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魔獣牧場5

 ついに今日、レマルクは成人の儀を迎える。

 大分暖かくなって来たとは言え、風が吹けば体をさすりたくもなる気候。

 この間調査隊を襲った狼を持ち帰って来て良かったと、リディアは完成した成人の儀の服を纏ったレマルクを見上げながらしみじみ思う。

 細かな刺繍をあしらった丈の長い服の、襟元や裾、袖等に、あの時持ち帰った狼の毛皮をふんだんに使ったお陰か、見た目にも贅沢で暖かな立派なのもが出来上がった。

 相当大きな狼の毛皮が二頭分。さすがに全身を毛皮で作った訳では無いので一頭分も使わず、残った毛皮で三人分の帽子を作り、丸々一頭分は街に売りに行った。

 越冬後の心許無い懐事情だったが、思わぬ収穫で当分はひもじい思いはしなくて済みそうだ。

 だが、狼を二頭持ち帰った当初はさすがに父にこっぴどく叱られた。

 人を呼ぶ事も逃げもせず一人で狼に対峙した事、狼がミクトラン山脈の固有種だった事、調査隊を誘導せず逃げた事。

 それはもう、ケチャ菜とラダの干し肉のミルク煮がすっかり冷めてしまう程長く怒られ、結局一緒にお預けを食らっていたレマルクが耐えかねて怒り出したので解放されたのだった。

 だがその後、普段一切スレイプニルに近付こうとしない父が、厩の傍で大人しく草を食んでいたスレイプニルに近付くと、全身を使いありったけの力を込めスレイプニルを撫で回し、ありったけの高山麦とククルの実を与え始めたのは色々な意味で驚きだった。

 決してリディア以外には懐かず触れさせもせず、狼の群れも簡単に蹴散らすあのスレイプニルが、鼻息荒く迫り来る父に目を丸くし、呆然とされるがままになっていたのだ。

 父も頭に血が上ったままだったが、その時のスレイプニルとリディアの判断は正しかったと思っている。

 

「よーしよし、良い子だ良い子だー。これからもリディアを守ってくれよー無理はさせないでくれよー変な所に連れて行かないでくれよー」


しかし、正しかったとは言え父としての思いは別のところにあるのだろう。その葛藤を半ば八つ当たり気味にスレイプニルにぶつけているのだ。

 褒める、お願い、叱咤。複雑な思いが見事に表現されたその言葉に、陰から父の姿を覗っていたリディアとレマルクは涙が出る程笑ってしまった。

 思い出し笑いを堪え、レマルクの衣装の丈を少しだけ直し成人の儀に送り出す。

 成人の儀などと固い言い方をしているが、内容は街の元締めに挨拶し、第二王都から成人祝いの文を持った使者が到着するまで飲んだり食ったり狩りに行ったりと内容なんてほぼない物と言ってもいい。

 遠くなっていく弟の背中を見送り、リディアは成人の儀用に作っていた料理を鍋ごと馬に縛り付けると、弟の後を追う様にゆっくりと街に向け歩き出した。

 今年成人を迎えたのはレマルクを入れて三人。全員男だ。

 女が一人でも居れば雰囲気も料理の趣向も華やかになったものを。

 味付けの濃い肉料理ばかりが並ぶ、凝った刺繍の布膳の上に視線を流しながらリディアは溜息をつく。

 本人と家族、それとお祭り好きな街の男達が集まりただの男達の宴会場となっている食卓には、次々と酒と肉料理が追加で運び込まれる。

 勿論リディアも肉を捌いたり焼いたり煮たりと大忙しだが、さすがにそろそろ用意していた肉も底をつく。

 普段ならここで男達が狩りに行くと言い出すところなのだが、今年は仕込んでおいた酒の出来があまりにも良く、水の様にあおりにあおった男達は弓を番えるどころか手綱すら持てない程酔いが回ってしまっている。

 大人数とは言え、散々飲み食いした酔っ払い共はさすがにもうラダ一頭分も食べはしないだろうが、これから王都の使者が来るというのに料理が無いのは問題だ。

 八百屋の女将が店から野菜を追加で持ってくると苦笑いしながら歩き出したので、リディアもそれならと渋々狩りに行く事にしたのだった。

 

 今日はなぜだか調子が良い。

 丁度群れに遭遇したのもあるが、一度矢を射れば吸い込まれるかの様に獲物に命中する。

 そんな訳かついつい獲り過ぎてしまい、気付けば馬に括りつけた獲物は兎が三羽と山鳥が二羽、それと狐が一頭。

 狐は独特の臭味があり王都の人達の口にはきっと合わないだろうが毛皮にはなる。

 今しがた仕留めた兎を括りつけ、そろそろ戻ろうとかと顔を上げると、丁度街に王都の使者が到着したのが見えた。

 

 結局多めに獲って来て正解だった。

 先日の調査隊も王都の使者に同行する形で再び街に訪れた。

 リディアが女将さんに狩りの戦利品を渡すと、狩りで疲れたろうと、後はやっておくから家に戻って良いと言ってくれた。

 全部終わったら毛皮と羽根はレマルクに持たせるねと、にこやかに送り出してくれた女将さんのご好意に甘え、心底疲れていたこともあり、リディアは成人の儀の会場に顔を出す事無く無事岐路に着いたのだった。

 

 だが翌日、まだ酒が残り足元が覚束ない状態のレマルクが客人を伴って帰宅した。

 

「お前が昨日狩りをしてた娘か?」


 倒れこむように玄関の板の間で寝てしまったレマルクを壁際に追いやりながら、リディアは不躾な質問を遣した男に視線を向ける。

 早朝に尋ねて来てその事に断りも無く、自身の名を名乗る事も無くただ高みから高圧的にそうとだけ言う男。

 酔い潰れたレマルクをここまで送ってくれたと言うよりも、ここまで案内させたのだろう。それでも本来なら弟を送って下さってと、お礼の言葉を言うものなのだが、幸か不幸か今父は牧場に行っていて近くに居ない。失礼な客人に対して失礼な態度をとってもそれを咎める人は居ないのだ。

 この辺りでは見ない、旅慣れた服を着ている男。昨日使者と一緒に来た調査隊の一人だろうか。

 リディアは眉根を寄せつつも、王都の人間だからと自身に言い聞かせる。

 

「弟が大変失礼を致しました。確かに、私が昨日狩りをしていた者ですが、何か御座いましたか?」


 今更ながら狩りをしていたからと言って何なのだというのだ。

 狩りに同行しろか何かか、まさか矢尻が中に残ってしまっていたのか。

 そんな考えが過ぎると、板の間に両膝を付け俯くように座ったまま動けなくなった。

 

「では魔物に乗って狼を仕留めた被り物の正体もお前か」


 弾かれたように顔を上げた瞬間しまった思った。

 

ここまで書いて無理ーってなりました。

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