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初代勇者は休めない  作者: 宵咲 栞
一章 邂逅、再び
3/13

第02話 昔のように

大変遅くなりましたが、次話投稿です‼

「うん……?ここは?……そうか、戻って来てたのか!」

勢い良く起き上がり、周囲を見渡す。



所々に存在する妖精と精霊の絵、散りばめられたステンドグラスが教会や神殿のような雰囲気をかもし出している。


そして、俺達の足下には巨大な召喚陣。



過去に俺が召喚された部屋と一緒のはず……合ってるよな?

なんか不安になるな……


「そうだ!みんなは何処に?」


不安を誤魔化すように呟きながら下の方に目を向ける。


そこには意識を失っている先生とクラスメイト達が横たわっていた。


現在の状態を確認する為、その中の一人に手をかざし、イメージを構築して魔導・・・を発動させる。


分析アナライズ


――ちゃんと魔導は使えるし、大丈夫だ。


その後全員に同じ事をして、体に異常がないか確認していく。


「なるほど……一時間は起きないな。」


俺は二度目だから問題はないが……皆は初だから仕方ない、か。


「さて、どうしようか……そうだ!」



俺が初代勇者だった事を知られるとマズイので、色々と準備をしておく。



まずは……これはヤバイし、これもか。

こうして、っと。後は……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「よしっ、こんなもんでいいかな……」


バレたら一環の終わりだし、俺の野望が潰えてしまうからな…


三十分程で仕込・・・みを終えた俺は、残りの時間を魔導の復習に充てることにした。


あっちじゃ出来ないからな。


「えーっと『破槌クエイク』これは……穴を堀るのに使うやつだったか?次のは『跳躍ワープ』……移動用の魔導か。次は……」



「ん……あれ……?ここは?」


もう起きたのか!?まだ時間はある筈じゃ……


一人が目を覚ました為、急いで魔導の練習を止めて駆け寄る。


起きたのは……先生!


「恭華姉!大丈夫?どこか痛んだりする?」

「祐……?ちょっと頭が痛むけど……他は大丈夫よ」


慌てていた為か、先生を昔みたいに呼んでしまった……別にいいよな。


言い忘れていたが、先生と俺の関係は姉と弟みたいなものだ。


可愛い弟、という感じで良くしてもらっていた為か、自然と姉と呼ぶようになっていた。


「しかし、随分と久しぶりに呼んだわね…」

「俺もそう思ったよ」


まあ、思うよな。


「祐もなのね。それで……ここは?」

「俺も分からん……」


知っているが、そんな恭華姉にも初代勇者だとバレる訳にはいかない為……全く分からない、という風に話をする俺。


出来る事なら話したいが……信じてくれないだろうし、騒ぎが起きる可能性があるからな……



俺の様子に一瞬眉を潜めたものの、すぐに答えを返してくれた。


「起きたばかりで、あまり状況が分からないけど……少なくとも地球ではないことは確かね」


「は?」


恭華姉がそんな答えをするとは思わず、驚きで言葉が出た。


「えっ!?それはさすがに……」


「――ここは地球じゃないわ」


すかさず否定しようとした俺の言葉を遮る。



「少し気になっていた事があるのよ」


それを聞いた俺は気付いてしまった――恭華姉はここが異世界だと思っている、と。



俺がそれに気付くと同時に、頭の中を一つの出来事がよぎる。



――まさか!?俺の事がバレたか!?

でも、特に言ってきてないし……


まだバレたと決まっていない為、知らぬ振りをして聞く事にした。


「恭華姉、ここが異世界って決めるのいくら何でも早すぎないか?それに、異世界なんて存在しないよ」


誤魔化す為、冷静に否定する。


「いえ、ここは異世界よ」


「断定するなぁ……じゃあ、そう思う理由を聞かせて欲しい」


何処で判断したのか気になるし。


「いいわよ。私がそう思った理由はね――」


一拍空けて恭華姉が理由を語り始める。


「いくつかあるけど……まずはこの部屋ね」


「ここ?」


……何かおかしな所があったか?広いだけで海外とかにありそうだけどな。


「そうよ。まず、使われてる材質が変、この絵もステンドグラスもそう。教会みたいだけど妖精を信仰する宗教なんてないもの」


説得力はあるな。

俺は知ってるからおかしいとは思わないけど、普通は気になるよな。


「なるほどな……確かに、地球にはそんな宗教はないな。妖精とかもいないし。でも、それだけじゃここが異世界だって断定は出来ないよ?他にも理由はあるよね?」


「……ええ、もちろんよ」


恭華姉は深くうなずき、笑顔になって他の理由を語り始める。



ん?あの表情……どんな時にしてたっけ?


確か――



「他にはそうね……皆の状態と、祐の……明らかにここが異世界だって分かってる言動が理由ね」


そうそう、俺にイタズラを仕掛ける時とかあんな表情してた……え?



思い出すのが遅かった。


バレた!?何故……言動?


気になるけど、まだ間に合う筈……誤魔化さなくては!!


「何言ってんのさ恭華姉、そんな事あるわけないだろ?」

「祐って、嘘つく時は眉が険しくなるのよね~」


「マジで!?」


急いで眉を手で覆って隠す。それを見た恭華姉は笑顔を浮かべ……って、謀られた!!


「やっぱり嘘ついてたのね……」

「嘘ついてないって!」


手遅れな気がするが、誤魔化そう!


「正直に白状なさい、さもなければ……」


「さもなければ?」


脅しか、俺はどんな脅しにも屈しないぞ!!


「祐のパソコンの動物フォルダ……」


「すいませんでした。正直に白状するのでこれから話す事とその事は秘密にしてください」


土下座して懇願する。


あれを人質に取られた俺には拒否権はなかった。


ていうか何で知っているんだ!?


まさか……あの防壁を破ったと言うのか……!!


そんな俺を見ながら、恭華姉は優しく微笑んで言ってくれた。


「祐、顔を上げて。もちろん黙っていてあげる代わりに……嘘偽りなく話すことが条件よ。いいわね?」


それくらい安いもんだ……!!


俺は立ち上がり感謝を送った。


「もちろん!!ありがとう恭華姉!!」


ハグもする勢いである。


「お礼はいいわよ。それで?……ここで話すとみんなに聞こえるけど?」

「ああ、それは大丈夫。ちょっと待ってて」



もうバレたんだから自由にやっていいよな!


イメージを浮かべ、俺は魔導を発動させる。


「よし!……『深淵ゲート』『幻影ヴィジョン』『跳躍ワープ』」


別にこんないらないけどサービスだ!!


空間が裂け、獣が口を開けるが如く、漆黒が拡がる。

それと同時に俺達の体を煙が包み、人の形をとっていく。

少し時間が経ち、俺達の姿になった頃、ひとりでに離れて静かに佇む。


そして俺達は漆黒の中へ進んでいく。


「一体、何なのこれは……!?」


得体の知れないモノを見た驚きで、言葉が出ない恭華姉に告げる。




皆とは違う――そんな淋しさを感じながら。





「これは魔導……俺が生きる為、相手を殺す為、得た力だ」




~~~~~~~~~~~~~~~




何も存在しない空間、俺達はそこにいる。


この漆黒の中、立って話すのも何だと思ったので椅子と机を作る。



創造クリエイト



「座ってどうぞ。黒いけど普通の椅子だから安心して」

「え……ええ、お言葉に甘えさせて貰うわ」


お互いに椅子に座ったところで、俺は尋ねる。


「それじゃ、話を始めるけど質問とかある?」

「いいかしら?」


早速か!まあしょうがないよな……


「どうぞ?」

「ありがと。まずはさっきの煙について聞かせて」


ヴィジョンか、あれはーー


「さっきの煙は幻影だよ。ここにいる俺達の代わりになってもらってる。誰かが見ても会話してる風にしか見えないから大丈夫」


「そう……なのね。」


説明をするが信じきれていないのか、恭華姉の表情と返事が微妙になっている。


無理もないか。ゲームならまだしも、これは現実だからな……



「じゃあ、次の質問だけど……なんで妖精の絵が飾ってあるのか教えて」


そんな事を考えていたら次の質問をされた。


そうだな……確かーー


「全部は説明出来ないけど……ここは、エトレアっていうエルフの国。妖精の絵が飾ってある理由は、自然や魔法を得意とするエルフにとって、妖精や精霊達は敬愛すべき存在なんだ。その証として、絵を飾ったり、像を置いたりするっていう感じかな」


納得がいった、という風に頷く恭華姉。


先程より真剣になった恭華姉を見て、気を引き締める俺。



「最後の質問だけど、祐は生きる為と殺す為に身につけた力、って言っていたよね?」


よりにもよってそれか……!!


「……そうだね」


「じゃあ……私達も身につける事になるの?そういう力を」



私達・・・とはアイツらの事も言っているんだろうな……

恭華姉は元々優しいし、先生だから守らなきゃいけないんだろう。大変だな。



だが……俺からしたら温い。


それはしょうがないんだが……どうしても思ってしまう。



あの地獄を生きてきたから分かる。無力なのがどれだけ苦しくて辛いのかを。


先生も含め、みんなは只の子供だ。ここでは……な

だから、厳しいかもしれないが……ハッキリ言おう。

アイツらの為でもある。


「ああ。身につける事になるだろうな。ここじゃ力が無い奴が生きる事は厳しい。国や町でも絶対に安全と言える場所はないし、外なんか危険しかない。まあ、奴隷なら何も無くても生きていけるかもしれんが……」


恭華姉は絞るように言葉を発した。


「必要……なのね?」


嫌なんだろうな、そんな力を身に付けさせるのが。

分かるけど、それじゃあ死ぬ。


少し厳しいが言わなきゃな。


「無事に生きて帰りたいならな。地球と同じなんて思ったらすぐに死ぬぞ。ここだと殺すなんて当たり前のような物だからな」


俺だってアイツらを死なせる気はない。

恭華姉は悲しそうな表情をしていた。やっぱり優しいな……


「そう……祐も殺したり……したの?」

「数え切れないほど、な」


盗賊に兵士、仲間の仇などたくさん。

生きる為だったし、それが当たり前だったからな。


「分かったわ。もう大丈夫……」


疲れた顔で答える恭華姉。無理もない。


「そうか。質問はそれだけでいいの?」


恭華姉はさっきの笑顔を浮かべつつも答えてくれたが……若干ぎこちない。



「ええ……知りたい事は知れたし、祐がそこまで説明出来るって事は、誰かが熱心に説明してくれるみたいだから、ここまでにしておくわ。これ以上いじめたら可哀想だし」


ちょっと、言い過ぎたか?でもこれくらい言っておかないと……


「いじめ……分かったよ、じゃあ戻ろうか」


「いいけど、戻る時はどうするの?みんな起きてると思うけど……」



まあ、気になるよね。



「それは大丈夫だよ、恭華姉。幻影と位置を入れ換えればみんな気付かないから」


「そうなのね。まあ……私には良く分からないからその辺はお願いするわ」



「了解、ちょっと離れてて」


そう言って離れてもらい、魔導を発動する。



深淵ゲート』 『転移チェンジ



漆黒が開き、向こうにいる俺達の幻影を見つけた直後。


視点が変わり、さっき見た幻影と同じ態勢になっていることを確認して、漆黒の中にいる幻影を消す。


「はい、これで終わり!」


このくらいは余裕だな。

昔に比べて成長した。


「……なんというか……凄いわね」


驚きから立ち直った恭華姉が呟いている。



そりゃあ……勇者やってたし、このくらいはね?

実力だってなかなかのもんよ!



まあ、異世界行ってたのはバレたけど……これだけは知られる訳にはいかない!!



改めて決意しながら、呟きに答える。


「俺だって相当、頑張ったから」



「そう……私の知らない所で祐が、こんな風になっているなんてね。昔に比べて随分変わったわ」



親戚のおばさんみたいな事言うよな、恭華姉。



「昔って……何年経ってると思ってんのさ」

「十年くらい?」

「そりゃ変わるよ!」


変わらなかったらそれは人間じゃない何かだな。


「ふふっ、冗談よ。怒らないの、顔が恐くなるわよ?」

「怒ってんじゃなくて呆れてんの!!」


「え?呆れる要素あった?」


「恭華姉の発言だよ!!」


分かってんのかな、ホント。

驚いてるけど……どうしたんだ?



「今…!?恭華姉って呼んだよね?」

「うっ…しまった」


思わず出てしまったか……

恭華姉がニヤニヤした表情で言ってくる。


「何~?まだお姉ちゃん離れ出来てなかったの~?」

「違えよ!つい呼んじゃっただけだよ!」


からかうなや、イジメか!!


「またまた~照れちゃってもう」

「照れてないわ!」


くっ!!この姉はもう……

調子に乗らせるとこれだもんな。


「折角だから昔みたいに、お姉ちゃん、って呼んでよ!」

「嫌だよ!?……恥ずかしいじゃねぇか」

「ぷっ……あはは!」


急に笑い出す恭華姉、なんだ?


「なんだよ……」


拗ねた感じで聞く。



「面白い顔!!祐、もう一度やって!こんな感じで!」

「失礼な……ぶふっ!!ちょっ、待ってその顔、超面白い!」


「この顔してたの祐だよ、もうっ!」


お互いに顔を見て、笑い合う。


「あははっ」

「ふふっ」


昔みたいでひどく懐かしかった。


そんな楽しいやりとりを、みんなが起きるまで俺達はしていた。


お読みいただきありがとうございました。

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