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アンダーグラウンドの紹介屋

作者: 尚文産商堂
掲載日:2015/07/31

ここは表には出れない人が集う場所。

アンダーグラウンドと聞こえはいい。

だが、その実際はヤクザ、無法者、闇医者その他諸々の、何かの理由で外を出歩けない人らが集っている。

闇の世界、そういう人もいる。

俺はここで紹介屋業をしている。

相談を受けて、誰かを紹介するという人の仲介屋だ。

今日も今日とて、人知れずに闇の人らを紹介する作業が始まる。


「あの……」

周りの視線を気にしているように、きょろきょろと部屋に入ってきたのは、良い服装をしている女性だ。

40代そこそこといった感じだ。

手にはこのあたりでは着けるべきではないブランド物のカバン、服装だって、それなりのブランドであろう。

左薬指に指輪をはめていることから察して、結婚しているだろう。

指輪だって、銀色のような鈍い光沢をしている。

「いらっしゃい」

読みかけていた中古で買った文庫本にしおりを挟み、脇に置く。

木でできたカウンターを挟んで、女性の姿を見つけると、すぐに頭の中で相談の内容を考える。

「本日はどのようなご用件でしょうか」

俺はにこにことしながら話しかける。

俺以外、特にモノが置いていないのは、俺と一対一で話してくれるように誘導しているからだ。

一応椅子はおいてあるから、そこに座るしかない。

「ああ、荷物はこのかごにおいていただけませんか」

そう言って、籐で出来た30cm位のかごを渡す。

カバンをその中に入れると、さっそく俺に相談を持ちかけた。

「実は、ある人を殺してほしいのです」

「ふむ、これまた物騒なお話ですね」

身なりから見て、かなりいいところの家柄だろう。

もしくは夫の家のものなのか。

俺はいつも通りに録音機器のスイッチを入れる。

何かあった時、これが証拠になるためだ。

「誰を殺してほしいのですか」

俺はとりあえず目標を聞いてみる。

「夫です」

「ふむふむ。しかし、またどうして」

「あいつは、愛人を作った上に、私を置いて家を出ていったのよ。この苦しみが分かる?子供もいるっていうのに、あっという間に、あっというま、に」

最後は涙声だ。

同情を誘おうと考えているのだろうが、俺には効かない。

「それは大変でしたね」

しかし、ここは同情するのが一番早い手だ。

俺はそう言って、心にもないことを女性に話す。

「それで、どうやって殺してほしいと」

「……苦痛は求めていません」

「なるほどなるほど。効きますが、愛人の方とはやりとりは?」

「するわけないです。なぜ私の夫を奪った女としなきゃならないの?」

「ああ、これは失礼を。これを聞くのも仕事でしてね」

そう言いながら、一番重要なことを聞く。

「夫を殺すことによって、愛人のところに子供がいたとしても、後悔はしませんか?」

「しません」

そう言うと思っていた。

「とりあえず、それを考えてきて下さい。そうですねぇ」

女性をじっと見て、それから俺は期限を区切る。

「1週間後、また来てください。その時も同じ気持ちでしたら、受けましょう。料金についてもその時ということで」

「……分かりました」

そう言うと女性は憮然とした態度で立ちあがり、かごから無造作にカバンを取り出すと、ほとんど蹴飛ばすようにしてそのまま部屋から出た。

「ふぅ、やれやれ」

俺は息を吐いて、録音を止めた。


1週間後、女性はやってきた。

俺の方も準備を進めており、カウンター越しに女性を迎えた際、男を1人紹介した。

「やはり来ましたか」

「ええ、来ました」

この前来た時と同じ服装、ただ、カバンは頑丈そうなボストンバックになっている。

そして分厚い封筒を彼女の膝の上に乗せる。

「ではまずは紹介料10万、相談料10万、口止め料30万。合計50万ほど戴きましょう」

「……分かりました」

なにか嫌そうではあるが、それでも俺の言い値を支払う。

50万の束を封筒から取り出し、ドンとカウンターに乗せる。

「少し、(あらた)めさせていだたきます」

札を数える機械に、手野銀行の封緘(ふうかん)を外して入れる。

バババッとあっという間に50枚あることが確認された。

「ありがとうございました。こちらの男を、暗殺者として紹介しましょう。腕は一流です。今後は彼と交渉をしてください。なお、金額については彼と相談のうえ決定します。また、その他契約書面を作りましたので、こちらに署名、捺印をしてください。印鑑がなければ拇印でも可です」

その契約書面は、口外しないことや、料金を誠実に払う等、法律や命令に触れない程度の契約が書かれていた。

「……分かりました」

俺が渡したボールペンを受け取り、それから名前と拇印を押す。

そしてバンとボールペンをカウンターにたたきつけ、契約書を俺につっかえしてきた。

これでいいんでしょという高飛車な態度そのものに感じる。

紹介した暗殺者と一緒にそのま部屋から出る。

俺はそれを見届けてから、ボールペンの指紋を慎重に取った。

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