第21話 握手
ベタ……かなぁ?(作者独白
そよそよと頬を撫でる風。
バルコニーに出ただけでまるで境界線でも引かれているのかと思うぐらいに静かな世界が広がっていた。
その静寂の中、奈美はバルコニーの手摺りから外を眺め、翔は手摺りに寄り掛かっていた。
「ホント久しぶりだな。何年ぶりだ?」
「11年ぐらいかな、多分」
「もうそんなに経つのか〜。そいや今日はどうしたんだ?おじさん達に相変わらず参加しないと聞いてたんだが」
「ん〜ちょっとね。連れて来られちゃった」
(状況的には嵌められたに近いのだから『強引に』という形容詞が付くかもしれないし。まさか家柄がバレているとは思わなかったし)
奈美が胸中で独白をしている最中、隣の翔が複雑な顔をしていることに奈美が気付くはずもなかった。
「俺が何度催促しても足を運ばなかったのに?」
独占欲というのだろうか?
自分は無理だったのに他の奴には出来たということへの苛立ち。
そんな翔の心情を知ってか知らずか、奈美はなんて事もないように翔を見返していた。
「翔は翔だから」
その言葉には翔に対する信頼が伺える。
けれど翔はそうは受け取らなかったようだった。
奈美とは逆を向いているために奈美にはわからないが、唇を固く噛み締めている。
切れるのではないかというほど強く。
その目は悔しそうに閉じられている。
「ねぇ翔?」
「……」
奈美は返事のない翔をチラリと盗み見る。
話を聞いている事がわかると気にする事なく言葉を紡ぐ。
「――近いうちに…近いうちに私は……」
「奈美っ!!」
奈美の言葉は静寂を破って響いた声に掻き消される。
同時にこの時聞けなかった奈美の言葉が、翔に多大な衝撃を与える内容であることを翔が知る機会もまた先延ばしにされたのだ。
「え?響?」
駆け寄ってくるのは今日ここに連れて来た張本人。
奈美の横に立つ翔を見て不快そうに眉を寄せたのも一瞬の事で、この薄暗い中二人が気付くはずもない。
「ったく、中にいなくて探したんだぜ?」
「あーごめん、熱気に当たっちゃってさ」
「ま、見付かったからいいさ。兄貴よりも先に見つけられたし〜」
響は今にも奈美に抱き着かんばかりの調子だ。
そんな突然降って湧いた男の顔を目を凝らして識別した翔の顔が驚愕に変わる。
「紫來…響――?奈美…なんで…」
『知ってるんだ――?』という言葉は言葉として発音されることなかった。
奈美はそんな翔を一瞥するとすんなりと状況を飲み込む。
「あ、そっか。翔は響の事知ってるんだよね。響っていうか奏司とはちょっとした繋がりなの」
「俺はおまけかよ」
すかさず響の突っ込みが入り、同時に響は拗ねたように顔をしかめる。
「紫來奏司とも…知り合い?」
「まぁそんなトコ」
翔がそれほどまでに驚愕している理由に見当が付かない奈美は、やはりこの世界から暫く離れているからだろうか。
「奈美、逆に俺に紹介してくれなぃ?」
「ぇ?あー、ごめん。こちら咲那家長男の咲那翔。私とは幼馴染みみたいなものなの」
奈美が一歩後ろにいる翔をそう紹介すると、翔は一歩前に出て会釈を交わす。
「紹介頂いた咲那翔です。本日はこのような――」
「あ〜堅苦しい挨拶はいいや。知ってると思うけど紫來家次男の響。よろしく」
形式張った挨拶を始めた翔を軽く制して簡略化し過ぎているであろう挨拶を響が口早に行い、翔に対して右手を差し出す。
真面目な翔はその態度に一瞬眉をしかめたが差し出された手を握り挨拶を交わす。
二人の間に流れる雰囲気は決して友好的ではない。
いうならば友好的な態度を取りながらお互いを牽制しあっているといった感じだろうか。
刹那絡み合った視線は次の瞬間には霧散する。
再び静かになったバルコニーに風に乗って音楽が聞こえてくる。
「あ、音楽…」
「あ〜、始まったか」
「何が?」
「ダンス」
「あーダンスかぁ」
「よし!奈美踊ろうぜ」
「ぇ?」
そう言って強引に奈美の手を引っ張っていく響は気付かない。
奈美の顔が微妙に引き攣っていることに。
先手を打ったはずの翔が引き止めることもなく二人を見送っていることに――。
やっとこさ奏司と響の苗字が日の出を見ましたっ!
って言っても当初決めた大まかな設定書いたデータを無くしたので急遽あんな苗字に(笑)
当初は結構ありきたりな苗字だった気がするんだけどね(笑)
書いてるうちに段々設定と伏線が増えてしまうのが私の悪い癖です(・・;)
収拾しないと厳しくなりそぉ〜(=_=;)
途中で中断とかしないように頑張って書ききろうと思います(@_@。
では。
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