魔物に転生した俺(達)は記憶を頼りに食堂を始める事になった 4
この話はここまで書いて『ただの料理の作り方やん?』ってなって保留になりました。
と言う訳で絶賛ミンチタイム中。
少しでも喜んだ過去の自分を殴りたい……このかったい肉をミンチにするのは骨が折れる。
まず、叩いて繊維を壊してから程良く握り潰す。
程良く潰してからじゃないと、とてもじゃないが包丁で切れなかったのだ。
俺が肉と格闘している間にも、二人は作業を進めていく。
「準備する物はー、肉とジャガイモとタマネギでしょ?あと塩胡椒と卵と小麦粉にパン粉……あとは多めの油だねっ」
ユリカは思い出しながらてきぱきとディルに指示を出していく。
「このバレイショとリーペはどうするんだ?」
「「バレイショとリーペ?」」
ディルの言った事がよく分からず、つい聞き返す。
「二人がジャガイモとタマネギって言ってるコレだよ」
「マジかっ!?バレイショとリーペって言うのか!」
つい通じていると思ってペラペラ喋ってたけど、そりゃ通じてる訳ないじゃんかな。
「ディル……じゃあコレは?」
「ピニオン」
「そうか……」
キノコを見せたのだが即答でピニオン……。茶碗蒸しの説明の時にキノコって単語が出たが、あれはあっちの食材だって思って突っ込まなかったんだな…。
「うーんと……。バレイショは皮を剥いて茹でて、リーペ?は細かく刻んで肉と一緒に炒めて欲しいな」
リーペって言うと、一気にコロッケ作ってる感じがしなくなってきたな。まぁ出来上がりが一緒なら良いんだが。
ディルはユリカの指示通り的確に動く。一応、食堂を経営しようってなる位には料理は出来るらしい。
そうこうしているうちに、ミンチとタマネギの微塵切りが出来たので、順次炒めていく。
「本当はこの段階でコンソメとかで味付けるけど……今は塩胡椒で良いよね」
脂分の少ない肉と、俺の知ってるタマネギより少し小振りなリーペをじっくりと炒めていく。
すでに良い匂いがしてきたが、やっぱりどことなく獣臭い気がするな……。
「バレイショ火が通ったみたいだがどうするんだ?」
「おっきい器の中で潰してー」
怖いほど順調に出来上がっていく。まさかファンタジーの世界でこんなに上手く行くとは思ってなかった。
「お肉ももう良い感じだね。じゃあ熱いうちにジャガイモと混ぜちゃってー。ディルはその間にそれぞれ容器に卵、小麦粉、パン粉を広げておいてっ」
さっさと混ぜて早く食いたい……。
肉をジャガイモの容器に入れ混ぜるが、ジャガイモが俺の知っている物より大分粘度が強い。水っぽい訳じゃないが、ホクホク感は感じられない。
でもひとまず混ぜて次の行程に回す。ホクホクしていない分しっかりとまとまったから良いとしよう。
「まとめたやつを、小麦粉、卵、パン粉の順番で付けていって、油で揚げればかんせーい!」
「油で揚げる?」
ディルは不思議そうな顔をしつつ衣を付けていく。
フライパンに気持ち多めの油を入れ火にかける。大量に入れなくても、フライパンを傾ければ良いんだよ!ってユリカに熱弁された。
鍋肌に滑らすように投入すると、シュワシュワと軽い音を立て始める。
「中は火が通ってるから、表面に軽く色が付く位で大丈夫だよ」
鍋の中でコロッケがだんだんキツネ色に色付いていく。最初は静かにシュワシュワとした音だったが、今はしっかりとカラカラ音を立てている。
程なくして綺麗なキツネ色になった所で皿に移していく。
鍋に油を入れたあたりから、ディルが目を丸くしたまま固まっている。『揚げる』って発想は無かったのか?それともただコロッケが珍しいのか?
「あっ。ソース無いけどどうすんだ?」
「あっ!あー!もー……一個課題が出来たね……」
ディルを尻目に残りのも揚げていき、結構な量のコロッケが完成した。
刻んだキャベツもご飯も味噌汁もなく、コロッケだけの夕食になった。
出来たコロッケをテーブルに運んでる間に、再起動したディルがレシピの詳細を再確認しつつメモしている。
「じゃあ……いただきまーす!」
しゃおっ。
知っている物よりも、サラッとした油であっさりと揚げたコロッケは、サックサクの衣にしっとりとしたジャガイモ。鼻に抜けるタマネギの香りに引き締まった肉の触感。
ソースも無く下味も塩胡椒だけだったにも関わらず、あっちの世界よりも食材一つ一つがしっかりとした味があり十分に満足できるものになった。
久し振りの感覚に浸っていると、ディルが凄い勢いでコロッケに食いついている。……コロッケは飲み物ですか?そんな勢いで食べ続けるので、俺もユリカも食べるのを忘れて見とれてしまった。
「うまいっ!!なんだこれ!?油で揚げるとこんなサクサクになるのか!!。材料は細々あるが、そんなに手間もかからないし値も張らない……」
一気に食べて感動の声を上げたと思ったら、ブツブツと考え込んでしまった。
「思ったよりしっかり味があって旨いな。硬めの肉の食感がアクセントになってるし、油がクドくないから食べやすいな」
「うん。でもやっぱり少し獣臭いかな?それにジャガイモが知ってるのよりズッシリしてるから、子供とか女性はあまり好まないかもねー」
ディルの事は放っておき、久し振りのコロッケの味を確認し合う。
やっぱり材料が違うから『懐かしい味』って感じはしなかったが、一つ思いでの味に近付いた。
だが実際お店で出すならもう少し改良を加えないと、リピーターは出ないかもしれないな。まぁ、ディルがユリカを捕まえて色々聞き出すんだろうけどな。
俺達が調理法の改善策や、ソースの代わりになる新しい物等を口々に言っていたら、いつの間にかコロッケの山が無くなっていた。
山を平らげたディルは、虚ろな瞳でぼぅと見上げていた。
「こんなに旨いのに……お前らの求める味じゃないのか。はははっ……ははっ……うぉぉん!!」
「何でいきなり泣き出すんだよ!?」
ぐったりしていたディルは、いきなり泣き出したかと思うと、抱き枕でも抱えるように俺の尻尾に飛びついた。
「ありがとうよっありがとぉぉぉ!お前達のお陰でやっていけそうだよぉぉ!ちゃんとお前達が求める物作ってやるからなぁぁ!うぉぉん!」
「ぎゃぁぁ!尻尾痛ってぇ!分かったから!痛ってぇ!!」
力強く尻尾を締め上げた後、ユリカのしっかりと犠牲になった。
「で、食材ってどうやって保管しておくんだ?」
コロッケを食べ終え、肉を漬け込んでいる間にふと思った事を口に出す。
「普通に食料庫に入れとくだけだが?肉は干さなきゃダメだがな」
大量のミノタウロスの肉を前に、半分溜息混じりに言う。
やっぱり冷蔵庫なんか無いからな。肉や魚はそのままじゃ保管しておけないのか。ミノタウロスの干し肉って硬そうだな……。
「ねぇ、ディルは魔法とか使えないの?食材凍らせておけば良いんだけど……」
「いや、俺はそんな事……」
そのまま沈黙する。
「……ごめん。俺、凍らせるの出来たわ」
「「は?」」
自分で冷蔵庫は?とかそんな事考えてた割に、それが出来る事をすっかり失念していた。
俺達竜人は、竜よりは威力は無いが火、水、雷、氷など、自然現象を操ることが出来る。実際ミノタウロスも感電させて苦しませる事無く倒したのだ。
いやーすっかり自分の事を人間だと思ってたわ。