宰相と侍女1
溺愛ものを書きたく書き始めた結果どしょっぱからになりそうになりストップ。
解体して他の話に組み込みましたー。ホルンとか知った名前が全く人物で出て来ます。
可愛らしいピンクのチョーカーと、そのチョーカーから下がる二つの薔薇の形をした装飾が鎖骨の間で揺れる。
姫付きの侍女リディアは末の姫メルティーナの私室で、朝から全気力を振り絞りメルティーナの着付けを行っていた。
黒い髪をきっちりと結い上げ露出したリディアのうなじには汗が滲むも、顔は至って穏やかな笑みを湛えたまま鏡越しにメルティーナに対峙する。
「メルティーナ様、そう動かれてはドレスが破けてしまいます」
「今日はラベンダー色のが良いの!」
リディアが着付けているのはフリルがふんだんにあしらわれたピンクのドレス。メルティーナの緩くウエーブがかった金の髪が栄え、九歳になったばかりの幼い姫に実にお似合いの可愛らしい色合いのもの。
そのピンクのドレスを着付けたそばから引っ張って脱ぎだし、再び着付けようとするも髪を振り乱し激しく抵抗されてしまう。
どうにか着付けようと天気や流行のお菓子の話題で誤魔化そうとするものの、しまいには鏡台の上のブラシや髪留めを投げつけ出す始末。
「ラベンダー色が良いの! ……クロウェルと同じ色が良いんだもん」
「クロウェル様と?」
メルティーナはラベンダー色のドレスを握り締めたままバツが悪そうに俯きつぶやく。
突如発せられた名前はこの国の若き宰相。弱冠二十歳で先代宰相からお役目を賜ったクロウェルは、若き宰相に取り入ろうとする貴族や他国の力をその知識と判断力で制圧し、現在は二十六にして現国王の信頼も厚い側近として確固たる地位を築いた才人。
メルティーナの言った【クロウェルと同じ色】とは、宰相服こそはシックな黒で統一されているが、クロウェルの瞳は深いロイヤルパープルで髪も見事なワインレッドを冠しており、それをさす言葉だと予想される。
ほんのりと頬を染め俯くメルティーナは、もじもじとラベンダー色のドレスを握り締めたまま口を尖らせる。
「今日はクロウェルに会えないんでしょ? 我慢してお茶会とダンスのレッスンに行くんだからこれ位良いじゃない」
むすっと頬を膨らませ大きな青い双眸でリディアを見つめるメルティーナの顔は、恋する乙女のそれだった。
妖艶な大人な色気を持ったクロウェルは九歳の幼姫をも虜にしていたようだ。
リディアは初めて知ったメルティーナの気持ちに最初は黒い瞳を大きく見開き驚きはしたものの、自身の記憶の中の宰相閣下を思い出しふっと笑みが零れる。
幼い姫の淡い初恋を全力で応援したいリディアではあったが、如何せん九歳の姫がお茶会とダンスレッスンで着るにはラベンダー色のドレスは背伸びし過ぎな印象がある。さすがにラベンダー色のドレスなど着せた日には侍女頭に何を言われるか、むしろ侍女教育が足りないと姫付きの侍女の証であるピンクのチョーカーと薔薇細工を没収という事態にもなりかねない。
リディアはメルティーナに少し困った様な笑顔を向けつつ、どうにか出来ないかと思考を巡らせる。
化粧箱を開けしばし悩み、一言断りを入れてからメルティーナの金の髪を掴んだかと思いきや、取り出した紫のリボンと髪を器用に編んでいく。
たっぷりとした金の髪を顔の両サイドでリボンを編みこみながら大きなみつあみにすると、鏡を見ていたメルティーナの顔はみるみる光り輝いていく。
最後、みつあみの終わりには大きな紫色のリボンをあしらって完成。
「メルティーナ様、いかがでしょう? クロウェル様と同じ御髪のお色をイメージしてみたのですが」
金の髪に紫のリボンが綺麗に栄えてはいるものの、やはり少しばかり背伸びしているように見えなくも無い。
ピンクや白を基調としたメルティーナの自室ではより一層そこだけが引き立って見えてしまう。
だが、鏡台の引き出しから手鏡を取り出したメルティーナは、今にも空を飛んでしまうのではないかと思う程ふわふわとした足取りで立ち上がると、色々な角度から自身を確認し満面の笑みを見せた。
「やっぱりリディアは最高よ!」
手鏡を鏡台の上に投げ置いたメルティーナが飛び切りの笑顔でリディアに抱きついてくるのを、同じくリディアも飛び切りの笑顔で迎え入れる。
リディアは成人した歳からメルティーナに仕え、今年で四年。メルティーナが五歳になるかならないかと言った時からそばに仕えている為か、歳の離れた妹と思い大切に接して来た。
その妹同然の幼い姫が満面の笑顔で飛びついてくるのだ、自然と笑みが零れる。
「私ね、リディア。クロウェルが大好きなの」
リディアの腕の中で顔を上げたメルティーナは頬を赤らめクロウェルへの思いを語る。
威厳のある鈴やかな良く通る声が好き。長い指が好き。目を細めて笑いかけてくれた時の頬に落ちる長い睫の影、マナーや所作には厳しいけどちゃんと出来た時は抱き上げ褒めてくれる所等々、指折り話すメルティーナを微笑ましく見つめつつも、実際のリディアの頭の中は追いついていなかった。
言われれば、と思う所も多々あったのだが、そもそもリディアはあまり宰相であるクロウェルと面識はあまり無い。リディアの持っていたクロウェルのイメージは強いて言えば【一切隙の無い完璧な人】。その人が自身の腕の中の愛らしい姫とそんな風に接していると言う状況があまり想像できないでいた。
「それでねそれでね、リディアにお願いがあるのっ」
「はい、なんでしょう?」
声を弾ませすがって来るメルティーナに見とれ、半ば上の空で返事を返す。
するとそのリディアの返事に被せるようにメルティーナが口を開く。
「リディアにね、スパイになって欲しいの! 何でも良いからクロウェルの情報が欲しいの!」
「はい、かしこま……え、メルティーナ様?」
「だから、これ! クロウェルから出されてた課題! 私の代わりに提出して来て! ついでに色んな情報を持って来るの!」
「課題……えっ、お待ち下さいメルティーナ様、色んな情報って――」
困惑したリディアをよそに、メルティーナはリディアの腕の中に完了した課題をどさりと落とし、間髪入れずに鏡台の上のベルを鳴らす。
するとベルの音に反応した他の姫付きの侍女達が入室してくると、姫はそちらに駆け寄って行く。
「じゃあ私はお茶会に行って来まーす! あとはお願いねリディア」
メルティーナは飛び切り無邪気な笑顔と声でそう告げると、侍女の腕を取り部屋から出て行ってしまった。
ぽつりとその場に残されたリディアは、手元の課題の書類に視線を落としながら酷く深い溜息をつく。
「スパイ……クロウェル様に……無理でしょそんなの」
並み居る貴族や他国の思惑を見事に跳ね除け国と王家と自身を守って来たと言われている宰相の元に、一介の姫付きの侍女風情がスパイの真似事をしに行くなどと無理難題を押し付けられ途方に暮れるしかなかった。
*
宰相執務室に響く控えめなノックの音にクロウェルは短く返事をする。
一拍置き扉を開け入室の許しを口にするのは課題を抱えたリディアだった。
結局いくら考えてもしょうがないと結論に至ったリディアは、課題だけでも提出しなければと思い立ち、姫や王妃達のいる別館の棟から宰相執務室や王の執務室がある本館の棟へと渡り、意を決して宰相執務室の扉を潜ったのだった。
リディアが静かに入室し扉を閉め頭を少し下げたままクロウェルの反応を待つと、大きな宰相机の向こう側で書類に目を通していたクロウェルは視線だけリディアに向けて来た。
クロウェルは眉一つ表情一つ変えはしなかったものの、その視線はリディアの顔を捉えた後、すぐ首元のチョーカーに移行し最後は抱えた課題に移行し、改めてリディアの顔に向けられた。
「姫付きの侍女がどうしました」
直視こそはしていないものの、あまりにも温度の無いその声にリディアは頭を少し下げた状態のままどう声を出して良いか一瞬分からなくなってしまった。
小さく息を吐き出し呼吸を整えると、どうにか震えそうになる声を押さえ頭を上げず端的に用件を伝える。
「外出されましたメルティーナ様に代わり、課題の提出に参りました」
どうにかそう言い切ったリディアはクロウェルの言葉を待つ。
するとほんの小さな衣擦れの音の後、ことりと硬い音がした。顔を上げる事が出来ないので確認は出来ないが、きっと持っていたペンを置いた音だろう。
外部から遮断されたかのように一切の音がしない室内。緊張からかリディアの体は徐々に小さく震え出し、チョーカーから下がる二つの薔薇細工が鎖骨にぶつかる。
うっすらと予想出来ていた事だが、やはりメルティーナの言ったような姿は見受けられず、噂通りの威厳のある雰囲気を放つ宰相がそこには居た。
再び小さな衣擦れの音が響いた直後、小さな溜息のような息継ぎが聞えた。
「そうですか、わざわざご苦労様です。……今日は比較的機嫌が良い方なのですが、震える程私は怖いですか?」
「……っ!?」
所作やマナー等が一瞬で頭から消え去ってしまったリディアは、クロウェルのその言葉に顔を跳ね上げ、クロウェルに視線を向ける。
すると初めてまじまじと見たクロウェルは、頬杖を付き意地悪そうな笑みを浮かべリディアを見つめていた。
「いっいえ! そそそんな事は決して……!」
「はいはいお静かに、分かってますよ。少し意地悪しただけですよ。珍しい訪問者だったのでつい、ね」
「っ……ぁ……」
頬杖を付いたまま自身の唇に人差し指をあてがい、妖艶な笑みを浮かべたまま愉快そうに目を細め、必死に弁解しようと少し声が大きくなってしまったリディアを制する。
その所作は【鮮麗】【流麗】と表現するよりは、やはり【妖艶】と表現する方がしっくり来る。
自身の持っていたイメージと朝メルティーナが言っていたイメージの両方を同時に垣間見たリディアの頭は真っ白になり、クロウェルを見つめたまま完全に固まってしまった。
「そんなに大きな瞳を潤ませて男を見つめるものではありませんよ。それにしても、濡羽色とは良く言ったものですね」
追い討ちをかける様なクロウェルのその言葉に耳まで真っ赤にしたリディアをよそに、すっと立ち上がったクロウェルはリディアに近付くとするりと課題を抜き取り、机に少し寄りかかりながら次々と頁をめくっていく。
目の前で恐ろしい速さで課題に目を通すクロウェルを見上げていたリディアだったが、ようやく我に返り暇乞いの為再び頭を下げ口を開こうとする。
「使ってしまって悪いのですが、課題の採点をお願い出来ますか?」
「は、い……はい?」
が、リディアが口を開くよりも一歩早く言葉を紡いだのはクロウェルで、リディアはとっさの事でなんとも上ずった声が出てしまった。
「今日は末姫も一の姫も揃って外出でしたね。では急ぎの用はありませんよね?」
「は、い……」
「私は見ての通りやる事が山積みですので、代わりに採点はあなたがやって頂けると助かるのですが」
「ですが……」
「姫とは言え九歳用の課題ですので一般常識の範囲内です。教育を受けた姫付きの侍女のあなたなら問題無く分かる筈ですよ」
「えっと……」
「それとも姫付きですと宰相のお願いは聞けませんか?」
宰相のお願いを断れる侍女が居るわけが無い。
必死に首を振り承諾の意を表すリディアを満足そうに眺めたクロウェルは、リディアの手の上に課題とペンを置くと、来客用テーブルとソファを薦める。
そのままされるがままにソファに座ったリディアを確認したクロウェルは、何事も無かった様に宰相机に向かい仕事を始めた。
ペンを走らせる音と書類をめくる音、それとたまにする衣擦れの音以外何も無い空間。
リディアは再び自身の手の中に戻って来た課題に視線を落とし、必死に溜息を飲み込むと課題に目を通し始めた。
姫には専属の教育係がいて、一般教養などはその教育係が教える事となっている。
ただ、社交会や外交のマナー等はその筋のプロである宰相が教える事となっており、リディアが採点を頼まれた課題も概ねそう言った内容のものだった。
食事に招かれた際の挨拶の仕方、順番、食べ方、使うカトラリーの順番等々。クロウェルの言っていた通り、一通りの教育を施されたリディアには造作も無い問題ばかりであった。
ぱらぱらと採点を進めていき、間違っていた所や惜しい所は細かく書き直し、時には分かりやすいように絵を添える。
最後の問題の採点を終え一息つこうと思った矢先、リディアの頭にある事が浮かび小さく声を漏らす。
メルティーナはクロウェルに思いを寄せていて、採点もクロウェルにして欲しかったのではないか。そして良く出来たと褒められ、出来なかった箇所は直々に教えてもらいたかったのでは無いか。
たまらずリディアがクロウェルに視線を移動させると、思い掛けず紫の双眸と視線が鉢合わせた。
クロウェルが何か言おうと薄く口を開けたのが目に入ったリディアは、とっさに笑みを浮かべ会釈程度頭を下げ口を開く。
「クロウェル様、お茶は如何ですか?」
そのまますっと立ち上がり一礼すると、まとめた課題をささっと宰相机に置き一歩下がる。
あれこれ思った事はあるがそれを今口にする勇気はリディアにはない。
とっさに侍女モードに切り替え笑顔を作れただけ自分自身賞賛ものであった。
山積みの書類の端に、可愛らしい赤い文字で修正をされている課題がそっと覗く。
一度リディアから課題に視線を落としたクロウェルは再び視線を上げると、一拍だけ、ほんの一拍だけ考えるように少しだけ首を傾げたかと思った矢先、目を細め口を開いた。
「随分と仕事が早いようで、文官達もあなたを見習って欲しい位ですね。普段休憩は取らないのですが、折角ですので頂きましょうか」
「かしこまりました。少々お待ち下さいませ」
一礼し一度部屋を後にする。
お茶を煎れればいつも通りの流れでそのまま暇乞いが出来る。他に宰相室からの脱出方法が思い付かなかったリディアの苦肉の策だった。
メルティーナの欲するような情報は得られなかったが、メルティーナの言う通り素敵な方でしたと報告すれば少しは満足してくれるだろう。
そんな思いを胸に、宰相室の扉を開くと、そこにはすでに先客がいた。
宰相机を挟むようにクロウェルと対峙するのは、リディアの幼なじみで、騎士団長のホルンだった。
ホルンは一瞬驚きの表情でリディアを見たが、またすっと表情を切り替えクロウェルに向き直った。
「今代の宰相付きの侍女は居ないと聞いてたが、まさか姫付きを使っ――」
「いえ、今日はまだ姫のチョーカーを付けていますが、彼女は私付きの侍女になる手筈になっておりますので」
「……え?」
リディアは危うく茶器を全て落としそうになりどうにか持ち直すものの、今のホルンとクロウェルの会話が理解出来ずゆっくりと頭の中で反芻する。
クロウェル付きの侍女。クロウェルは宰相。宰相付きの侍女。宰相執務室付きでは無く宰相付きの侍女。
リディアは驚きの表情でホルンを仰ぎ見ると、ホルンも同じ表情でリディアを見つめていた。
「そう言うわけですので。ホルン殿、こちらの書類は本日中に処理しておきます」
クロウェルは表情を作る事無く一枚の書類を拾い上げホルンにそう告げると、話は終わったとばかりに机に視線を戻した。
しばしリディアとクロウェルを交互に見やっていたホルンは、未だ不思議そうな表情のままリディアとクロウェルに軽く頭を下げると退出して行った。
「今日は突発的な仕事が多い日ですね」
クロウェルの言葉にはっと我に返ったリディアは、テーブルの端に茶器を広げると手慣れた様子でお茶を注ぐ。
ほんのりと色の付いたお茶は熱すぎず丁度良い温度を保ちカップの中で揺れている。
リディアがカップをソーサーごとそっと持ち上げ運ぼうとした瞬間、目の前を横切るように手が伸びて来た。
手が伸びて来た方を仰げば、クロウェルがソーサーごとカップを受け取りソファに腰を下ろす瞬間だった。
クロウェルはそのまま流れるようにお茶を口に運び、顔を綻ばせ細く息を吐く。
カップを運ぼうと床に膝を付いたままの状態で固まっていたリディアは、ふわりと漂ってくる花のような香しいお茶の香りで三度我に返る。
「あの、クロ――」
「これが私付きのチョーカーです」
またリディアより先に言葉を紡いだクロウェルは、テーブルの上に静かに手を置いた。
反射的にリディアがテーブルに視線を向けると、そこにはロイヤルパープルのチョーカーとそれに繫がる小さなベルが置かれていた。
専属な主を持たない城仕えの侍女は白いチョーカーを着用するが、ピンク色のチョーカーと薔薇飾りは姫付き侍女と決められているように、王や官僚、宰相付きの侍女にもそれぞれ決まったチョーカーと小物細工を付ける習わしがあり、リディアの目の前に置かれた物こそまさに宰相付きのそれであった。
リディアが再びクロウェルに視線を戻すと、妖しく微笑むクロウェルの指が眼前に迫っていた。
「ひっ……!」
なんの気構えも無かった無防備な喉元にクロウェルの指が触れた瞬間、リディアは体を硬くしビクリと震わせ、ぎっと目を瞑り短く小さな悲鳴のような声を上げ硬直してしまった。
「あなたが採点している間に書類を作り、先程通りかかった白の侍女に侍女頭の所まで届けさせましたので、正真正銘正式にあなたは私のものです。ですのでもうこれは外してしまいなさい」
そんな様子を尻目に、どこか慣れた手つきでリディアの喉元の留め金を外ししゅるりとチョーカーを自身の手の内に滑らせたクロウェルは、今度は宰相付きのチョーカーを手に再びリディアの首筋に触れる。
「ふっ……うぅ……」
「はいはい、逃げないで下さい。付けられないじゃないですか」
「じ……ぶんで、つけ……」
「うん? 良く聞き取れませんね、何です?」
妖艶な笑みを深めわざとらしくそう言うと、クロウェルは人差し指の先でリディアの首筋をすっとなぞり上げる。
一際大きく体を震わせたリディアはたまらず床に膝を付いた姿勢のままずるずるとクロウェルの手の届かない所まで下がってしまった。
「ふふ。また虐めすぎてしまいましたね。紫色もお似合いですよ」
たまらず顔を隠しながら悪戯っぽく笑うクロウェルだが、リディアは耳まで真っ赤にし響き渡る心音をどうにか収めようと自身の胸に手を付く。
すると喉元でちりんと小さな音がし、視線を下げればかすかに鎖骨の間辺りに小さな金のベルが見える。
リディアが喉元に手を添えると、フリル付きで甘く柔らかい見た目の姫のチョーカーとは違い、余分な飾り気は無くぴたっと首に吸い付く絹の触り心地が、目の前のクロウェルを体現しているかのようなチョーカーが確かにはまっていた。
「実際に私のチョーカーを付けている侍女を見るのは初めてですが……まるで大きな猫の様ですね」
先代の宰相も紫のチョーカーであったが、装飾はベルでは無く鍵だったとリディアも耳にした事がある。
色こそは引き継がれるものの、装飾はその主のイメージにより代々変わるらしく、先代の鍵もクロウェルのベルもどちらも【規則】や【確固たる信頼】の証と言う事ららしい。
満足そうにソファに座り眺めるクロウェルの近くで、床に座りながら何故か恥ずかしさに身を震わせるリディアだった。




