表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

怒涛

温かくて騒々しい感じがする。

真っ黒だった視界が戻ってくるとともに、さっきまで何も感じられなかった嗅覚や聴覚が刺激されて生き返った気持ちになった。

だけど、鼻を刺激するのは科学の実験で髪の毛燃やしちゃったときの何千倍も嫌な臭い。

たくさんの人影と、燃え盛る炎、騒々しい叫び声。焼死体と、炎の向こうで楽しそうに踊りまわる人々。黒い空。


見えなきゃよかった。

私は、20人程の人たちと一緒に、炎に取り囲まれていた。

ぎゃーぎゃー喚いている人、恐怖に震える人、お経を唱えだす人。人間ってピンチになるとこんな風になるんだね。


その光景はとても怖かったけど、なぜだか自分がこの場にいる実感はなかった。

例えるならば人殺しに追われるような怖い夢見てて、本当に怖いし逃げだしたいし絶対殺されたくないって思ってる一方で、どうせ夢なんだからって思う自分もいるような、そんな感覚。

だって私の思い通りになる世界だもの。怖いけど大丈夫。

なんだかわかんないけど、そんな気がした。


とりあえず洪水でも起きて炎の外側の人たちも転がってる死体も、どこかに流しちゃってくれないかなー。

なんて頭の中でイメージした瞬間、本当に波が押し寄せてくる。ものすごい量の水に足が地面から離れ流されてしまった。

あれ、私の想像より遥かにリアルなんですけど。自分たちは流されると思ってなかったけど、そりゃあんなに強い水の流れがくれば立ってられないよね。

とか考えてる場合じゃなくて、どうしよう。


一応泳げるので水面に顔を出していたら、目の前に大きな網が見えた。

よく見ると、周りに巨大な柱が何本か建っていて、そこを結んで天井をつくるかのように頭上に網が張られているようだった。

さっきまでこんなのあったかな。ていうかこんなに都合良いなんてやっぱり夢だよね。濡れてる感覚ある気もするけど夢だよね。

面倒くさくなったので考えるのはやめて網に掴まる。私以外にも何人かぶら下がってるのが見えた。


ゆっくりと水が引いていくと、今度は地面が見え始める。20メートルくらい下に。

手、離したら死ぬかな。

ピンチの連続で、すでに心が麻痺してきてるのがわかる。


せっかく炎の外側にいた敵っぽい人たちも流れてったのに、こんなとこにいつまでもいたら捕まっちゃうよ。

柱をつたって降りられないかなーとも思ったけど、柱が太すぎてスベスベすぎて私には無理だと諦めた。


その時、私の近くで網に掴まってた水色の髪の青年がいきなり飛び降りた。

びっくりして彼を目で追うと、いつの間にか地面と網との間に雲が浮いていて、彼はそこに立っている。


雲に乗れるってことは、これ夢決定でしょ。

青年に続いて何人か降りて行ったので、私も彼らに倣って手を放す。雲は想像通りふかふかで、わたあめみたいだった。


網に人がいなくなると、まるでそれを待っていたかのように雲が下降しだす。10人位を乗せてた雲は、地面すれすれまで降りてから風船の空気が抜けるようにゆっくり消えていったのだった。


助かったって思ったのも束の間、今度は頑丈そうな鎧を着こんだ人たちに囲まれてしまう。その奥から進み出てきたちょっと偉そうなおじさんは、私達には聞き取れない蛇の鳴き声のような声で周りに何か言い、片手を思い切り上にかざした。

何するんだろうと思って見ていると、頭上に伸ばされたその手の上に炎の塊が現れる。みんなが見ている中でそれは段々大きくなって、大玉ころがしのボールのサイズにまでなった。


これは多分やばい。あのおじさん、こっちにぶつけてくる気満々って顔してるもん。


必死に何か起これーって考えるもののイメージがうまく浮かばずに、火の玉だけが大きくなっていく。

だけど、おじさんがそろそろいいかなって感じで上を見上げたその時、その足元から巨大な黒い棘が生えてきて彼を串刺しにした。男はすぐに息絶えたようで、棘が消えて大きな体が地面に倒れると、火の玉もきれいに消えてしまう。


それは私たちを助けるものだったけれど、私はその棘に恐怖を覚えた。足元からグサッていうその残酷さもだし、今のは絵的にも結構怖いって。


けどやっぱり悠長にそんなこと考えてる暇はなくて、偉そうなおじさんの隣にいた若い男が蛇声で何か叫ぶと、私たちを囲んでいる兵達が一斉に銃を向けてきた。

大太鼓のようなドゥンって音が鳴って銃が発砲する。映画で見たような銃と全然違う音に、火薬の匂いもない。何か別の力で撃ってきているようだけど、詳しいことはわからなかった。


とにかく、逃げる。

だけどこの時も、あれは私には当たらないだろうという妙な確信があったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ