10:途中
結局半日がかりでバスケットいっぱいの水草を摘んだ二人は、ひどい腰痛で川辺で寝転んだまま動けずにいた。
「これはキツい。騎士の訓練より堪える。今こそその鎮痛剤が必要な時」
「よっし。王国騎士様に弱音吐かせたぞぉー」
二人ともぴくりとも動かず会話をする。
屈んだ姿勢のまま水草を引き抜くなど、誰がどう考えても長時間やるような作業ではない。
軋む体に鞭打ち、どうにかゴーレムの手に乗るも、ちょっとした振動が辛い。
「冗談抜きで、本当に鎮痛剤が欲しいな」
やはりベルよりはまだ動けているシエルだが、それでも弱音が止まらない。
あまり知らないが、きっと怪我や筋肉痛なんかには慣れているはずの騎士のシエルでさえ、普段使わない筋肉の使い方をしバテバテな様子。
「作ろうと思えば作れますよ。ヴィゴさんに渡した印鑑の要領で、乾燥粉砕抽出圧縮の印があればすぐですから。蜂蜜を混ぜた方が効き目が良いんですけどね。でもこれは鎮痛剤と言うか、筋肉の炎症を抑える薬のが必要そう。絶対明日に持ち越しますよ」
「ああ、絶対明日に響くな。今さらだけど、魔道技師は薬も作れるんだな」
ゴーレムに揺られ帰路につきながら、シエルは今さらながら疑問を口にする。
寝そべりながら水草の選別をしていたベルは、一瞬不思議そうな顔をしたが、成る程とひとり頷いた。
「実家が薬屋なんです。物心ついた頃には薬草探ししてました。実家にいた時は薬草を天日干しして自分で砕いてってやってたんですけど、魔道技師になってからは魔道具で一発なので随分楽になりましたね」
楽しそうに語るベルに相づちを打ちながら、シエルは材料集めも魔道具でどうにかならないのかと言いたくて仕方がなかった。
ようやく店に戻った二人に、やはりヴィゴは随分遅かったと詰め寄ってきた。
もう少し暗くなったら人をやろうかと考えていたと話すヴィゴに、シエルが居るから多少遅くなっても大丈夫だと何度も言い聞かせる。
店ではゴーレムクッキーがまた箱に捺印をしている。
朝まとめて作ったのだけでは足りなかったらしく、あまり手間なら印鑑では無く自動で捺印する魔道具を作るべきかと悩む。
まぁ、ゴーレムクッキーもいる事だし、その辺りはヴィゴから依頼が来てから考えれば良いかと、ベルは軋む体を引きずりどうにか三階へと戻っていく。
部屋に戻るなり、鞄から使い古した印鑑を二個取り出し、鞄と靴はソファに投げる。
一つはシエルに話していた乾燥粉砕抽出圧縮の、要素てんこ盛りの印鑑。もう一つは蜂蜜を混ぜる為の撹拌の印鑑。
この二つを合わせ捺印する時に魔力と設定を付与してやれば、後は放置しているだけで良い。
部屋中を見渡すと、ちょうど良い大きさの蓋付の木箱があったので、適当な紙を張り付け、そこに二種類の印鑑を捺す。
印が赤く光ったのを確認し材料を入れ蓋をし、魔力を注ぎ込む。
すぐに嵐の様なけたたましい音が箱から響き始める。
その音を確認したベルはよしと小さく呟くと、時間を確認しそのままソファに倒れ込んでしまった。
「作ってる間にご飯を食べて、後はお風呂と出来れば洗濯……は、この時間からは無理か。あぁ、その前にシエルさんに筋肉痛の薬を渡すのと、作った鎮痛剤の売り先をどうするか考えないと……。はぁ」
やる事を指折り考えため息をつく。
今日あった事と考えた事を軽くノートにメモすると、ベルは鞄の奥から薬の袋を引っ張り出し、何個か錠剤を口に放り込む。
そのまま袋を手に部屋から這い出すと、部屋の外で壁にもたれるようにシエルが座り込んでいた。
「すごい。こんなに頼りなく見える護衛の人はじめて」
「言ってくれるねぇ。頼りなくなった原因はなんだろうね」
軽口を叩きつつ、ベルはシエルに錠剤を何種類か手渡す。
「筋肉痛と疲労と痛み止の薬です。三十分位で効いてくるはずです。筋肉痛と疲労だけでも十分ですが、もし明日に響いたら痛み止をどうぞ」
一つずつ説明し、これは予備にこれも予備でと、大量の錠剤を取り出す。
なんの迷いもなく薬を飲み込んだシエルは、深く深くため息をつくと、帯刀していた剣を鞘ごと床に置いた。
「この後は? 夕食はどうする?」
「なにもかも三十分後でよろしいでしょうか?」
ベルの返答に、シエルもそれはありがたいと力無く笑った。
驚いたことに、薬を飲んで十分かそこらでシエルは元気を取り戻した。
元気に腕や足を伸ばし調子を確認するシエルに、未だ疲れが抜けないベルは奇妙なものを見ているような視線を向ける。
「魔力がこもった薬だからか、速効性があるな」
「ええまあ、普通の薬よりは効き目が良いとは思いますけど……」
ここまで効果が出たのは始めてみたと、作った本人ですら信じられずにいた。
ちゃんとベルが回復するのを待って夕食に出掛けたが、なんとヴィゴもついてくるらしい。
自分で払いたいので安いお店でと、再三ベルが言っているにも関わらず、ヴィゴは気にした様子もなくとっておきの店があるんだと馬車の準備をし始める始末。
そして相当気に入ったのか、ゴーレムクッキーをつれて行くらしい。
いつか続きを書きたい。




