第00話 最初で最後
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そこは名も無き場所。
底が見える程に澄んだ湖の近く、まるでそれを覆い隠すかのように広がる森の中にひっそりとその建物は存在していた。
中は思いの外広く、十人くらいならゆうに寝泊まり出来そうな程で、その中央には二人の男女がお互いに三歩ほど離れた距離で向かい合っていた。
一方は黒髪黒目の少年、もう一方は青空のように鮮やかな空を思わせる色をした髪と元気の溢れる黄緑色の目に、先の尖った耳をした少女が静かに佇んでいた。
「「あのっ……!」」
お互いに話を切り出そうとし同じタイミングで喋ってしまい、二人とも押し黙る。
それが何回か繰り返された頃。
何かを堪えるような素振りをみせつつ、少女は言葉を紡ぐ。
「本当に行ってしまわれるのですね……?」
相変わらず透き通った声で、彼女は俺に問い掛けてきた。
彼女の名前はセレフィール・ラゼイス・エレトア。
腰まで伸ばされた鮮やかな空色の髪に、服を大きく押し上げ自己主張をする胸、その主張を助けるかのような細い腰に、程よく引き締まった尻と、とてつもなく頭を乗せたくなる太股とすらりとした足。
そんな、俺の理想を全て詰め込んだようなボディをした彼女は、エレトア国の第四王女になる。所謂王族だ。
エレトア国というのは国民のほとんどがエルフという珍しい国だ。
そこに住むエルフ達は、種族全員が得意とする魔法の技能だけでなく、一緒に住んでいる他の種族から教えを受けたおかげか、格闘に長けているエルフも居た。
他の種族が住んでいるとなると普通なら争いが起きそうなものだが、この国にはそれがない。
何故なら、この国に住む種族全てが過去に虐げられていたから、だそうだ。
争いによって全てを失ったからこそ自分達から争いを起こさない、ということらしい。
聞いた話だけどな。
話が逸れたが、何の話だったか……確か、格闘に長けたエルフだったな!
アレは驚いたよ…いやね、鍛え上げたムキムキのエルフがーー
「食らいやがれ!!ヴォルティス流奥義!閃光竜殺拳!」とか言って恐ろしい速さの正拳突きをしてきたからね……
避けなかったら確実に死んでたと思う。
だって俺が居た場所が綺麗さっぱり消滅してたし。ホント良く避けられたな俺……
そんなこともあり、喚ばれた俺としては正直、命の危機しか感じなかったが……
王女なのに常識人というセレフィールが俺の旅に一緒に付いて来てくれたおかげで、危ない場面を何度も乗り越えられた。
他の人ではそう簡単には行かなかっただろう、と俺は思っている。そんな頼れるセレフィールは俺の大切な仲間だ。
しかし、普通王女っていうと世間知らずなイメージがあったが何であんなに詳しいんだろう……?
言い忘れてたな、俺の名前は鷹谷祐眞。何故こんな所にいるかというのは、この世界――フォストーラに俺が勇者として召喚されたのが四年前、ちょうど十二歳の時になる。
いつものように起き、準備を終えて学校に行こうとした瞬間、足元が強烈な光を放ち始めてな。
何かと思って下を見たら急に意識を失い、気が付くと様々な人間に囲まれていた。
しかも頭を下げられ『この世界を!どうか救ってください、勇者様!!』と懇願されてしまった。
しかも、だ。
俺はちょうど、異世界召喚物の本を読み漁っていた為、これは!テンプレ来た!と思い、二つ返事で承諾してしまった。
その後は戦う為の訓練や魔法の修練などで日にちが経過して、あっという間に四ヶ月の時が経ち、セレフィールと共に旅に出ることになったよ。
道中では色々なことが起きた。
最初は二人だったけど仲間が増え、盗賊と勘違いされて騎士に追われたりもした、またある時は仲間に誘われて覗きをして仲間の女性陣に袋叩きにされたり……子供だったせいもあったのかゲンコツ程度で済ませてくれて良かったと思う。
アイツはボロボロだったからな……
まあ、他にも色々あったが無事に魔王を倒して世界を救うことが出来た。
そして、今は元の世界に帰る為に逆召喚の準備をしている。
俺はゆっくりと答える。
「ああ…俺の無事を伝えたい人がいるからな。あいつは心配性で世話好きな奴でさ、今も心配している筈なんだ……だからこそ、無事を伝えに帰らないと」
「大切な人…ですか?」
返答を聞いた彼女の顔が険しくなっているのに気付かず喋り続ける俺。
「ああ。かけがえのない人だよ……」
それを聞いた彼女が怒りを露にする。いきなりなんだ!?機嫌悪いのか!?
「……まさか!?恋人なんですか!?教えてください!」
彼女の語気が強くなっていくのに気付かず、いきなり怒りだした理由を俺は考える。分からねぇ……
そんな無言の俺を見て沈黙は肯定!と受け取ったのか怒りを強めて怒鳴りだしていく。
「その方がいるからですか!?帰りたいのも!!私に何の返事を言わないのも!!」
そこまで聞いた俺はようやく理解した。"そういうことか!"と。
それと同時に"なんでそうなる!?"と聞きたかったが、更に火を付けかねないので諦めた。
直ぐに弁解したかったが、俺が帰る日にはある事をすると決めていたので何も言えずに黙る。
心を落ち着かせ、彼女に勘違いを正す為とこれから行うことの為、口を開く。
「まずは落ち着け……あいつは恋人じゃない!ただの幼馴染みでそういった感情は俺にはない!」
「嘘ですね!そんなこと言っても私は信じませんよ!」
ぬぉぉぉぉ!!全く信じてくれねぇ……それならこうだ!
足を進め彼女との距離を縮め、その華奢な体を抱き締める。
やわらかいです。
「……えっ?え?えぇぇ!?」
いきなりの事態に混乱している彼女に告げる。
「このままで聞いてくれ。さっきも言ったが……あいつは恋人じゃない。君に返事をしないのにも理由がある」
「理由……ですか?」
抱き締めた事と幼馴染が恋人でない事、返事をしない理由があると聞いて幾分か落ち着きを取り戻しているようだ。
「ああ。俺には愛している人がいる……」
「愛している人?一体どなたですか……?」
驚きながらも聞き返してくる彼女を見、覚悟を決める。
ここでしくじるなよ俺!?心の中で自分に活を入れ、抱き締めていた彼女を離し一歩距離を取る。
そして膝を地面につき、懐から小さな箱を取り出して告げる。
「俺が愛している人はセレフィール、君だ。君の全てが欲しい!絶対幸せにする、俺と結婚してください」
言った、言ったよ、言ってしまった!返事聞くのが超怖えぇぇ!!
怖くて顔見れねぇ…
内心とてつもなくビビりながら彼女の言葉を待つ。
「………ですか」
「そうですか……私だったのですね」
ナニコレ!?ダメなの!?
「私も!!」
全力で逃げ出そうとした瞬間、彼女の声が聞こえたので逃げるのをやめ、聞く。
「私も!……私も貴方を愛しております!ですから――返事は"喜んで"です」
耳まで真っ赤になり、目には涙を浮かべながらも笑顔で言葉を紡ぐ彼女のその、今まで一度も見たことのない極上の笑顔と共に、伝えられる返事。
その美しさと肯定の返事にフリーズする俺。
……え?マジで?
これオッケーってこと!?
いや、遠回しな断りの返事だったら泣くけどさ……
「ホントに?」
思わず心の声が口から出てしまう程の衝撃だった。
「ホントです!」
彼女は頬を赤くしながら肯定する。
「よっしゃぁぁぁぁ!!!!やったぁぁぁぁ!!!」
「ちょっと!なんですか!?きゃあっ!」
喜びの余り彼女を抱き上げ最終的にお姫様だっこの状態で回り始める始末。
うん、俺浮かれ過ぎ。
でもまあ、しょうがないよね?
「この状態も嬉しいですけど……降ろしてください!!……仕方ないですね」
彼女が何か言っているみたいだが聞こえん!!それよりこれ楽しいな……ずっとやっていたいな……
なーんて思っていたら、突如腹に重い一撃が走る。
「……グフッ!」
一撃貰いました……的確に鳩尾狙いやがったよ……流石俺が惚れた女だぜ。
「落ち着きましたか?」
冷ややかな目を向ける彼女からの冷たい言葉。
アカン……これ怒る寸前の態度や。
「ああ……つい嬉しくてはしゃいだ、スマン」
これ以上怒らせると大変なことになる為、速攻で謝る。
「分かればいいのです。……これじゃ折角のプロポーズが台無しじゃないですか」
ちょっと落ち込んでいるみたいだ。はしゃぎ過ぎたもんな俺…だけどまだ終わってないぜ?
それを伝える為、口を開く。
「そんなことはない。まだプロポーズは終わってないからな」
「え……?まだあるのですか?」
なんで疑問抱かれなきゃいかんのだ……って当然だったな。
「あるぜ。これを君に」
そう言って先程取り出した小さな箱を開け、中の物を見せる。
「これって……」
中の物はーー
「指輪だ。特別に作ってもらったやつだから世界で一つ、君だけの物だ」
特注で作ってもらった……婚約指輪?結婚指輪?
どっちだったか?
「ありがとう、ございます……付けて頂いてもよろしいですか?」
「喜んで、お姫様」
そう言って指輪を彼女の指にはめる。よし!ピッタリだ!間違ってたら終わりだったな……
「良く似合ってる」
心からの謝辞を送る。
「ふふっ、ありがとうございます」
極上の笑顔で応えてくれ、とても嬉しそうな表情で指輪を眺めている彼女を見た俺は、この笑顔が見れたなら渡して良かったと思い、みんなありがとう!と手伝ってくれた人達に感謝を送る。
ただ、渡す人にバラそうとしたのだけは許さないからな!
いつか仕返しする。
彼女は何かを考え込むような仕草をしていたが、聞きたいことがあるようで俺に尋ねてくる。
「そういえば」
「ん?」
なんだろう?
「そういえば、私の告白を保留した件ですが……何故すぐに答えてくれなかったんですか?」
さっきの会話の中に気になった点があったのだと思っていたが……
そのようだな。
しかしそれ聞くか……どう答えたものか。
「今度で」
恥ずかしいからな!
「え?」
「それについては今度話すから!」
「ちょっと!!……はぁ、まあいいです」
よっしゃ諦めてくれた。
「準備が終わりましたよ、ユウマ?」
そんなこんなで雑談している内に準備が終わっていた。
逆召喚と言っても召喚陣に魔力を注ぎ呪文を唱えることだけ。
これが終われば場所などは設定されているので乗るだけで帰れる。
なんで会話しながら準備が出来るんだよセレフィール……
「そうか……」
帰りたくないと思うところもあるが、家族に無事を伝えたいから残る訳にはいかないな……
「四年間ありがとう、セレフィールとの旅は最高だったよ」
本当に最高だった。
「私もです、ユウマ。あなたとの旅は最高でした」
「またみんなで旅に行こうな、魔王とか関係なくいろんな所行って美味いもんとか凄い景色とかたくさん楽しもうな!」
みんなもいるし絶対楽しいだろうな!なんて、旅の様子を想像して笑顔を浮かべている俺を見た彼女は、顔に笑みを浮かべーー
「もちろんです!楽しみにしてますからね?」
そう答えてくれたので、すかさず俺はーー
「おう!楽しみにしとけ!」
と答えた。
「お別れだな……俺は行くよ」
そう、言い残し召喚陣に乗ろうとする俺を、彼女は呼び止める。
「待ってください!最後に約束して欲しいことがあります」
「約束?」
一体何だ?
「はい。1つ目はあちらの世界で恋人など作らないこと、2つ目は私を、私達を忘れないこと、3つ目は喚んだら絶対に私の元に帰ってくること、以上の約束を守ってください。もし破った時は……」
「破った時は?」
「分かっていますよね?」
分かっているに決まっている……彼女はとても約束を大切にするんだ。
昔、ちょっとした口約束を破ったら朝から昼までの間説教され、尚且つ飯抜きになった…あれ以来彼女との約束は破らないよう肝に命じている。
ならば答えは決まっている!
「もちろんだ!絶対に守る、約束だ」
破る訳ないけど。
「約束です」
最後にちょっといじめてやろう……唐突にそんなことを思った。
「帰ってきたら結婚式をしようか、ドレス姿見たいし」
「!!……いきなりそんな、卑怯です」
よし!成功だ!真っ赤な彼女を見てニヤニヤしていると急に視線を明後日の方向へ動かした。
なんだ?と思って視線の先を見るが何もない。
疑問に思いながらも彼女に、何かいたのか尋ねようと彼女の方へ向いた時、何かが目の前に現れ咄嗟に目をつぶってしまった。
直後、首に何かが掛かる感覚と唇が塞がれる感触。"まさか!?"と思いゆっくりと目を開ける。
キスを、されていた……あまりに突然の事態に驚く俺を置き去りに十秒程経った後、唇を離した彼女はこう言った。
「さっきのお返しです!」
イタズラが成功した子供のような笑みを浮かべて。
この表情可愛い。
「やられたよ。首に何掛け……ネックレス?オイ!?」
森の中を飛び回る妖精や精霊の意匠が施されたネックレスを見ながら、尋ねる。
これって確か……
「それは私がお母様に作ってもらった物です。指輪の代わりに身につけていて欲しいのです」
「これは……さすがに……」
申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「勘違いしないように。ユウマだからこそ渡すのですよ?」
「……分かった、ありがとうセレフィール。大切にするよ」
「絶対大切にしてくださいね?」
無くしたら殺されそうだな俺……
「ああ!じゃあ行くよ、またな」
「ええ、またお会いしましょう、絶対に」
そう言って俺達は離れる。
また会えるから泣かない。
「しばしの別れだ、また来るぜ‼フォストーラ!次はのんびり食べ歩きに来るからな!!」
この言葉を最後に残し、俺は召喚陣に飛び込んだ。
今帰るよ、皆。
静寂。
召喚陣が消え去り一人だけになった空間に、少女の声が響く。
「……行ってしまいましたか。泣くのは再会してからです!どれだけ月日が経とうとも、絶対に喚んでみせますから!……待っていてくださいね、ユウマ?」
決意を秘めた声を残し、少女も姿を消す。
これが、少年と少女の最初で最後の別れ。
お読み頂きありがとうございました!
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