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2件目は隠れ家のようなカクテルバー。
裏路地に入った、ビルの地下にあり、目立たないけれど、知っている人は知っている店だった。
俺も山本君もマリノも楽しさも相まって、そこでかなりの量のカクテルを飲んだ。
明日の事もあるので日付が変わって少しして、そのバーを出た。
「かぁーごめかごめ、かーごのなーかのとぉーりーは」
マリノはかなり酔ったらしく、童謡を歌いながら俺たちの前を上機嫌に歩いていた。
「マリノちゃん、飲みすぎだよ~」
一番飲む量を控えていた山本君がマリノをたしなめる。が、ケラケラ笑いながら言っているので全然注意しているようにきこえない。
籠の中の鳥、マリノは自分のことをそういった。
しかし、俺はマリノが仕事に対してかなり悩んでいるんだろうと思って笑えなかった。
食事の時は聞き流していたが、上機嫌そうに見えて、見せている背中が寂し気だった。
「どーこーにも、にげられない・・・」
語尾が震えて涙ぐんでいたのは気のせいだろうか?
俺はマリノに問いかけた。
「でも、好きなんだろ、今の仕事?」
マリノは足を止めて驚いたようにこちらを見た。
「踏ん張りどころだよ。逃げたいと思うくらいなら、もっと努力して誰にも文句言わせないような大物になればいい。その頃には、周りでうるさく言ってる奴らなんて気にならなくなるさ。がんばって自分の居場所つくりなよ」
なっ?と幼い子を諭すように少し笑った。
なんだかんだ言ってもまだ20歳になったばかりの『若い子』なのだ。人生経験も浅くて、傷つきやすい。自分もとおってきた道だ。気持ちは少しはわかる。
と、突然、そのままの格好で止まっていたマリノが「うっ」と口元を押さえてその場に座り込んだ。 そして這うようにして歩道の端に寄る。
慌てて駆け寄り彼女の背中を支えた。
「どうした?」
「き、気分が悪い」
「ちょっと飲みすぎたか。タクシー呼ぶから、ちょっとこのままで待ってて」
離れようとしたら、とっさに服の袖を掴まれた。
眉根を寄せてギュッと目を閉じている。
このままの体制で気分の悪さに耐えているらしい。
仕方ないので、近くにいる山本君の姿を捜してタクシーを呼んできてくれるように頼んだ。
彼は頷き、タクシーを呼びやすい少し離れた歩道の植え込みが切れているところまで走っていった。
「来て」
「え?」
「いいから来て!」
彼女はいきなり有無を言わせぬ強い口調と同時に立ち上がった。
そして俺は腕を引っ張られてよろけながら立ち上がり、いつの間にかマリノと共に走り出していた。




