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多分、気が遠くなったのは一瞬だったと思う。
気がついて目を開けたら、空一面の星空が見えた。
周りに外灯が少ないのと、月が出てないせいだろう。
冴えた輝きを見ていたら、自分の心も澄んでくるようですっと冷静になった。
ここに星空がなかったら。美佳の名前が出てこなかったら。もしかしたら。
でも、偶然は俺を本来の場所へ呼び戻した。
「こんな都会の真ん中でも星が見えるんだな」
季節はちがうけど、俺と美佳が出会ったのもこんな必然な偶然が重なったんだ。
だったら、大都会のこの街で、こんな星のきらめく夜に心を偽れない。
「……俺が出会った頃の美佳はこの星空のように繊細な感じだった。」
俺が冷静になったのを見て、今度は攻めてばかりだったマリノが固まってしまった。
それを確認して、俺は身体を起こした。
「小湊さんも見てみろよ。星が降ってきそうだ。東京では珍しい光景だね」
ふたりで空を見上げる。
「君と一緒にいて、この星空を見上げていても考えるのは美佳のことだ。俺は今でも突然消えたアイツをさがしている。美佳が好きなんだ。俺のことは諦めてほしい。本当にゴメン」
「……ずっと逢えないのに? どうして? 美佳さん、突然姿を消すなんて、カズキさんのこと好きだったわけではないんでしょ?」
「さぁ、それはどうなんだろうね? 美佳に逢えたら聞いてみないと」
マリノの非難がましい言い方に、苦笑しながら美佳に直接聞いてみる場面を想像してみた。
逢えたら……。
いつか逢えたら、聞いてみよう。
そんな些細なことを考えるだけで、美佳に逢えることを考えるだけで少し幸せだった。
「そんなの報われない……」
マリノが放心したように言い放った。
「君は報われたいから人を好きになるの? 好きになってくれるから好きになるの?人の心はそんなに単純じゃないよ」
「……」
「今の状況が幸せかと言われればYESとは言いがたい。でも、それ以上に好きなんだろうな。もう一度アイツに逢えたら、もうこれ以上欲しいものはないかもしれない」
この星空を美佳もどこかで見ているだろうか?
俺がみている同じ星空を……。
そんな風に思った。




