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ボツネタ供養  作者: 鹿熊織座らむ男爵
22 ゴーレムの原動力は
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6:ゴーレムの手の中からおはようございます

 本当にゴーレムの手の中で寝てしまったベルは、翌朝慌ただしい物音で目を覚ました。

 ぐいっと伸びをしながら一階を確認すると、すでに開店準備の為従業員達が慌ただしく動き回っていた。

 ちゃんと部屋で寝るつもりでいたため、スコーンは粗熱をとるので出しっぱなし、残ったリンゴンベリーもジャムにし損ねた。

 慌てて部屋に戻ろうと二階の窓にしがみつくと同時に、一階の中庭への扉が開いた音がした。

 

「あれ、ベルさんおはようございます。ずいぶん早いですが、ゆっくり休めませんでしたか?」

 

 顔を出したのはヴィゴだった。

 今一番会いたくない人に遭遇してしまったと思いつつ、ベルは朗らかな笑みで挨拶を返す。

 

「おはようございます。いえいえ、すごくぐっすり休めました。ゴーレムに挨拶もしたし、二度寝でもしようかと思ってた位ですよ」

 

 部屋に戻ろうとはしているので、あながち間違ってはいないと言い聞かせる。

 

「ああ、そうそうそのゴーレムさんなんですが、昨日早速見に来た王がいたく気に入ったらしく、このゴーレムさんを買い取るか同じのを作ってくれと言ってきましてね」

 

 二階の窓に手をかけた状態で、ベルはすっとんきょうな声を上げた。

 

「なん、で? 王様って、お菓子が好きなだけじゃないんですか?」

「そうなのですが、やはり立場が立場ですので、珍しいものや政務に利用出来るものなども欲しがると言いますか……。ゴーレムさんは普通のゴーレムと違って性能が良いですし、お菓子を食べるって珍しいですからね。手元に置きたくなったのかと」

 

 昨日店の前に停まっていた馬車はそれを伝えに来たのかと、ベルは歯軋りをした。

 ヴィゴは「無理なら無理で断りますし、すぐに答えを出さなくても大丈夫ですから」と言い残し、再び一階の厨房へと戻っていった。

 世話になっているしゴーレムも置かせて貰っていてお菓子も惜しみ無くくれる。

 はじめての場所で路銀も少ないベルからしたら大変ありがたい事だが、勝手にゴーレムを見せびらかせたり集客に使ってほしくない。

 相手が王だから仕方ないのは分かるが、そもそも早馬で勝手にゴーレムの事を知らせたが故の出来事と思うと腹が立つ。

 わがままだとは分かっているが、どうしてもそこは腑に落ちなかった。

 

 二階の窓に這い上がり、肩を怒らせて三階へと戻る。

 きっと朝御飯を食べていないからイライラするんだ、一度落ち着こうと部屋に戻りキッチンへと向かう。

 昨日のスコーンを無造作に口に突っ込み、コップに移さず瓶のまま牛乳を口に運ぶ。

 店の物には劣るが、手作りのスコーンもそこそこ美味しいと嬉しくなる一方、やはりこの部屋から出た方が良いかと言う考えが頭に浮かぶ。

 しかし、そんな事をしてもヴィゴはせっせと付きまとって来るに違いない。

 もう十分お礼は頂いた。放っておいて欲しいがそれでもヴィゴの気は収まらないだろう。

 呆れられるほど厚かましく頼ってみるのはどうだろうか。

 そんな考えが頭をよぎったが、何をどうすれば良いか検討もつかず、それに単純にそんな事をするのは嫌だ。

 最後のスコーンを口に放り込み、ベルは路銀を改めてテーブルの上に広げてみる。

 この街の一泊の相場は分からないが、経験的に三泊出来るか程度しかない。

 この部屋を出て宿を借りるにしろ街を出るにしろ、まず最初は路銀問題だ。

 鞄からノートとペンを出し、新しいページの一番上に日付を書くと、どうやって稼ぐか案を出していく。

 一番は作りやすい薬を売る事。

 これだけ甘味が溢れた街なら、胃腸薬や虫歯の薬などはいくらあっても困らないだろう。

 その程度の薬ならば、材料も街の外の森を探せばいくらでも見つかる。

 二番は魔道具を売る。

 ゴーレムのように一から作るとなると工房が必要となるが、何かに魔道具としての機能を付加させる程度ならこの部屋でも可能だ。

 しかし、その為にはどういった物が必要とされているか見聞きして回らないといけない。

 手っ取り早く一階の厨房を見に行っても良いが、さすがに仕事の邪魔は出来ない。

 三番はどこかで雇ってもらう。

 一番手っ取り早い方法だが、ヴィゴが何を言い出すか分からない為期待が薄い。

 

 ここまでさらさらと記していき、はたと思い出したように今日あった事という項目を作り枠で囲む。

 その中に「ゴーレムの買い取り。または製作依頼」と書き、買い取りの方に力強くバツ印をつける。

 そして製作の下に線を引き「同じサイズは不可能。最大でも出来て腰丈」と書き付け、ペンを置く。

 朝御飯を食べたからかこれからの事を考えたからか、相変わらず腹立たしいが冷静に考えれるようになってきた自分にほっと安心した。

 

 腹をくくり、ベルは一階の厨房へ顔を出すことにした。

 開店前で忙しいだろうが、邪魔にならないところで遠巻きに観察し、この街のたぶん一番整った設備を見ておきたかった。

 なるべくこざっぱりとした服に着替え、ノートとペンを持ち厨房の扉から覗いてみる。

 予想以上の人数に、ベルは一人二人と数えていく。

 中では二十人以上の従業員が鬼気迫る雰囲気で見事な連携をとり、次々と商品を仕上げていく。

 その雰囲気に気圧され、ベルは扉から覗き込むので精一杯だった。

 充満する甘い香り、無駄口も無く響き渡る作業音と、出来上がった商品を運び出すホール担当者。

 ヴィゴは忙しい時間以外なら厨房を使ってくれと言っていた。

 しかし、開店前だから忙しいのか、そもそも人気店は一日こんな様子なのか分からない。

 一日こんな様子なら、この雰囲気の中少し厨房を貸してくださいなどとは言えるはずもないと、ヴィゴの顔を思いだし顔をしかめる。

 

 気を取り直して、ベルは扉から見える範囲の設備をメモしていく。

 大きなオーブンは一目で分かるほど高価な魔道具製で、きっと温度も庫内の場所によって細かく設定出来るはずだ。

 ボウル等の小物には魔道具は無いが、材料を冷やしておく魔道具や水を引き込む魔道具などは一通り一流の物が揃っていた。

 ベルは廊下に座り込みメモを取り終えると、どうしたものかと小さく唸る。

 もう設備が仕上がった人気店に足りないものなどないだろうと思っていたが、ここまで一流の魔道具が揃っているとは思わなかった。

 さすがお菓子に力を入れた街だと変に感心していると、ふいに背後に人の気配を感じた。

 反射的に見上げると、ヴィゴとシエルが不思議そうにベルを覗き込んでいた。

 

「ゴーレムさん用の朝食ですか? あ、ベルさんの? すぐ準備しますよー」

「違うんです違うんですごめんなさい! ちょっと覗きたかっただけなんですー!」

 

 腕まくりをし扉を大きく開け広げ、中に入っていくヴィゴの腰にしがみつきながら、ベルは何度もすみませんと謝り続ける。

 二人のすぐ後をついてくるシエルは、明らかに笑いをこらえるのに必死と言った様子で、扉のすぐ近くに立ったまま俯いている。

 

「え? 新作を味見していただきたいので遠慮なさらなくても」

「新作最高に楽しみですけど! リンゴンベリースコーンが意味分からないくらい美味しくてびっくりしましたけど! けど違うんですー!」

 

 あの付け入る隙の無いくらい完璧な従業員達が手を止め目で追うほど、二人は異質で大騒ぎしていた。

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