鉱石の場所(仮)
大昔のデータ破損シリーズ☆
「尿路結石も一種の鉱石病だと俺は思うわけよ。と言う事はだ、俺にも親がどこからか嫁さんを見付けてきてくれても良いと思うんだよ」
「そりゃおめでとさん。死ぬまで独身貴族だと思ってたお前がついにか。そうかそうか、尿路結石のお陰で結婚か。その制度は女の鉱石病患者に限りだけどな」
カルテを机の端に投げ置きながら、○○はさも興味無いと言わんばかりの声色でさらりと指摘する。
しかし、元々返事など期待していなかったのか、▽▽は少しもこちらを見もしない○○の事など気にする様子も無く、ひとり未だにブツブツと呟き続けている。
「でもお前も鉱石病の女と結婚して不労所得生活を狙ってるから、資格とったんだろ? 魔道具普及の副作用らしいが、生きてるだけでゴロゴロ宝石やら何やらが手に入るなんざ、夢みたいな話だよなぁ」
○○も鉱石除去士の資格を有しているが、それはただ単に医師免許の附属として、ついでにと取得した程度の事。
鉱石病の女性と結婚出来ても出来なくとも、医師をしている限り鉱石病患者とは接する機会がある。
持っていて損は無い、ただの食いぶち稼ぎの一つの手段程度の認識だ。
しかし、それを今目の前の男に言った所で理解されまいと、○○は返事をしなかった。
「一昔前は魔道具なんか金持ちしか持ってなかったからなぁ、鉱石病は金持ち病とか言われてたのになぁ」
「魔道具か当たり前になった今は、高いプロテクターが買えないやつや安いいい加減な魔道具を引いたやつ、ようは金が無いやつが多いな」
「じゃあ何で俺はこうも健康なんだ!」
まさに今尿路結石が辛いと言っていたやつが、何が健康だ。
変に元気な▽▽に頭を抱えると、控えめなノックが聞こえた。
「先生、次の患者さんなんですが……」
言いにくそうに言葉を濁す助手が、扉から顔だけ出している。
まだ▽▽も居ると言うのに、次の患者の話をするなんて。
診察が終わってからにしろと言う前に、助手の後ろからぞろぞろと診察室に人が流れ込んできた。
一様に執事のような服を着た面々の後ろから、ひとりの少女が憂鬱そうに顔を覗かせた。
「新規の鉱石病の方なのですが……」
「そこから私が説明します。○○医師、規定に従いこちらの××嬢とあなたは結婚する事になりました」
*
まさか自分が本当に鉱石病患者と結婚するはめになるとは思っていなかった。
女性の鉱石病患者が出た場合、国の元鉱石病研究機関の研究員がどの医師と婚姻を結ぶか決める。
性格だけではなく、医師としての実力や家柄や年齢なども考慮されての事らしく、人によっては生涯縁が無い事もある。
さすがに既婚者はリストから外されるので打診が来る事も無いが、鉱石病が発見されたばかりの頃は離婚させてでも籍を入れさせたらしい。
○○が持っている鉱石病患者結婚制度の知識は大体こんなところだ。
○○はもう一度顔を上げ、目の前に座る少女の顔を見た。
お互いの適性を見て伴侶を決める。
好き好みだ美醜だ等は考慮されないのは分かる。
だが“お互いの適性を見て伴侶は決められる”はずだ。
○○の前に座る少女はどう見ても成人前の、年端も行かぬ文字通り少女なのだ。
もしかしたら自分と倍ほど歳が離れているのでは、いや、倍で済むだろうかと、○○はカルテを取りに行った助手をやきもきと待ち続ける。
待ち続けると言っても、助手と少女を連れて来た研究員達はほんの今し方退室したばかり。
丁度部屋から出て行く研究員を見送り、席に腰を降ろしたばかりだ。
そう言えばと、○○は研究員達と共に部屋から追い出した▽▽の顔は見物だったと思い出し、口元を緩ませる。
個人の病状を他人の前でどうこう言えるはずも無く追い出したが、ここが酒場だったら奴は根掘り葉掘り話を聞くまで帰らないだろう。
それどころか、根掘り葉掘り話を聞いた挙げ句羨ましがりそのまま愚痴を言い出し潰れるまで飲み続け、翌日二日酔いのまま尿路結石の薬を貰いに来ることだろう。
他人事だから素直に羨ましがれるのだろう。
いざ実際こう引き合わされた所で、当の本人としてはただただ困惑、といった感情しか湧いてこない。
「あの」
▽▽の話から制度への不満へと思考が変化していく○○の耳に、か細い声が届く。
考え事をしていた為反応が遅れ、○○は些か不格好になりながら少女の顔に視線を向けた。
「あの、これは完治しないのでしょうか。石が大きくなると右肩が重くて痛くて……」
少女は俯きながら、そっと右肩をさすった。
発病したばかり、更に状況を理解する前にこの人と結婚しろと言われたに違いない。
今は結婚相手なんかより、自分の身に起こった事がどう言う事か、それが最優先だろう。
先程まで突然現れた結婚相手を些か持て余していた○○だったが、患者だと見方を変えたら急激に冷静さを取り戻した。
「今も痛みがあるのか? 少し触れてみても良いか?」
椅子ごと少女のそばまで移動し、ドレスの上から軽く触れてみる。
ドレスの上にストールを掛けていたので気付かなかったが、少し触れただけで相当な大きさになっているのが分かる。
「可能なら今すぐ取り除いた方が良い大きさだが……」
膝の上に手を置き、○○はどうにも言いにくそうに言葉を濁す。
医者と患者と言う立場だが、男と女、成人と未成年、夫婦になる予定の二人。
そして今日が初対面。
幸いにも肩に症状が出たとのことで、少しドレスを寛げれば診察できないことも無いが、それでも抵抗が全くないと言う分けでも無い。
少女は○○の言わんとする事が分かったのか、はっと息を飲むと明らかに取り乱したように視線を彷徨わせた後、ぎゅっとストールを胸の前で抱き合わせた。
やっぱりなと、○○は予想していた反応に小さく息をつく。
「夫婦になったと言っても、妻の鉱石は医師である夫が採る事になってはいるが、慣れるまではしばらく女医に診て貰えよう手配する事も出来る。そう不安そうにするな」
努めて明るい声色でそう説明すると、○○はそっと下がった。
しかし、○○が下がった途端、少女は何か言おうと腰を浮かし、○○の顔を見上げた。
だが、また視線をあちこちに彷徨わせた後、その場で俯いてしまった。
「採ったらもう、痛くない、のですか」
「ああ。だがまた新しい鉱石が出来はじめる。そうなったら痛くなる前に採るしか手が無い。人により症状も出来る箇所も変わるから、石が出来はじめてどれ位で痛くなるか自分で知っておく必要もある」
「これから一生ですか?」
「……残念ながら今のところはそうだ」
徐々に自分の身に起こった事が現実的に理解出来たのか、少女は大きく息を吐き出すと、ほんの少し口を尖らせすとんと腰を降ろした。
「痛みが出ないように」
ふと自然と口から出た言葉に、○○自身驚き目を見開く。
声に反応するように顔を上げた少女は、純粋に話の続きは何だろうと言った表情をしている。
「痛みが出ないように大きくなりすぎる前に定期的にとる。医師と言えど不特定多数の人間に患部を晒さない、鉱石病だと知らせない為俺がいる。この先今まで通り自由に生きる為俺がいる。何不自由なくと言うわけには行かないが、制度で決まっている以上、俺はお前に不便させはしない」
大きく見開かれた少女の瞳に映った自分を見た○○は、笑顔を作っているつもりだったがそこには不格好に引きつった顔の自分がいた事に気付く。
そして表情を作り直す前に、少女の顔から表情が消えた。
「分かりました。私は鉱石病患者として、この制度に従いあなたに従い生きていきます」
先程までの幼く不安に満ちた少女はもうどこにも居なかった。
少女の力強い視線を一身に受けながら、○○はどうやら自分はとんだ失言をしたのだと今更ながらに理解した。
××嬢は行き場のない苛立ちを抑えきれずにいた。
鉱石病になった事も家を出て結婚する事も、両親が決めた相手と婚約破棄になった事も、見ず知らずの人が決めた見ず知らずの結婚相手の事も、何から何まで××嬢は不満で不安で嫌で、でも仕方なかった。
結婚相手――○○医師は助手からカルテを受け取ると、そのまま医院を閉め、××を伴い二階の部屋へと移動する。
部屋に入るなり××にソファに座るよう促すと、自分は机にもたれ掛かり、手にしたカルテを上から全て頭に叩き込むように熟読している。
熟読と言っても、名前と年齢、いつからどこに症状が出たか程度しか問診票に書く項目は――そもそも問診票など書かなかったが――無かった。
××は、まぁいきなり湧いて出た結婚相手を前に、誰でも気まずさを隠せないだろうととくに気にはせず、むず痒い右肩を擦る。
鉱石病だと知った両親は、すぐさまかかりつけの医者を呼び寄せたが、患者が××だと分かると『診察出来ない』の一点張り。
他の医者もことごとく同じ理由で、診察もせず出張費だけを貰って帰っていた。
あちらこちらから医者を呼んだせいか、数日後に研究員と調査員が自宅にやって来た。
それから更に数日経った今日、早朝に自宅を訪ねて来た研究員に連れられここにやって来た。
この間××の意思は一つも通らず、部屋に押し込められていたこの数日間、家の中は酷く静かだった記憶しか無い。
読み終えたのか、○○はおもむろにカルテを机に置くと、目頭を押さえ深く深くため息をつく。
鉱石病になってから、××は周りの人間の反応が異様に気になる。
小さなため息一つでさえ、その矛先が自分なのではと思うと逃げ出したくなる反面、理由も無く掴み掛かって泣き叫び怒鳴りたくもなる。
「ご両親に鉱石病と告げて一週間と少し。短時間にしては鉱石が育ち過ぎているところを見ると……でも、うーん」
机に肘をつき目頭を押さえひとり言を溢したかと思うと、××の肩に視線を移し唸り声を上げる。
同じ動作を二度三度と繰り返し、深く深く唸り声を上げたと思うと、壁際に置かれたポットを手に取る。
「お茶も出さず悪かった。紅茶とコーヒーとどちらが良い?」
「……紅茶もコーヒーも苦手。ミルクが――」
『ミルクが好き』と言いかけ口を噤むが、○○の耳にはしっかり届いていたらしく、何処からかミルクをとりだし温めはじめた。
すぐに部屋の中に甘く温かなミルクの匂いが漂いはじめ、ゆっくりと肩の力が抜けていく。
ことりと小さな音ではっと我に帰ると、××の目の前にはホットミルクが置かれていた。
「ありがとうございます。いただきます」
少し口に含むとすぐ、ミルクとは違う甘さが口に広がり、そのまますっと鼻に抜けていく。
思いがけない甘みに××が顔を上げると、○○と目が合った。
気恥ずかしそうにすぐに目を反らした○○は、壁際に置かれたポットを眺めながら、変に間延びした口調で口を開いた。
「そのぉ……少しは緊張が解れれば、と……」
○○がそっと背後に蜂蜜の瓶を隠すのが見えたが、××は何も見なかったようにそっと小さく頭を垂れる。
何とも言えない雰囲気にお互いどうして良いか分からず、沈黙する。
しばらくし意を決したように○○が一つ咳払いし口を開こうとすると、丁度良く扉を叩く音が響いた。
どちらからとも無く安堵とも落胆とも思えるため息が漏れる。
○○はいかにも気怠そうにコーヒーを置くと、椅子にかけていた白衣を手に扉を開ける。
扉から顔を覗かせたのは、まん丸な顔の男。
紅茶ポットの如く丸く艶のある顔に満面の笑みを貼り付けた男は、眉をハの字にしぺこぺこと何度も頭を下げる。
「どうも、××の父の□□と申します」
「これは! ご挨拶が遅くなり申し訳ございません」
父親の登場に、○○だけでなく××も驚き、ソファから腰を浮かせる。
「××の様子はどうです? もう宝石は摘出しました?」
「いえ、まだこれからです」
□□をソファに促しながら、○○は説明しながらコーヒーの準備を始める。
しかし、□□はソファには座らず○○のあとをついて歩く。
「段取りなんかがあるでしょうが、娘があまりにも痛がるものですので、今日すぐに取れないでしょうか」
ぺこぺこと頷く人形のように同じ姿勢でついて来る□□に薄気味悪さを感じながら、○○はふっと××に視線を向ける。
腰を浮かせたまま困惑した表情でおし固まっていた××だったが、○○の視線に気付いたのか、すぐに表情を改めるとそっとソファに座り直しホットミルクを口に運ぶ。
「そこまで痛かったとは……。分かりました、すぐに取り出しますので、下で待っていて貰えますか?」
「ええ、ええ! ああ、ありがとうございます!」
□□は○○が言い終わる前に言葉を重ね、感動したように両手を取り何度も何度も揺さぶると、迎えに来た助手の先を歩き足早に階下に降りていってしまった。
「なんとも貴族らしくないと言うか、気さくなお方なんだな」
淹れたばかりのコーヒーを片手に、くすりとそうこぼすも、××は曖昧に頷くのみ。
○○はコーヒーを机に置くと、毛布を一枚××に手渡し、すぐ脇に膝をつく。
「思うところはあるだろうが、今はまず鉱石をとってしまおう。少し席を外すから、用意が出来たらベルを鳴らしてくれ」
○○は簡単に説明すると、確認するように××の顔を見上げる。
××が小さく頷いたのを確認すると、○○は机の上に小さなベルを置き部屋を出て行った。
一人になりほっとため息をもらすと、××はドレスの首元を寛げる。
右肩から肘にかけて鉱石がある為、袖口の広いドレスならば捲れば済む。
そもそも、そのつもりで今日も袖口の広がったドレスを着てきたのだが、それでも抵抗はあった。
言われた通り右肩までドレスを寛げ、毛布を被る。
人によって症状が出る場所が違うため、検査用の服も作れないのかと今更ながら気付く。
準備を整え深く深く深呼吸をする。 そっと一呼吸置き立ち上がると、目一杯両手を上げ伸びをする。
心が決まり、よしとベルを鷲掴むと、天高らかに鳴らす。
思いの外大きく鳴り響いた音に慌ててベルを机に置くと、すぐに○○は戻って来た。
手には小さな箱が一つ、あとは出て行った時と同じシャツ一枚の姿。
てっきり物々しい装備で行われると思っていた××は、○○のその姿にほんの少し肩の力が抜けた。
○○が脇に膝をついたのを確認すると、××は毛布を肩口までめくり上げる。
一瞬○○の動きが止まったように見えたが、表情も変えずすぐに動き出したので××は気のせいかと小首を傾げた。
「終わったぞ」
「えっ?」
視線を下げると、○○の膝に置かれたケースに大粒の鉱石が三つ、ごろんと置かれていた。
ほんの一瞬小首を傾げている間に終わり、××は目を見開いたまま立ち上がった○○を見つめる。
「大きな物を三つだけとったが、他の物も痛むか?」
「いえ……いえ、大丈夫ですけど……」
さっと後片付けをし、××にしっかりと毛布を被せながら、○○は不思議そうに××を見やる。
しばしお互い無言で見つめ合っていたが、ややあって○○が小さくああ、と言葉をもらした。
「痛くも痒くも無かったんだろ? 大きくなり痛み出した鉱石は、売れた果実みたいに正しく扱えばポロッと簡単に取れるんだ」
言葉がすんなりと理解出来ず、しばらく○○の顔を見上げたままぼんやりとしていた××だったが、数回口の中で言葉を反芻し、はっと我にかえる。
勢い良く立ち上がり自身の肩に目をやる。
ばさりと落ちた毛布もそのままに、中くらいに育った鉱石を軽く引っ掻いてみるも、ミミズ腫れが出来ただけだった。
慌てて毛布を拾い上げ××の肩にかけた○○は、深くため息をつくと××の手をとり座らせる。
「正しく扱えば、だ。器具を石と皮膚の間に引っかけてとるんだが、下手にとると血が出るし神経が痛む。似た物で言ったらそうだな……やっぱり売れた果実か、もしくは歯だな」
片付けた箱を手元に引き寄せ蓋を開けると、ガーゼの他に先の尖ったピンセットのような器具が二つ入っていた。
「じゃあ、とろうと思えば誰でもとれるの? 国家資格なのにこんなに簡単に?」
「とるだけなら力ずくでも取れる。ただ、国家資格にしていかにも大事のようにしなければ、傷付けてもとろうとする奴が出て来る。宝石を生むんだ、誘拐するやつも出るし政略結婚や物のように扱われる。実際この制度が出来るまではそうだったし、今もそれは絶えない」
再び箱をしまい立ち上がると、○○はぬるくなったコーヒーを口に含む。
「コツさえ掴めば難しい事じゃ無い。この資格は技能を保証するものと言うより、資格取得者の身分経歴、それこそ生まれた時から今この瞬間までどう生きて来たかの全てを審査している。欲に溺れないか、身元ははっきりしているか。鉱石病研究機関に人生の全てを把握される人間が持つ資格って事だな。首輪だ首輪。勿論、今俺がこの資格に相応しくない事を犯したら即剥奪される」
机に腰掛け首元を擦りながら、○○は憂鬱そうにそう説明した。
「剥奪されたらこの婚姻はどうなるの?」
「鉱石病患者の意思によって、かな」
意思によって選べるのかと純粋に驚いていると、○○は少し目を伏せたあとふいっと視線をはずした。
「既婚者であったり男性患者の場合は、この制度の対象外で他の病気と同じように病院で処置して貰う。独身の鉱石病の女性を理不尽な事から守る制度だから、女性の意見が尊重される。建前はそのはずなんだけどなぁ……」
最後の本音と思われる言葉に、××も大きく頷いた。
建前的には女性を守り、尊重すると言う事になっているが、この婚姻自体双方の意思は何一つない。
貴族の婚姻は家同士が決めるため、本人の意思はない事がほとんどだが、さすがに今日見ず知らずの人と会わされ結婚しろとまで強引では無い。
お互いずさんな制度に疑問と不満を抱き、ふっと息を吐く。
あまり腑に落ちないが言った所で仕方が無い。
××はドレスの裾を整え、毛布にくるまると、ソファにどさっと腰を降ろす。
その震動で机の上の箱が揺れ、中の鉱石がかたりと音を立てる。
「あ、終わったと伝えに……もう少ししてからで良いか」
○○は下で待つ□□の事を思いだし一歩踏み出したが、思いとどまりくるりと向きを変えると、壁際のコーヒーポットに手を伸ばした。
「いやぁありがとうございます! 娘があまりに痛がるもので」
部屋に戻ってきた□□は、相変わらずころころと笑い鉱石の前に座っている。
すすめたコーヒーに口を付ける様子も無く、ただ病気が発覚してからいかに心配であったかを懇々と話続けている。
××は飽き飽きしたような顔で□□の隣に座り、○○を見上げている。
机を挟み二人の前に座っている○○は、辛抱強く□□の話に相槌をうち、時にそれは大変でしたねと一言添える。
××はさすが国に保証された人物だと、□□が同じ話を四度繰り返し始めたあたりで変に納得した。
「それでですね、こちらの宝石なのですが、娘の代わりに家で大切に保管したいと思うのですが、よろしいですか?」
ようやくコーヒーに手を付けたと思った矢先、□□はそんな事を言った。
××のミルクを温めていた○○は、振り返りどういう意味合いなのかと問うように、ゆっくり小首を傾げた。
「いえね、娘には婚約者が居たには居たのですが、こんなに早く突然家を出て行くとは思っておらず、お恥ずかしい話、娘の代わりと言いますかその……」
「そうですね。当人も周りも、誰もこんな急にとは。ええ、そう言う事でしたら、どうぞお納め下さい――と言いたいところですが、こちらの鉱石は××嬢の物ですので、私には判断が……」
新しく淹れ直したミルクを××に差し出しながら、○○はほんのりと眉を下げる。
しかし、○○が言い終わるや否や、□□はポケットからハンカチを取り出すと、机の上に置いてあった鉱石をさっと包み、隣に座る××へ顔を向けた。
「そうですかそうですか! ××、幸せにおなり。父様と母様の事は心配いらないよ」
惜しむように××の頭を撫で、同じように鉱石を撫でる。
てっきり××に一言了承を得るかと思っていたが、娘の了承など要らないらしい。
貴族とはこういうのもだっただろうかと、○○は内心驚きつつも、悟られないよう努めて平静を装った。
しかし、その父親の言動に××は眉を下げ○○の様子を確認した後、なんとも諦めたように顔を下げてしまった。
□□は鉱石を受け取ると、××に「幸せにおなり」「心配はいらない」と何度も何度も言い聞かせると、妻を待たせてあると足早に去って行った。
洗脳とも思える□□の言葉に××は目眩がし、玄関先まで見送った直後その場に座り込んでしまった。
□□を馬車まで見送り振り返った○○は、玄関口にへたり込む××に目を丸くし、駆け込んで来た。
「顔が真っ青だ。すまない、寒い部屋に長時間居させてしまった。すぐに帰ろう」
○○は駆け寄って来た助手が持って来た毛布で××を包むと、軽々と横抱きにし立ち上がる。
「帰るって」
どこに。 そう言いかけたが、××を抱えたまま慌ただしく準備する○○は、××の本当に言いたかった事には気付かなかった。
「こことは別の場所に屋敷がある。今日はもう診察は休みにして帰る。……疲れも出ただろう、落ち着いて考える時間も欲しいだろ」
ここから徐々に両想いに、ってプロットでした。




