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ボツネタ供養  作者: 鹿熊織座らむ男爵
22 ゴーレムの原動力は
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1:焼き菓子とゴーレム

しばらく執筆出来そうにないので。

 見渡す限り青々と茂った草原とくつろぐ牛。とゴーレム。

 大きく武骨な体を小さく丸め、膝を抱え座るゴーレムのなんと可愛らしい事。

 遠目で見ても距離感がおかしくなるほど巨大なゴーレムだと言うのに、牛たちは気に止めた様子もなくゴーレムに寄りかかったり草を食んでいる。

 そんな光景を小高い丘三つ分先から眺めていたベルは、もうひと踏ん張りだとゴーレムに駆け寄る。

 走る度に胸に抱えた紙袋がガサガサと鳴り、中身が跳ねるのがわかる。

 ようやくゴーレムの元にたどり着いたベルは、息を切らせながら紙袋を開けた。

 

「やっぱりあんまり売ってなかった。次の街までこれで足りるかな……」

 

 紙袋からフィナンシェの包みをいくつか取り出し、ゴーレムに差し出す。

 するとそれまで大人しく座っていたゴーレムが、どこか嬉しそうにフィナンシェに手を伸ばすと、大切そうに大きな手でちまちまとひとつずつ食べ始めた。

 フィナンシェを食べるごとに、ゴーレムの胸元は赤みを帯びていく。

 

「少しだけ材料も買えたけど……やっぱり既製品のフィナンシェじゃ足りないか」

 

 食べ終わったゴーレムの胸元は赤く光っているが、淡く範囲も小さい。

 これではまたすぐに動けなくなると悟ったベルは、動けるうちに進むだけ進もうと、ゴーレムの手のひらに乗り込んだ。

 ゴーレムに揺られながら、ベルは地図を広げため息をつく。

 

 街を出て何年経つか。

 変わった物を作る師匠の工房に弟子入りし、焼き菓子が原動力のゴーレムを作ったまでは良かった。

 しかし、その直後置き手紙を残し師匠はどこかへ行ってしまった。

 置き手紙にはただ一言『ちょっとゴタゴタに巻き込まれそうだ。先に野生の菓子園に行ってるから、あんたも後から来なさい』とだけ記されていた。

 手紙にあった『野生の菓子園』が何か、ゴタゴタとは何かと悩むより先に、工房に警備兵が押し掛け訳も分からず工房を飛び出した。

 

「いっそどこか土地を買って細々と暮らすとか。薬とか小さな普通のゴーレムを作って売れば、それなりに生きていけそうだし。魔道具は必要に応じて特注で、後は畑でも耕してお菓子を作って……」

 

 ゴーレムの指に寄りかかりながら、ぽつりとひとりごちる。

 当初、確実に何かやらかした師匠を真面目に追いかけるのは馬鹿馬鹿しく思った。

 しかし、巨大なゴーレムを抱え見知らぬ街にいつくのはほぼ不可能に近く、先程立ち寄ったような小さな村や集落は論外だ。

 結局、手がかりもなにもないまま、忌々しく地図を片手に世界を放浪する他なかった。

 少しばかりのお菓子の材料が入った紙袋と、心もとなくなって来た路銀の入った袋を撫でながら、ベルはぐったりと項垂れてしまった。

 

 案の定、真夜中にゴーレムは動けなくなってしまった。

 ベルは予想通りだと慌てた様子もなく、座り込むゴーレムのそばに火を起こしお菓子作りを始めた。

 木のボウルの中で材料を混ぜ、適当に手で千切り形を作ったら、熱した鍋の中に並べていく。

 オーブンや型など無く、こうして焚き火で作る程度のお菓子は限られている。

 パウンドケーキやフルーツやチョコをふんだんに使った物は燃費が良いが、大体はクッキーや蒸しパンなど簡単な物で済ませてしまう。

 深夜ならなおの事、凝ったものなど作っていられない。

 今回は今日明日分の焼きドーナツを作る。

 ついでにと、ベルは菓子の材料と一緒に買った山鳥の肉を取り出し、その辺の大きな葉を何枚かむしりとる。

 ぱぱっと葉の表面を手で払い、肉を乗せる。

 鞄から味噌と塩胡椒を取り出し肉にかけると、隠し味程度にほんの少しの砂糖をかけ包み込む。

 そしてそのまま火のそばに窪みを掘り、大胆に埋めてしまう。

 遅くなったが、今晩の食事は山鳥の葉蒸し焼きだ。

 余裕があれば無発酵パンやコーンブレッド、麦粥なんかも作ったりするが、それはどうしてもと言う時だけ。

 なるべく菓子の材料になるものは使いたくない。

 

「豚肉、食べたかったなぁ」

 

 ベルは好物の豚スペアリブの煮込みとダンプリングを思いだしながら、ドーナツを裏返していった。

 

 ゴーレムに揺られ一晩。

 不規則に揺れる固いベッドにも慣れたもんだと、ベルはゴーレムの手の中で目を覚ました。

 寝ぼけ眼で頭をガシガシとかくと、何本か赤毛の髪が指に絡まって抜けた。

 そろそろ水浴びでもしたいと、地図を広げ周りをキョロキョロ。

 地図を見ると、丁度街道から外れた森の中に川が流れているようだ。

 川につくなり服を全て脱ぎ去り、躊躇い無く川に飛び込む。

 体と頭をガシガシと洗い、ついでに洗濯も済ませてしまう。

 その間ゴーレムは、川辺に膝を抱え座り、昨晩作ったドーナツをゆっくりと咀嚼していた。

 ついでのついでに魚やベリー採取でもとベルが鼻唄を歌い出すと、それまで大人しく座っていたゴーレムが立ち上がった。

 すぐに川から上がり予備の服に着替えると、ベルはゴーレムの足元に駆け寄り辺りを探る。

 川と鳥の声以外ベルの耳には聞こえて来ないが、ゴーレムは一点を見つめたまま動かない。

 荷物をまとめゴーレムの手の中に乗り込むと、ゴーレムはゆっくりと視線の先へと歩を進める。

 川を越え街道とは逆に進んだのだが、そこには地図に無い細い道があった。

 小さな馬車程度なら通れるかどうかと言った細道で、ゴーレムは立ち止まった。

 なにも異変を感じないただの細道。

 ベルはしきりに辺りを見回したが、やはりゴーレムが反応した理由がわからない。

 

「どうしたの? ベリーでもあった?」

 

 顔を上げ問うも、ゴーレムは細道の先を見つめたまま。

 この道の先に何かあるのかと手から降りようとすると、ゴーレムがベルの体を支え下ろしてくれない。

 その直後、一斉に鳥達が飛び去ったと思うと、細道の先から勢い良く何かが激しい音を立て近づいてくるのがわかった。

 ベルが身構えたと同時に、細道の曲がり角から馬車が一台猛スピードで飛びだし、そのすぐ後ろを狼の群れが走る。

 大きさからただの狼では無く、魔物に近い狼だとひと目でわかった。

 ベルが顔を見上げると、ゴーレムは分かっていたとばかりに狼達に向かい走り出す。

 馬車の御者台に座っていた男は突然現れたゴーレムに目を丸くし、飛びかかってくる狼を凪ぎ払っていた護衛と思われる男は身構えた。

 しかし、ゴーレムは走り来る馬車を無視すると、狼達を蹴り上げ投げ飛ばしあれよあれよと蹴散らしていった。

 一番安全なのだろうが、ゴーレムが激しく動き回っている時に手の中にいると身体中を打ち付け上も下も分からなくなる。

 今日はゴーレムが優しく握りしめてくれているからか、そこまでひどく打ち付ける事は無かったが、目がぐるぐる回り早く終われとしか思えない。

 ゴーレムは最後に、馬車に噛みついていた狼を鷲掴みにし遠くへと放り投げると、ようやくベルを地面へと下ろした。

 その場にどしんと尻餅をつき、ぐるぐる回る世界が落ち着くまでぼんやりとゴーレムを見上げる。

 先程の狼の襲撃で馬車の幌の一部が破れたらしく、ゴーレムがそっと破れた箇所を直そうとしている。

 

「助かりました! ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

 幌の隙間から見える大量の麻袋を見詰めていたベルの元に、御者の男が半ば転げ落ちるように駆け寄ってきた。

 ベルの両手をしっかりと握りしめ何度も何度もお礼の言葉を述べ頭を下げる。

 ようやくぐるぐる回る世界が落ち着いてきたところで、馬車から護衛の男も降りてきた。

 

「面目ない、助かった。まさかこんな所で群れに出くわすとは思っていなかった。……街に戻ったらすぐに報告だな」

 

 剣を腰に差し直した護衛は、お礼を言いつつ神妙な顔で狼達が去った方を見詰めていたが、にこっと微笑むと座り込むベルをひょいっと立たせた。

 すると、それまで馬車の幌や車輪やを直してたゴーレムがぱっと顔を上げ、両手でベルを包み込んだ。

 

「何もしないよ。それにしても見事なゴーレムだ。貴女が作ったのか? ……ん? 口が動く形状だが、まさかこのゴーレム話せるのか?」

 

 腰を抜かして少し離れたところでにこにこしている御者とは対照的に、護衛の男は臆すること無くまじまじとゴーレムの観察を始める。

 

「単語ならたまに話しますけど、多分人前では話さないと思います。口が動く理由はこれ」

 

 ベルは鞄から昨日作っておいた焼きドーナツを取り出すと「お疲れさま」とゴーレムに声をかけ、口の中に放り込む。

 表情は変わっていないはずなのに、どこか嬉しそうに咀嚼するゴーレムに、さすがの護衛も驚き開いた口が塞がらない。

 

「まさか、食事をするのか……? ゴーレムが?」

「食事、と言うより、焼き菓子が原動力になってるんです。対価もなく黙々と働き続けるゴーレムが一般的ですけど、単純作業とか指示した事しか出来ないじゃないですか。面倒でもこうやって対価を与えた方が、性能が抜群に良くなるんですよ。愛着も湧きますしね」

 

 ベルは質問に答えつつゴーレムをひと撫でし、言葉を続けた。

 

「あの……この近くにお菓子の材料がいっぱい買えるような大きな街ってありますか? 一応地図はあるんですけど、大きいのか小さいのか分からなくて」

 

 この周辺国出身ではないベルには、街の名前を見ただけではどの程度の規模の街なのか分からない。

 ベルの質問に、御者と護衛の男は同時に顔を見合わせた。

 御者がすぐにベルの元へと駆け寄り、それならばと嬉しそうに声を上げる。

 

「あります、ありますとも! 私どもは丁度そんな街に帰るところだったんです! この国一番のお菓子の街、王都アルビン! 申し遅れましたが、私の主は王都で五本の指に入ると有名なカフェ兼パティスリーを営んでおります。今回は企業秘密の材料を運んでいた為、護衛も馬車も目立たない最小限の物にしておりました。王都に戻ったら是非お礼をさせてください!」

 

 御者は目を輝かせ、是非に是非にと繰り返し、早速馬車に乗り込んでしまった。

 

「あ、えーと。ありがとうございます。遅くなりましたが、ベルと申します」

 

 気後れしつつ、ベルは護衛の男に小さく頭を下げる。

 その街にゴーレムが入れるかどうかや、大きすぎる王都などは街に入るだけでお金がかかる。

 その辺りをもっと詳しく聞いておきたかったが、御者は上機嫌に馬車を走らせ始めてしまった。

 

「狼共に遅れをとって酷く情けないが、私は王国騎士のシエル。あの積み荷を失うのは店にとって致命的だったのだろう。普段は豪勢に魔道具で動く馬車と数えきれない護衛をつけて材料を仕入れてる店が、こそこそ隠れて仕入れるくらいだからな。恩を売っておいて損は無い相手だ」

「お、王国騎士様が直々に護衛するお店!?」

 

 ひょいっと馬車の後ろに飛び乗ったシエルに、ベルは慌てて聞き返す。

 馬車の後をついて歩き出したゴーレムは、そんなベルを落ちないように抱え直しつつ、ちゃっかり焼きドーナツを催促していた。

 

「ん? ああ、五本の指に入ると言っていたろう? その五件は菓子の街と言われる程菓子に力を入れ愛してやまない我が王が贔屓する店なんだよ。その店の為なら騎士だろうが城だろうが喜んで貸してしまうのさ」

 

 シエルは面白そうにハハッと笑って見せた。

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