第14話 膿
多少暗い表現が含まれています。
御見知りおき下さいm(__)m
「似合ってますよ。ねぇ奏司さん」
「ん、まぁ…」
リビング(だと思う)に着いた後、千歳さんが持ってきてくれたアールグレイを飲みながら手作りのお菓子を摘む。
話題は専ら私の今の服装についてだった。
普段の格好が格好であるだけに、今のような格好は結構面食らうらしい。
会話の最中ずっと奏司は積極的に話す事をしなかった。
代わりに痛いぐらいの視線をずっと感じていたのだが、何か言ってくる気配はないので気にはしつつもきっかけを掴めない。
「ずっと屋内に引き留めるのもあれだし、雑木林でも歩いて来たら?この時期凄く居心地がいいのよ」
「そうなんですか?それじゃ行ってみたいな」
「奏司さんお願いね」
「はいはい、奈美行くぞ〜」
「あ、ぅん。千歳さんご馳走様です」
「いってらっしゃい」
二人を見送る千歳さんの声を聞きながら、スタスタと歩いていく奏司を追いかける。
いつもより少し早い速度で歩く奏司は奈美の方を振り返りもしない。
玄関から外に出、そのまま雑木林の中に入っていく。
夏場の馬鹿みたいな陽射しを和らげているから空気がヒヤリとして心地よい。
木々の間を縫うように抜けてくる木漏れ日がキラキラと降り注ぐ。
息を大きく吸い込むと澄んだ空気が肺を満たす。
「ん〜気持ちいい〜」
身体の疲れを癒しながらそんな光景を眺めつつ、澄んだ空気を吸う。
気付くと奏司の姿はそこにはなく、どうやら置いていかれたらしいのだが、そんなことは些細な事のように思えた。
お互い大人と言われる年齢だし。
何より奏司が少し怒って見える原因は自分であると思えるから、少しそっとしておく方がいいのかもしれない。
キラキラと輝く木漏れ日を見ながら些細な事がありありと蘇る。
女らしい今の恰好を見た時の奏司の顔――。
とても驚いた顔をしていた。
あの顔は何を示すんだろう?
似合わなかっただろうか?
それとも…――。
記憶が蘇る。
まだ古いとは言えない新しく鮮明な記憶。
自分の中にたゆたうドロドロとした暗い感情に飲み込まれるような感覚。
一挙一動すら鮮明に蘇る自分の記憶を疎ましく思う。
それは作られていた映画を何度も目の前で上映しているかのようだ。
目を反らしてしまいたくて、けれど顔を背ける事が出来なくて、目をつぶると瞼の裏での上映が始まる。
音はない。
けれど私はその映画の一字一句を覚えていて、意識しなくてもまるで初めから音があったかのように流れている。
――痛い……。
そして…息苦しい。
精神が五感を刺激していく。
いつの間にか苦しさから胸を抑えるような格好になるが、当人である奈美は気付かない。
否、気付く余裕などそこにはなかった。
その映像は奈美を縛り付けてもなお続いていく。
夢であれば悪夢であっただろう。
けれどそれは紛れも無い現実で、起こったことは消す事も修正する事も出来ない。
気付かない振りが出来るほど奈美は強くはなかった。
気付かないでいられるほど、無邪気でもなかった。
その両方が揃っているからこそ負った傷。
傷口は塞がったかのように見えるのに、皮膚下ではドロドロとした膿が渦巻いている。
膿を伴ったままでは治らないのだと分かってはいたが、それでも表面上だけでも繕ってしまう。
それが余計に傷の治りを遅くしている事など気付かぬまま…。
ドクン。
心臓の高鳴りがとても大きく聞こえる。
その映像から逃げるように奈美は走り出した。
声も絵も何処までもついてくる。
逃げることなど出来ないだろう…と頭ではわかっている。
これは自分が体験した過去の記憶が蘇っただけだから。
フラッシュバックと言われる現象。
『あの時と同じだ』と記憶が重なる。
確かあの時もがむしゃらに走ったんだ。
その場から少しでも遠くに離れる為に。
自分を呼び止める声も聞こえる。
どれぐらい走っただろう。
急にグイッと進行方向とは逆に引っ張られる。
態勢を崩したまま地面に叩きつけられる事を覚悟してギュッとその瞳を固く閉じる。
けれど固い地面に叩き付けられる事を覚悟した奈美だったが、次に感じたのはフワリとした温かな体温だった。
わぁ〜いヾ(@^▽^@)ノ
14話まで完了しましたぁ〜ヾ(@^▽^@)ノ
これも皆様のおかげです♪d(* ̄o ̄)
こんな奴ですが完結まで付き合って下さると嬉しいですm(._.)m
ではまた♪