後ろに隠れていた地獄の魔道師が驚きの声をあげる。
「いかに深き闇とても、この世に悪のあるかぎり、この暁は現れるのだ」
ううっ、カッコいいなー
物置のような部屋の窓際で、机代わりの木箱に頬杖ついたマユラは、何度読んだかしれない少年向け冒険小説「暁のルーンナイト」の主人公の登場場面で、一人快哉をあげた。
ここはユーシア大陸西部、アムール州はナブロン平原にある戸数五百ばかりの町だった。隣の町まで数十キロもある集落で、周りには広大な農地が開墾されていた。都市部を遠く離れた未開の土地の開拓には多くの者が力を合わせる必要があり、時に凶賊の跳梁する辺境では、小人数が分散してクラスのも不安がある。そのため、多くの開拓地では、開拓民が集まって町や村を作る。この町もそのようにして作られた町の一つだ。マユラがいるのは少し傾いて建っている倉庫の二階。隅にほこりをかぶった木箱の積んであるだけの、いたくがらんとした部屋だ。おりしも鳴り渡る明朗な鐘の音は、三時限めの始まりを告げる学校の鐘であった。