33/47
7
不確かな何かをずっと想い続けることは苦しい。
少なくとも、目の前には確かな存在がある。俺のことを心底好きで体当たりでぶつかってきてキスして。
マリノは悪い子じゃない。このまま流されてその後はその時考えても……。
彼女の真剣さに比べて自分は安易に考えていると思ったけれども。
「好きなの。本気で好きなの。だから」
本気さをあらわすような低い声。
多分、マリノの真剣さに比べて、自分は安易に考えお手軽な方へ進もうとしたから、運命からしっぺ返しされたのかもしれない。
続いて出てきたセリフで自分の真実、現実を突きつけられた。
「美佳なんて人に絶対負けない」
愛しい人の名前。
真剣な声で言われて余計に心に突き刺さった。
凍えるような満月の夜に逢った儚い人。
喪失感に苦しんで、俺に手を伸ばしてきた細い指先。
時折見せてくれた、冬の陽だまりのような笑顔。
寒い冬の朝に突然消えた美佳を。
俺は。
今でもさがしてる……。
視界がグルリと大きく回って世界が暗転した。




