理想都市浮遊島下、糞尿街図書館跡地右の頑固親父の長靴弁当2
今日のメニューは唐揚げのおろしポン酢かけと、小海老入り卵焼き。おひたしときんぴらと煮豆。それと大根の葉を混ぜ混んだご飯。
それを先代から使い続けている長靴を模した簡易容器に詰め混み、いつも通り店に並べておく。
すると大体昼前にはいつもと変わらない顔ぶれがふらりとやって来て、一個二個と弁当を手に帰って行っく。
「ねぇ、毎月の事なんだから、多めに採って保存しておくとかしないの? それか街中で買うとか」
黒頭巾をかぶりながら、ふと××が思い出したように顔を上げる。
「糞尿街の特産品はなぁ、観光客向けに売られてるから高いんだよ。毎日とって来て屋台でもやりゃボロ儲けってレベル。保存で旨味が増すものはするけど、先代が『一年働き通した乗務員に、干し肉なんて食わせられっか。この店はいつでもくれてやるが、魔道列車乗務員用の弁当は毎回その季節の新鮮な特産品を使う事。手は抜くな』ってさ。まぁ、こっちは毎月のことだけど、十二番まである列車はそれぞれ一年かけて世界を回って天空都市に入る。働きづめの乗務員に旨いものをってのも頷けるな」
あまりの弁当を自分のバッグに押し込んだ○○は、紙で包まれた別の何かを××のバッグに詰め込む。
「山菜があればそれと、魚はまだ早いかな……。行ってみてだな。いつも通り、列車が出発する一週間後に合わせて、処理に手間隙かけた方が良いものから集める。今日は主に現場の下見だな」
バッグに詰め込まれた紙包みが気になり、××は話そっちのけでバッグの中をごそごそとあさり始める。
お目当ての紙包みをちらりと覗きこんでみると、溢れんばかりの具材を挟んだバゲットサンドイッチだった。
「私、捨てられるの……? ○○、死ぬの?」
「なんの話だ」
バゲットサンドの包みを両手に、絶望した顔で見上げてくる××に、○○はそう言うことかとすぐに理解した。
「朝、麺だったしおかわりもした。いっぱい贅沢したのに更にパン……」
「今日は巨人のむくろまで行こうと思ってる。体力も使うし、たまには……」
言っていてなぜか悲しくなり、言葉は尻窄みに。
糞尿街では米に比べ、麺やパンなんか多少加工を施された物はほんの気持ち値がはる。
弁当屋を営んでいる事もあり米は常にある為、わざわざパンなんかを買い足す必要もなく、贅沢品だと適当に言い聞かせていた。
しかし、たかが麺とパンが続いただけでこうも絶望顔をされるとは思ってもいなかった。
『贅沢品』ではなく『あら、珍しい』。そう思える程度に頻度をあげよう。そして気兼ねなくおかわりもさせよう。
○○はそっと心に刻み込むと、一人大きく頷いた。
店の中に居ても有袋類タクシーの行き来する音と振動が響いてくる。
昼もまわり、列車の乗客達が食事に観光にと街に溢れているのだろう。
身支度を整え店を出ると、店の前に見知った顔の男が勝手に屋台を広げていた。
「げっ。今日はまだ居たのか……」
屋台で巨大な目玉に尾びれと背びれがついた見た目の魚を焼きながら、男はバツが悪そうに軽く片手を上げる。
「居たよ。自宅だし。そりゃ居るさ」
「ほら、いつもなら列車が来たら昼前には出掛けちまうだろ? へへ」
魚の串焼きを二人に押し付けながら、男は話を反らすように道行く有袋類タクシーに呼び込みをかける。
こんな不気味な見た目の魚だと言うのに、やはりここでしかお目にかかれないというブランド力はすごいらしく、意外にも簡単に客が集まってくる。
「グロい魚こそ美味いんだよー」
「お魚はどれも美味しいじゃん」
「ちょーっと静かにしててねー」
××の言葉を遮りながら、男は集まって来た客に手早く焼き魚を渡していく。
魚が焼ける匂いは昼時にはたまらない誘惑だが、この蒸し暑い陽気、焼いている方は汗だくだ。
次々焼き魚を渡していく男はもちろん、○○と××も額に汗が浮かび上がる。
「後片付けさえしっかりしてくれれば、店先使っても良いから。じゃあ行ってくるわ」
「あ、ちょっと待ち」




