表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きみをさがして  作者: 佐倉 美南
5.籠の中の鳥
31/47

 2件目は隠れ家のようなカクテルバー。

 裏路地に入った、ビルの地下にあり、目立たないけれど、知っている人は知っている店だった。

 俺も山本君もマリノも楽しさも相まって、そこでかなりの量のカクテルを飲んだ。

 明日の事もあるので日付が変わって少しして、そのバーを出た。

「かぁーごめかごめ、かーごのなーかのとぉーりーは」

マリノはかなり酔ったらしく、童謡を歌いながら俺たちの前を上機嫌に歩いていた。

「マリノちゃん、飲みすぎだよ~」

 一番飲む量を控えていた山本君がマリノをたしなめる。が、ケラケラ笑いながら言っているので全然注意しているようにきこえない。

 籠の中の鳥、マリノは自分のことをそういった。

 しかし、俺はマリノが仕事に対してかなり悩んでいるんだろうと思って笑えなかった。

 食事の時は聞き流していたが、上機嫌そうに見えて、見せている背中が寂し気だった。

「どーこーにも、にげられない・・・」

 語尾が震えて涙ぐんでいたのは気のせいだろうか?

 俺はマリノに問いかけた。

「でも、好きなんだろ、今の仕事?」

 マリノは足を止めて驚いたようにこちらを見た。

「踏ん張りどころだよ。逃げたいと思うくらいなら、もっと努力して誰にも文句言わせないような大物になればいい。その頃には、周りでうるさく言ってる奴らなんて気にならなくなるさ。がんばって自分の居場所つくりなよ」

 なっ?と幼い子を諭すように少し笑った。

 なんだかんだ言ってもまだ20歳になったばかりの『若い子』なのだ。人生経験も浅くて、傷つきやすい。自分もとおってきた道だ。気持ちは少しはわかる。

 と、突然、そのままの格好で止まっていたマリノが「うっ」と口元を押さえてその場に座り込んだ。 そして這うようにして歩道の端に寄る。

 慌てて駆け寄り彼女の背中を支えた。

「どうした?」

「き、気分が悪い」

「ちょっと飲みすぎたか。タクシー呼ぶから、ちょっとこのままで待ってて」

 離れようとしたら、とっさに服の袖を掴まれた。

 眉根を寄せてギュッと目を閉じている。

 このままの体制で気分の悪さに耐えているらしい。

 仕方ないので、近くにいる山本君の姿を捜してタクシーを呼んできてくれるように頼んだ。

 彼は頷き、タクシーを呼びやすい少し離れた歩道の植え込みが切れているところまで走っていった。

「来て」

「え?」

「いいから来て!」

 彼女はいきなり有無を言わせぬ強い口調と同時に立ち上がった。

 そして俺は腕を引っ張られてよろけながら立ち上がり、いつの間にかマリノと共に走り出していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ