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竜と契約者(仮)2

「恍惚状態?」

「あぁ。猫にマタタビを与えた状態って言えば分かり易いかな? お前の血の味と匂いはエルミネスにとってマタタビみたいな物って事……なぁ、凄い噛まれてるけど大丈夫なのか?」


 大丈夫って言えば大丈夫だが、駄目と言えば駄目だ。

 あの後エルミネスは起き上がろうとするも酔っ払ったみたいにどてっと転んでしまい、俺は俺で貧血が酷すぎて動けず、結局戻って来たウォレスがエルミネスの首根っこを掴みベッドの下に叩き落とした。

 そして今は多少回復したエルミネスに左手を甘噛みされてる所だ。

 

「あれが酔うと言うか事か。なかなか気持ちが良いのだな」

「エルミネス……寝かせてくれないなら二度と血はやらないぞ」


 ベッドに背を預け寝込む俺の手をがじがしと甘噛みしていたエルミネスは、俺の言葉を聞くなりぱっと口を開け素直に甘噛みを止めた。

 もうこれはあれだ、でかい犬だと思ってかかるのが正解だ。一から躾して行くのが正解なんだな。

 ソファに腰掛け呆れたようにそのやり取りを見ていたウォレスは、今更ながらに目の前の光景に引きつった笑いしか出てないらしい。


「治癒術で傷は塞がってもそんなすぐ血は増えないんだ。お前が悪い、今日は終了。後は茶でも飲むかウォレスからシードルでも貰え。ウォレスの果実酒は美味いぞ」

「シードル……」


 ベッドの横で待てをさせられてる犬の様に残念そうに目を伏せていたエルミネスだったが、シードルと言う言葉に反応し顔を上げると、ソファで現実と直面し頭を抱え始めていたウォレスに視線を投げた。

 ウォレスは視線を感じたのか、当たり前のようにソファの後ろの棚に手を伸ばすと、俺が前貰って隠しておいたシードルをテーブルに置き、がちゃがちゃとグラスを探し始める。

 

「まだ酵母が生きてるしまた追加で作るか。俺の部屋に置いておくと好き勝手持ってかれるんだよ。次からここに隠すわ」


 鼻歌まで歌って、生き生きしてんなウォレス。

 じりじりと四つ足でテーブルににじり寄ったエルミネスは、すんすんと瓶の匂いを確認するように顔を寄せる。マジで犬。

 そしてウォレスが鼻歌混じりにシードルをグラスに注ぎ、エルミネスの前に差し出すもすぐには手を出さない。

 俺が茶をいれたら素直に口に運ぶのに、ウォレスには警戒心丸出し。

 何度かグラスとウォレスに視線を向けソファに座り直すと、ようやくシードルを口に運んだ。


「っはぁ……」

「なんだその声エロ……。竜って全部こうなのかよ?」


 俺が知るわけ無いだろうが。

 ほんの一口確かめる程度口に含んだエルミネスだったが、シードルを飲み下した瞬間艶めかしく目を細めると、ぴちゃりと水音を立て舌なめずりをしほうっと吐息を吐く。

 そして目を細めたままくてっと小首を傾げると、グラスに残ったシードルを見つめる。


「人間の酒は混ざり物ばかりで好きでは無いのだけど、このシードルは良い。リアムの次に美味い」


 俺を食料にカウントして頂き誠にありがとう御座います。

 そしてエルミネスは本当に満足そうにグラスに残ったシードルを口に運ぶと、顔を綻ばせばせたまま初めてウォレスに真っ直ぐ視線を合わせた。


「お前は雑多な匂いがして苦手だが、シードルは今まで飲んだ物の中で最も良い。シードルでもミードでもエールでも、ウォレスが言付けてくれれば喜んで材料を採って来るよ」

「ははっ現金だなー」


 お、エルミネスがウォレスの名前を呼んだし口調が少し柔らかかったな。受け入れたって事か? と言うかエルミネスが気に入った食料を確保しただけに思えるが、ウォレス本人が自慢の酒を褒められ嬉しそうだから別に良いか。

  

「で、これからどうするつもりだリアム? ラズウェル総指揮はどうにかエルミネス討伐を成功させ名誉挽回しようとしてる。討伐以外で手っ取り早く名誉挽回出来る何かが無いと、またお前出撃させられるぞ?」

「下っ端の俺に何が出来るってんだよ……。取りあえず先日の討伐の影響か何かでエルミネスが鎮まり危機は去ったと思って貰うしかない。『危険な竜を野放しに出来ん!』とか言って来たらその時考えよう。エルミネス、取りあえずあの雷雲を消して『もう怒ってないよー』アピールしてくれ」


 血が足りなくて今は考えるのも億劫だ。

 エルミネスは二杯目のシードルを口に運んでいたが、素直に一つ頷くとくるりと人差し指を一回しした。

 まさかそんな簡単に、と、ウォレスと軽く笑いベッド脇の窓を開け外を確かめたが、王家や教会が空が落ちるもうこの国は駄目だと嘆き悲しんだ巨大な黒い雷雲は、毛糸の玉が解けていくように中央から空に引き上げられていき、あっという間に消えてしまった。

 外は雷雲が夢だったかのように見事に晴れ渡り、春先の様な心地よい暖かな風が部屋に入り込んで来た。


「少し天候をいじって一足早く花の季節にしてみた。今日だけの効果だが、怒ってないよーアピールになったか?」


 真顔の破壊力。

 エルミネスはあまり表情が変化しないが、そんな綺麗な造形の男が真顔で可愛く小首を傾げるな。

 ほぼ禁欲生活の教会所属の俺等には眩しい。ほら、ウォレスも眩しそうにぐっと顔を背けたじゃ無いか。


「なったなった、上出来上出来。ご褒美にもう一献」


 ベッドの下からウォレス特製ワインを引き釣りだしエルミネスを手招きする。

 しれっと『ご褒美』と言ったのに当の本人は気にしていないのか、ぴくっと少し目を見開く。


「お前、まだ酒隠し持ってたのかよ」


 俺の手からひょいっとワインを取り上げたウォレスが若干呆れたように目を見張ったが、お前だって部屋中に酒隠してんだろうが。


「ウォレス産ワイン……」

「いててっ!? ちょっと待て今やるからっ! こぼれるっ!」


 ウォレスは軽口を叩きながらワインの状態を確かめていると、しびれを切らしたエルミネスに思いっきり頭を鷲掴みにされソファに引き倒された。

 成る程。あげると言っておいて焦らすとああなるのか。気を付けよう。

 そのままエルミネスはソファに仰向けで倒れ込んだウォレスの腹に座ると、ウォレスの手からワインを抜き取り満足そうに口角を上げる。

 しかしエルミネスの眉がぴくっと震えたと思うと瞳孔が縦に開き、低い唸り声を上げ扉を睨み付ける。

 突然牙をむき唸るエルミネスを前にしたウォレスは目を見開き動きを止めたが、廊下から聞こえてくる忙しない足音に気付き体を捩った。


「不快な匂いが近付いて来る、気持ちが悪い……。匂いが消えるまで少し飛んでくる」


 そう言うとエルミネスの体はぱりぱりと帯電し淡く発光すると、一際光を放った瞬間ウォレスごと部屋から姿を消し、ソファにはワインだけが残された。ウォレス、ちゃんと生きてるだろうか。と言うか何故ウォレスごと行った……。


「リアム起きてるかっ?」

 

 薄ら笑いを浮かべベッドに寝ていると、ラズウェル総指揮が息を切らし駆け込んで来た。

 気持ち悪い匂いってラズウェル総指揮の事か。まぁ大体ここに来た用件は分かるけど。

 さも辛そうに俺が体を起こすも、ラズウェル総指揮はそれを止める事無く後ろ手に扉を閉める。


「エルミネスが鎮まったのか去ったのか詳細は分からないが、雷雲が晴れた。これから私は枢機卿と共に王宮へ行ってくるが、すぐにまた霊峰へ調査に行く事になるだろう。準備をしておくように」


 目をぎらぎらと輝かせ詰め襟を直すラズウェル総指揮は、話は終わったとばかりに踵を返しドアノブに手をかけた。


「単騎でですか? 今回討伐に行かなかった隊に同行する形になるのでしょうか?」

「他の隊は私の管轄外だ、簡単には動かせん」


 おーい、それは俺一人で調査に行けって言ってるのかー?

 いくらエルミネスが鎮まったってそれは無いだろ。

 露骨に顔を顰めた俺を華麗に無視し、ラズウェル総指揮は足早に部屋を出て行ってしまった。

 


 日も沈み始めた頃、外側から窓を叩かれる音で目を覚ます。

 一眠りしたからか、貧血はすっかり良くなり体が軽い。

 のそっと体を起こし欠伸をしながら窓を開けると同時に、窓枠にどさっとウォレスがのし掛かって来た。


「おーおかえり。人類史上、初めて竜に乗った医療隊員様の感想は?」

「乗ってない……並走? エルミネスの隣を半透明な竜の手に掴まれて……。これ以上俺には説明出来ないからエルミネスに聞いてくれ」


 ウォレスは薄ら笑いを浮かべゆっくりと体を起こすも、すぐ後ろに居たエルミネスに邪魔だとばかりにひょいっと持ち上げられてしまった。

 

「さっきご褒美貰い忘れた。雷雲も消したし、人の目に映らないように隠匿して飛んだ。ご褒美いっぱい貰うよ」


 エルミネスはウォレスをベッドに放り出し、確かめるようにすんすんと匂いを嗅いでからいそいそと入って来た。

 そして俺の返事を待たず、テーブルに出しっ放しだったシードルとワインを回収するとグラスに注ぎ、ゆっくりと大切そうに口に運ぶ。

 ちゃんと大人しくしててくれたようで何よりだが、何故ウォレスは手ぶらだったはずなのに戻って来たら手荷物抱えてるんだ?

 すると俺の言いたい事が分かったのか、ウォレスはソファに荷物を移動させながら口を開いた。


「エルミネスが俺の手が臭いって言うから薬を調合してるからだって教えたら、暇だしついでだからって薬の材料採取を手伝ってくれたんだよ。まぁ、丁度キラービーの毒針が欲しかったしエルミネスが居て助かったよ。俺には手に負えないし、竜の手に引っかかって見てるだけで良かったし」

「そう言えばさっき半透明な竜の手がどうとか……」


 そこでふとウォレスと一緒にエルミネスを見ると視線に気付いたのか、ワインを堪能していたエルミネスが俺達の方を向くと唇をぺろりと舐め上げた。


「何度も姿を変えるのも、人型でウォレスを抱えて飛ぶのもどちらも面倒だったから、手だけ元に戻したんだよ。今見てるこの人型の両腕は言ってしまえば爪の先位かな? 指先一本分を解放するとこんな感じ」


 そう言い終わると同時に、エルミネスの左右に巨大な竜の手が一対現れ、ふわふわと空中を彷徨い始めた。

 エルミネスの手? 指先? と説明を受けたが、エルミネスの体に繋がっているわけでは無く、本当に竜の手だけが空中に浮いているし、人型のエルミネスの両腕も変わらずある。

 でもエルミネスが指先分って言った通り、霊峰で見たエルミネスの手より遙かに小さい。

 霊峰で見たのは爪だけで人の背丈以上あったが、今目の前にあるのは丁度人を鷲掴みに出来る位の大きさ程。それでもこの部屋の中では十分邪魔なんだけどな。


「エルミネスに鷲掴みにされて霊峰の麓の森でキラービー狩りを見学して、ついでに果実酒用に野生のベリーを摘みまくって帰って来た。どうよ、この優雅な過ごし方は」

「ベリー摘み! うははは貴族の休日かよ! ……って霊峰の森でさっきの話思い出したー」


 寝る前にラズウェル総指揮が言っていた話。別に忘れてたわけじゃ無いんだけどな。

 笑い出したと思ったら今度はベッドに突っ伏した俺を心配してか、ウォレスがソファから腰を上げたのが見えた。

 って言うかウォレスのやつ、教会医療隊の制服土塗れじゃねぇか。医療隊は真っ白だから目立つなぁ……って、それは今は良いとして。さっきのラズウェル総指揮の話を二人に言っておこう。

 俺はベッドに突っ伏したまま二人が出て行った直後の説明を始めた。


「やっぱりかー。それって実質お前だけで霊峰近辺の被害状況とエルミネスの行方を調査しろって事だろ? 一隊出しても被害状況の洗い出しだけでひと月はかかる規模だぞ?」

「分かってるー。無茶苦茶な指示だしラズウェル総指揮の頭がおかしいのは分かってるー。だがまぁ、ラズウェル総指揮は枢機卿と国王と話し合いをしに行ったし、さすがにこの案は採用されないだろ。ラズウェル総指揮は血眼で騎士に神の祝福を授けて隊を編成し直すのが先決だろうな。……俺も騎士生命が絶たれる程よい怪我をしたかった……」

 

 普通に考えたら失った人員を補填するしかない。

 

「足にするか? 手にするか? 一噛みすれば今からでも遅くは――」

「エルミネスあーん」


 心の底から親切心で言ってるんだろうがごめん、俺が悪かった。

 ぐいっと顔を寄せて来たエルミネスの口に、躾とばかり思いっきりウォレスの手を突っ込む。

 するとエルミネスは『うぇ』っと舌を出し泣きそうな子供のように顔を歪ませる。

 

「そこまで拒否されると何か傷付く……。いや、美味そうにされても困るけど何か、な……」


 相当不味かったのか、眉を下げ口を開けたまま動かなくなったエルミネス。

 確かにこれはちょっと傷付くかも知れない。


「うぉれすのてはやくひんがしみこんでてまずい。したがしびれる」


 本当に痺れているらしくエルミネスはかなり舌っ足らずな話し方に。

 物は考えようだが、これは良い感じに飴と鞭が揃ってるんじゃ無いか?

 

「俺の言い方も悪かったかも知れないけど、本当にやろうとしなくて良いから。良い事したらちゃんとご褒美をやるけど、変な事しようとしたらウォレスの刑な。返事は?」


 盛大に二人が顔を顰めた。

 ウォレスには悪いが封じるにしても力が足りないんだ。エルミネスを縛る方法はいくらでも欲しい。

 エルミネスは一度隣に立つウォレスに視線を投げると、痺れを確認するようにぺろりと舌舐めずりをすると、小さく返事をし拗ねるようにソファに沈んで行った。


「ひでーなリアム。まだ未遂だってのに。エルミネスの冗談かも知れないだろ? さっきの働き分のご褒美もやってないのに」

「そう言いつつお前も笑ってんじゃねぇか。元々酒はそんだけしか無かったんだ、手持ちのご褒美はそれで全部だろ」


 なぜかウォレスはその俺の言葉に『いや?』と一言こぼし笑みを深める。

 よく見るとウォレスは先程から指先を擦っている。エルミネスの口に突っ込んだ時に切ったか? 回復術を展開した痕跡がある。

 すると何を思ったか、ウォレスはソファにふて寝するエルミネスの顔に両手を添えぐいっと強制的に顔を上げさせる。


「あの酒は俺が造ったし、言ってしまえば俺からのご褒美って所だろ。リアムには昼に死ぬ程増血剤を投与したし、本気の医療隊回復術も重ね掛けしてある。……ご褒美足りないだろ?」

「うぁ? 食べても良いの?」

「良い分けないだろ! ウォレスてめぇ、一人しか居ない友達を殺すつもりか!?」


 いきなり何を言い出すんだこいつ! さっきまで死んだ様な顔をしていたエルミネスだが、ウォレスのその言葉で一瞬目が光った。ふざけるな、エルミネスに待てはきかないんだぞ。

 俺の猛抗議を無視し、ウォレスは鼻歌交じりに医療用手袋をつけ始める。


「だって可哀想だろ? 大丈夫、俺が付きっ切りで血圧見ながら回復術かけてやるよ。お前と違って主席で医療隊に入ったんだ、目の前で死なせるようなヘマはしないぞー。さ、エルミネス、俺が口に手を突っ込むまで飲んで良いぞ。ただしゆっくりな? がっつき過ぎたら途中で止めるからな」

「全然大丈夫じゃなっ、っ……!」


 言い終わる前にエルミネスの牙が首筋に突き刺さる。

 これで三回目か? 竜が首筋に食い付くの。

 エルミネスは興奮してる様だが、ウォレスの忠告を守り昼の時程がっついて来ない。

 だからと言って全く痛く無いわけじゃ無いが、ウォレスが術を展開しているお陰か痛みより這い回る舌の感覚のが強い。

 あー抵抗する力が出ない。でも俺の上に展開されてる俺の情報を見る限り、普通に血圧も安定してるし健康そのもの……丈夫な自分と優秀な友達が嫌い。

 

「ぁぐ……う……あぁ!」

「……男も女も大好物だけど、まさかリアムの喘ぐ姿で興奮する日が来るとは思わなかった……エルミネスが舐める音もヤバい……。たまに血を抜かれると気持ち良いって奴も居るし、リアム用にそう言う薬でも作るか……あ、血圧上がった」


 喘いでない! どちらかと言えば断末魔の分類だし興奮すんなこのオープンバイが!

 と言うか血が流れ出てるのに血圧が上がる俺って……。


「ん……あまくなった……けつあつ?」


 すでに恍惚状態なのか、エルミネスは一度顔を離しウォレスに問うような視線を向けるも、その顔はほんのり色づき瞳もとろんと蕩けた艶めかしいもの。

 しかもその顔で舌舐めずりなんかしたら完全にウォレスを誘ってるようにしか……ほらな。

 ウォレスはぐっと顔を覆うと、耐えきれないとばかりにその場に座り込んでしまった。


「うぉれす? まだたべててもいい?」

「いや、駄目……俺がもう、無理……」


 ウォレスはそのまま床を四つ足でにじり寄ってくると、宣言通りエルミネスの口に手を突っ込み俺の体から引き剥がした。

 術が消える瞬間に俺の状態を確認したが、まだまだ貧血にもなっていない状態だった。

 ……はは、俺の体よりウォレスの理性のがヤバかったって事か。何か分からんが勝った。

 エルミネスの口から指を抜いたウォレスは、若干呆れたようにため息をつくと、床に座り込んだままエルミネスの口の周りをタオルで拭ってやる。

 

「うぉれす、まだたりない。もっとほしい。どうしたらいい? なにしたらくれる?」

「駄目だもう終わり。俺じゃ無くてリアムの願いを聞いてやれ。……あとあんまり煽らないでくれよ……」


 最後の言葉はほぼ消えそうに呟かれたが、俺にもエルミネスにもしっかり聞き取れた。

 そしてふぅっとその場に倒れ込もうとするウォレスをエルミネスが無意識に支えた事で、色々限界に到達したウォレスは不気味な笑い声を上げはじめた。


「うぉれすがこわれた」

「ソファに投げ……いや、そのままそっとしておいてやろう」


 エルミネスは素直に頷くと、エルミネスの膝に頭を乗せた状態で笑い続けるウォレスをごとりと床に降ろすと、ひょいっとベッドの上に飛び上がりそのまま座り込む。

 

「りあむ、りあむの願いはなんだ? りあむが竜騎士になりたいならけいやくしてもいいし、いしが欲しいなら鉱脈をさがしてくるぞ?」


 ベッドの端にぺたりと女座りしているエルミネスが、若干良くなったが相変わらず舌っ足らず気味に口を開いた。

 願い? さっきウォレスが言っていたからだろうか?

 

「俺は……」


 竜騎士? 確かに竜騎士になるのは名誉な事だし、ここ何百年も竜騎士になった奴は居ないはず。

 でもなぁ、騎士なんかやってるがそもそもそんなに血生臭い事が得意って訳でも無いし、わざわざ戦争に駆り出される様な事はしたくない。

 困ったな。

 もぞりと寝返りをうちエルミネスに視線を向けると、答えを待ってるのかとろんと眠そうな目で俺を真っ直ぐ見つめていた。


「俺は給料泥棒って言われても良いから、騎士が出動する事も無い平和な国で綺麗な嫁さん貰ってだらりと生きていきたい、かな」

「リアムの嫁さん? っは! 国が平和になるよりも難しい課題だっ、痛てて!」


 散々笑い転げてたくせに、何でそう言うとこだけ食い付いてくんだこの野郎!

 思い切り床に転がるウォレスを踏み付け黙らせると、エルミネスがごろりとベッド端に寝そべり丸くなった。


「ふたりは成人しているのだろう? こんなに人間の雌が居るのに、二人とも番はいないのか? 竜は百歳前後で独り立ちして、だいたい同じ時期に番を探し出すものだぞ?」

「えーと、十八で成人して俺達は今二十七だから竜で言う所の……百五十から二百の間くらい、か?」


 ウォレスと指折り計算し何と無くそうこぼすと、エルミネスは目を丸くし、うつ伏せに寝転んだまま上半身だけを起こした。


「教会所属はこの国の人間の中では有能な方なのだろう? 人間の美醜は分からないが、何故番が居ないんだ?」

「もう止めてくれエルミネース。俺もリアムも瀕死だー」

 

 真っ直ぐに何故モテないと聞かれても俺達が知りたいわ。

 確かに、教会所属って肩書きだけで寄って来る女も居るけどよ……。


「人間はいっぱい居るせいでえり好みが激しいんだよ……。そう言うエルミネスはどうなんだ?」


 ウォレスが負けじと口を開いたが、エルミネスの答えを聞く前から負け惜しみ感が強い。


「私も今は居ない。昔……三千年位前には居たが死別してそれっきり。子供も居たが番と一緒に失ったし、そう考えると二人と大差ないな」

「お前……もしかしなくともやっぱり竜の中でも長寿な方、か?」


 あと大差なくない。全く俺達と違うから。


「うん、長寿な方。この辺りには居ないが、同じ位の竜は片手で数える位かな……?」


 そう言い終わるとエルミネスは猫の様に欠伸をし丸まってしまった。

 

「近々人間の雌を催淫して持ってくるよ……それを番にすれば、良い……」

「いや、だからそうじゃな……寝た……?」


 エルミネスは何度か眠そうに瞬きをしていたが、ふぅっと大きく一つ息を吐くとすとんと眠ってしまった。

 すぅすぅと穏やかな寝息を立てる、明らかに人外な整った容姿のエルミネス。俺の部屋で寝落ちしたのがせめてもの救いか? これがウォレスの部屋だったら明日の業務に支障が出るとこだったわ。

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