幼馴染
「おはよ、志由莉」
ハスキーな声でそう言うのは、猫をイメージさせる吊り目と赤茶ウェーブの肩まで伸ばした髪をもつ、ロックテイストな出で立ちの女性。
「うぃーす」
その女性と似た吊り目と短めの黒髪をした青年も、いつものように気だるげに声をかけてくれる。
「おはよう!」
隣に並ぶのは芸能人顔負けの爽やかイケメン。声まで爽やかで僅かに残ってた眠気も吹きとんでしまいそう。
「レイ姉、おはよー。竜也も昂君も久しぶりだね」
そんな3人と合流した私は、頬が緩みまくっているのを自覚しながら挨拶したのだった。
8月3日、晴れ。
今日は、レイ姉と彼女の弟の竜也、そしてその友達の昂君と4人で遊園地に行きました。
なーんて絵日記でも書きたくなっちゃうような行楽日和。
私、黒崎志由莉。幼馴染達と久しぶりのおでかけに、どうしようもなくテンション上がってる高校3年生。
ちなみに、レイ姉っていうのは近所に住む怜華さんのことで、彼女は私の2コ上。
竜也と昂君は私よりも1つ年下。ま、高校違うから最近はあまり会ってなかったけどね。
私の家が一番駅に近いから、待ち合わせはいつもうちの前。
玄関前でみんなが来るのを心待ちにしていた私は、彼らの目には主人を待つ忠犬のように映っていたかもしれない。それくらい今日を楽しみにしていたのだ。
レイ姉と竜也は私の幼馴染だけれど、中学を卒業する頃には一緒に遊ぶことがなくなっていた。面倒見が良いレイ姉とは買い物に行ったり相談にのってもらったりしていたが、竜也と顔を合わせるのは私がレイ姉に会いに彼らの家に行ったときくらい。
昂君は小学生の時に引っ越してきて同じクラスだった竜也と仲良くなったことから、私も何度か遊びに混ざった程度なんだよね。
ちょっと強面で体格のいい竜也はそのクールな外見とは裏腹に、割と子供っぽいところも多くて素直なので、女子よりも男子に好かれるみたい。
一方、昂君は女ウケがいい。レイ姉によると、彼は誰にでも分け隔てなく接するし、オープンで他人の心に敏感で、少女マンガで主人公が恋するタイプそのものらしい。さらにサッカーやってそうな外見なのに野球一筋なとこがまたいいんだって。
何がきっかけで友達になったのか不思議だけど、なんだかんだ言いつつ昂君も竜也の家で見かけることが多いので、本当に仲がいいんだなって思う。
ついでにレイ姉は、初対面では近づきにくいけど長く付き合う内にみんなに慕われていくタイプ。黒とか赤の露出が多い服を好むから、イメージ的には魔女って感じなんだよね。
逆に私は白とかパステルカラーのふわふわした服が好きだから、二人で買い物に行くと色んなお店を見ることになって新鮮なの。
とまあ外見も性格も割とバラバラな私達。今日の遊園地は夏休み前にいきなり竜也から誘われて4人で行くことになったんだ。
ここからは私の推測でしかないけれど、普通は幼馴染と一緒だろうと高校生にもなって姉弟一緒に遊ぶってあんまりないと思う。実際ここ5年くらいなかったし。ってことは何か理由があるはずで、それがこの年齢の男女で遊園地とか言えば恋愛関係だとみて間違いないだろう。
今回の企画者は竜也。きっとレイ姉か昂君に頼まれたんだろうけど、これは多分昂君の頼みじゃないかな。レイ姉だったら私にも教えてくれるはずだもん。
つまり、昂君にレイ姉が好きだと相談された竜也が二人をくっつけようと遊園地デートを企画。いきなり二人で行って来いってのもあれだし三人でっていうのも微妙なので、全員と面識がある私を呼んでみんなで遊んじゃおうぜって感じ?
それなら、全力で協力させていただきますとも。
「竜也、背伸びたでしょ。今身長いくつー?」
まずはレイ姉と昂君が二人でしゃべる時間を作るとこから。
「この前測った時より伸びてる気がするけど、春の健康診断だと172だったかな」
竜也は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに嬉しそうに返事をしてくれる。私が今日のお出かけの趣旨を理解してることに気付いてくれたんだといいな。
「もうそれ以上大きくなんなくていいでしょー。私すでにヒール履いても追いつけないや」
ちらっとレイ姉達を見ると、穏やかに話をしているところだった。うん、いい感じ。
「男が背低かったら格好悪いだろ。お前なんかレイ姉より背低いんだから俺に追いつけるわけないって。ま、でも女子は背が低い方が可愛いしいいんじゃね?」
「可愛いよりもかっこいい女を目指してるんですー。でも、てことは竜也が好きな子はちっちゃいんだ?」
「んなやついねぇよ。志由莉こそまだ彼氏もできねぇの?」
なんかむかつく言い方をされたが、同時にちょっとへこんじゃって拗ねるような口調になってしまう。
「だってね、レイ姉より素敵なことしてくれる男性って中々いないんだもん」
「お前、弟の前で危ない発言すんなよな…」
「え?何が?」
「いや、やっぱなんでもないわ」
「?変なのー」
でもね、本当にレイ姉は素敵。去年は私の誕生日にピアノの置いてあるレストランに連れてってくれたんだけど、いきなり席を立ったと思ったらハッピーバースデー演奏してくれたりね。もちろんケーキ付で。ついでに席に戻ってきたら「プレゼントだよー」ってネックレスかけてくれたし。正直、レイ姉がいてくれれば彼氏なんていらないんだよね。
そんな会話をしながら移動していたら、遊園地に着く頃には何年も遊んでなかったのが嘘のように距離が縮まった気がした。