蟹の脱皮士(仮題) 12
午後からは予定通り、乾いた物から順次取り込み配達。
乾きの遅い物は日当たりの良い場所に移していく。
配達の準備をすべく荷車を取りに行くも、犬達は見慣れぬキコに遊んでくれと体を擦り付ける。
全く言う事を聞かない大型犬の群れに手を焼いていると、遠くからリコリスが走ってくるのが見えた。
それとほぼ同時に、先程まで甘えていた犬達が一斉に持ち場へ戻り、背筋を伸ばしお座りをした。
「噛まれてないかい?」
「いえ、全くそんな事は……」
リコリスを見た途端大人しくなった犬達に、キコは笑いを堪えるのに必死だった。
荷車に洗濯物を詰め込み、中央へと運ぶ。
乾いたとは言え、大量の布は重い。
歩けば何て事無いなだらかな坂を、数人で荷車を押しながらゆっくりゆっくりと登っていく。
大通りを行く荷車から時折カゴを引き摺り降ろし、女性達は路地裏に消えていく。
キコとリコリスも、カゴを手に見覚えのある路地を折れ、洗濯物を持ち主に返していった。
「ありがとー! 持って来てー」
「馬鹿言ってんじゃないよ! 自分で取りに来な!」
シーツを洗濯に出した女性が、遥か上の窓から手を振り甘えた声を上げる。
しかし、リコリスはばっさりと切り捨てると、建物の入り口にどさっとシーツを置き去りにしてしまった。
「リコリスさん、良いの?」
「良いんだよ。と言うかね、あそこの家は最上階なんだから、本当なら自分ちで洗濯するもんなんだよ」
ニカッと笑いながら小言を言うリコリスに、キコは曖昧に頷いて見せた。
空の狭い中央の住人に代わり洗濯をするのが洗濯女中の仕事だが、どうやら中央住まいと言えど、建物の最上階の住人の洗濯は本来しないらしい。
日当たりが良いのだから自分で干せば良い。
なんとも単純な理屈だが、それをしっかり忠実に守る人は少ないようだ。
12話の途中から19話までのデータが消え、なぜか20話の前半だけが残ってます。
気を取り直し書こう書こうと温めてましたが、消えた4万文字と折れた心がどうしても……。
整えて公募にも出そうと思っていた作品でした。




