水色の男
魔法の次は銃かよ!
どんだけ俺達のこと殺したいんだよこいつら。
水色の髪を持つ青年、ユダは周囲を見回して舌打ちしたい気分になった。
ま、いーや。俺は死なないから。
ユダは意識を集中して、自分の全身にバリアが張り巡らされている状態をイメージする。
肌から10cmのところに全ての攻撃を跳ね返すバリア。どんな攻撃にも俺が傷つくことはないし、跳ね返した攻撃は逆に相手を傷つける。
そうイメージしていると、実際に全身が何かに覆われているように温かくなった気がした。
幻か現実かなんてどうでもいい。ただひたすら生きるだけ。
さっき空中に網と一緒に取り残されたとき、乗れる雲があればいいのにと考えたら本当に現れてしまった。そこから、今いる場所では強くイメージすることであり得ないことを起こせてしまうのだと考えている。
そして実際、現在の銃での攻撃も彼のバリアで全て防げているのだった。
俺みたいに想像力を使いこなせてるやつは、あと2人か?
周りを見ると、すぐ傍で電話ボックスみたいな透明な箱に入って攻撃を防いでいる男が一人と、そして少し離れたところでマト○ックスのような動きで全ての攻撃を避けている男が一人、目に入る。
そこの電話ボックス引き篭もり男はいいとして、向こうではしゃいでるやつは馬鹿そうだな。
そう結論づけてその他に目をやると、10人程いたはずの人間の内、半数は地面に倒れていた。
俺ら3人以外が全滅すんのも時間の問題か。
別に悲しいとは思わない。他人だし、ここは現実味もないし。人をかばって自分が危ない目に遭うような生き方じゃ、どっちにしろ生き残れないのだから。
気が付けば彼ら3人への攻撃はほとんどなくなっている。無意味だとわかったのだろうか。
自分に近づいてくる足音に視線を上げれば、先程のアクション男がこちらへ向かってきていた。
「なあ、俺らどっかで会ったことあったっけ?」
「は?」
「いや、初対面だろう」
いきなり何を言い出すのかと思えば、ナンパに使われるような台詞に一瞬唖然としてしまった。引き篭もり、お前よく対応できるな。ちょっと見直したわ。
「でもこれって俺の夢だろ?会ったことないあんたらが何でこんなに存在感あんのか気になってさ」
苦笑しながら言うアクション男。ツンツンした癖のある黒髪に、人懐っこそうな緑の目が犬のように輝いている。
あーはいはい、自己中ね。
勝手に他人の夢の登場人物にされるだなんて気分が悪い。空気読め以前に人の気持ち考えて発言しろっての。
「夢なら良かったんだけどな」
そう答えたのは引き篭もり。茶色の髪にグレーの目がなんだか大人っぽい。対応もなんか大人だし。見た目はちょっとチャラそうなんだけどさ、いい奴っぽいな。
「なんで夢じゃないって思うの?」
黒髪アクション自己中男は放っておいて、茶髪の引き篭もりに声をかける。ボックスに篭ってるのに声はちゃんと通るみたいだ。
「なんというかまあ、勘だね」
あれ、クールかと思ったらこいつも考えなしかよ。使えねー。
「だが物事は悪い方向で想定しておくべきだしな。夢かどうかを議論するのも時間の無駄だろう?」
「ま、それもそっか」
変にあっさりした奴だな。普通こんな状況になったら夢か現実かは気になるところだろ。
「あーもう訳わかんねー。そういやお前ら名前は?俺はカイな。仲良くしよーぜ」
黒髪が勝手に自己紹介しだす。仲良くってお前、俺らのこと自分の夢の登場人物だと思ってたくせに図々しいな。
「タクミだ、よろしく。」
引き篭もりもすんなり名乗ってんじゃねぇよ。何これ、俺も言わなきゃいけないの?ていうかなんでみんな普通の名前なんだよ。俺だけ恥ずかしいじゃん。
「青いの。お前はなんての?」
カイと名乗った男がさらに聞いてくる。嘘つくか?でも後でばれたら面倒だしな。しかも本名は思い出そうとしても出てこない。一体どうなってるんだか。ったく、しょうがねぇな。
「…ユダ」
「ユダか、裏切んなよー?よろしくなっ!」
カイは嬉しそうに笑ってそう言った。そういう冗談、言われると思ったよ。だけどなんだか憎めない男だな、こいつ。
「おい、そろそろ終わりそうだぞ。気を付けておけよ」
タクミの声で周囲に目を走らせる。まだ倒れてないのは、銀のショートヘアの女と金のロングヘアの女。だけど二人とも、疲れのせいかもう動きが鈍くなってきている。
「なあ、あの金髪って…」
カイがそう言いうと、タクミもそれに頷いた。
「ああ、こっち側かもしれないね」
「どういうこと?」
俺にはどっちの女も、もうすぐやられそうに見えるんだけど。
「あんなひらひらした服を着てるのにどこも破けたりしてないんだよ。怪我もなさそうだし、もう一人とは明らかに違う」
言われてみると、確かに片方だけが無傷だった。
「でもなんで俺らみたく防がなかったんかな?」
カイが不思議そうに言う。それは俺も思った。思い通りにできるならわざわざ逃げ回ることないだろうに。
「こういうことができるってわかっていないのか、自分にそういう力があると気付かれたくなかったか。ま、本当にたまたま当たらなかっただけって可能性もなくはないが」
そう言われてさっきまでのことを思い出す。俺は雲があればいいのにって思ったのが実現してこの力に気付いたけど、こいつらはどうなんだろう。確か不自然だったのは、最初の水と網、それから俺の雲と、敵を倒した棘の4つだったかな。
「でも不自然なことは4回あったけど俺がやったのは雲だけだから、カイかタクミさんが2回なにかしてない限りあの子も俺らと同じだと思うな」
俺がそう言うと2人もここまでにあったことを思い返したようで、少し考えてから納得したように話しだした。
「俺は網を出しただけだよ。だけどそう言われればそうだよな。ってことは敵はこっちの人数わかってて炙り出したかったのかもしれないね」
タクミはちょっと難しい顔をして言うと、「あ、それと」と苦笑しながら続ける。
「俺のことも呼び捨てで構わないから。君のこともユダって呼ばせてね」
「わかった」
「俺もおっさん殺したくらいだなー。でもさ、そんならあの子みたいに敵に正体ばらさないのが正解だったのか?なんつーか、犠牲者増やしてるだけって気もしなくはないんだけど」
「正解なんてないさ。それにあの子が故意かどうかもわからないんだから、まだ敵意を持つのはやめておけよ?内輪揉めは遠慮したいからな」
「まあそうなんだけどさ。どっちにしろ他人を見殺しにしてる俺らに何か言う権利ないし、俺も面倒事は嫌いなんで突っかかる気はねぇよ」
その時、ドサッと音がして銀髪の女が倒れる。金髪の女が呟いた。
「もう、早くこの夢覚めてよー」
あーなるほどね、お前もか。