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願いの導き手 土より出で炎により成す2

 男は順調に回復し、目覚めて五日もすれば一人で家の周りを歩けるまでとなった。

 その頃になると、陶芸家の娘は男の手を引き家の周りを案内するように連れ回し始め、男も体力作りにと進んで娘の手を取るようになった。

 

 そんな事がしばし続いたある日。陶芸家とその妻が水汲みで家を留守にしている時、男の首飾りを引っ張り遊んでいた娘がふと動きを止めた。

 不振に思い男が娘に目をやると、娘は台所の端に纏めてある薪をぼんやりと眺めていた。


「寒いかい? 薪を少しくべようか」


 囲炉裏には火が熾っているが、家の中は温かいとは言い難い状態。

 娘の頭を一撫でし男が腰を上げるも、娘は何故か男の手にしがみつき頭を振る。

 どうにも様子がおかしいと、何があったのかと男が問うも、娘は頑なに口を閉ざし再び男の首飾りで遊び始めてしまった。

 まだ幼い子どもがここまで頑なになるのは、相当に言いにくい事か親にきつく口止めされているか。

 短い期間とは言え、娘の両親を見て来た男は、あの両親が幼い娘にそこまできつく言い聞かせる事は命に関わる、一人で山を歩き回るなや火を扱うな位だろうと予想が出来る。となれば、思う事がありながら口を閉ざしたのは、単純に娘が言ってはいけないと判断した事だろう。

 男はしばし困ったように首を傾げ頭をかいていたが、まだ陶芸家と妻が帰って来ない事を確認すると、身を屈め小さく娘に耳打ちをした。


「秘密にしてたけど、お兄さんは何でも悩みを解決できる魔法使いなんだ。魔法使いって何か知ってるかい?」

「まほうつかい?」


 可愛らしく男の言葉を繰り返す娘の頭を一撫ですると、男はより笑みを深くした。

 目を輝かせて男の話を聞く娘の顔を確認しながら、男は首周りの装飾品を外し話を続ける。


「ようくようく、今自分が望んでいる物を思い浮かべながらお兄さんの胸に手を押し当ててごらん? お兄さんは望んだものを現実にしうる『人』を出す事が出来るんだ。さぁ」


 男が娘の手に自分の手を添えると、娘はしばし考えるように周囲を見渡した後、顔を引き締め真っ直ぐに男の顔を見据えた。

 そのまま娘は、服の下で仄かに発光し始めた男の胸元に手を伸ばす。


「っ……!?」

「そうそうそのまま」


 男の胸に娘が触れた瞬間、娘の手は水に吸い込まれる様に男の胸へと入っていく。

 男に促されるまま更に手を進めて行くも、徐々に娘は何かいけない事をしているのでは無いかと言う不安に駆られ表情が曇りだす。

 しかし、娘が手を引こうと思った矢先、娘の指先に何かが触れた。

 指先に伝わって来た異変を伝えようと顔を跳ね上げ男を見上げると、男は端正な眉をほんの少し苦しそうに顰めながら微笑んでいた。


「見付けた? そのまま引っ張ってここまで誘導してあげて」


 先程までの後ろめたい思いは、指先に触れる物への好奇心にかき消され、娘は目を輝かせながらどうにか落ち着こうと荒く息をつく。

 そのまま指先に触れる何かを恐る恐る掴む。それは最初冷たかったが娘が触れた所が徐々にじんわりと熱を持ち始める。その何かを引き抜こうと更に強く握り締めると、それは金属に覆われた人の手だと言う事が分かった。

 更に苦しそうに眉を顰めた男を一瞬見上げた娘は、金属の手を握り締めたまま一息に男の胸から手を引き抜いた。


 途端に二人の目に飛び込んで来たのは赤。

 娘が手を引き抜いた瞬間、まるで辺りが炎に包まれたのかとさえ錯覚してしまいそうになる程の赤い色が、二人の前に現れた。


「……『戦神の炎帝』が、なんで今……?」


 男は苦しそうに床に手をつきながら、まだ自身の胸から出きっていなかった金属の足を引き抜きながら、か細い声を上げ、金属の手を握り締めたままその場に尻餅をつく娘は、握り締めていた物をぼんやりと口を開けたままただ見上げていた。

 

「久し振りだな旦那。まーたえらい異国に喚ばれたもんだ」


 戦神の炎帝と呼ばれた男は、目の前に座り込む娘の頭を一撫ですると、自身の顎を擦りながら家の中をぐるりと見渡す。

 燃え立つ炎がそのまま形になったような逆立った赤い髪と、同じく炎を纏った様な鮮やかな異国の鎧を着た炎帝は、煩わしそうに双肩にかけていたマントを払うと、娘の前で片膝をつく。

 そのまま陶芸家を思わせる豪快な笑みを顔に貼り付けるや、耳に手を当て娘に顔を近付ける。


「で、小さなお姫様(リトルプリンセス)。俺を喚んだ理由をこっそり教えておくれ」


 炎帝は逆立った髪をかき上げ冠を床に下ろすと、更に頭を低くし娘に顔を寄せる。

 未だ唖然とした表情の男を一度確認した娘は、目の前で片膝をつく炎帝の耳に口を寄せるや、ほんの微かな声で告げる。

 楽しそうに細められていた炎帝の目は、話を聞いた瞬間一瞬驚きで大きく見開かれたが、次第にゆるゆると顔を綻ばせ肩を震わせ笑い出した。


「ふはは! あい、分かった! じゃあちょっくら行ってくるから旦那、邪魔なもんしまっておいてくれ」

「行くって、どこに行っ――!」


 豪快な笑い声を立ち上がった炎帝は、くるりと振り返り男に軽く手を振ると、来ていた鎧をがちゃがちゃと脱ぎ男の胸に押し付ける。

 炎帝につられるように腰を浮かした男だったが、自身の胸に突き付けられた鎧が再び自身の中に入っていくと、言葉を句切り床に膝をつき座り込んでしまった。

 そんな男の頭を豪快に撫で回した炎帝は、必要最低限の手甲などだけをつけた身軽な武装のまま、二人に手をふり出て行ってしまった。

 再び静寂を取り戻した家の中には、魔法を使った男と炎帝を喚びだした娘の二人だけが、現実を受け止めきれないようにただぽつんと取り残されていた。

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