きみをさがして
「……ライブ、アンコール共に長い時間聴いていただいてありがとうございました。
秋も深まった季節にちょっとミスマッチですが、あえて選んでみました。
今日最後の曲『春』、聴いてください」
俺の言った軽口にお客さんが少しだけ笑ったと同時に歓声も聞こえた。
『春』は短い曲だが、なかなか人気があるのだ。
俺はライブ用の椅子に座り、アコースティックギターで弾き語りをする準備を始めた。
盛り上がるラストもあるが、今日はあえて弾き語りでしっとり終わるようにした。
真っ暗な中、軽く爪弾いたギターの音色を合図に一筋のスポットライトが俺を照らす。
眩しすぎて周りは何も見えない。まるでここに一人でいて歌っているようだった。
このひと夏いろんな事があった。
許せることと許せそうにないことと、さまざまな人の思惑が絡み合って。
それがすべて、遠く離れて、この場所にいない美佳を巡ってというのが不思議だった。
俺自身でさえこれから先どうして行くのかわからない。
でも、当分の間、いや、きっとかなり長いずっとその先まで、きみをさがし続けるだろう。
逢えるまで、ずっと。
そういう思いを込めながら、自分自身のためでもなく、誰のためでもなく、ただ心を解き放つために歌った。
それが、誰かの心に届いたなら、きっとそれは一瞬かもしれないけれど、その中に優しく溶け込めればいい。そう思う。
誰も見えない。何も見えない。
それでも、一筋の強い光を見あげてそれに未来を託しながら、俺は歌い続けた。




