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初代勇者は休めない  作者: 宵咲 栞
一章 邂逅、再び
9/13

第08話 決意の先には

本当にお待たせしました……最新話になります。

別視点をこの話で終わらせる予定だったので、今まで一番長くなりました……長かった。


お楽しみいただければ幸いです、それではどうぞ。

僕達が居た部屋を出て、階段を二つ三つと降りて少し進んだ先には広場があり、そこでは鎧を身に付けた人達が体を動かしていた。


数十人を超える集団がいるというのにまだ余裕がある所を見ると、相当な広さを有していることが窺える。



もう少し近くで見てみたいが好き勝手に動く訳にも行かず、運動をしている人達を眺めていた所、その中の一人がこちらに気付き駆けてくる。



その人はヴォルゼスさんの前で止まると、ひざまずき頭を下げた。


「よい、頭を上げろ」


ヴォルゼスさんはその行いに対し言葉だけを返す。


「はっ!」


その言葉を聞き、ゆっくりと頭を上げたその人を見た時僕はようやくーー女性だと気付いた。



栗色に輝く髪を肩口で切り揃えており、背丈が少し低めなのも相俟あいまって僕達と同じくらいに見えるが、眼差しは鋭く表情は固い。


何より目を引くのがーー頭の上にある動物・・・のような・・尻尾・・の存在だろう。


見た目は一緒だが、僕達に存在しないものがあるという事に、何度目になるか分からない驚きを覚えた。




ちなみに、ひとりでに揺れ動く耳と尻尾を見ていて触りたい、そう思った僕の頭はおかしくないと思う。


「耳!!尻尾!!」

「頼んだら触らせてくれるかな……?」



クラスメイトの中にも同じ考えの人がいてちょっと安心。




僕達の反応を見たのか、ヴォルゼスさんは穏やかな笑みを浮かべていた。



何故か暖かさを感じる眼差しに、恥ずかしくなる僕達。




「陛下!発言の許可をいただきたいのと……隊の皆に集合をかけても宜しいでしょうか?」


絶妙なタイミングで彼女はヴォルゼスさんに伺いを立てていた。


「発言の許可はする、集合はかけんでよい」


それを快く許可したヴォルゼスさんへ、彼女は疑問をていする。



「失礼致しました。陛下がここへお見えになった理由とはどういったものか、お聞かせ願いたかったのです」


「理由はただひとつ。ワシが来たのはここにいる勇者様をお連れする為、参った。メティよ、お主には勇者様方が行う訓練の教官を任せる」


「教官を……畏まりました。私、メティ・マギリスが全身全霊を捧げ、事に当たらせていただきます!!」



ヴォルゼスさんと、付き従う彼女を見た僕はーー背中に氷を入れられたような感覚を覚え、背筋を正した。


何故急にそんな事をしたのか、僕自身良く分からない。



「うむ、宜しく頼むぞ。ワシはこれで失礼するので、勇者様方はこの騎士ーーメティの指示にしたがって行動してくれ」


そう言って立ち去るヴォルゼスさんを僕はしっかりと見るが、さっきのような感覚を覚えることはなかった。


謎だらけだけど……それはいずれ考えると決め、意識をこちらに戻す。



『ありがとうございました‼』


教えてくれたお礼をみんなで言って見送っていると、立ち去った筈のヴォルゼスさんが何故か戻ってきている。



「忘れておった……ツバメよ、ちとこちらに来てくれい」



僕だけが呼ばれる……何かあったかな?


今日の出来事を思い出しながら、ヴォルゼスさんの元へ向かう。


「なんでしょうか?」


「こちらに耳を近付けてくれ……うむ、そうじゃ。実はのう、休んでおる者の事なんじゃが」


あった、凄く大事なことが。


どうして忘れてたんだ僕は……


「祐眞は大丈夫なんですか!?まさか、良くない状態なんてことは……!?」


大切な友人ーー祐眞に関係している事だからか、自然と声を大きくしてしまう。


思い出せなかったのを誤魔化している、などではない……決して。


「心配なのは分かるが、落ち着くんじゃツバメよ」


「す、すみません……少し取り乱しました」


ヴォルゼスさんの言葉を遮って尋ねる程に心配してたみたい。


普段ならここまで心配しないんだけど……一体何が関係してるのかな?



焦り、慌てふためく僕を見ていたヴォルゼスさんからーー優しさを感じた。



その理由は分からないけど。



「その心配は当然じゃ、気にするでない。これ以上心配をかける訳にもいかんからの、結果を言わせてもらうぞ。ただの風邪じゃ、病気の類いではない」


ヴォルゼスさんの口から告げられたのはーー風邪とのこと。


「良かった、本当に……!!」


重い病気ではなかった事に安堵し、思わず崩れ落ちそうになった。


本当に心配かけるんだから祐眞は。


次に会った時は心配かけたお詫びでもしてもらおう。


「あの馬鹿にこんな友がいるとはな……ツバメよ、さすがに今日は会わせられんから、伝えることがあるようなら伝えておくが?」


伝言って言っても……いつでも会えるし、伝えることは特にないかな。


「いえ、大丈夫です」


最初の方何か言ってたような……聞こえなかったし、大したことでもなさそうだし、まあいいよね。





「分かったぞい。用は以上じゃ、今度こそ失礼する」





そう言って去っていくヴォルゼスさんの元に、どこからか鎧を着た人が幾人かやってきて何かを伝えている。



「陛下!!ご報告がーー先程、城がーーされ、被害はーーと、怪我人はーーとのことです。これをーー特徴は黒いーーとーー魔術ーーに酷似していたと目撃した者からの情報です」


「あの馬鹿野郎……!!あれでーー少しーー出来ーー無理じゃな。まずはーーと皆にーー通達をーー後は、ワシがーーからーー撤去をしておけ、よいな?」


「はっ!!」


距離があったからほとんど聞こえなかったけど……あの馬鹿野郎って言葉だけ聞こえた。


何があったのか凄く気になるけど、聞くのは出来なさそうだね。

好奇心を抑え、聞きに行こうとして踏み出そうとした足を戻す。



僕の行動に気付いてか、それとも偶然か。


ヴォルゼスさんは一瞬だけこちらを振り返るがすぐに前を向き、静かに立ち去っていった。




その姿が見えなくなったことを確認し、みんなの所へと戻る。




戻ってくると同時に慎也が尋ねてきた。


「おう燕、王様は何の用だったんだ?」


「えっと、祐眞の体調のことでちょっとね」


僕の返事を聞いた慎也は納得がいった、という風に頷いている。


「そのことか。で?結果はなんだって?まさかとは思うが、風邪か?」


「ご明察……風邪だって。昔からそうだけどさ、祐眞は僕達に良く心配をかけるよね」


呆れたように言う僕に対して慎也は。


「なんつーか……俺らからすると祐眞は手のかかる弟、って感じなんだよな。良く心配するのも、弟のやんちゃっぷりに対してするようなものと一緒なんじゃないかって」


慎也の言葉を聞き、頭にその様子を思い浮かべる。


祐眞が弟……ぴったりだ。


「あははっ!確かにそうかもね。僕と慎也祐眞の三兄弟かな?」


「だな。苦労人な燕が長男で俺が次男……ふっ、いい兄弟だ」


『はっはっは!!』


抑えきれない笑いと共に問いかけると、同じような光景を思い浮かべたのか、慎也も笑っている。


「お二方……そろそろ宜しいでしょうか?」


しばらくの間笑っていると、横から声が聞こえたので声のした方へ振り向くとーー



真顔のメティさんがいた。



人って表情が変わらないだけで怖いよね……


「他の勇者様がお待ちになっておりますのでお早くお願いします」


あまりの迫力に無言でみんなの所に向かう僕と慎也。



「全員がお集まりになられたので、私の方からご挨拶をさせていただこうかと思います。私はこのエレトア国第一師団『黎明れいめい』、団長のメティ・マギリスと申します。これより勇者様方の訓練の教官をさせていただきますが……何かご質問は御座いますか?」


唐突な自己紹介の返し方が分からず、固まる僕達。


色々と言いたいことはあるし、気になることがたくさんあるけど、その中でも特に気になることが一つ。


相手から質問はないかって聞いてくれてる訳だし、行こう!


そう思い質問をしようと声を発した瞬間ーー

「あの」

「はい!!その耳と尻尾は自前なんですか!」


先に別のことを言われてしまった……って田霧君!!




「勇者様はおかしなことをお聞きになるのですね……これは私が生まれた時から生えておりますが、勇者様の所では私のような者はおられないのですか?」


「僕達の所はただの人間しかいないよ。あれ、人間で通じるかな……?」


「人族しかおられないのですか!?なんと珍しい……」


質問の内容に不思議そうな顔をしながらも、メティさんは一つずつ丁寧に答える。


「そうかな?僕からしたらメティさんみたいな人が居る方がいいなぁ。ケモミミとか最高に可愛いし萌えるし」


「か、かわっ!?そのようなことを言われたのは初めてです……あ、ありがとうございます」


「可愛さが更に上がった!?こんなに可愛い人が存在していたなんて……生きてて良かったぁぁ!!」




まあ、途中から質問じゃなくなってる事に関しては何も言わないよ……


楽しい雑談が続いている所に入るのは申し訳ないけど、僕も聞きたいことがあるし、許して田霧君。



「田霧君、雑談は後でにしてもらっていいかな?それと、メティさんに質問があるのですが大丈夫ですか?」


「ごめん、嬉しくてつい……」


「ええ、私に答えられる範囲であればですが」


気分が高揚していた田霧君をなごめると同時に、メティさんに質問をする許可を取る。



「ありがとうございます。僕が質問したいのは師団、ですか?それの名前になっている黎明……僕達の世界にある言葉と全く同じ言葉が何故、この世界にあるのかを教えて下さい」


そして、己紹介で気になっていた事を質問する。


メティさんは小首を傾げて不思議そうな顔をしたが、直ぐに表情を戻して質問の答えを返す。


「考案された方が勇者様方と同じ世界の方だと父から聞きました。ですので、私はどのような方なのか存じ上げません」


「えっ……」


『嘘ぉ!?』


近くで聞いていた皆も一緒に驚く……というか皆聞いてたんだ。


メティさんのお父さんから聞いた、すなわちその人と何か関わりがある筈で……その人がこの世界にいるなら、情報が得られるかもしれない。


更なる情報を得るため、質問を続ける。


「お父さんから詳しい話を聞きたいのですが、何処にいるか分かりますか?」


「父はつい先日、任務で国外へ赴きまして……戻って来るのは三ヶ月後だと聞いております」


メティさんの言葉を聞いて肩を落とす。


何も分からない僕達には、情報が必要だから色々聞きたかったけど……いないのは仕方ないか。


「他に質問は御座いますか?」


メティさんの声が波のように広がる。


他にも聞きたいことはあるんだけど、訓練もあるからこのぐらいでいいかな。


しかもーー


「今日は風が心地よく、程よい暖かさなので良い訓練が出来そうです!」


誰が見ても分かる程、訓練をしたいっていうのが伝わってくるね……耳と尻尾の動きのせいで。


みんなの視線がそこに集中している。

田霧君の手の動きが怪しいのは気のせいだと思いたい。



「いえ、もう質問はないので訓練に移ってもらって大丈夫です」



僕はなるべく耳と尻尾を見ないようにしながらメティさんに告げる。


「それでは訓練を始めさせていただきます。最初は武器を選ぶ所からになります」


「僕は王道の剣がいいな」

「私は斧かな、カッコイイし扱いやすいし」

「鬼に金棒ならぬ浅川に斧って……ごめんなさい!!俺は槍で」


皆が思い思いの意見を述べていくが、メティさんの視線に負け、静まり返る。


「各々《おのおの》、使用したい武器があるのは分かりましたが……その武器を上手く扱えるかと言えばそうはいきません。弓を扱いたくても実際は剣を使っていた、なんていうことは良くありますからね」


「ということは、僕達は使いたい武器を使えないんですか?」


「いえ、使えます。これは一般の兵の話で、勇者様方はこれに当てはまらず、どの武器も玄人に劣らない技量で扱えます。なんでも、技能の一つにそのようなものがあるとか」



玄人って確か……かなりの腕前がある人のことを指す言葉だったかな?

もし本当だとすれば、僕達は相当上手く扱えるんじゃないかと思う。



「良かったー!!槍で連続突きをするって夢が叶わなくなるとこだった」

「何よその変な夢。まあ、私も大地を砕く!とかしたかったし」

「二人とも物騒だね……僕は色々な物を塵にしてみたいなぁ」


『あんたが一番物騒だよ!!』


……まあ何にせよ、使いたい武器が使えるってことで良かった。技能については後で確認するとして。



「お話もよろしいですが、今は訓練中なので後でお願いしますね……?」


『すみませんでした』




メティさんの背後に何か見える……先生もそうだけど、怒った女性はえも言われぬ迫力があるね。




姿勢を正し直立不動の僕達を見たメティさんは言い過ぎたと思ったのか、耳を伏せて申し訳なさそうにしながらーー



「つ、次はありませんからね……?」




そう、言った。



なんだろう……物凄く可愛がりたいよ、動物とか子供にやるような感じで。


皆の顔がだらしないのはきっと、同じ気持ちを抱いているからだと思う。



そんな僕達に気付いたのか、表情を引き締めたメティさんは咳払いを一つして、話を続けた。


「コホン……!!話を戻します。武器をご用意したので、自分の使用したいものを手にとってください。刃は潰してあるので切れはしませんが……落としたりした場合、刺さりはするので慎重に扱ってくださいね」



そう言いながら、多数の武器が入っている木で作られた箱をどこからともなく取ってきていた。


人一人が入れる程の大きさを誇り、様々な種類の武器が入っているであろうそれを容易く持ち、苦労することもなく運ぶことの出来る力がその体躯にあるという事実に驚きを隠せなかった。



僕もう、百年分くらい驚いた気がするよ。


『は、はいっ!!』


体に武器が刺さっている姿を思い浮かべ、そうなってたまるかと気を引き締めて返事をする。


それから皆で武器を選び、かなりの重さに武士達の凄さを感じ、刺さるんじゃないかという恐怖に手を震わせながらも、無事に武器選びは終了した。


ちなみに僕は短剣、慎也は自分の身の丈以上の大きさを誇る大剣だった。

ゲームなんかで登場するものを思い浮かべてもらうといいかな。


皆の選んだ武器は、色々ってことで。



「選び終えたようですね。それでは、剣の使い方からお教えします」


メティさんは自身の剣を構えながら告げた。


様々な出来事があったけど、ようやく訓練が始まる。



……頑張ろう。





~~~~~~~~~~



死屍累々。


この惨状を現すのに最適な言葉がこれだと、僕は思う。


なんて言ってるけど皆ちゃんと生きてるからね!?


「やっと終わった……もうダメ」

「普通の、運動なんかと、比べ物に、ならん……」

「ふぅ、凄く疲れた。二人は大丈夫?」


『これが大丈夫なように見えるかぁ!!』


「手の震えが止まんねぇ!これが武者震いってやつか!」

「あんたのはただの疲れよ」



前言撤回、結構元気だったよ皆。


「今日の訓練はこれで終了です。明日も訓練はあるのでお願い致します」


『はい、ありがとうございました‼』


メティさんの挨拶に対し、失礼のないように元気良く挨拶を返す。



僕達の挨拶に対して、メティさんからは微笑みとーー


「元気が良くて気持ちのいい挨拶です。こちらの方こそありがとうございました。お陰様で貴重な経験が出来ました」


嬉しくなる言葉を貰った。



今から明日の訓練が楽しみになってきたね!



武器の回収を終え、メティさんは箱を担ぎながら


「この後は陛下が直接お越しになるとのことなので、皆様は休んでいてください。報告がありますので私は先に失礼致します、お疲れ様でした」


そう言い残し、城の中へと去っていく様はとても格好良かった。



『お疲れ様でした‼』



少し遅れる形でこちらも挨拶を返す。


きっと聞こえてるよね。


「燕、お疲れ。アレ凄かったよな!!」


座り込んで休息を取っていると、慎也が話しかけてくる。


「お疲れ様、慎也。本当に凄かったよね、メティさんが全部の武器を扱えるっていうのは」


「そっちかよ!普通はあの技の方だろ!?」

「あれ、そっちなの?」


あの技というのはメティさんが僕達に実演してくれた技のことで、訓練すれば誰でも使えるようになるって言ってたけど……正直無理じゃないかな。



「技の名前は何だっけ?」

「確か……冴暴時雨ごぼうしぐれ、だろ?格好いい名前だよな」


確かに格好いいんだけど、なんでか聞き覚えがあるんだよね。


「そういえばどんな風に技を出してたっけ?」

「確か……ごめん、ヴォルゼスさんが来たからまた後で」


技の発動の仕方を聞いてきた慎也に僕が理解出来た動きを説明しようとしたが、ヴォルゼスさんが僕達を迎えに来た為に、説明を打ち切る。



「待たせたようですまんの。移動したいところじゃが……動けそうか?」


「僕は問題ないです」

「私も動けます」

「俺も大丈夫です」


皆の状態を確認したヴォルゼスさんはーー


「訓練が終わったばかりだというのに申し訳ないのう」


と頬を掻きつつ謝るその姿に、何故か親近感をもった。



「それでは行くが、余り無理はするでないぞ?」


そう言って歩き出すも、その歩みは遅い。


何故?と疑問を抱くが一瞬のことで、すぐに理解する。


僕達に合わせてくれていると。


一国の王が僕達を気遣っての行動……勇者という立場だからそうしているのだろうが、こそばゆかった。




来た道を戻り、朝もお世話になった部屋へと到着すると同時に、精根尽き果て座り込む皆。


「皆、王様の前だからもう少ししっかりと……」


「ツバメ、よい。皆もそのままで気にするでないぞ。あのメティの訓練だ、こうなるのも無理はない」


ヴォルゼスさんの優しさに頭が上がらなくなってきた……普通に考えたらとても失礼なのに。


「この後は食事の予定じゃったが、各自で好きに取るといい。部屋にある鈴を鳴らせば使用人が来るからその時に頼むとよいぞ」



『ありがとう……ございます……』


ありがたすぎる気遣いに皆でお礼を言うものの、その声は弱々しく今にも倒れそうな程だ。



「あいつも、最初はこんなものだったな。随分と懐かしい……ゆっくりと休息を取り、明日も頑張ってくれ、ではな」


小さな声で何か呟いた後、手を振りながら僕達に激励をかけ、颯爽とヴォルゼスさんは去っていった。



喋っていた人が消え、辺りは静まり返る。


というより疲れで声を出したくないだけなんだろうけどね。


「とりあえず……皆帰って休もうか。折角だし、いつものいくよ?」


「こんなところでやるのか」

「いいんじゃない?一人足りないけど」

「祐くん……」



学校で毎日やっていたことを提案すると、乗っかってくれた。


スポーツの試合なんかで、全員で円陣を組み気合を入れるというのがある。


それと一緒だね。


やってくれる皆優しいなぁ……ていうか祐眞の事ちゃんと覚えてたんだね、話題に出ないから忘れてるかと思ってたよ。


円陣を組み、準備が出来た事を視線でもって伝えてくる。


僕は小さく頷き片足を前に出し、思いっ切り叫んだ。



「みんなありがとう。それじゃあ行くよ?せーえのっ!!」




『お疲れ!!また明日会おう!!』




皆が散り散りになり、自室へ戻っていく。



「じゃあ、僕も行こうかな」


ゆっくりと立ち上がり、自室へと向かう。


「祐眞に会いに……別にいいかな」


ふと祐眞のお見舞いにでも行こうかと考えたが、明日会えると思い、立ち寄らずに自室に帰り休息を取った。



この時立ち寄っていたら未来は変わっていたのか……それは誰にも分からない。



~~~~~~~~~~



静寂。



朝の様子を表すのに最も似合う言葉。




『祐くん……どこぉぉぉぉぉ!!』


そんな朝の静寂を切り裂く謎の叫び。


「うぅん……わぁっ!?」


僕は微睡む暇もなく、跳ねるように起きる。


「今のは一体……とりあえず行こう!」


困惑しながらも急いで着替えを済ませ、声の元へと向かうとーー


「ぐすっ、えぐっ」


祐眞の部屋の前で座り込み、嗚咽を漏らす深滝ちゃんがいた。


何があったのか聞くため、駆け寄り声を掛ける。


「深滝ちゃん!?一体何があったの!!」


「あ……」


反応はしてくれたが言葉はない。


僕の剣幕に驚いたのかもしれないと思い、なんとか心を落ち着け聞き直す。


「驚かせちゃったかな、だとしたらごめんね。落ち着いて、ゆっくりでいいから何があったか僕に教えて」


少し待って、深滝ちゃんは口を開いた。


「ひっく……祐くんが、祐くんが‼」


「祐眞が?」


また祐眞のせいか!!と思い、大したことはないと安心したが、深滝ちゃんが次に発した言葉で安心は跡形もなく消え去った。


「どこにもいない……」


「祐眞が、いない……?用を足しにとかじゃなくて?」


深滝ちゃんの言うことが信じられず、変な事を口走ってしまう。


「違うよ……テーブルの上にこれがあったから」


僕の発言を否定し深滝ちゃんは手にしていたノートを僕に渡し、一番最後のページを見るように促してくる。



そのページに書いてあった内容はーー



『~親愛なるクラスメイト達へ~


これを誰かが見てる時……まあ、由紀乃か燕だと思うけど。


話は戻るが、これを見てるってことは俺の部屋に入って中を見てる筈だ。

見れば分かるから詳しくは説明しないぞ?


俺がこのメッセージを残した理由だが……俺はこの世界でどうしてもやらなきゃいけない事が出来た。

それが終わった後、俺は旅に出るし元の世界に帰る気はないから、お前らに会うことはおそらく……無い。


燕には今まで世話になって、由紀乃には色々心配をかけた、慎也とは馬鹿やって皆には仲良くしてもらった……楽しかったよ。


恭華姉には怒られそうだな……フォローは任せた!


後のことはゼスト……ヴォルゼスに頼んである。


あんなのだが凄い奴でな、存分に頼ってやれ。


長くなっちまったがこれでお別れだ……この世界の何処かでお前らの幸せを祈ってる。



おっと、言い忘れてた。



由紀乃……約束破ってごめんな。


燕、由紀乃の事はお前に任せた。

無責任なのは分かってるんだが……俺の最後の頼み、どうか受けて欲しい』



鷹谷 祐眞



「どうして、こんな!!」


感情のままに拳を叩きつける。


拳から血が滲む、だがそんなことを気にしている場合じゃない。


「言うだけ言っていなくなるなんて……深滝ちゃん」



祐眞を一番知っていて、僕より遥かにショックを受けている深滝ちゃんへ、恐る恐る声を掛ける。



「ぐすっ……なに?」


多少落ち着いてきたとはいえ、つい先ほどまで泣き続けていた深滝ちゃんになんと言葉を掛ければいいか分からない。


慰めるか元気づけるかそれとも……考えなしに行動したせいか、状況に合った台詞が思い浮かばない。


それでも何か言おうとした結果ーー


「祐眞の部屋の中に何があったの?僕は中を確認してないから気になっちゃってさ」


明後日の方向の話をしてしまう。



「え?……説明するより見てきたほうが早いよ」



怪訝な顔をしながらも、答えを返してくれた深滝ちゃんに感謝を述べつつ、祐眞の部屋に向かう。


「床に穴空いてるし穴の中にはなんかあるし……この部屋で何があったのさ」


とても一言じゃ言い表せない中の様子に、困惑するだけの僕。



結局、見れば分かると言っていた祐眞の言葉が嘘ということだけが分かった。



「ね?見てきたほうが早かったでしょ?」


何とも言えない顔をしながら戻ってきた僕に気づいた深滝ちゃんからの一言を、苦笑しながら返す。


「うん、説明の必要なかったね」


「そうでしょ?祐くんは昔から抜けてるから私が傍で支えなきゃってずっと思ってた……なのになんで、いなくなっちゃったの‼もうどこにも行かないってあの時約束したのに……ぐすっ、祐くん」



普通に話せていたと思ったけど、急に心の内を吐露し、再び泣き出した深滝ちゃん。

普段とはあまりにも違いすぎるその姿を、僕は見ていられなかった。


彼女の為、自分の為……様々な思いが渦巻く中、僕は決意した。


どこまでも届くよう強く、けれど優しく、子供に語り掛けるように言葉を紡ぐ。



「……僕は祐眞の事、探すよ。言いたい事が山ほどあるし、話してもらわなきゃいけない事がたくさんあるからね。君に、僕と同じ想いが……もう一度祐眞に会いたいって想いがあるなら、僕を手伝ってくれないかな?」


そっと、手を差し伸べる。

その後は何もせず、ただ待つだけ。


無言のまま、時間だけが過ぎてゆく。

 


そしてーー


「手伝う、ううん……手伝わせて。私、もう一度祐くんに会いたい。会って伝えたい‼」


深滝ちゃんは僕の手を取り宣言した。


何を伝えたいのかは聞かないことにしよう、うん。

 

騒ぎを聞きつけたのか、慎也やクラスメイトの皆がやってきて、僕達を見つけると、それぞれの推測を口にする。


「おい、何があった‼って本当に何があったんだ……?」


「これはもしかして、修羅場!?」

「違うから目ぇ輝かせんな‼」

「多分だけど、泣いていた深滝さんを山薙君が見つけて傍にいた、って感じかな。原因は鷹谷君だね」


一人だけ見てたんじゃないかっていうくらいの推測をしてる人がいるんだけど、きっと、近くにいたんだよね?

というかそうであって欲しい。


「概ねその通りだけど、よく分かったね」


『あんた怖いわっ‼エスパー!?まさかのストーカー!?』

 

「違うよ?部屋の外に出た時に視界に入ってさ。すぐに部屋に戻ったからそれ以上は何も。防音設備が整ってるからなのか分からないけど、外の音がほとんど聞こえないんだよ。凄いよね」


良かった、クラスメイトが普通で。 


色々な意味で彼に感謝かな。


「で、実際の所何があったんだ?只事じゃないのは分かったけどな」


機会を窺っていたのか、会話が終わったタイミングで慎也が尋ねてきた。

口には出さないけど皆気になってるみたいだし。



「そう、だね。皆も揃ってることだし……何があったのか全部話すよ。実は……」


僕は皆に祐眞が残した手紙の事や、僕がこれから行おうとしている事を話した。



「まさか祐眞がな……」



顔には出してないけど慎也は相当に驚いていた。

祐眞を良く知ってるからこそ、驚きが大きいんじゃないかと思う。


やんちゃではあるけどいつも周りに気を配ってたし、みんなが仲良くなったのも祐眞が裏で色々としてたからね。



「手紙の内容通りなら王様は事情を知ってる、ってか。それで?行動は早い方がいい、すぐ行くのか?」


「その行くつもりだけど、って……皆も来るの?」


当たり前のように慎也が聞いてくるのでに一瞬呆けてしまった。

手伝ってはくれると思ってたけど……



「世話になったし、当然だろ」

「結構面倒かけたし……」

「二人とも素直に心配だって言えばいいのに」


『うっさいわ!!』


毎回思うけど、この三人のやり取りってコントみたいなんだよね。


まあそれはいいとして。

皆に感謝しなきゃいけないよ。


正直、僕一人だけでヴォルゼスさんと話すのは精神的に厳しかったからね……深滝ちゃんがいるとはいえ。



「燕、俺達兄弟で馬鹿な弟を叱りに行こうぜ?」


からかい混じりの慎也の一言。

僕と慎也しか知らない冗談で交わした会話。



僕はその一言で……決めた。



「ここはお言葉に甘えて、皆にも着いてきてもらうよ。他にも色々と協力してもらうから、覚悟してよ?」


感謝の気持ちを言葉に込めながら、皆に向かって告げる。


『う、うん……』


伝わってるかな……伝わってて欲しいなぁ。


「皆!!気合入れるからいつものやるよ!!」


昨日もやった円陣をやると提案するとーー


『よし来い!!』


力強く返事をくれた。

既にかなり気合入ってるね!!



「じゃあやろうか!!皆、絶対に祐眞を見つけて、一発ずつ殴るよ!!」



皆に対抗するような気持ちで力強く宣言する……ちょっとした冗談を添えて。



『絶対見つけよう!!……えっ!?』



予想通りだけど、引っかかってくれて嬉しい。



祐眞、いつか必ず見つけるから。

皆に言ったのは冗談だけど……僕の一発くらいは覚悟しておいてね?




その決意を示すかの如く……歩みは力強く、思いを確かめるように一歩一歩ゆっくりと。



僕達は歩いていく。

お読みいただきありがとうございました!!

ご意見ご感想、常にお待ちしてますよ!!


今回の後書きコーナーはネタがないです。

なので……ゼストこと、ヴォルゼスと兵士の会話をお届けします。

ここで出さないと出番がないんですよ……




「陛下!!ご報告が御座います!!先程、城の正門が何者かに破壊されました。被害は正門と城壁の一部に亀裂、怪我人は軽症の者が数人とのこと。犯人の特徴は黒い髪に、青を基調にした執事服のような衣服、飛行魔術に酷似していた魔術を使用していたと、目撃した者からの情報です」


「あの馬鹿野郎……!!あれで頭は回るのだからもう少し加減というものを……無理じゃな。大方自分の力を試したくなったとかだろうな」


「陛下、まずは職人をお呼び致しましょうか?」


「いや……最優先で残骸を撤去し、それと平行して職人と兵士に通達をせい。その後はワシが逐一指示を出す、よいな?」


「はっ、畏まりました!!しかし陛下……犯人は追わなくてよろしいのでしょうか……?」


「言っておらんかったか?この騒ぎを起こしたのはユウマの馬鹿じゃぞ?」

「ユウマ……伝説と呼ばれた勇者、ユウマ様ですか!?では今回の召喚の勇者様というのは!!」


「落ち着くがよい。今回アイツは巻き込まれただけじゃ。まあ、ある用事の為に行ったんじゃがな」


「用事、ですか?それはいったいどのような……」


「秘密じゃな。それよりも、この事は他言無用だ。アイツがいるのが他国に知られるだけで問題になるからのう。今はまだ……話してはいかんぞ?」


「畏まりました‼この命にかえても守り抜きます!!」


「それでよい。それでは事に当たってくれ」


「はっ!!」


「セレフィールを頼むぞ……ユウマ」



以上になります。

燕には最初しか聞こえませんでしたが実際はこんな会話でした。



次回からは祐眞視点に戻ります!

テンプレですよテンプレ!!

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