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オレと呪いと幼女と青春  作者: 碧空澄
第一幕 呪縛
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五話 妙な安心感


                ◇ ◆ ◇



「ということで、転校生の萩森初姫さんです。仲良くするように」

「初めまして。萩森初姫と言います。身体は小さいですけど、れっきとした十七歳、高校二年生です。これからよろしくお願いします」

 ……同い年かよ。

 ぺこりと、初姫はおじぎをする。女子の『可愛い~っ!』で教室が埋め尽くされた。

 まさか、同い年だとは思わなかった。てゆか、え、マジで? 小学生って言っても全然通じるレベルなのに?

「初姫さんは一番後ろの席に座って下さい」

 担任に指示をされ、初姫は席につく。二次元の世界みたいに、転校生といきなり席隣とか、そんな奇跡は起こらない。というかオレ席ど真ん中だし。席が空く隙間など存在しなかった。



「ちょ~っと良いかな、萩森さん?」

 昼休み。オレは、女子に囲まれてちやほやされている初姫に声を掛けた。

「何? えっと、朝霧くん。私の初姫ちゃんに」

 周りの女子の中の一人が答える。いつお前の物になったんだよクラスメイトA(名前知らない)! まぁオレもクラスメイトXくらいの立場ではあるけれども。Xとは、何もかもが謎に包まれている人間を指す。断じてぼっちを指す隠語などではない。

「あ、ちょうど良かったわ。あたしも浅葱に用があったから」

 何のためらいもなく、初姫は名前でオレを呼んだ──が、誰もそのことに気づかない。何故ならオレの名前は朝霧浅葱。……名前と苗字が瓜二つなんですよね。決して名前を覚えてもらってないとかではない、はず。オレも人の名前覚えてないから断言はできないけど。



「まさかだったよ。不意を突かれたわ。つか何で朝言わなかった」

 たちの悪いことに初姫は朝学校に一緒に行く最中も、『学校見学したい』とつまらない嘘をついていたのだ。

「え~? 良いじゃん、サプライズ感があって」

 屋上で、オレは初姫とベンチに腰掛けていた。何やら物影から女子の鋭い視線を感じなくもないが……まぁ、気のせいだろう。

「それよりっ。見て!」

 じゃ~んっ! と、初姫は自分で効果音をつけながら、弁当箱を見せた。

 ……二つ。

「じ~つ~は~。お弁当を作ってきたのでしたっ!」

「そりゃあまた随分とベタな真似を……。てゆか、これもサプライズか?」

「そ。アレでしょ? こういうの、『萌え』って言うんでしょ? 私知ってるわよ」

 物影から感じる視線に、殺意が籠もった。うん、これは気のせいじゃないね。

「微妙に萌えの使い方を間違ってる気がするが……でも、ポイントはアップだな」

「でしょでしょ!? 内緒でお弁当作ってきちゃう初姫ちゃんってば可愛い!」

 自分で言っちゃう……?

 可愛いのは認めるが、自分で言うと、オレが可愛いとこあるなとか、素直に思えなくなっちゃうからね? ギャルゲーでヒロインにこれやられると攻略が難しくなる。

 だがそれを除いても、初姫は大きなミスを犯していた。

「お前……せめて昼休み始まった直後には、お弁当の存在を仄めかしておくべきだったな」

「え、何で?」

「初姫。オレは料理が苦手だ。つまり、オレは普段弁当は作っていないことになる。更にこの学校は私立。学食は安い。そして──オレが持ってる袋の中には、一体何が入ってると思う」

「……」

 暫く初姫は黙っていたが、少ししてはわわわと慌て始めた。

「……ま、まさか……」

「そう、そのまさか、だ」

 初姫の前に立ちはだかる、三次元という壁は高かった。二次元では通じるそのあざとさも、三次元の前では歯が立たない。

 オレは、袋の中からパックに入ったドリアを取り出す。学食はお持ち帰り可能です。

「残念だったな。同居人の為に弁当作る初姫ちゃん可愛い作戦は見事に失敗だ。何故なら、オレは既にドリアをゲットしていたんだからな!」

 自分で自分のこと同居人って言っちゃったよ。元はオレの家なのに。

「二次元なら上手くいってただろうな~。だが三次元ではそう上手くはいかねーよ」

「く、くぅ〰〰〰〰っ」

 初姫は悔しそうだ。弁当をベンチに置き、地団駄を踏む。全身を使って。……こいつ本当に十七歳なの? 絶対小学生だろ。

「うぅ、せっかく作ったのに……」

 初姫は悲しそうに弁当を抱きしめる。あ、いかん。物影からの殺意が強くなった。そろそろ視線で人を殺せるレベルになってる。このままだとオレ死ぬか?

 ……なんて理由をつけないと初姫のフォローをするふんぎりのつかないオレは、素直じゃないのだろうか?

「まぁ良いよ。貸せ」

「え? でも、ドリアがあるじゃん。まさか、二つとも食べる気?」

「んなわけねーだろ。ドリアは帰ってから食うわ。だから、その……寄こせよ、それ」

 気恥ずかしくて、ついぶっきらぼうになってしまった。

「……ぷっ」

 そんなオレを見て、初姫は笑う。

「な、何だよ。何がおかしい」

「なんか、不器用だなと思って」

「なっ。初姫に言われたくねーよ!」

「はぁ!? あたしが不器用って言いたいの!?」

「だって色々空回りしてるじゃねーか」

「それはアンタが思い通りに動かないからでしょ!」

「何で自分の思い通りになると思ってんなよロリ娘」

「くっ、人が気にしてることを……!」

 子供みたいなやりとりだった。

 ──なんだろう。

 ──こんなやりとり、昔、したことがあるような……

 初姫と話していると、なんだかある種の懐かしさを覚える。そして──オレは、その懐かしさに、妙な安心感を覚えるのだ。肉じゃがを食べた時もだったが、どこかほっとするというか。勿論、あまりこうやって馬鹿みたいな話をする相手がいなかったというのも、あるとは思うけれど。いやだからぼっちとかじゃなくて。

 オレは弁当の蓋を開ける。中には、玉子焼きとかハンバーグとか、たこさんウインナーとかうさぎさんのりんごとか、とにかく低年齢層向けでかわい──いや、あざとさを感じさせるおかずが入っていた。

「お前、オレ何歳だと思ってんだよ」

「え……嫌だったの?」

「! い、いや……そんなことは無いけどさ」

「だよね! あたしの作った料理を嫌とか言うわけないし!」

「その自信、どっから湧いてくるの……」

 とはいえ、見た所冷凍食品は見当たらない。全部手作りのようだ。昨晩仕込みをしていた様子が無かったことを考えると、今朝早起きして作ったと考えられる。しかもオレが起きないよう、静かに。

 ふと、初姫の顔を覗いてみた。目には、うっすらとくまができていて。

 ──ったく、こいつは……

 まず、一番の自信作と思われるハンバーグを食べてみた。

「どう、どう!?」

「うるさいわ、少し味わわせろ」

 もぐもぐと、噛む。これは……

「美味いな。冷えてるのに硬くないし、かといって型崩れもしてない。肉も味もしっかりしてるし……パーフェクトに近いんじゃないか?」

「ほ、本当!? や、やった……!」

 初姫は小さくガッツポーズ。昨日から思ってたけど、初姫って感情がそのまま表情や行動に出るタイプだよな。きっと素直なんだろう。

 その後も弁当を食べ続け、一々感想を求めてくる初姫にナイスな回答をしながら──気づけば昼休み終了まであと十分を切ったという所で、オレは大事なことを思い出した。

「……あ。今日の五時間目、英語の小テストだ……!」

「小テスト? 何するの?」

「英単語のテストだよ。やっべー、勉強してなかった」

「え、普通に知らなかったんだけど。あたし大丈夫なのかな?」

「いや知らないから……」

 そういえば、初姫って頭良いのか? あんまり良さそうな感じはしないけど……

 とはいえ、人のことを心配している余裕などない。オレは急いで教室に向かった。

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