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ボツネタ供養  作者: 鹿熊織座らむ男爵
22 ゴーレムの原動力は
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2:リンゴンベリースコーンがお気に入り

 馬車の荷台に座るシエルが紙袋を取り出すと、何やら中を物色し出す。

 紙袋から手のひらに収まる位の焼き菓子を一つ取り出すと、シエルは馬車の後ろを歩くゴーレムに差し出す。

 ゴーレムは明らかに焼き菓子に反応したが、すぐに自身の手の中のベルに視線を落とした。

 まるで待てをさせられている犬のようで、ベルは思わず笑ってしまった。

 シエルから焼き菓子を受け取ったベルは、改めてゴーレムに与えてみた。

 すると、普段以上に胸元が赤々と光った。

 小さいながらも、それほど贅沢なお菓子だったのだろう。

 

「良いもの貰えて良かったねー。街についたらいっぱい買おうか」

 

 ベルはゴーレムの胸をひと撫でしながら、ぽつりとこぼした。

 

「ははっ。気に入ってくれたかな? この店で一番安いリンゴンベリースコーンだけどね」

 

 そんな様子を微笑ましそうに荷台から眺めていたシエルが、紙袋を指差す。

 紙袋には店名なのかとはっきりと書かれていた。

 そう言えばと、ベルは馬車を見上げる。

 破れてしまっているが、馬車にも同じマークが小さく刻印されていた。

 

「リンゴン、ベリー」

 

 突然ゴーレムがシエルの言葉を復唱した。

 人前で話すのは工房に居た時以来で、シエルよりもベルの方が驚いてしまった。

 

「そんなに気に入ったのか……? リンゴンベリーはこの辺りではありふれた物で、短い夏にみんなこぞって森に採りに来るんだ。街にはいくつもリンゴンベリーを使ったお菓子があるぞ」

 

 シエルの話を聞いているのかどうか、ゴーレムは馬車の後をついて歩いているものの、キョロキョロと忙しなく周りを見渡している。

 しばし無言で辺りを見渡していたゴーレムだが、ぴたりと立ち止まると、馬車を鷲掴みにし無理矢理立ち止まらせた。

 もうすぐ街だと嬉しそうだった御者は、突然のゴーレムの行動に目を丸くし動けないでいた。

 それはシエルもベルも同じで、ゴーレムは硬直しているベルをシエルの隣に下ろすと、がさがさと茂みを掻き分けて行く。

 ゴーレムの動き回る音が響く中、ようやく我にかえったベルが馬車から飛び降りゴーレムの後を追う。

 しかし、ベルが一歩茂みへと足を踏み込ませると、すぐにゴーレムが戻ってきた。

 片手でベルをシエルの横に座らせ直し、もう片手をシエルの前に突きだし広げる。

 そこには、手のひらいっぱいのリンゴンベリーが握られていた。

 

「あの一瞬でこんなに? もう時期も終わりだってのに、凄いな」

「リンゴン、ベリー、スコーン」

 

 ベルが鞄から袋を取り出すと、ゴーレムはリンゴンベリースコーンと何度も何度も呟きながら、大切そうにしまい込む。

 

「スコーンなら日持ちもするし、街に行ったらキッチン付きの宿借りて作ろうか。ジャムにしてパンにつけても良いね。乾燥させてパウンドケーキに入れても良いし、楽しみだね!」

 

 ゴーレムの頭を撫でながら無邪気に妄想を膨らませるベルに、シエルと御者は揃って声を上げて笑い転げた。

 

 半日ほど移動し、ようやく街が見えて来た。

 王都だけあり街の回りは一周巨体な壁で囲まれているが、小高い森からだと街の中がよく見える。

 お菓子の街と言うだけあり、明るい色の建物と多くの看板が遠目から見えた。

 森を抜けた途端、それまで着崩して座っていたシエルがさっと立ち上がり御者台へと移動していった。

 緩めていた首元や手首などをきっちりとしめたシエルは、人が変わったような真剣な面持ちでまっすぐ街を見据えている。

 シエルや御者の語り口やお菓子の街と言う二つ名で、きっと気さくな街なのだろうと思い込んでいたベルは、シエルの雰囲気に飲まれ体を固くする。

 すると、そんなベルの気持ちが伝わったのか、シエルは振り向くと小さくふふっと笑った。

 

「一応王国騎士なんでね、だらっと座って帰還って訳にもいかないのさ。ベルは気にせずそのままで。気難しい街じゃないから」

 

 すべて見透かしたようなシエルの言葉に、ベルはほっと胸を撫で下ろした。

 

 関銭が気になっていたベルだったが、なんと御者の男が門兵にゴーレムの説明をしてくれたついでに支払ってくれたらしい。

 さすがに払うと主張したが、受けた恩はこんなんじゃ足りないと笑ってかわされるだけだった。

 ベルと御者の男が払う払わないと押し問答を繰り広げている間にも、馬車は迷わず店に向かって進む。

 しかし、やはり街中ではゴーレムは異様に目立つようで、行き交う馬車ですらその足を止めて物珍しそうにゴーレムを見上げていた。

 大通りに面した建物は一様にクリーム色の壁に明るいワインレッド色の屋根。

 通りに付きだした店の看板や旗が賑やかにはためくなか、馬車は人目など気にせずまっすぐ店へと向かって行く。

 しばらくし街の中央付近で、馬車が止まった。

 始めて来るベルにも一等地だとわかる場所には、紙袋に書いてあった『トータトータ・ベール』の看板を掲げる店があった。

 同じような作りの他の店とは違い、その佇まいからすでに別格だと分かる。

 店の裏に回り込む馬車に、ベルとゴーレムはどうして良いかわからず右往左往する。

 巨大なゴーレムを店の前に置いておくわけにはいかず、だからと言って裏に回れるはずもない。

 店の邪魔にならないように、入り口を避けてがに股で立つゴーレムだが、そもそもその足が邪魔だ。

 客や行き交う人達は、物珍しそうにゴーレムを見上げ警戒しつつ、店の中へと入っていく。

 

「ベルさんにゴーレムさん! 本当に本当にありがとうございます!」


 ふと、ゴーレムのすぐ隣にある二階の窓が開いたと思うと、真っ白な衣装に身を包んだ男が二人に声をかけて来た。

 男は窓から落ちそうになるほど身をのりだし感謝の言葉を繰り返す。

 見かねたように、ベルを片手で持ち直したゴーレムが男が落ちないように手を添える。

 

「申し遅れました。私、トータトータ・ベールのオーナーをしておりますヴィゴと申します。この度はうちの者達を守ってくださり本当にありがとうございます!」

 

 ヴィゴはゴーレムの手を何度も何度もさすり、ベルに握手を求める。

 さすがのベルも、二階の窓越しに握手するのは人生初だ。

 感謝の言葉はもう御者にたっぷりと貰っていたのでさらりと流したが、ベルは「積み荷」ではなく「うちの者達」と言ったヴィゴに少しだけ好感を持った。

 

「みんな無事で良かったです。もう少し私たちが駆けつけるのが早ければ馬車の被害も少なく済んだのに……」

「いえ! 積み荷も馬車もどうでも良いのです! 御者も護衛も傷一つなく無事に戻って来た。これ以上何を望みましょう」

  

 御者はしきりに積み荷を気にしていたが、やはりオーナーともなると器が違う。

 純粋に立場の違いなのだろうが、ヴィゴは本気で積み荷より御者達が無事だった事を喜んでいた。

 

「事情は聞きました。早速宿をとりゴーレムさんの居場所も食事も確保致します。もちろん滞在費は全て出させていただきますし、滞在中の面倒事や不明点などなにもかも全て私に任せてください! むしろベルさんさえ良ければ店の三階に泊まって欲しいくらいです!」

 

 興奮しついにゴーレムの手の上に落ちてしまったヴィゴは、まだ熱も冷めやらぬ様子で話し続ける。

 あまりのヴィゴの勢いに押されていると、二階の窓からシエルが現れ、ヴィゴを店内へと引き込んだ。

 

「ベル、いきなりで驚いたと思うが、この人が満足するまで厚かましい位頼って頼って頼りきっておかないと、ずーーっと付きまとわれる事になるぞ?」

「うはははっ! さすがシエルだ、私を良く理解している! 全くもってその通りだ!」

 

 ヴィゴは最初こそは腰が低く丁寧な印象だったが、早々に本性であろう豪快さを発揮し大声で笑っている。

 

「屈んで店の中庭まで入れるなら、ゴーレムさんはうちでお預かり致したいのですが、無理ならばちょちょっとコネを使って今は使われてない古城を貸して貰いましょう! ベルさんは馴染みの宿屋と店の三階のどちらがよろしいですか? ああ、一度見てみないと決められないですよね。おーい、ゲストルームの鍵持ってきてくれー!」

 

 古城、馴染みの店、店のゲストルーム。

 ぽんぽんと飛び出す規格外な宿泊先に、ベルの思考はついていかない。

 いかにヴィゴの気持ちを満たし、自分の居心地の良い場所を見つけるか、そればかりが頭の中をぐるぐるの回る。

 ちらりとシエルを横目で見ると、シエルはにっこり笑ったままヴィゴに見えない位置から上を指差す。

 三階に泊まれと言うことなのだろうか。

 それはそれでありがたいがヴィゴの側は気疲れしそうだと思ったが、はたと考えを改めた。

 もし宿屋に泊まったりしたら、毎食ヴィゴが特注したであろう豪華な食事が並び、宿での扱いも城のようなものになりそうだ。

 そして、ちらりと馬車が通っていった中庭があるであろう道の先を確認すると、どうにかゴーレムは通れそうだ。

 コネを使って古城に、なんて事は意地でも避けたかった。

 そうと決まれば、ベルは窓枠にがしっと掴まり従業員を呼びつけるヴィゴに声をかける。

 

「あの! ご迷惑でなければこちらでお世話になりたいです! 右も左もわからないので、折角ですし出来れば慣れるまではヴィゴさんのお近くに居たいなと……。あと、泊まる部屋にはキッチンはついてますか? リンゴンベリーをいっぱい採ってきたので、この子にスコーンを焼いてあげたくて」

 

 ベルの言葉に、ゴーレムがどことなく嬉しそうに何度も頷く。

 途端にヴィゴの表情がぱっと華やいだ。

 シエルも満足そうに頷いている所を見ると、どうやらこの選択は間違いでは無かったようだ。

 どちらを選んでもヴィゴはせっせと世話を焼くだろうが、今回は初めから選択肢など無かったに近い。

 

「もちろんキッチンはついてます! ですが、立て込んでる時間以外なら気にせず店の厨房を使って下さい。と言いますか、ゴーレムさん用の焼き菓子はこちらで準備します! あぁ、菓子屋で良かった!」

 

 感無量と言ったように天を仰ぐヴィゴに、もう笑うしかない。

 あまり長居する気も無かったが、折角ゴーレムと一緒に街でゆっくり出来る機会。

 幸いにもお菓子に困らないと言うベル達にとって最高の場所を見つけ、しばらく路銀を稼ぎつつゆっくりする事にした。

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