一話 それは、呪われた生なのだけれど
静かな夜だった。
人気のない通路に──死体が二つ。
それは、少年と少女だった。少女が少年をかばうようにして、倒れている。
その死体を見下ろす──黒ずくめの男たちが五人。少年少女を取り囲んでいた。
五人の内の一人がしゃがむ。すると──おもむろに、少女の身体をまさぐり始めた。
服の上から、もしくは服の中にまで手を突っ込んで──ふと、その手が止まる。
「見つけた」
男は服の中に突っ込んでいた手を引き抜く。その手には、一つの指輪があった。赤い、ルビーのような宝石の付いた指輪だ。鈍く輝いているように見えるのは、光の加減か。
男は懐から携帯を取り出して、
「会長。見つけました」
【そうか、よくやった。……指輪を持っていた娘はどうした?】
「殺しました。ただ、一つだけ問題が」
【ん? 何だ、言ってみろ】
男は少し気まずそうに言う。
「……もう一人、一般人も一緒に殺してしまいまして──」
【──────】
一瞬、電話先の男が黙った。ごくり、と報告役の男は唾液を飲み込む。
【……構わない、捨ておけ。後で処理班を向かわせる】
「畏まりました」
そう返事をすると、男は通話を終了させた。
「おい、行くぞ」
そう男が言うと、周りにいた四人もそれに続く。
そして、男たちは姿を消した。
その、数分後──
「ん、んん……っ」
頭を撃ちぬかれて死んだはずの少女が、伸びをしながら起き上がる。
「あ〜あ、脳みそ撃ち抜かれるとか久しぶりじゃない? ま、痛くないから良いケド」
呑気なことを言いながら、首をぽきぽきと鳴らす少女。撃ちぬかれたと彼女が言ったその頭からは、血は流れていなかった。
「指輪も──本物はこっちだし」
少女は腹を親指でぐっと押しながら、自らの喉にもう片方の手を突っ込んだ。そして、口からおえっと指輪を吐き出す。その指輪は、意外と綺麗だ。
その指輪を眺めながら、少女は視線を鋭いものにする。そして──隣で横たわる、少年の姿を見た。
「もう、死んでるでしょうね……」
見た所三発被弾している。肩と太腿、それから胸。恐らく胸への一撃が致命傷となったのだろう。
「……せっかく会えたのに、ロクに話もせずに逝っちゃうなんて」
少女は悲しい顔をした。そして、それが都合の良い言葉だということも分かっていた。少年が死んだのは、紛れもなく少女のせいなのだ。
──それに、どちらにせよ、少年はもうすぐ死ぬ運命にあった。
「ごめんね。また、こんな目に」
小さく謝罪の言葉を口にする。その『ごめんね』は、今起こった出来事とこれから少女がやること。その二つに対してのものだった。
「この指輪、あたしはもう使えない。だから、アンタが使うしかないの」
少女はそう呟きながら、少年の手を取る。十年ぶりに触れた手は、とてもたくましかった。
中指に、指輪を嵌める。大きさはぴったりだった。
「安心して。これで、アンタは生き返るから」
それは、呪われた生なのだけれど。
もう逃げない。少女は決心する。ずっと彼の傍に居る。
そう。消えない、罪悪と共に────…