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国立博物館附属古代物復元学院1

データ破損シリーズ

 国立博物館附属古代物復元学院。通称ミイラ作成アカデミア。

 元は古代と現代を繋ぐ遺物や魔術・幻獣を研究保護する由緒正しき学院であったが、今は多種多様な学科が乱立する有象無象の学院。

 ミイラ作成アカデミアと呼ばれていただけあり、以前は様々な学科が出来て尚、そのレベルの高さは専門家ですら舌を巻く程であったが、今はその学科自体が無くなり、呼び名だけが虚しく残るばかり。

 

 その国立博物館附属古代物復元学院、生物学部古代生物保護育成学科幻獣専攻のリュートは、先程チームのメンバーから追放宣言をされた所だ。

 リュートがそんな事になった原因はほんの数時間前に遡る。

 この学院には学院が設立した時より続く年に一度行われる学内行事、一般開放もされる所謂学園祭の様なものがあり、生徒はそれに向け半年前よりチームを組み本格的に準備を始める。

 学園祭の様なもの――幻日祭げんじつさいは、各々他の学科からメンバーを四人集めチームを組み、その年の一位を決める催しであり、国の主要機関に己の実力を見せる絶好の機会であり、参加するだけでも単位が貰える。

 生徒はまず幻日祭の半年前にチームを組み、チームが出来てから初めて『召喚』をする。

 魔獣や魔物と言った類いの討伐・使役・召喚などは学歴など無くとも経験を積み実技をクリアすれば資格は取れる。しかし、幻獣絡みになるとその全てが学歴必須の国家資格となる。

 国立博物館附属古代物復元学院はそんな資格が取れる唯一の学院でもあった。


 簡単に幻日祭の概要を言えば、現在学院の中で一番生徒数の多い生物学部により、幻獣を一体召喚し、その幻獣の強さなどを競う事。

 幻日祭は、単純に力を競う物等身体能力を生かした分野と、容姿の美麗さを競う物等多岐に渡る。

 しかし、やはり幻獣を召喚するとなるとその力や大きさを競うのが花形となる。


 そんな中、チームのメンバーが見守る中満を持して召喚を行ったリュートは、召喚された幻獣を見たメンバーにあっさりと捨てられてしまった。

 メンバーに見捨てられたショックからなかなか立ち直れないリュートは、学院の掲示板に『メンバー急募!』の紙を貼り終わると、頭を抱えその場に座り込んでしまった。

 そんなリュートを心配するかのように顔を覗き込むのは、こぼれ落ちんばかりに大きな翡翠色の瞳を持つ幻獣だった。


「本当にごめん……」


 幻獣は雪花石膏アラバスター製の磨き抜かれた廊下に硬質な足音を響かせ、申し訳なさそうに一歩身を引いた。

 

「ティアは悪くないよ……。むしろ俺なんかの召喚に答えてくれてありがとう」


 リュートは力無く立ち上がるも、満面の笑みでティアの頭を撫で回す。

 申し訳なく思うも、何処か気持ち良さそうに目を細めるティアの頭にはいくつか枝分かれした角が一対。

 ティアは華奢な女性の上半身に鹿の下半身をもつ、エラポスタウロスだった。

 強さや大きさや希少さが花形とされ求められる幻日祭で、非力で取り立てて華美でも無く、ましてや少し珍しい程度で幻獣でも無いティアを見たチームのメンバーは、即リュートをチームから放り出したのだ。

 召喚後のチーム再編成は基本的に余程の事が無い限り受理されない。今回リュートがティアを召喚したのは余程の事だと学院が正式に判断を下した事になる。


 空元気を振りまきチーム募集の紙の束を握り締め歩き出すリュートの背中を見つめながら、ティアはそっと後を付いて行く。

 軽く規則的なティアの足音が響く中、柱廊に面した中庭では、召喚した幻獣の調教や幻日祭の何の部門に出場するかで他のチームが賑わっているのが見える。

 ある場所ではユニコーンが、またある場所ではコカトリスがセイレーンが、召喚した主の指示に忠実に従い、座ったり跳ねたりと一喜一憂し希望に胸を膨らませている。

 リュートとティアの二人はいつの間にか足を止め柱廊の段差に座り込むと、中庭で繰り広げられているそんなやりとりを、目を輝かせ見学してた。

 

 そんな時、突然中庭が陰り一面暗くなった。

 リュートとティアだけではなく、中庭に居た生徒も同時に顔を上げると、上空にはとぐろを巻く巨大な九本の首を持つ蛇が浮かんでいた。

 地上に居た全員が驚きの歓声を上げる中、蛇の背に微かに見えた人影が学院の裏山を指差すと、巨大な蛇は指示に従い真っ直ぐその場から飛び去っていった。


「ティア見たか!? 何だ今の幻獣!」

「見た!! 何だろ今の!?」


 立ち上がり蛇が飛び去った方を眺めながら、リュートは弾んだ声を上げ、ティアも小さな体で懸命にリュートの周りを飛び跳ねながら空を仰ぐ。

 中庭の生徒も同じように空を仰いでいたが、ふと今度はリュート達の居る柱廊に視線を投げて来た。

 その視線に気付きリュートが地上に視線を戻した時、元気に飛び回っていたティアが雪花石膏の床で蹄を滑らせ盛大に転んでしまった。

 廊下の反対側に滑って行ってしまったティアを、慌てて追い掛けたリュートがティアを抱え上げると、ティアと同じように硬質な床を引っ掻くような足音がふと、すぐ近くでいくつかした。

 リュートとティアが振り向くと、そこには先程自分を捨てたチームのメンバーの一人が粘着質な笑みを浮かべ、その後ろには見知らぬ男が一人申し訳なさそうに小さく立っていた。


「こんなとこで遊んでないで、早くメンバー募集した方が良いんじゃ無いか? うちはもう新しいメンバーも入れた事だし、募集の紙を貼る位なら手伝ってやるけど」

 

 元メンバーの男はリュートにそう告げるや、すぐ後ろに立っていた男の腕を引き顎をしゃくる。腕を引かれ思わず矢面に立たされた男は、何度かリュートと男の顔を交互に見比べると、リュートに申し訳なさそうに何度も何度も頭を下げた。

 幅広く学科が分かれる生物学部だが、奇しくも申し訳なさそうに頭を下げる男はリュートと同じ学科の顔見知りだった。


「お前も腐ってないでチーム探せよ。まだどっか空きはあるだろうしな。じゃ、また本番で会おうぜ!」


 元メンバーの男は一方的に言いたい事だけ言うと、申し訳なさそうに頭を下げたままの男の腕をとり大股で歩いて行ってしまった。


 反論できずに居たリュートが歯を食いしばり男が去って行った方を眺めていると、腕の中で申し訳なさそうにティアの角が俯きだした。

 慌ててリュートがティアを降ろし顔を上げさせると、大きな瞳いっぱいに溜まった涙がぽろぽろと流れ出した――直後にぴたりと止まり、ティアの目は更に大きく見開かれ、リュートの頭の上を見据えたまま動かなくなった。

 予想とは違うティアの様子に、リュートは混乱しながらも無意識にティアの視線を追い振り返る。

 するとリュートのすぐ後ろには、逆さ吊りの女性の頭があった。


「ぎっ……――!!」

「はいはいうるさーい。もう悲鳴は聞き飽きたわよ」


 逆さ吊りの女性はリュートの口を即座に塞ぐや、複数の硬質な足音を立て天井から壁を伝いゆっくりと下りて来る。

 床に降り立ちリュートから手を放し腰に手を当てる女性は、上半身こそはティアと同じ人の女性と全く同じ外見をしているが、腰から下は恐ろしく巨大な百足ムカデと同じ形をしていた。

 大百足の女性は艶やかな流れるような黒髪に揃った前髪、色白な顔に鮮やかな唇と、いかにもその辺にあった布で適当に縛り隠したであろう豊満な胸。人間と同じ部分は恐ろしく妖艶な美しさを持っているが、その何倍何十倍もの大きさを占める鈍く輝く虫の半身。

 女性は一回ため息のように大きく鼻から息を吸い出すと、先程の男のように気まずそうに目を反らし頭をかく。


「さっきの頼りない男に召喚されて、さっきのいけ好かない男のチームに入った大百足のリサよ。私もこの見た目のせいで非公式だけど前のチームから追い出されたの」


 リサは頭をかきつつ中庭の方へ顔を向けながらぽつりぽつりと口を開く。

 リュートもティアも、最初はいきなり背後に逆さの女性が居たと言う現象に悲鳴を上げそうになったものの、リサのその人間臭さと根っからの人の良さを思わせる仕草に、いつの間にか先程の衝撃も虫の半身の事も気にならなくなっていた。

 

「その……うちの馬鹿男がごめんね。チームを外される辛さは痛い程知ってるのに……」


 大きな体を丸めながら徐々に項垂れていくリサに声を掛けようとリュートが立ち上がると、中庭の方から不躾な視線を感じた。

 リサもまた、ティアと同じ様な理由でチームを外された様だが、ティアは幻獣魔獣として取り立てて特出した力が無く捨てられ、先程の話から察するにリサはその虫の半身を受け入れられなかったのだろう。

 現に今も、中庭にいる生徒は小声で何か良いながらリサに奇異の目を向けている。

 他人事では無いリュートは、そんな周りの目に徐々に苛立ちが募っていく。

 リュートは羽織っていた学院の制服の上着を脱ぎリサの肩に掛けると、目を丸くするリサを無視し留め具をとめ始めた。


「俺は幻獣専攻のリュート、こっちはエラポスタウロスのティア。確かに召喚した女の子に服も着せないなんて最低な馬鹿男だよな」


 リュートは苛立ちを抑えながらリサに服を着せていく。男物の、しかもケープの様にゆったりと広がる仕様の上着を着せたと言うのに、胸元の留め具は今にも弾けそうだ。

 留め具がとまっただけでも良しとし手を引いたリュートだったが、余計に煽情的で視線を集めてしまいそうなその見た目に、眉根を寄せティアに視線を向ける。

 ティアもどうした物かとリサを見上げていたが、何を思ったのかリサの百足の背中に飛び乗ると、自信の髪を纏めていた真っ赤なリボンでリサの髪を結い始めた。


「これでどう? ……余計目立つ、ね」


 頭の上で一つに縛る、所謂ポニーテールをしたのだが、ティアの様にどちらかと言えば可愛らしい顔立ちだったのなら話は違ったかも知れないが、首筋があらわになった事で余計妖艶さが増してしまった。

 しかしもう打つ手も無く、一先ず先程の姿よりはマシだと、リュートもティアも揃って納得し頷く。

 どこか責任を感じ、八つ当たりをされるか悲観的な空気になるかを想定し覚悟していたリサは、思わぬ二人の行動にしばらく押し固まっていたが、じんわりと温かい服と風に靡くリボンのシルエットに徐々に顔が綻んでいく。

 リサはからっとした気っぷの良い満面の笑みを浮かべると、リュートの手からメンバー募集の紙をむしり取るや、またするすると壁をのぼりだす。


「二人ともありがとね! この服とリボンのお礼にこれ貼って来るよ! あのぼんくら馬鹿男にも手伝わせてやるんだから!」


 リサは本来の明るさを取り戻したようで、二人に元気に挨拶をすると、さっきの男二人を追い掛けるように天井を駆け抜けて行った。

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