お姫様のクシ
童話を書きたかったんですけどね……。
東の国のお姫さまは、美しいと評判でした。
お姫さまには大切な宝物のクシがありました。
お姫さまは、いつもその宝物のクシで、美しい髪をたっぷりと時間をかけてとかします。
ある時、お城に来ていた西の国のお姫さまが、お姫さまの美しさの秘密はそのクシなんだと思い、こっそりとクシを持ち出しました。
しかし、ごわごわとした西の国のお姫さまの髪は、クシに絡み付いて上手くとかせません。
それどこれか、絡み付いた髪が何本も抜けて、痛くてたまりませんでした。
それでも西のお姫さまが強引にとかしたものでしたから、クシ歯が一本折れてしまいました。
「ええい、こんなクシ、使えないじゃない」
怒った西の国のお姫さまは、ついに窓からクシを投げ捨ててしまいました。
ひらひら くるくる ひゅー ぽちゃん
軽いクシは風にふかれてひらひら舞うと、ぽちゃんと川に落ちてしまいました。
ぽちゃぽちゃ ぷかぷか ざーっざーっ
どんどん流されたクシは、ついに遠い遠い大きな湖まで来てしまいました。
どうにか湖の岸辺に流れ着いたクシでしたが、次は大きなカモにひょいっとくわえられてしまいました。
「よしよし、ちょうど良い物を見つけたぞ」
カモはクシをくわえたまま、湖の反対側までばさばさと飛んでいきます。
たどり着いた先には、作りかけの巣がありました。
カモは、クシを作りかけの巣に差し込みました。
しばらくすると、カモは巣にたまごを生みました。
たまごから孵ったヒナは、元気に飛びはね遊び回ります。
ヒナに踏まれつつかれる度、クシ歯は一本また一本と折れていきます。
ヒナ達が歩けるようになり、クシを残して引っ越ししていきました。
だーれも居なくなった巣は静まり返り、水の音だけがちゃぷちゃぷと響きます。
どれくらい経ったでしょう。
咲き誇っていた花はいつの間にかなくなり、目の回る暑さも収まってきました。
そんな頃、ひとりの男の子がクシをひょいっと巣から引き抜きました。
「よしよし、ちょうど良い物を見つけたぞ」
男の子は嬉しそうにクシを抱え走って家に帰ります。
川を越え丘を越え、辺り一面黄金色の麦に覆われた畑の真ん中に、男の子の家はありました。
男の子は切り株にクシを挟み込むと、すっかり隙間が空いてしまったクシ歯の間に麦を通し、ぐいっとひっぱります。
クシの間を麦が通る度、穂から麦がぽろりぽろりと転げ落ち、クシ歯もぽろりぽろりと折れていきます。
全部の麦を通し終える頃には、クシ歯はすっかり無くなってしまいました。
どれくらい経ったでしょう。
畑から野菜が無くなり、辺り一面真っ白な雪に覆われ、動物達はみんな寝静まってしまいました。
クシは相変わらず切り株に挟まったまま、雪の中で眠ります。
気づけば暖かくなり、すっかり雪もなくなった頃、男の子のお母さんがクシを引き抜きました。
「よしよし、ちょうど良いものを見つけたぞ」
お母さんはクシを庭の、芽が出たばかりの花の添え木にしました。
まだ双葉の花は、弱々しくクシの隣で揺れます。
雨が降る度うなだれていた花でしたが、みるみる大きくなりクシの背丈を抜きました。
大きなつぼみをつけた花は、しっかりとクシを支えに胸を張り、翌日にはそれはそれは見事な赤い花を咲かせました。
すると、通りかがりの男が、クシごと花を摘んでしまいました。
「よしよし、ちょうど良いものを見つけたぞ」
男は花とクシをポケットにしまいこむと、鼻唄を歌いながら馬で駆け出します。
馬が走る度大きく揺れる花を、クシは必死に支えました。
しばらくし男が馬から降りたのは、東の国のお姫様のお城の前でした。
男の差し出した花を見た東の国のお姫様は、すぐに添え木が自分のクシだと気づき、大変喜びました。
花を差し出した男は大切なお客様として迎えられ、ご馳走を振る舞われました。
すっかりみすぼらしい姿になってしまったクシでしたが、変わらずお姫様の部屋の鏡の前に置かれました。
「お帰りなさい。大冒険だったのね」
カモにつつかれたキズ、麦の実が擦れたキズ、暑い日差しで焼け、水で荒れたクシ。
お姫様は、クシについたキズの一つ一つを優しく撫で、クシの大冒険を想像し笑います。
お姫様はすっかり無くなってしまったクシ歯の代わりに、クシにリボンを巻き、変わらず大切にしました。




