第16話 一瞬の楽しみ
段々と暑くなってきました。皆様夏風邪にお気をつけ下さい。私も気をつけます。
「なんでお前が乗ってるんだ?響」
「帰るトコ一緒なんだからいいだろ〜」
「よくない」
「奏兄のケチ」
「あぁなんと言われてもかまわねぇよ」
「二人とも…子供みたい」
身近で繰り広げられる低レベルな言い合いに、運転手を勤めている奈美は苦笑を浮かべる。
もちろん二人の低レベルな言い争いの原因が自分自身であることなど奈美の考えの範疇ではない。
あの後、3人仲良く別荘に戻り、奈美は既に乾いていた着慣れた服に着替えた。
着替えてすぐ響が勿体ないと主張したがそれもしょうがない事だろう。
主張こそしなかったものの奏司もそう思ったのだから。
勿論奈美の普段の恰好も似合うと思っていたが…それは男のサガだろうか。
女らしい奈美を見ていたいと思う――見るのは自分だけ。
自分の前でだけというのが一際嬉しいものなのだ。
その後3人で仲良く帰ることになる。
約束していた通りに奈美が帰りの運転をすることになり、助手席の権利は奏司に。
当然ながら響は後部座席となる。
奏司も響もお互いが恋敵である自覚はある。
奈美の方は二人のやり取りに笑ってばかりだ。
奈美は響の気持ちには気付かない。
奈美自身が奏司に対する想いを嫌と言う程自覚しているから。
恋は盲目とはよく言ったものだ。
始終そんな調子で奈美の最寄り駅へと到着する。
響は勿論駅名を覚え、響に牽制している奏司を後に、奈美は手を振ると家までの帰路を辿る。
間に考えるのはあの二人の家の事。
別荘に帰る途中に聞いた二人のお家柄。
誰でも名前を知っているであろう大手企業。
奏司は言わずと知れた御曹司ということになる。
よくよく聞くとあの合コンメンバーの全員がそういったお家柄であったらしい。
異様に乗り気だった友達全員の魂胆が見えるようである。
まぁもしもそうじゃなくても張り切っただろうけど。
「あ。そういえば。私合コン抜けてるし話し聞いてないから知らないんだけどなんか知ってる?」
「よくは聞いてねぇけどケンがよく遊びに行ってるって話しだなぁ」
「へぇ〜誰だろ?」
「知らない」
「そっかぁ。今度聞いてみようかな」
「気になる?」
「ん?うちらからかわれた時にでも槍玉にあげようかと思って♪」
ピシッと空気が一瞬にして冷たさを帯びる。
奈美はその一瞬を十分楽しむ。
「信じないでよぉ〜冗談だよ冗談」
「……奈美ならやりそ」
っとボソッと呟いた響の発言はその場で当然の如くなかったものとされた。
そんな雑木林での話しを思い出すだけで自然と奈美の頬が緩む。
帰りがけにそのまま奏司へとお礼のメールを打つと次の日の仕事を思い眠りについた。
想像以上に疲れていたらしく、奈美がベッドに入ってすぐ規則的な寝息が聞こえ始めた。
最近ブログを離れて書きかけな十数作の小説を書いています。締切に出せる小説家の方々をとても尊敬する今日この頃。
メッセージ、感想など栄養になりますm(._.)m