9
「親に捨てられて、飛び出して、すさんだ心を抱えながら、それでも、優しいカズキと接していく中でこんな人が自分の兄だったらと思った。カズキといると兄弟って、家族ってこんな感じなのかなって思った。そういう信頼できて安心できる気持ちになったのはカズキだけで。
浅い考えかもしれないけど、本物じゃなくても折角出来た『家族』を本気で失いたくないって思った。カズキが誰かを好きになったら、また置いていかれる、忘れられるって思った。
でも、なんで、美佳さんはカズキに確かめないで消えたの?なぜこんなにカズキを苦しませるの? って最初思ったけど、それを仕掛けたのはオレで、確かめられなかったのはきっと美佳さんはカズキが好きだからで、カズキが苦しいのは美佳さんが好きだからで、2人を引き裂いてカズキに辛い思いさせてるって、そう思ったら、どうしてこういう悪いことばっかり上手くいくんだろう、早くバレて愛想つかされて捨てられたほうが楽かもしれないって、カズキは、オレのそばにいるのに余計辛くて、顔だけ綺麗でも心が醜い自分はいざとなったらいつかきっと捨てられて当然で……」
「おいっ!!」
アサトの現実を見失った独白は続いていて、このままだと戻れなくなると思ったオレは、アサトの両肩を激しく揺さぶって話をやめさせた。
思わぬ衝撃が加わって、アサトは正気に戻ったようにオレをみた。
「事情はわかった。しかしだな……」
オレは一旦言葉を切って大きく息を吸った。
「バカヤロウ!」
大きな声で怒鳴った俺に、アサトはビクっとしたように大きく目を見開いた。




