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オレと呪いと幼女と青春  作者: 碧空澄
第三幕 鬼
21/22

十八話 これはつまり、一緒に朝シャンしよっ! ていうお誘い──

                ◇ ◆ ◇



「あっさぎ~ッ! 起きてー! 朝だよあっさー! 朝朝朝ーっ!」

 朝が来た。目を開けると、そこにはおたまを持ち、♥の模様が散りばめられたエプロンを付けた初姫が、当たり前のように起こしに来ていた。

「いや、朝なのは分かったから……。もうちょっとだけ」

 オレは布団を被る。眠いし、実はそれ以外にもすぐには起きられない事情があったりする。

「『もうちょっと』も『あと五分』も無いから! さっさと起きなさいよー!」

「あッ。ちょ、今布団めくったら……!」

 オレの静止も聞かず、初姫はがばっと布団をめくる。

「起き──」

「だから、起きてるんだって……色んな意味で」

 言うなれば、浅葱のもう一人の浅葱があさぎんぎんになってしまっているわけで。いや、朝だから朝ギンギンか? まぁどっちでも良いです。

 ぷるぷると、初姫の身体が震える。

「ド──」

 初姫は、手に持ったおたまを振り上げた。アレ? なんかこの光景、前にも見たことがあるような……?

「ド変態ぃぃぃいいいいい!」

「オレ悪くないよねぇぇぇえええええ!?」


 閑話休題。

「だ~か~ら~! アレは生理現象なんだっつーの。その辺は弁えろよな!」

「わ、悪かったわよ……。いやでも朝っぱらからあんなもの見せられたあたしの気持ちにもなってくれない?」

「なら夜なら良いってか?」

「いつ何時だって嫌だから」

 オレの息子さんは、随分と毛嫌いされているようで……

 というかおたまを持って起こしに来るあたり、ちょっとあざといよな。但しおたまを凶器として使うのには賛成できません。

「てか今日土曜日だろ? そんなに早く起きなくても良いじゃねーか」

 時計を見ると、朝の七時半を回った辺り。平日よりも起きるのが早い。

「だって、あたしが早く起きちゃったんだもん。あたし一人だけ起きてても暇じゃん」

「何その利己的な理由……」

 オレは呆れ気味に返事して……とある可能性に思い至った。

「……あぁ、あぁ! そういう理由だったのか。悪いな気づかなくて」

「? 何が……?」

「アレだろ!? これはつまり、一緒に朝シャンしよっ! ていうお誘い──」


 閑話休題。

「何かさ。最近下の話多くない? あたしが相手だから別に良いやとか思ってるんでしょ」

「いえいえ滅相もございません。調子に乗ってしまっただけです本当に申し訳ありません」

 あ。ちなみにオレの後ろにある壁に深々と刺さったナイフは気にしない方向で行きますんで。

「もーっ。そんな調子だと女の子にモテないわよ? モテないどころか、友達にすらなってもらえないよ?」

「いや良いよ別に。初姫がいるし」

 まぁ友達は欲しいけどね。いや別に今友達がいないとかそういうわけじゃなくて。

「……ッ。そ、そういうことさらっと言うのやめてよね」

「嘘つけ嬉しいくせに~」

「壁の傷増やされたいの?」

「御堪忍下さい」

 昨晩のナイフが刺さった跡、まだ残ってるからね? この家借家なんだけど……大家さんに何て言えば良いんだろ。

「まぁ良いや。朝ごはん取ってくるね」

 とはいえ下ネタをフラットに受け流してくれるあたり、初姫って優しいというか、親切なのかもしれない。普通なら引かれるからね。いや既に引かれてんのか?

 朝ごはんを持って、初姫がやって来る。幼女がエプロンつけてご飯持ってくるこの状況って、実は相当幸せなんじゃないか?

 でも。初姫が家にいるという状況は、オレには当たり前のように思えた。

 思えば、初姫と一緒に暮らし始めたのは一週間とちょっと前だが、その時から初姫が料理をしている光景には違和感がなく、そこにいるのが当たり前のようだった。

 たぶん、過去にも同じような経験をしてるんだ。

 十年前の初姫はたぶん料理なんてできなかったはずだが、毎日オレと初姫は遊んでいた。一緒にいるのが当たり前だったんだ。

 ──いつまで、一緒に暮らせるんだろう。

 未来のことなんて分からなかったが、何となく、この先もずっと、オレは初姫と一緒に暮らしていくような気がした。そんな、確信があった。

「……何にやにやしてんの? しかもこっち見ながら」

「え? あ、いや、なんでも……」

 初姫が怪訝そうな顔でオレを見ていた。オレは誤魔化す。

「何? 初姫可愛いな~とか思ってた?」

 ちょっと身体を前に倒し、上目遣いで初姫は尋ねる。あざとさがMAXだった。

「そんな露骨にアピールされるとな……」

「何よぅ。可愛くないっての?」

「いや、普通に可愛いけど……」

「『普通』って何!? 普通に可愛いの普通って何なのよ、他の人と同レベル程度には可愛いってこと!?」

 変なところに拘るな……

「誰もが認めるって意味で『普通』だよ。いつ何時だって可愛いから心配すんな」

「あぅ……」

 そう言うと、初姫は頬を染めて俯く。自分から聞いといてその態度……。アレか? 初姫は自分ではぐいぐい行けるけど、相手から──つまりオレから来られるとダメってタイプか?

 ともかく、目の前の朝ごはんに手をつける。オレの右腕には邪悪な模様が相も変わらず刻まれたまま。

 ……そういえば随分と触れていなかったが、この刻印、結局これに何の意味があるのかは分からなかったな。やっぱり呪いの印ってだけなのか。大仰なことだ。

 それに────…

 オレにとっての本当の呪いは、目の前にいる幼女だろうと思ってもみたり。どうしてかというのは、敢えて語らないでおこう。それこそ、二人だけの秘密って奴──

「あ、またニヤッてした! 気持ち悪ッ!」

「もう話の腰を折るのはやめて下さい……」

 最後の最後で、初姫は空気が読めない人だった。

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