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ボツネタ供養  作者: 鹿熊織座らむ男爵
22 ゴーレムの原動力は
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3:リンゴンベリースコーンは高かった

 店の三階にあるゲストルームは、その辺の宿屋のスイートルーム何かより広く設備が整っていた。

 荷物など斜め掛け鞄一つしかないベルにとって、広すぎて落ち着かない程だった。

 簡単に部屋の案内をしてくれたヴィゴだったが、丁度店が混みだす時間なのか、何度も申し訳なさそうに頭を下げ店へと降りていった。

 そもそも、王に気に入られるほどの店のオーナーが、ベル一人の為にこうして時間を割いてくれていた事の方がおかしい。

 ベルはそのうち広すぎる部屋にも慣れるだろうと、ヴィゴの好意をありがたく受けとることにした。

 

 しばらくし街の散策を兼ねて腹ごしらえでもと部屋を出ると、なんとシエルが護衛をするように扉の脇に立っていた。

 

「シ、エルさん、お城に戻らなくて良いんですか……?」

 

 言いたいことは山ほどあったが、とりあえずこの一言に全てを集約させる。

 

「そう思ったんだけど、ベルに万が一にも何かあったらいけないと護衛を頼まれてね。早馬で城には伝えたからよろしくーだそうだ」

 

 ヴィゴならやりかねない。

 ヴィゴの行動力決断力は見習うところがあるが、シエルを巻き込んでしまったようでベルは申し訳ない気持ちになる。

 しかし、シエルも慣れっこなのか態度に出さないのか、飄々と笑ったまま「と言うわけでしばらくよろしく」とベルの頭を撫で回した。

 

「少し早いけど、食事かい? もし街を見て回るなら時間もかかるし、店で何か手軽なお菓子を買っておいた方がいい」

「ヴィゴさんにバレないようにお菓子を買う任務……」

 

 ベルの言葉に、シエルはたまらず吹き出した。

 ヴィゴに見つかったらお菓子の詰め合わせを持たされる所か、散策用にと馬車や案内人、食事代金や店の予約など全て手配されるだろう。

 シエルもその事は勿論理解しており「いきなり難題だな」と、息も絶え絶えに同調してくれた。

 

 こっそり階段のはじから二階のカフェを見回してみると、広々とした店内にある席は全て埋まっていた。

 一応窓の外のバルコニーにも席はあるようだが、遠目からでも人の姿が見える。

 やはり人気なんだなとさっとパティスリーになっている一階まで降りると、そこも多種多様なお菓子を見て回る客で溢れかえっていた。

 お菓子の種類にもだが、その人の多さにめまいがするほどだ。

 ベルはひとまず、人波を縫って歩き店で一番安いと聞いたリンゴンベリースコーンを探し始めた。

 こそこそとしばらく店内を歩き回ると、ようやくお目当てのスコーンを発見した。

 しかし、山盛りになったスコーンの前に『ゴーレムも絶賛! リンゴンベリースコーン』と言う見出しが出ていた。

 振り向いてシエルを確認するも、知らないと首を振るのみ。

 となれば御者が話したのかと、ベルは小さく笑いながらスコーンを三つトレイに乗せた。

 が、その値段を見て一つ戻す。

 一つ約五百リリル。一番安いと聞いていたがさすが人気店。

 五百リリルもあれば、ベルの好きな豚スペアリブが五本は買えてしまう。

 悩みに悩んだが、ゴーレムも気に入ったスコーン。

 いったいどれ程美味しいのかと興味が勝り、ベルは意を決し二個カウンターに持っていった。

 他の客が山盛りトレイに乗せているのを絶句し見ていると、ベルの顔を知らないカウンターの女性は当たり前だが普通に会計してくれた。

 紙袋に包まれたスコーンを鷲掴みにすると、そのままの勢いでシエルの腕も鷲掴みにし、思いきり店の外に飛び出した。

 

「任務、完了です!」

 

 誇らしげにシエルに紙袋を見せる。

 

「見つからないように、と言うか違うところで格闘してたみたいだけど、ひとまず任務達成おめでとう。ちなみにこの店のラズベリーの葉のお茶と、ローズヒップジャムはおすすめだよ」

「無理です。とてもじゃないけど買えません!」

 

 値段は確認していないが、スコーンより値が張ることは分かる。

 即答するベルに、シエルはそうだよなと納得し、中庭の方を覗いてみせる。

 つられてベルも中庭を覗くと、ヴィゴがゴーレムにいろんな種類の焼き菓子を振る舞っていた。

 いつもならベル以外から食べ物を貰うのは拒むが、ヴィゴとシエルからは貰っておきなさいと言い聞かせておいた。

 もし、ないと思うが万が一お菓子に毒や何かが混入していても、ゴーレムには全く効果がないのでその辺りは安心している。

 嬉しそうにお菓子を振る舞うヴィゴも、嬉しそうに頬張るゴーレムも、どちらも見ていて幸せになる。

 ベルは、あとでゴーレムの表情が少し動くように細工しようと、そっと心に決めた。

  

「すごいな。あれ、数量限定の商品だ。桃と紅茶のレアチーズケーキとシャルロット・オ・フランボワーズ」

 

 その言葉に、ベルはえっと中庭を凝視する。

 ヴィゴの後ろに控える従業員の手には、桃が溢れんばかりに乗ったケーキひと切れと、同じくフランボワーズが溢れんばかりに乗ったビスキュイで縁取られたケーキが一ホール、トレイにのせられていた。

 

「レアチーズケーキとビスキュイって、一応土台は焼いてはいるだろうけど焼き菓子の分類に含まれるのかしら」

「見事な現実逃避だね、ベル」

 

 そもそも、人と違い動かなければ焼き菓子は要らない。

 必要になったら、ゴーレムを動かしたくなったら与えれば良いだけたと言うのに、ヴィゴは惜しみ無くゴーレムに与えてくれる。

 店に出せば飛ぶように売れるのにと、ベルは頭を抱えてしまった。

 

「まぁ、スコーンみたいにゴーレムが気に入ったって宣伝も出来るし、無償で振る舞ったところで痛くも痒くもないんだよ。オーナーが自らやってるんだし、ベルは気にしなくて良いよ」

「そう、みたいですね。そうします……」

 

 これ以上見ていたら精神的に参ってしまうと、ベルはとぼとぼと歩きだす。

 同じものでも、店で買った物よりベルが作った物の方がゴーレムとの相性は良い。

 しかし、動くことのない街中で、しかもお菓子には困らない状況。

 こうなってくると、あとでリンゴンベリースコーンを焼こうと思ってた気持ちがしゅんとしぼんでしまう。

 

「こうなったら今のうちにいっぱい稼いで、ついでにお菓子のレシピも何となく聞いてから旅に出てやる! やる気出て来たー!」

 

 無理矢理やる気を出すベルは、さてと気持ちを切り替え、シエルを仰ぎ見る。

 

「街の区画によって色味が大分違うみたいですが、なにか意味があるんですか?」

 

 今いる辺りはクリーム色の壁と淡いワインレッドの屋根。

 しかし遠目にはカラフルな家が立ち並ぶ区画と、シックにベージュと茶色で統一された区画が見える。

 

「あのカラフルな方は一般的な住宅地で、あっちの茶色の地区は古城前の旧市街。そしてこの辺りは店が立ち並ぶ区域。もし食事をするなら、旧市街かこの辺りになるね」

 

 シエルの言葉に、ベルは分かりやすいと何度も頷いた。

 

「薬や魔道具、小さなゴーレムって需要あるかしら。食材を簡易的に保存しておく魔道具とか、お菓子の食べ過ぎ用の薬とか。売りに行くなら住宅地と旧市街かしら……」

 

 ベルはどうやって稼ごうかと、一人ぶつぶつと話し出した。

 しかし、真剣に悩んでいるとそんな事お構いなしにベルのお腹がきゅぅっと鳴いた。

 思い返せば色々あったせいか、最後に食べたのは夜中に食べた山鳥の葉蒸し焼きだけ。

 情けなく鳴くお腹をさすると、シエルがベルの顔を覗き込む。

 

「どうする? スコーンを食べるか、俺のおすすめの店で早めの夕食にするか」

 

 夕食と言う言葉に、またお腹がくるると鳴った。

 ゆっくりと落ち着いた環境でこれからの事も考えたい。

 その為には、まずは頭に栄養を叩き込まなければならない。

 

「お手頃価格なおすすめのお店希望です!」

 

 ベルはしっかりとそこだけ念押しすると、にこっと笑ってスコーンの入った紙袋を鞄にしまい込んだ。

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