第4話 二日酔いの朝に
ズキズキとまるで頭の中で小人でも騒いでいるんじゃないかと思うぐらいに頭が痛い…。
完全に飲み過ぎたなぁ。
「奈美〜!!」
甲高い声が余計に脳髄を刺激する。
「……おはよ」
「?体調悪いの?」
「……ただの二日酔い」
「あのあと飲みに行ったの!?」
「…そ」
頭痛のせいであんまり話したい気分ではないので、郁恵には悪いけど適当にあしらう。
「マヂで!?」
――ったつもりだったがどうやら逆効果だったらしい。
キラキラと光る目をこちらに向けている郁恵。
二日酔いの今の状況で相手にしたいとは思えない。
そう思った矢先、ポケットにいれてあった携帯が最近話題の曲を奏で始める。
「あ、やばい」
マナーにするのをすっかり忘れていた。
普段ほとんど鳴る事のないそれはここぞとばかりに自己主張を続ける。
小さな画面には知らない番号が表示されていた。
けれどあまり考える事なく通話ボタンを押した。
「…もしもし?」
「その声だと二日酔いか(笑)」
不機嫌そうな声に応じた相手の声に、奈美には心辺りがあった。
「わかる?奏司だけど」
それは昨日初めて会って飲みに行った人の名前。
「びっくりした…ってか教えたっけ?」
「あ〜悪い。勝手にワンギリさせてもらった」
「そ。別にいいよ」
特に不快感はなかった。
あれだけ対等に飲めた相手も久しぶりだし、何より一緒にいて楽しかったから。
「サンキュ」
「んで?そっちもそろそろ仕事っしょ?」
時計を見るとそろそろ始業の時間だ。
「あぁ」
「私なんか忘れたりとかした?」
「そんなんじゃなくて…謝ろうと思って。…昨日はゴメン」
「昨日?」
「――キス…したこと」
「え?キス?」
急に出て来た言葉に頭がついていかない。
ってか記憶にない。
私が謝らなきゃいけないことはあった気がするが謝られるような事をされた記憶はなかった。
「ゴメン。それだけだから。仕事頑張れよ」
「あ、うん、ありがと。そっちこそ頑張れ」
クエスチョンマークが頭に沢山浮かんだまま、電話は切れた。
奈美はしばらく携帯を見つめて考え込んでいた。
(キス――?)
記憶には全く残っていないけど…わざわざしてないことを謝るなんてことはしないだろう。
――と言うことは答えは一つだ。
(…マヂ――?)
一つの答えを導き出して大混乱に陥りそうになった奈美をだが、始業のベルがなると同時に我に返り、受け持ちの仕事をするべくデスクにつくのだった。