IT'S MY LIFE 1
多分私の書いた最古(10年位前?)の小説の欠片です。
プロットを書き直したらいつかリメイクします。
ピー
『憐王様、お時間で御座います』
ピー
『憐王様、お時間で……』
規則的なリズムで時間を告げる無機質な電子アラーム音と電子声。
長い睫が震えゆっくりと開かれた瞼の奥にある澄んだ翡翠色の双眸は、電子音に起された不快感等一切感じない程に穏やかなもの。
薄暗く人一人横になる程の広さしかないカプセル状の装置の中で目覚めたのは憐王と呼ばれた女性。
彼女が起床したのを察知したかのように『ゴゥン』と言う低い音と振動と共にカプセルが動き出し、少しの浮遊感の後移動が完了したのかまた元の静けさが訪れた。
日の出のように優しくカプセルの中が徐々に明るくなると、ひとりでにカプセルが開く。
するとカプセルの外にはマスクと白衣を付けた人物が何人か待ち構えていた。
「おはようございます憐王陛下。今回は一時間三十一分四十秒程の睡眠でしたが体調はいかがですか?」
「えぇ、問題無いですよ」
検査着のようなシンプルな白い一枚の服に身を包んだ憐王は、カプセルから起き上がり自身の腕や足、首や額に繋げられた細いケーブル付きのパッチを外しながら慣れた様子で白衣の男性の問いに軽く答える。
憐王はペタリと裸足でカプセルから降り立つと、振り返り何かを確認するかのように視線を泳がせる。
その視線の先の無機質な真っ白い壁にはカプセルが丁度嵌る程度の穴がぽっかりと開き、その穴の周りにも何個か同じカプセルが嵌っているのが確認出来た。
「紘も優もまだ中?」
「はっ……はい! まままだ調整に時間がかっかかかっ!」
パッチを受け取り、代わりに制服を渡してきた白衣の男性に自然と話しかけたつもりの憐王だったが、普段業務的な会話しか出来ない憐王から突然話しかけられた事に動揺し、随分と早口で残念な答えを返すので精一杯だった。
憐王は円形の真っ白な部屋の端の少し小高い位置に降ろされたカプセルに腰掛け直し、今男から受け取ったばかりの真っ黒な膝まであるブーツを履き目の前の階段を下りる。
部屋の入り口付近の壁は、人間で言う腰から頭の先くらいの高さ分だけガラス張りになっていて、その向こう側の薄暗い部屋で白衣の者達が慌しくモニターや機器の前を動き回っているのが見えた。
受け取った服を片手に持ち、浮世離れしたその瞳と同じ色を宿した長い髪をさらさらとなびかせ階段を降りると、『ゴゥン』と言う音と共に自身の時のように壁から一つカプセルが抜け、ゆっくりと階段の上のスペースに落ち着く。
その光景を階段の下で伸びをしながら眺めていると、カプセルの中から燃える様な真紅の逆立った髪の男がダルそうに体を起すのが見えた。
「おはようございます紘王陛下。今回は一時間三十」
「おー……おはよ……」
白衣の男性の決まった口上を最後まで聞かず、ガシガシと頭をかきながら立ち上がる長身の男性、紘王。
「おはよう紘。起きるの遅くない?」
白衣の男性から受け取った革靴を履く紘王に階段の下から声をかける憐王。
階段の下に知った顔を見つけた紘王は、欠伸をしながら階段を降りゆったりとした仕草で隣に立つ。
「おー憐、早いな……まだ眠ぃ……って優はまだ棺桶の中かよ」
「みたいだね……まぁそのうち起きるでしょ」
さっきまで自身が納まっていたカプセルを指差し『棺桶』と比喩する紘王をさらりと流し、部屋の入り口を目指す憐王。
二人揃って部屋を出ると慌しかった部屋の外がより慌しくなり、養鰻池に生麩を放り込んだかのように人が殺到し口々に話し始める。
「憐王様! 追加の兵の要請が来て」
「陛下! 謁見希望の方が」
「紘王陛下、セレモニーの件で」
「陛下!」
逃げるように足早にその場を去ろうとするも、取り囲んだ人の群れは一向に逃がしてくれる気配は無い。
先程二ヶ月ぶりの睡眠から目覚めたばかりの二人だったが、もう少し寝ていれば良かったとさえ思えてくるこの惨状に、先に痺れを切らしたのは紘王だった。
「あぁもー! 着替えくらいさせろ! 後でやるからそれ全部書類に纏めて持って来い!」
そう叫ぶと同時に紘王の足元に勢い良く炎が生じ、一瞬全身を包んだかと思いきやそのままふわりと浮き上がった。
紘王はその炎の全てを足に集めると猛スピードで廊下を飛び移動を開始した。
すると猛スピードで廊下を飛ぶ紘王の頭上を、いつの間にか背中から巨大な白い翼を生やした憐王が同じスピードで何事も無いかの様に飛んでついて来ていた。
目で追うのがやっとと言う速さで飛ぶ二人が降り立ったのは、首と顎が一直線になる程見上げなければ見えない程高い天井の空間。
その高すぎる天井まである大きすぎる扉をゆっくりと開け放つと、薄暗い照明の神殿のような空間に緩やかな階段状の段差がある空間に出た。
その階段の先にはソファのようなゆったりとした玉座が三つ等間隔で置かれ、それぞれ薄い布で仕切られている。
要は巨大な謁見の間だ。
コツコツと石で出来た床を蹴る二つの足音は、迷わず自身の玉座に向かい、仕切られた布の向こう側で慣れた様子でささっと着替えそのまま腰掛ける。
『三王』と呼ばれる憐王、紘王、優王の三人は、それぞれが各国の要請を受け戦場に居るか『蟲』の対応に追われたりと、普段揃って本部内に居る事はあまり無い。
それこそ国をあげてのセレモニーや国賓との謁見など、そう言った機会で無いとまずありえない。
今回は明日に控えた復国セレモニーに参列する為、打ち合わせと事前メンテナンスの為揃って本部に居るところだ。
魔獣の毛皮が敷かれた玉座にそれぞれ腰掛けながら、二ヶ月ぶりに受けたメンテナンスの出来を確かめる様に手足を伸ばしていると、ゆっくりと謁見の間の扉が開きコツコツと響く足音が玉座に向かって近付いてくる。
「おはよー優」
玉座を仕切っている布を開け放ち、制服に身を包んだ憐王が伸びをしながら朝の挨拶をすると、挨拶をされた男――優王は爽やかな笑顔を見せる。
「おはよう。二人とも早いですね」
光を反射しキラキラと光る金髪と吸い込まれそうな程澄み切った青い瞳、絵に描いた『王子様』のような容姿の優王は、そのイメージそのままの輝かしい笑顔で答えると、自身の玉座の布の中に消えていった。
「……この服のデザインってどうにかなんねぇかな? カチャカチャうるせぇんだよな」
入れ違うように憐王同様着替え終わった紘王は自身の玉座の布を乱暴に開け放つと、その長い手足を確かめるように動かしながら少し離れたところに座る憐王にそう投げかける。
「それ分かる。私のやつ軍服なのにミニスカートでピンヒールのブーツってどうなの? 一応布と金属で戦闘服っぽいけど、これ着て戦場行かないし。あとこのマント? 長すぎて転びそうなんだよね」
全身を黒の制服で包んだ憐王が立ち上がり自身の服をまじまじと観察する。
ぴったりとボディラインの出る服のダブル前ボタンを襟元までかっちりと留め、一見普通の幅の広いプリーツスカートだが、前後左右に金属が入りその間を埋めるように布が張られているスカート。双肩にはがっしりとした金の金具で引き摺る程長い丈の外套が固定されている。
紘王の服はと言うと、基本的な色合と作りは憐王と同じだがパンツスタイル。前も後ろも踝まであるロングコートのような装いを下まで全てきっちりは留めず、腰の辺りから下は開け放ってまさにコートの様に着こなしていた。
「変に体裁気にしすぎて拗らせてるんだよね。まだ謁見用のこの服に、王冠がついてないだけマシかな」
「でもこの制服になってからまだ十年位でしたよね? さすがにまだ変わらないのではないですか? それより僕としてはこの毛皮を何とかして欲しいかな……」
着替え終わった優王が玉座の布を丁寧に端に寄せながら二人の会話に参戦する。優王は紘王と同じ装いだが、きっちり下まで留め着ていた。
そんな優王が困ったような笑顔で自身の足元に敷かれた物を眺めながら溜息をつく。
三人の玉座にそれぞれ敷かれている魔獣の頭付きの毛皮。
艶のある巨大な黒豹のような毛皮が大きなソファのような玉座に収まりきらず、玉座の前の段差の下までカーペットの様に垂れ下がっていた。
三者三様に自身の足元の毛皮を眺めしばし言葉を失っていると、来客を告げる音が正面の扉の方からする。
するとそれを合図に玉座の脇の壁にある関係者用扉から三王専属侍従が現れ、再び玉座を布で隠すように仕切ると、ゆっくりと扉を開け来客を通す。
口上を述べながら謁見の間に通された来客であったが、実際に謁見するのは三王では無く玉座のある階段の下に立つ元老院。
三王はそれぞれ仕切られた布の向こう側で何となく話を聞いていれば良いだけだ。
実際に紘王なんかは客人に見えない事を言い事に、話など聞かず先程廊下で置き去りにした者達が纏めた資料を侍従から受け取り目を通しだす始末。
『王』等と言う肩書きこそ持ってはいるが、実際に国の中枢機関とし政治に口を挟める程権力を持っているのは元老院と呼ばれる本部の古参達。
それなりに力を持ってはいるものの、軍人の位置づけ、そもそも『人では無い』とされる三王とその率いる部隊は表立っては敬われているが、実際政治や戦争なんかにおいてはただの体の良い飾り。
定期的に華やかなセレモニーに姿を現し、それ以外は日夜戦場にいるのが実態だった。
「今年の選定の立会いの件ですが」
長々と決まった口上を述べていた来客は、ようよう本題を切り出したようだ。
「あぁ、明日のセレモニーの前だったな。今年は三王が揃っておるので丁度いい。宜しいですかな? 陛下」
白い髭を蓄え厳格そうな出で立ちの元老院が振り向き、玉座の三王に確認を求める。形式上三王のが立場が上となっているが、元老院のその態度は露骨に軍人を格下として見ているのははたから見ても一目瞭然であった。
(あっ? やべぇ全く聞いて無かった。なぁ憐、ジジイなんだって?)
(えーと、明日セレモニーがどうたら……優、なんだっけ?)
(ちょっと何してるんですか二人とも……セレモニー前に選定の儀の立会いだそうですよ)
(マジか。くっそ仕事増やしやがって……)
元老院の会話など上の空だった紘王と憐王は、優王に精神感応力で確認を取り、急遽決まった追加の仕事に落胆しつつも紘王は布の間から手を出し承諾の意を伝える。
(って、誰か一人ならって返事すれば良かった……)
((あっ……))
三王共に明日の午前中は比較的スケジュールに余裕があった為、明日に回そうとしていた書類が山積みだった事を思い出し承諾した傍から後悔の念にさいなまれてた。
*
「今年は何人選定を受けるんだろうね」
夜も更け今日の謁見予定者は一通り対応し、謁見の間の奥から続く三王しか入室を許可されない部屋で、基本的には睡眠を必要としない三王が書類に目を通していると憐王がポツリと零す。
謁見の間ほど広くは無いが三王用の部屋と言う事もあり、十分すぎる程に広く机や調度品等もそれなりの物がそろえられている。
が先程の謁見用の服を着たまま三人が座り込み書類を広げているのは床。
玉座と同様に魔獣の毛皮を敷いた床の上に直に座り込み書類の山に埋もれていた。
「確かにここ何年か行ってねぇからな……増えてんのか減ってんのか」
毛皮の上に寝そべり、毛皮の無い床の上でろくに目を通しもしていない書類に判を押す紘王はさも興味無さそうな受け答えをするその隣で、優王はくすくすと笑いを零していた。
時間が合った時個々に選定の儀に同席した事はあるが、ここ何年かは誰も行っていなかったし、三王が揃うとなるともう何十年か。
今のように『適合候補者を集めた学校』と言うシステムになってからは初めてかもしれない。
「それにしても……選定なんて懐かしいですね」
どこと無く優王が嬉しそうにそう呟くと、紘王も憐王も作業の手を止め顔を上げる。
「優は最近だもんな……百年位か? 俺は『呼び出した』瞬間は覚えてるけどそれ以外は忘れたな」
寝転んでいた紘王が胡坐をかき座り直すと、腕を組みしばし考えるような素振りをするが、『あーやっぱり無理、忘れた』とすぐに諦めてしまった。
「紘で覚えてないなら私なんかもっとだよ。紘で今三百年過ぎた位だもんね。私その倍以上だもんなー……確かー今みたいにしっかりした所じゃなくて、禁域扱いで封鎖されてた」
全員書類の存在など忘れ、そのまま過去に思いをはせる。
『蟲』と言われる存在が現れるようになってから二千年余り。まだ人類の敵が人類だった二千年前の最終世界大戦が終戦を告げる前までは『蟲』の存在は確認されていなかった。
『悪魔』や『戦死者達の怨霊』、はたまた『神が人類を滅ぼすために遣わした者』などと噂されるようになった得体のしれない巨大な『蟲』
最終世界大戦で何度目かの文明崩壊と地表の汚染の後、突如として現れたそれはどんな宗教や武力を持ってしても和解しあえなかった人類が、お互いに手を取り結託する理由となった。
大戦で地上の大部分が崩壊し汚染された過酷な大地で生き抜くことを余儀なくされた人類にとって、その存在はまさに驚異以外の何物でもなく、文明の再建など出来る筈もなくただただ怯え暮らすのみだった。
だがそんな生活をはじめてすぐ、何とか生き残った過去の偉大な研究者達により『蟲』に対抗出来るある答えが導き出された。
が、それはつい最近まで高度な文明を持っていた彼らとは思えない俄かには信じがたい答えであり、多くの人が失望と落胆の声を上げた。
『神が作った蟲に対抗するのには、神と同等の何かの力を借りねばならない』
答えであって答えでないそれに人類は失望し、大人しく地下で暮らそうとゆっくりと地下に文明を築く計画を進めていた。
が、どんな中傷を浴びようと諦めていなかった研究者達は、大戦から十余年程過ぎた時、ついに対抗出来るものの『作成』に成功した。
それは唯一汚染をまのがれた名も無辺境の国にあった小さな湧き水。
長い年月をかけ探し当てた唯一穢れる事のなかったその地で、穢れを知らない幼子に古来よりの技『神降ろし』を行ったのだ。
偉大な技術者、研究者が集まり下した結論は、恐ろしく原始的で信憑性の無い神頼みであったが、捨てる神あれば拾う神あり。突如溢れ出した湧き水が徐々に何かを形作りそのまま幼子の体に溶けるように吸収されていった。
初の蟲に対抗する生物兵器の誕生の瞬間であった。
その最初の幼子が『何』を体に降ろしたのかは今はもう人類には伝えられていないが、その力を駆使し長い蟲との戦いの末亡くなるまで、百年以上も成長せず神降ろしをした時のそのままの姿で戦い続けたとされる。
その最初の生物兵器が誕生したその時その瞬間をもって、今後神降ろしの資質がある子は、自身以外の人類の為に人としての生を捨てる事となる。
それから長い年月を経て、今ではその生物兵器達はその名も無い辺境の国だった所――今では世界の中心とされる強国『アリア』に集められ、一般の陸軍≪アーミー≫や空軍≪エアフォース≫、海軍≪マリーン≫等と同じ軍人として位置づけられ、各国から要請があれば出動し、又個々に蟲の存在を感知したら駆除を行うといった形態になっていた。
ただ長い年月の中で神のように敬い畏れられる生物兵器達の扱いは変わらなかったが、その選考方法は日夜進化を続けていた。
以前は適性が認められればどんなに幼くともその人生を奪われていたが、ある程度体の成長した成人前の若者の体が一番耐久があり長い戦闘にも耐えられるとの考えから、過去にただの湧き水だった場所には世界中から集めた『神降ろしの適合候補者が集められた学校』が建てられ、『選定の義』を迎える十七歳まで、そこで一般教養と基礎体力作りをする事となっていた。
技術者達が作り上げた神降ろしの資質のある者を見定める装置は優秀で間違い仕事をするのだが、『資質がある者』と『生物兵器』はまた少し違った。
『神降ろし』と昔ながらの抽象的な、人知の及ばない力全てに当てはまる表現をされているのは実際に意図した善神のみを降ろしているわけではないからだ。
神降ろしの儀式の知識が少なからずある大人は、少しその意味を考えれば容易に理解ができるであろう。
『神降ろし』とは名ばかりで平たく言ってしまえば『依代にされた器を気に入った人外の何かが憑依する』事。
その為飯綱や地縛霊が降りる時もあれば神話や伝承上の存在が降りる時もある。
いくら資質があったとしても、それらに気にいられなくては神降ろしは成功せず、毎年ほんの一握り、むしろ全く選定されない年もある。
選定されなかった者はどうなる事も無く、普通に一般社会に戻り就職して行くか、そのまま別の形で軍本部に在籍するかだ。
現存する生物兵器は三王を合わせ三十人にも満たない。その中で先に述べた『神話や伝承上の存在』をその身に降ろすのは三王のみで、それ故に三人は王と呼ばれている。
『憐王、紘王、優王』と言う名は襲名制。それぞれ決まった存在をその身に宿すか一定の力を持つと得られる呼び名。
『憐王』は現存する生物兵器の中で強大な攻撃力を誇る者が名乗る事の出来る呼び名。
『紘王』は現存する生物兵器の中で確固たる防御力を誇る者が名乗る事の出来る呼び名。
『優王』は現存する生物兵器の中で最高の蘇生能力を誇る者が名乗る事の出来る呼び名。
実力だけで表現するなら以上の様な定義があるが、それともう一つ、今代の三王はそれ以外にもそれぞれその身に宿した存在も完璧にその定義に当てはまっていた。
『憐王は竜、紘王は炎の化身、優王は天馬』
いつの頃か、研究者達の間でそのような答えが導き出され確定された。
生物兵器自体極めて稀にしか誕生しない中、三王が揃っている現在は『奇跡』とされ、その上両条件を完璧に揃えた現三王達は人類に長らく安定した暮らしを約束していた。
ただ、千年以上前の蟲との大戦で亡くなった前憐王が受けたダメージがあまりにも大きく、未だそのダメージを回復しきれない竜は現憐王の体内でゆっくりと傷が癒えるまで眠り続けている。
それでも強大な力が使えるのは、奇跡の三王がその身に宿す存在が一つでは無いからだ。
一つの存在を駆使するのにも相当な力を消費するのに、これまで前例の無かったそれ以上の力をその身に宿すのだ。
ただでさえ三王が揃うと言う奇跡に加え、前例のない事が起きた事により、人類は歓喜に包まれると同時に何かの前触れなのではないかと波紋が広がった。
特に優王が選定された約百年前より、徐々に増えつつある蟲の対応に各国から要請が休みなく本部に寄せられる。
その為過去二千年前に人類の間には強弱も無く、一丸となって蟲の恐怖に立ち向かっていたのだが、生物兵器が誕生した事で再び国の間に強弱が生まれ、力を持った軍の上層部、元老院達は自国以外の政治にも口を出すまでになっていた。
今や世界は大きな国とそれにすがるようにぶら下がる各国の二つになったと言えよう。
それは当然ながら各国としても目に余るものであったが、下手に元老院達の機嫌を害するような事があれば、ただでさえ要請を出したところでいつ人手不足の生物兵器が派遣されるか分からない現状で後回しにでもされたら国が滅んでしまう。
それまでの繋ぎとして、紘王がその力を込め各国用に作成した対蟲用簡易シールド(通称鍋の蓋)と憐王が作成した蟲用携帯型炸裂弾(通称ロケット花火)も簡易的過ぎていつまで持つか分からない。
生物兵器達が人の身を捨て戦い続けても、甘い蜜を吸えるのはごく一部の者。それ以外の人類はその甘く残忍な世界で暮らしてく事を余儀なくしていた。
その生物兵器だが、普通の生物兵器達は三王とは違い、その身に降ろした力も弱く体も一般人と大差ない為、長く働く事が難しい。
その為一応退職制度が適応されており、ある程度の年齢になったら神にお帰り頂き一般人として生活する事もあるが、そこまで長く生き残れる生物兵器はそうそう居ない。
大体の者が個人で行動をする様になって何年か後に、蟲との交戦で命を落とす。いくら生物兵器と言えど、連日の個人での戦闘は体力集中力共に限界がある。
その為ほとんど休息を必要としない三王は、出来るだけ他の生物兵器達はチームで行動させ、自身は個々で各地に向かい蟲と交戦を繰り返し、その空いた時間でチームを補助する流れになっている。
一番その身を酷使している三王が、その苦労を微塵も感じさせない無邪気な人柄であったのが唯一の救いであり、その反面『生物兵器は人外』扱いされている原因の一つと言えよう。